357 / 541
第三部 12章
執念と執着
しおりを挟むそのまま村に二日ほど滞在させてもらい、ジィジから連絡を受けた私達はお城に戻ってきた。
ジィジから「セナに手紙がきている」と渡された手紙の量と分厚さに私は顔を引き攣らせた。
ブラン団長、カリダの街の領主、キアーロ国の王様、ネライおばあちゃん、サルースさん、デタリョ商会のおじいちゃん、タルゴーさん……とキアーロ国からだけでもすごい。なのに、シュグタイルハン国や南パラサーの街のギルマスからも届いていた。
「読むだけでも丸一日かかりそう……」
〈そういえば、国を上げてセナを探すと言っていたな〉
「えぇー!? そんなの聞いてないよ!」
〈今思い出した。全く役に立たなかったがな〉
「いやいや! 季節すら違う大陸にいるのにわかったら怖いわ!」
素でグレンにツッコんでしまった。
「とりあえず、これは時間かかるから後で。今日はこっちやらないと」
「本当にいいのか?」
「うん。おばあちゃんが言ってたから、アレで大丈夫だと思うよ」
「そうか……手出しはさせないから安心しろ」
「うん!」
ジィジはそう言うけど、そこは心配していない。
だってさ、こっちにはジィジ、天狐、グレン……それに精霊達だっている。このメンツに手を出そうなんて自殺願望があるとしか思えない。
一番の問題は……私の演技力。
「そろそろ向かうか」
「はーい!」
私は天狐に抱えられ、アチャとスタルティも一緒にゾロゾロと謁見の間へ向かう。
途中で遭遇したお城で働く人達は、ジィジを見てビクッ! とした後、頭を下げてそそくさといなくなる。ジィジのエリアでほとんど人を見たことがないことに納得した。
「あら? セナちゃん、眉間にシワが寄ってるわよ?」
「……みんなジィジのことわかってない」
「うふふふ。よかったじゃない、ジャレッド。耳が赤いわよ?」
からかう天狐を睨むジィジの耳は天狐が言った通り赤く、全然怖くない。
アチャやスタルティもにこやかに笑っている。
天狐は天狐で「珍しいもの見ちゃった」と笑顔だ。
謁見の間の前まで来た私達は気を引き締める。
今から私は記憶喪失のフリ……まではいかないけど、会話は全部ジィジが担当するからあまり喋ってはいけない。ツッコミは心の中だけにしなければ。
「ジャレッド・ジュラル様達が到着致しました!」
扉の前にいた警備の人が大声で言うと、中から扉が開けられた。
中には貴族が勢揃いしていて、私達をガン見。思わずビクッと反応してしまった私を天狐が「大丈夫よ」とギュッと抱きしめてくれた。
ジィジを先頭に進むと、今代の王様が口を開いた。
「お久しぶりの対面がこのような場になってとても残念ですよ、お爺様。今回お呼びしたのはチスタ家からの報告です。メイドとして働いていた王妃の妹、ウーヴィ・チスタに耐えがたい仕打ちをしたとか」
「ハッ。なんのことかわからんな」
「なんですって!?」
スタルティもそうだったけど、ジィジは子孫に〝お爺様〟って呼ばれてるんだね。あのメイドのお姉ちゃんが王妃なのかぁ~。人は見た目で判断しちゃいけないって言うけど……性格悪そうだなぁ……
なんて思ってたら、その王妃が声を荒らげた。ジィジの態度が気に食わなかったらしい。
「わたくしの妹に手を出しておいて……温室でのことは聞いておりますのよ!」
「己は指一本触れていない。あのメイドなんぞ興味ない。温室のことなら証人がいる。スタルティ」
「はい」
ジィジに名前を呼ばれたスタルティはあの日の温室の出来事を説明していく。
聞いた貴族達はザワザワとさざめき始めた。
「……スタルティ、お爺様にそう言えと言われたのか?」
「いえ。僕が見た事実を申しております」
「……そうか。残念だよ、スタルティ。そんな嘘の証言をするとはね」
残念なのはお前だー!! と私が叫ぶ前に、ジィジが「貴様は血を分けた己の息子の言葉も信じぬのか?」と低い声で問うた。
ジィジの冷たい雰囲気にザワついていた貴族達も息を呑む。
スタルティは健気にも「本当だよ」と言わんばかりに父親をまっすぐ見つめている。
「これがスタルティの父……己の子孫とは残念極まりない。仕方ない。クロ」
『へーい』
「再生させろ」
『あーい』
自身の従魔を呼び、ジィジはあの日の様子の録音を再生させる。どうやったのか、アチャの声だけは消されていた。
従魔の出現に驚いていた全員、ウーヴィの声に耳を疑った。
「これはセナを護るために付けていた。全て事実だ。己は己のしっぽをエサにセナに近付く女の方が信じられんな」
「こ、こんなの嘘に決まってるわ! そうよ、試せばいいんだわ! ただしっぽを触られただけなんて信じられないもの!」
おぉー! こちらのシナリオ通りに行動してくれるなんて素敵! グレンとジルが念話でめっちゃ貶しまくってるけど。
「セナちゃん、あの人モフモフして欲しいらしいわ」
「モフモフ?」
「そう。うふふ……心をこめてやってあげて」
天狐に降ろされ、私はそろそろと王妃の玉座に近付く。
「フンッ」とぞんざいに目の前に現れたしっぽを掴む。
やって欲しいと言うのならモフモフを満喫させていただきましょう! おばあちゃんにも言われたしね。
◇
――つい先日の作戦会議を思い返す。
「あのとき、あの魔女も無事では済まなかった。死ぬ前に思念を飛ばし、生まれ変わった己に戻った。しかしジャルはアマンダに護られており手出しはできぬ。手に入らないから余計に欲する。魔女の執念は生まれ変わりから代々受け継がれ……今に至っておる。時を経て昔ほどは強固な執念ではないが……ジャルに対する執着はウーヴィ・チスタに、権力に対する執着は今の王妃にな」
「ジィジのこと大好きすぎじゃない?」
おばあちゃんの説明に私がツッコむと、天狐が「ブハッ」と吹き出した。ツボに入ったらしい。
「……まぁ、そういう見方もできるのぅ。スタルティの母親を殺したのは今の王妃じゃ」
「そうか……しかしどうやって断つというのだ?」
「セナのモフモフじゃな」
「はい?」
あっけらかんとおばあちゃんに言われ、私は気の抜けた声が出てしまった。
え? 私のモフモフって意味わかんなくない?
私は戦闘になることを予想して、グレン達に手伝ってもらうつもりだったんだよ。
「あのメイドにしたようにセナがしっぽを撫でればいい」
「それだけ?」
「うむ。そうじゃの……いつも以上にやれば大丈夫じゃろ。ヒャーッヒャッヒャ!」
「「いつも以上……」」
おばあちゃんのセリフで天狐とアチャは自分のしっぽを抱きしめた。
いやいや! もう勝手にモフモフしないから、そんなしっぽを守るようにしなくても大丈夫だよ! 引かないでー!!
◇
ってことがあったんだよね。
いつもは自分が満足するように触ってるけど、おばあちゃんが〝いつも以上〟って言うからには相手に気持ちよくなってもらうように触った方がいいかな?
本当にこれで執着を絶てるのか疑問に思いながらも、しっぽの気持ちよさに私の頬は緩んでしまう。
716
お気に入りに追加
24,992
あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。