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第三部 12章

ただいま

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 私は不思議な空間に漂っていた。
 暗闇なのに不思議と恐怖心はなく、光源もないのに何故か周りを見渡せた。

「ここどこ……?」

 何かを思い出せそうなのに思い出せなくて、すっごいモヤモヤする。大事だったハズなのに、触れようとすると手からスルりと逃れていく。
 っていうか、さっきから邪魔してくるこの気配は何なの!?
 どうも好きになれない気配を手で追い払っていると、凄まじい衝撃を感じた。
 痛い。苦しい……
 体が何かに侵されいくのがわかって、抵抗を試みたものの……体は言うことをきいてくれなかった。

「あ、この歌……コルトさん…………」

 ふと、懐かしい歌が聞こえ、無意識に呟いた言葉で、私は我に返った。
 次いで襲ってきたのは激しい頭痛。
 数々の思い出が蘇る中、硬い石が頭の中で暴れ回っているような痛みに、のたうち回る。そのときに自分の記憶とは異なる映像が頭に流れた。
 これは間違って見えたものと……おそらく故意に見させられているもの。
 その映像も見終わると、肩の上が寂しく感じる。ずっと一緒だった温もり。

「クラオル……どこ?」
「セナ!」
「……アクエスパパ?」

 頭痛が治まったころ、私を呼ぶ声が聞こえ、導かれるように手を伸ばす。
 すると真っ暗だった空間が突如としてピカーッと光った。
 眩しさに目を閉じると、グン! と腕を引かれ、再び私を呼ぶ声に目を開けると、目の前にドアップのアクエスパパとエアリルパパがいた。

「うぇ?」
「セナさ~ん!」
「セナ! よかった……」

 二人にギュウギュウと抱きしめられ、あまりの苦しさに腕をタップ。

「ぐるじぃ……」
「わ! セナさんごめんなさい! 大丈夫ですか?」
「ゴホッ、ゴホッ……ふぅ。大丈夫。ただいま。パパ達」

 咳き込む私を心配そうに見つめるパパ達に安心させるように言うと、二人共パァーっと顔を輝かせて、再び抱きしめられた。

「本当に……本当に心配したんだぞ……」
「うぅ……セナさ~ん……」
「ふふふ。ごめんね?」

 涙声の二人の頭を撫でてあげると、ガイにぃが近付いてきた。

「そろそろ代わってくれないかな? 私だってセナさんを心配していたんだよ?」
「しょうがないな……」

 ガイにぃに言われ、アクエスパパとエアリルパパは名残惜しそうに順番に私の額にキスを落とした。

「セナー!」
「ぐっ……」

 ガイにぃを手を広げて待っていたハズなのに、後ろから現れたイグねぇの腕の中へ。
 「仕方ないね……」と笑いながらガイアにぃは前側から頭を撫でてくれる。

「心配したんじゃぞ! あぁ……わらわのセナ……」
「大変だったね。記憶が戻ってよかったよ」
「ありがとう。イグねぇ、ガイにぃ

 イグねぇのグリグリ頬ずりを懐かしいと思いながら、視線を外すと……ガイにぃの後ろに、何とも言えない表情をしたジャレッドと、困ったようなような顔をした天狐と、心配そうにこちらを見ているアリシアが目に入った。

「あ……ああああああああああ!!」

 一瞬にして神達との感動の再会は吹き飛び、私の頭の中を締めるのは記憶を失っている間にしでかした数々。
 あのときは仕方ないとはいえ……思い出したら恥ずかしすぎる! そして申し訳なさすぎる!
 甘えまくったのはまだ許してもらえるかもしれない。でも私は、エロ親父の如く、天狐とアリシアのしっぽを触りまくっていた。理由は〝モフモフが気持ちいいから〟。最早、変態以外の何者でもない。
 日本ならセクハラなんてもんじゃなく、強制わいせつ罪で間違いなく捕まっていただろう。

「何じゃ!? 体が痛むのか!?」
「……穴があったら埋まりたい。いや、むしろ自分で掘りたい……」
「は?」
「あははは! いつものセナさんだね。安心したよ」

 焦るイグねぇの腕の中でガックリと肩を落とした私に、イグねぇはわからなかったみたいだけど、ガイにぃはわかったらしい。
 イグねぇの腕から降ろしてもらい、天狐の前まで歩いた私は、三人にガバッと頭を下げた。

「本当に、マジで……ごめんなさい!!」
「「「……」」」
「セナさん、彼らは謝られる理由がわかっていないみたいだよ」
「えっと……いっぱい迷惑かけたのもそうだけど、しっぽ……」

 ガイにぃに言われて説明するのも、バツが悪い私はだんだんと声が小さくなってしまう。

「……セナちゃん?」
「えっと……うん。セナです。本当にごめんなさい……」
「ふふっ。それはいいわ。雰囲気は少し変わったのに、謝るときの眉の下がり方とかは同じなのね。安心したわ。記憶が戻ったみたいで何よりよ」

 天狐は優しく微笑んでくれたけど……一歩引かれているみたいで、少し寂しくなった。
 あの正真正銘の日本の子供時代のままだったときと、記憶を取り戻した私は違う。仕方ないっちゃ仕方ない。同じように接してくれというのも無理があるだろう。
 ジィジもアチャも私を見つめているけど、口を開くことはなかった。
 もう二人を〝ジィジ〟〝アチャ〟なんて気安く呼ばない方がいいのかもしれない……

 沈黙が流れるとおばあちゃんから「そろそろよいかの?」と声がかかった。
 若い姿のおばあちゃんの方を振り向くと、おばあちゃんの隣りで女性が正座させられていた。

「ふむ。そのままジッとしておれ。…………うん。もうよいぞ。今回の原因のパナーテルじゃ。セナはこやつをどうしたい?」
「どうって?」

 おばあちゃんの魔力を感じたから、私に何かをしたらしいけど……説明を求めるより先に質問されてしまった。
 おばあちゃんから名前を聞いて、見たことある気がしたのは廃教会を直したときに肖像画を見たからかと納得した。
 おばあちゃんが言うには私が一番の被害者だから、罰の希望を聞くつもりだったらしい。
 何故かはわからないけど、記憶を取り戻したとき、あのときの天界でのパナーテル様の様子も知ることになっちゃった私は、関わりたくないというのが本音。
 でも殺されるとか消滅させられるなんてことになったら、寝覚めが悪い。

「うーん……殺すとかはちょっとなぁ……」
「流石セナちゃん! ママのことが好きなのね!」

 パナーテル様のトンチンカンな発言を聞き、呆れてしまう。

「申し訳ないけど、好きじゃない。前から思ってたんだけど、何でママ?」
「え? 嘘よね? アクエスとエアリルがパパなら私がママでしょ?」
「それが意味わからないんだよね。女神ならイグねぇもいるし、今はおばあちゃんもいる。パナーテル様はパパ達の奥さんでもないし……それにクラオルとジュードさんとフレディ副隊長の方が〝お母さん〟っぽいし、天狐とアチャの方が〝ママ〟って感じがする。あ、アチャはお姉ちゃんかな?」

 私の発言に後ろにいる天狐とアチャが口をあんぐりと開けていたなんて、私は知らなかった。


--------キリトリ線--------

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