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第三部 12章
流血王のイメージ
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その後、呆然とやり取りを見ていた貴族達を帰らせ、私達は執務室に移動した。
ジィジが「罪を犯した者は処罰する故、覚悟しておけ」なんて脅してたから、何人かは証拠隠滅に躍起になっていることだろう。
ジィジいわく、それが狙いで、普段とは違う行動をする人物を調べるらしい。
王妃が自供したころから王様は心ここに在らず。ジィジに促されて移動は普通にしてたけど、それから一言も発していない。
「あ、なるほど。ねぇ、ジィジ。この人魅了解けかけだよ」
鑑定してわかったことをジィジに伝えると、ジィジは「魅了……」と呟いて思案顔になった。
普通に光魔法で解いてもいいんだけど……ここはちょっとお灸を据えたいところ。
プルトンとウェヌスに念話で頼んで強固な結界を張ってもらい、クラオルとグレウスはグレンの肩に避難してもらう。
そこで私は無限収納からある物を取り出した。
それを放心状態の王様の鼻先へ持っていく。
「グァッ!! ヴーッ!!」
「気が付いた?」
「な、何だソレは! ゔぅ……や、やめろ……近付けるな……ぐざいぃぃ……やめてくだざい……」
鑑定で正気に戻ったことを確認してから無限収納にしまう。
王様は苦渋の表情で息も絶え絶え。
クラオルやグレンから「うわぁ……」と引き気味の声が聞こえた。
「セナ? それは何だ。何故結界を張った?」
「これ? これは腐呪の森で見つけたハカールの粉だよ。超臭いの」
部屋に浄化をかけ、臭いを消すとプルトンとウェヌスが結界を解く。
「魅了は解けたから大丈夫だよ」
「そ、そうか……話せるか?」
「……ゔぅ……何とか……鼻から臭いが取れません……」
〈当たり前だ。あれは強烈だからな〉
「……はい……とてつもないです……あの、あなたは?」
今気付きましたと言わんばかりにグレンを見つめる王様に簡単に自己紹介。
グレンが古代龍ということやクラオルを従魔にしていることに驚かれた。
「……魅了されていた私が悪いとは思いますが……もっと別な方法はなかったのですか……?」
涙目で聞いてくる王様に私はニッコリと笑顔を返す。
いくら魅了されていたとはいえ、今までスタルティを傷付けていた王様だからね。私としては充分甘い罰だと思うよ?
「どこからどこまで覚えてるの?」
「一応、記憶はあります。こう……ボヤーっとしていますが……」
私が話題を変えると、王様は鼻を押さえながらも気まずそうに答えた。
「今思えば、会う度に魅了をかけられていたようです……すまない。スタルティ……」
王様がスタルティに手を伸ばすと、スタルティはスーッと避ける。拒否された王様はハッ! と瞬き、悲しそうに目を伏せた。
「まぁ、当たり前よね。あなた元々乳母に丸投げで、スタルティとロクに話もしてなかったんでしょ? 虫がよすぎるわ」
「そう……ですね……何一つ父親らしいこともしていませんでした」
「お爺様とアリシア、それにセナ達がいるのでお構いなく」
天狐に追い打ちをかけられ、肩を落とした王様にスタルティが無表情のまま答えた。
幼少期に受けた傷は深い……
「うむ。このままではスタルティの父親とは認められん。それに……今後のことの方が優先だ」
ジィジは言葉を濁したけど、おそらく王様の進退問題のことだよね。
魅了され、利用されていた責任をどう取るか……って感じかな?
でもさ、この王様を引退させたとして、次の王様は誰になるんだろ? スタルティはまだ子供だし、ジィジが復権? もしくは王様の兄弟とか? 兄弟がいればだけど……誰がなるにしても、城下の人達がすごしやすいようにしてほしい。
「お前がアレにうつつを抜かしている間に不正や詐欺が横行し始めている。先日妖精売買の一端を捕らえた」
「そんなことが……申し訳ありません……身から出た錆。お爺様の処罰を謹んでお受けします」
「ん? 何故そうなる?」
「え……違うのですか?」
「はぁ……お前もか。どこかの誰かもクビにされると勘違いしていたな」
ジィジが言うと、アチャが気まずそうに顔を背けた。
天狐は「流石〝流血王〟だわ~」と爆笑。そんな天狐をジィジがジト目で睨んだ。
「己は罪も犯していない人をそんなホイホイ殺したりはせん」
「ですが……今後のこととおっしゃったのは進退の話なのでは?」
「違う。今後の政策や取り締まりのことだ」
あ、そっちね。ごめん、ジィジ。私も勘違いしてたわ。
「フッ。そんなに罰を受けたいと言うのなら、先ほどの粉と共に部屋に閉じこもるか?」
「あ、ああああれは勘弁して下さい……」
ジィジがニヤリと言うと、王様は慌てて鼻を押さえた。
確かに臭いけど、そこまでかな? 袋開けてなかったよ? 開けたらどうなったんだろ?
「まぁ、冗談はおいておこう。スタルティはどう思う?」
「そうですね……取り締まりを強化し、その報告を随時お爺様が受け取れば把握できるのではないかと思います。私兵を動かすのも最小限に抑えられるでしょう」
「ふむ。よく考えたな」
スタルティはジィジに頭を撫でられて嬉しそうに目を細めた。
その後ジィジ達は今後の話し合い。
私達は暇なので、執務室にテーブルとイスを勝手に出してティータイム。
「セナ様、こちらは新しいお菓子でしょうか?」
「あ! それね、アチャが作ってくれる焼き菓子だよ! 【丸ぼうろ】そっくりで大好きなんだ~」
〈ふむ。なかなかだな!〉
「あら、これ、セナちゃんがいつも食べてるやつじゃない。アリシアちゃんの手作りなのね。……うん。ふんわりとした甘さが美味しいわ」
「あ、ありがとうございます……」
天狐に褒められて照れるアチャに、ジルがレシピを質問。アチャはコツや隠し味なんかも教えてあげている。
私? 私はアチャにねだって一緒にキッチンにお邪魔してたからバッチリよ!
グレンの催促やクラオルからの希望でクッキーやラスクも出すことになった。
天狐もアチャもジャムサンドクッキーが気に入ったみたいで「美味しい!」と喜んでくれた。
しばらくお菓子の話で盛り上がり、そういえば聞きたいことがあったと思い出した。
「あ、そうだ。ねぇ、アチャ」
「はい。何でしょう?」
「街で新鮮な野菜とかこの地域の特産品みたいなの売ってるお店わかる?」
「えっと……申し訳ありません。お恥ずかしながらあまり裕福な家ではないので、他の貴族が行くようなお店はよく知らないのです」
〈セナはその方が喜ぶ〉
「え……そ、そうなのですか? 平民のお店でよければわかります」
「やった! 今度一緒に行こ?」
「……はい。かしこまりました」
笑顔で了承してもらえて、私の頭の中は買い物で埋めつくされる。
アチャが懇意にしていたところなら、この前みたいなぼったくりも、店員が嫌なやつってこともなさそう。
(うふふふ。楽しみ~)
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