354 / 541
第三部 12章
もう名前がアウト
しおりを挟むジィジに案内されて着いた商会は〝ボタクリ商会〟。
お店の入り口にデデーンと掲げられている看板を見て、私は顔を引き攣らせた。
「ようこそおいで下さいました! 必要な物があればこちらから伺いましたのに……いえ! 訪ねていただき嬉しいですよ。どうぞどうぞ、こちらの部屋へ」
何とも好きになれない、胡散臭い笑顔を浮かべながら、私達は応接室に案内された。
「お連れ様は初めましてでございますね。商会長をしておりますヤーベ・ボタクリと申します。以後、お見知り置きを。ジュラル様にはいつも快いお取引きをさせていただいております。へへへ。本日は何をお求めでございますか?」
「食材だな」
「では、当店選りすぐりの物をお持ちしますね。へへへへ」
やべぇぼったくりって名前がアウトじゃない!? ぼったくりじゃなかったとしてもアウトだよね!?
ニヤニヤ顔のまま商会長が部屋から出て行き、私はジィジの袖を引っ張る。
「ジィジ、ずっとこの商会と取り引きしてたの?」
「そうだ。あいつは平民だが己にビビらなかったからな。どうかしたのか?」
「あのね、あの人……」
私が説明しようとした瞬間、ドアがノックされ戻って来てしまった。
急いで結界を解除して何事もなかったかのように繕う。
「お待たせしました! こちらはいかがでしょうか? なかなか手に入らない一品でございますよ!」
店主が自信満々に見せてきたのは、キアーロ国やシュグタイルハン国で普通に買えるトマトだった。しかもすでに皮がシワシワ。
確かにこの国では珍しいかもしれないけど……傷みかけの商品を堂々と出すのはどうなの?
「ジュラル様でしたら金貨十枚のところを半額の金貨五枚にお値引きさせていただきますよ。へへへへへ」
天狐は興味なさそうだけど、アチャは「これが金貨五枚……」と絶句している。
いくら輸入品でもぼったくりすぎだよ……っていうか、私は色んな物見て選びたいのに、これじゃあ選ぶも何もないじゃん。
「セナ、どうする? 欲しいか?」
「え……ジィジ、本気で言ってる?」
「ん? 気に入らないか?」
「いらなーい。ねぇ、ジィジ。おなか減っちゃったからご飯食べたい。ね? グレン」
〈うむ! そうだな!〉
「ダメ?」
「構わんが……」
私が来たいってお願いしたのに、急にご飯を食べたいなんて言ったから混乱しているみたい。
「あら! それならこの前入れなかったお店に行きましょ!」
「では先に確認を取って参ります」
流石頼りになるママ! そのウィンクもサマになってるわ! そしてアチャも行動早い!
「お邪魔したわね。オホホホホ。ほら、ジャレッド行くわよ!」
天狐に急かされ、ジィジは首を傾げながらも立ち上がる。
ボタクリは引き留める気はないようで「またお城に伺います」なんて言っていた。
◇
食堂というよりもカフェのような雰囲気のお店の個室で一息つく。
店員さんはジィジが怖くて接客したくないのか、アチャがまとめて注文してくれた。
「急に腹が減ったのか?」
「あなた何言ってるの? セナちゃんが機転を利かせたから何も買わされなくて済んだのに」
「どういうことだ?」
「あのね、あの商会、ジィジに法外な値段で売りつけてる悪徳業者だよ」
「は?」
「さっきのアレ、匂いからして傷んでたわよ?」
天狐が紅茶を飲みながら言うと、ジィジは訝しげに眉をピクリと動かした。
見せた方が早いだろうと、テーブルの上に新鮮なトマトを出して「一つ銅貨一枚」だと伝えると、三人は驚きに目を見開いた。
天狐は匂いで傷んでいたのはわかったけど、値段までは知らなかったらしい。
「あの場で言うと取り繕われると思ったのと、ちょっと調べた方がよさそうだったから……」
「……己はずっと騙されていたのか……まぁ、怪しいやつだとは思っていたが……まさか己に詐欺を働いていたとは……」
ジィジは乾いた笑いをこぼした。
信じたかった感じかな? でもこのままジィジが利用されるのは嫌。
グレンはあの場で暴れたかったみたいだけど、ジィジが〝断罪しにきた〟ってなると、ますます街を歩きにくくなっちゃうだろうから我慢してもらったんだよね。後でデザートあげなきゃ。
「フッ……面白い。どうしてやろうか」
「ジャレッド……あなた、いつも以上に顔が怖いわよ? スタルティはこんな顔にならないでちょうだいね」
「……おい」
「あら? 客観的に見たまでよ? スタルティまで無表情になったらどうするのよ」
急に話しを振られたスタルティは困惑していたけど、天狐はお構いなしにジィジにダメ出し。
ちょっと気まずい雰囲気が天狐のおかげで霧散して、いつも通りに戻った。
「さ、ささ冷めてしまいますので食べましょう」
〈うむ! やっとか! いただきます!〉
アチャの一言で、みんなが食事に手を伸ばす中、ジィジがちょっとだけ口を尖らせていた。
騙されていたことよりも天狐のセリフの方を気にしたみたい。
(ふふっ。ジィジ可愛い)
◇
食事を終えた私達は天狐オススメの薬草を扱っているお店にやってきた。
ちょっと怪しげな雰囲気がまたいいね!
お店に入れば、壁には乾燥させた薬草がぶら下げられ、棚には何かの液体に漬けられた薬草と……そこら中に薬草が置かれている。
「おぉー!」
「……らっしゃい、って天狐かよ」
「邪魔するわ。セナちゃん、好きに見て大丈夫よ。ただ、危ないのもあるから触らないようにしてね」
「はーい!」
許可をもらった私は早速鑑定をかけまくる。
知らない薬草や、図鑑で見ただけの薬草にテンションが上がってくる。
◆ ◇ ◆
「今日は大所帯じゃねぇか。あの子供大丈夫か?」
「セナちゃんなら心配いらないわ」
「ん? その男流血王か?」
「そうよ」
「何だ? 城御用達にでもしてくれんのか?」
ジャレッドは態度の変わらない店主に虚をつかれた。
「んん? 驚くことなんかあったか?」
「ふふっ。ビクビクされないからよ」
「んあぁ、なるほどな。いくら流血王だからって、いきなり殺すなんてこたないだろ? おれより天狐の方が粗相しそうだ」
「ちょっと! どういう意味よ!?」
「ハッハッハ。まぁ、好きなだけ見てけ」
怒る天狐に店主は笑って誤魔化す。その様子にジャレッドは我に返るまで時間がかかった。
◆ ◇ ◆
天狐の行きつけだけあって、珍しい薬草が多い。記憶のないときに採取していたホカホカ草なんかもあった。
〈セナ、これはどうだ?〉
「ん? あ! ステビアだ! ステビアって秋じゃないんだね~」
「セナ様、こちらは料理にも使われているようです」
グレンとジルが横から指さしてどうだどうだと聞いてくる。
主に二人が推してくるのは料理関係の薬草やハーブ。ジルに鑑定結果を教えているアルヴィンも含め、まずは食材らしい。
「欲しいのがいっぱい……どうしようかな? ジルは何か欲しい物ある?」
「僕は紅茶に使えるハーブでしょうか? ただ、アルヴィンがいくつか欲しい薬草があるようです」
〈欲しいなら全部買えばいいんじゃないか?〉
「そうだね、そうしよう! おじさん、決まったよ~!」
触っちゃダメだと言われたので、カウンターの前に移動して、鑑定で見た名前を羅列していく。
おじさんは店内をあちこち動きながら集めてくれた。
「ちっこいのに薬草に詳しいんだな。いくつか霊草も入ってっから値が張るぜ?」
「大丈夫!」
「金貨百枚超えるぞ? って、あぁ。そうか……全部で金貨百二十枚と銀貨七枚だ」
おじさんが何に納得したのかはわからないけど、言われた金額を払う。
「おう、ちょうどだな。いっぱい買ってくれてありがとうよ」
「また来るわ」
薬草を受け取ってお店を出た私は、店主が「精霊の御子……珍しいもん見たぜ」なんて呟いていたのを知らなかった。
770
お気に入りに追加
25,114
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~
鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!
詳細は近況ボードに載せていきます!
「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」
特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。
しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。
バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて――
こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。