転生幼女はお詫びチートで異世界ごーいんぐまいうぇい

高木コン

文字の大きさ
上 下
359 / 541
第三部 12章

流血王のイメージ

しおりを挟む




 その後、呆然とやり取りを見ていた貴族達を帰らせ、私達は執務室に移動した。
 ジィジが「罪を犯した者は処罰するゆえ、覚悟しておけ」なんて脅してたから、何人かは証拠隠滅に躍起になっていることだろう。
 ジィジいわく、それが狙いで、普段とは違う行動をする人物を調べるらしい。


 王妃が自供したころから王様は心ここに在らず。ジィジに促されて移動は普通にしてたけど、それから一言も発していない。

「あ、なるほど。ねぇ、ジィジ。この人魅了解けかけだよ」

 鑑定してわかったことをジィジに伝えると、ジィジは「魅了……」と呟いて思案顔になった。
 普通に光魔法で解いてもいいんだけど……ここはちょっとお灸を据えたいところ。
 プルトンとウェヌスに念話で頼んで強固な結界を張ってもらい、クラオルとグレウスはグレンの肩に避難してもらう。
 そこで私は無限収納インベントリからある物を取り出した。
 それを放心状態の王様の鼻先へ持っていく。

「グァッ!! ヴーッ!!」
「気が付いた?」
「な、何だソレは! ゔぅ……や、やめろ……近付けるな……ぐざいぃぃ……やめてくだざい……」

 鑑定で正気に戻ったことを確認してから無限収納インベントリにしまう。
 王様は苦渋の表情で息も絶え絶え。
 クラオルやグレンから「うわぁ……」と引き気味の声が聞こえた。

「セナ? それは何だ。何故結界を張った?」
「これ? これは腐呪の森で見つけたハカールの粉だよ。超くさいの」

 部屋に浄化をかけ、においを消すとプルトンとウェヌスが結界を解く。

「魅了は解けたから大丈夫だよ」
「そ、そうか……話せるか?」
「……ゔぅ……何とか……鼻からにおいが取れません……」
〈当たり前だ。あれは強烈だからな〉
「……はい……とてつもないです……あの、あなたは?」

 今気付きましたと言わんばかりにグレンを見つめる王様に簡単に自己紹介。
 グレンが古代龍エンシェントドラゴンということやクラオルを従魔にしていることに驚かれた。

「……魅了されていた私が悪いとは思いますが……もっと別な方法はなかったのですか……?」

 涙目で聞いてくる王様に私はニッコリと笑顔を返す。
 いくら魅了されていたとはいえ、今までスタルティを傷付けていた王様だからね。私としては充分甘い罰だと思うよ?

「どこからどこまで覚えてるの?」
「一応、記憶はあります。こう……ボヤーっとしていますが……」

 私が話題を変えると、王様は鼻を押さえながらも気まずそうに答えた。

「今思えば、会う度に魅了をかけられていたようです……すまない。スタルティ……」

 王様がスタルティに手を伸ばすと、スタルティはスーッと避ける。拒否された王様はハッ! と瞬き、悲しそうに目を伏せた。

「まぁ、当たり前よね。あなた元々乳母に丸投げで、スタルティとロクに話もしてなかったんでしょ? 虫がよすぎるわ」
「そう……ですね……何一つ父親らしいこともしていませんでした」
「お爺様とアリシア、それにセナ達がいるのでお構いなく」

 天狐に追い打ちをかけられ、肩を落とした王様にスタルティが無表情のまま答えた。
 幼少期に受けた傷は深い……

「うむ。このままではスタルティの父親とは認められん。それに……今後のことの方が優先だ」

 ジィジは言葉を濁したけど、おそらく王様の進退問題のことだよね。
 魅了され、利用されていた責任をどう取るか……って感じかな?
 でもさ、この王様を引退させたとして、次の王様は誰になるんだろ? スタルティはまだ子供だし、ジィジが復権? もしくは王様の兄弟とか? 兄弟がいればだけど……誰がなるにしても、城下の人達がすごしやすいようにしてほしい。

「お前がアレにうつつを抜かしている間に不正や詐欺が横行し始めている。先日妖精売買の一端を捕らえた」
「そんなことが……申し訳ありません……身から出た錆。お爺様の処罰を謹んでお受けします」
「ん? 何故そうなる?」
「え……違うのですか?」
「はぁ……お前もか。どこかの誰かもクビにされると勘違いしていたな」

 ジィジが言うと、アチャが気まずそうに顔を背けた。
 天狐は「流石〝流血王〟だわ~」と爆笑。そんな天狐をジィジがジト目で睨んだ。

うぬは罪も犯していない人をそんなホイホイ殺したりはせん」
「ですが……今後のこととおっしゃったのは進退の話なのでは?」
「違う。今後の政策や取り締まりのことだ」

 あ、そっちね。ごめん、ジィジ。私も勘違いしてたわ。

「フッ。そんなに罰を受けたいと言うのなら、先ほどの粉と共に部屋に閉じこもるか?」
「あ、ああああれは勘弁して下さい……」

 ジィジがニヤリと言うと、王様は慌てて鼻を押さえた。
 確かにくさいけど、そこまでかな? 袋開けてなかったよ? 開けたらどうなったんだろ?

「まぁ、冗談はおいておこう。スタルティはどう思う?」
「そうですね……取り締まりを強化し、その報告を随時お爺様が受け取れば把握できるのではないかと思います。私兵を動かすのも最小限に抑えられるでしょう」
「ふむ。よく考えたな」

 スタルティはジィジに頭を撫でられて嬉しそうに目を細めた。

 その後ジィジ達は今後の話し合い。
 私達は暇なので、執務室にテーブルとイスを勝手に出してティータイム。

「セナ様、こちらは新しいお菓子でしょうか?」
「あ! それね、アチャが作ってくれる焼き菓子だよ! 【丸ぼうろ】そっくりで大好きなんだ~」
〈ふむ。なかなかだな!〉
「あら、これ、セナちゃんがいつも食べてるやつじゃない。アリシアちゃんの手作りなのね。……うん。ふんわりとした甘さが美味しいわ」
「あ、ありがとうございます……」

 天狐に褒められて照れるアチャに、ジルがレシピを質問。アチャはコツや隠し味なんかも教えてあげている。
 私? 私はアチャにねだって一緒にキッチンにお邪魔してたからバッチリよ!

 グレンの催促やクラオルからの希望でクッキーやラスクも出すことになった。
 天狐もアチャもジャムサンドクッキーが気に入ったみたいで「美味しい!」と喜んでくれた。
 しばらくお菓子の話で盛り上がり、そういえば聞きたいことがあったと思い出した。

「あ、そうだ。ねぇ、アチャ」
「はい。何でしょう?」
「街で新鮮な野菜とかこの地域の特産品みたいなの売ってるお店わかる?」
「えっと……申し訳ありません。お恥ずかしながらあまり裕福な家ではないので、他の貴族が行くようなお店はよく知らないのです」
〈セナはその方が喜ぶ〉
「え……そ、そうなのですか? 平民のお店でよければわかります」
「やった! 今度一緒に行こ?」
「……はい。かしこまりました」

 笑顔で了承してもらえて、私の頭の中は買い物で埋めつくされる。
 アチャが懇意にしていたところなら、この前みたいなぼったくりも、店員が嫌なやつってこともなさそう。
(うふふふ。楽しみ~)


しおりを挟む
感想 1,802

あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

幼子は最強のテイマーだと気付いていません!

akechi
ファンタジー
彼女はユリア、三歳。 森の奥深くに佇む一軒の家で三人家族が住んでいました。ユリアの楽しみは森の動物達と遊ぶこと。 だが其がそもそも規格外だった。 この森は冒険者も決して入らない古(いにしえ)の森と呼ばれている。そしてユリアが可愛い動物と呼ぶのはSS級のとんでもない魔物達だった。 「みんなーあしょぼー!」 これは幼女が繰り広げるドタバタで規格外な日常生活である。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。