上 下
346 / 539
第三部 12章

天狐のスキル

しおりを挟む


 ヴィエルディーオはそう告げるなり、パチンと指を鳴らした。
 すると、ドン! と音を立ててベッドが現われ、その上に天狐とアリシアが落ちてきた。

「キャア!」
「わっ! 何!? ってジャレッド? と、誰?」
「イーヒッヒ! お二人共、少し黙っていて下さいね」
「~~!」
「セナ様のために」
「「!」」

 インプに声を封じられた天狐はパクパクと口を開け閉めして抗議していたが、セナと聞いた途端に黙った。

「ベッドから降りて、ジャレッドさんの方へ」

 アリシアは恐る恐る、天狐は訝しげに見ながらもインプの指示に従う。
 〝説明しろ〟と目で訴えてくる天狐に、ジャレッドは「女神だ」と一言だけで片付ける。
 そんなジャレッドに天狐は何かを言い続けていたが、声が発せられることはなく、ジャレッドに「静かにしろ」とまともに取り合ってもらえなかった。

 ヴィエルディーオは再び指を鳴らしてセナを呼び、ベッドの上にセナを寝かせる。

「さて、三人にはセナのためにも話しておいた方がいいじゃろう。本来のセナは……三人が知っているセナとは違う。記憶をなくし、スキルも封印されておる。セナには多くの従魔がいて、一匹は赤いドラゴン、もう一匹はヴァインタミアじゃ」
「「「!」」」

 ヴィエルディーオからのヒントで、三人はセナが倒れた理由に察しがついた。

「セナの目を覚まさせるには、記憶を取り戻さねばならん。記憶を取り戻したら、違う人物のように感じてしまうかもしれん。それでもお主達はセナを助けたいと願うか?」
「何を言うかと思えば、そんなこと聞くまでもない」

 ジャレッドの言葉に声を奪われたままの天狐とアリシアはコクコクと頷いた。

「ヒャーヒャッヒャ。セナが今までと変わっても態度を変えぬか?」
「セナはセナだろう。愚問だな」
「ヒャーヒャッヒャ! それが実行されることを願ってるよ。お主達は手出し無用、見守っていること。よいな?」

 ヴィエルディーオは三人が頷くのを確認してからパチンと指を鳴らす。
 そうして現れたのは四神と……ロープでグルグル巻きにされたパナーテルだった。

「俺達を生み出したのはそういう理由だったのか」
「〝地上は面白そうだ〟なんて言っておいて、本当は療養していたとはね」
「ヒャーヒャッヒャ! 実際地上は面白いからの。嘘ではない。……紹介しよう。左からアクエス、エアリル、イグニス、ガイア。後、転がっておるのがパナーテルじゃ」

 アクエスとガイアに笑いながら答えたヴィエルディーオは、ジャレッド達に神達を紹介する。

「こいつらは何だ?」
「…………そうか。ジャルは知らんのか……教会を嫌っていたからの。それも仕方あるまい。この子らは、今この世界を護っておる神達じゃ」
「は!?」

 ジャレッドは驚きに目を見開き、ヴィエルディーオと現れた四神を交互に見つめる。そんなジャレッドに天狐は〝そんなことも知らないのか〟と衝撃を受けた。

「えっと……先ほど話していた一件で、ヴィエルディーオ様が体を休ませるために僕達を創ったんですよ。それから今に至るまで僕達が見守っていました。なので、あなたのあの教会以外ではちゃんと僕達の像が置かれています」
「話が進まんじゃろ! 質問は後にせい!」

 丁寧に説明するエアリルだったが、横からイグニスが声を荒らげた。

「そうじゃの。……では、パナーテル。セナを元に戻してもらおうか? 話はその後じゃ」
「ふんっ。できないわよ。元に戻すつもりなんかなかったもの。もし記憶が戻ったらセナちゃんに嫌われちゃうじゃない。わかっているのにやりたくないわ。どうせ消されるんでしょ? さっさとやればいいわ」

 ヴィエルディーオが言うと、パナーテルは顔を背けながら突っぱねた。

「何じゃと!?」
「私がママなのに、一度も会わせてくれないのが悪いのよ! 加護だってあげたのに! 私だけ除け者にして……ママなんだから私が育てたっていいじゃない!」
「何がママだ! セナに迷惑ばかりかけていたくせに、ママなどとよく言えるな!」

 イグニスが詰め寄ると、パナーテルは喚き始め、そのパナーテルにアクエスが怒鳴る。
 神達の口喧嘩が始まってしまい、ヴィエルディーオは小さくため息をついた。

「ん?」

 ヴィエルディーオがちょんちょんと肩をつつかれ、そちらに顔を向けると、天狐が〝声を出せるようにして〟とアピールしていた。

「ん゛ん、あ、あ、あー。うん、ちゃんと声が出せるようになったわ。ちょっといいかしら?」

 声が出せるようになった天狐は喉を確認して、言い争っている神達に話しかける。

「何じゃ! お主は黙っとれ!」
「えっと~、ママって我が子のことすごく大事にすると思うの。私だって実の子じゃないセナちゃんをから護りたかったもの。ジャレッドやアリシアちゃんもそう。ほら、見て。セナちゃん苦しんでるわ。セナちゃんを治せるのはあなただけなんでしょ? あなたがママって言うなら、セナちゃんのツラさを取り去ってあげなくちゃ。ね?」

 怒るイグニスに睨まれたが、天狐は優しくパナーテルに語りかける。
 神達の会話からパナーテルが要因であることを理解していたが、こういうタイプには怒鳴っても意味がないと思ったからだった。
 天狐の言葉に全員の視線は、眉を寄せて荒い呼吸を繰り返しているセナに集中した。

「……でも元に戻す気がなかったから、ちゃんと戻せるかわからないわ……」
「ママは子供を助けるためなら、何でもできるの。少しでも可能性を信じるものよ! やってみなくちゃ!」

 天狐は自身が見てきた世の中の母を思いながら言葉を紡ぐ。――とある母は天狐に子供のための霊薬を作ってもらおうと全財産を渡してきた。別の母は霊草を採取するために山に入り、凍傷でおのれの手足の指をダメにした。
 当時は何故そこまで子供のためにできるのかわからなかったが、セナと暮らした今ならわかる。
 途中、チクチクとした胸の痛みを感じたが、それを無視してパナーテルのやる気を上げさせた。

「わかったわ……やってみる」

 パナーテルが頷いたのを見て、ガイアはパナーテルを縛っているロープを解いた。
 パナーテルは両手を前に突き出し、「えい!」と魔力を放つ。
 しかし、その魔力はセナの眉間のシワを深くするだけで、に入る前に消えてなくなってしまった。

「やっぱりダメよ……」
「あなたママじゃないの? ママならできることは全部やらなきゃ! 頑張んなさい!」

 天狐の叱咤激励にパナーテルは再び魔力を練り始める。
 何回も何回も繰り返したが、セナが苦しむばかりで一向に浸透しない。

「んもう! どうして拒否するの! ママは私よぉぉぉぉ!!」

 繰り返すうちにセナに弾かれていることがわかり、パナーテルは叫びながら思いきり魔力をぶつけた。


--------キリトリ線--------

次から視点が元に戻ります。
しおりを挟む
感想 1,798

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。