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第三部 12章

仲間side【3】

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◆ ◇ ◆

 ガルド達はヴィエルディーオに「まず馬の鞍を作れ」と言われ、ルィーバ国のガラカーンという街に送られた。それは、通常の馬具では龍走馬ドラゴンライダーホースの魔力に耐えられないため。
 ヴィエルディーオいわく、ここに馬具作りの名人がいるらしい。

「会うのにコツがいるってどういうことだ?」
「わかんないよー」
「とりあえず、ギルドと酒場で聞いてみましょう」

 ガルド達はギルドで馬具職人について問い合わせてみたが、あしらわれてしまった。
 酒場も同様だったが、聞いた店主が最後に「あいつはもう作らないよ。作れないんだ」と呟いたのをコルトは聞き逃さなかった。

 街にある店に手当り次第入ってみることも考えたが、ガルド達は謎の呟きをした店主がいる酒場に通うことにした。

「またあんた達か……懲りないな。しつこい男は嫌われるぞ?」
「紹介してもらえるまで通う。ボアステーキ大と山盛りパンを四つ」

 ガルドが注文をすると、店主はため息を吐いて料理にとりかかった。

 この街に送られてから既に一週間。
 毎日朝と夕方に教会に赴き、ヴィエルディーオと連絡を取り合ってはいるが、未だにセナは見つかっていない。
 ガルド達は焦る気持ちに必死に蓋をしていた。
 空を飛べるグレンや精霊と契約をしているジルベルトとはガルド達は異なる。移動手段が徒歩のみなのは、セナを探すのにネックになることがわかりきっていた。

「はいよ。なぁ、あんた達は何でそんなにあいつに会いたいんだ? 馬具なら他の店でも売ってるだろ?」
「俺達は従魔用の馬具を作ってもらいたい。普通のじゃダメなんだよ」
「従魔か……少し前だったらあいつも喜んだだろうな……そうだな。わかった。教えてやる」
「本当か!?」
「あぁ。だが……無理だと思うぞ。誰もどうしようもないんだ。拒否されても文句言うんじゃねぇぞ?」
「わかった」

 ガルド達は食後、店主に聞いた馬具屋へ向かう。
 着いた場所は店ではなく、街の外れにある小さな家だった。

「留守か?」
「気配はするから中にいるよー」

 ドアをノックしても出てきてもらえず、ガルドはジュードに問いかけた。
 尚もノックし続けると少しだけドアが開き、隙間から女性に「すみませんが、払えるお金はありません」と謝られた。

「オレっち達回収屋じゃないよー。従魔用馬具の依頼に来たんだー」
「従魔馬具……無理だと思います……」
「どうしても頼みたいんだ」

 ガルドの真剣な声で女性は悩みながらもドアを開けて、中に入るよう促した。
 ガルド達が家に入ると、若い女性は外を確認してからドアを閉める。
 そして、奥を気にしながら小声で話し始めた。

「馬具を作っていたのは祖父なんですが……おじいちゃん……ケガが治らなくて、ハンマーどころかスプーンを握るのも大変なんです……」
「何だと!?」
「すみません。今は眠っているので、音量を落としていただけると……」
「あ……悪ぃ……」
「従魔用ともなれば、馬車も馬具も元気だったら喜んで作ったと思いますが……せっかく来ていただいたのにすみません」

 孫だと言う女性はそう言って、ガルド達に頭を下げた。
 黙っていたコルトが、何か考えながら女性に質問する。

「……原因は?」
「え……えっと……材料を取りに行って、魔物に襲われたんです。偶然通りかかった男性に助けられたと聞きました」
「……いつ? どこで? 何て魔物?」
「一ヶ月ほど前に、この街の北東の森ですけど、魔物のことは私が実際見たわけではないのでわかりません。……それがどうかしたんですか?」
「……そんなに強い魔物出るの?」
「いえ。あの森は……私でも薬草採取に行けますので」
「……そう」

 矢継ぎ早に質問したコルトは、少し考えた後、再び口を開いた。

「…………会いたいんだけど、ダメ? もしかしたら治せるかもしれない」
「ポーションや教会の神父さんに頼んでも治らなかったんですよ……」
「……だからもしかしたらって言った。失敗するかもしれないし、成功するかもしれない……でも希望はある」
「え!?」
「まさか……アレはダメだ!」
「……何で?」

 喜びかけた孫娘はガルドの剣幕に驚いた。
 ガルドはこの場では詳細を話せないため、コルトに睨まれても答えることができなかった。
 ジュードもモルトもコルトが何を使おうとしているのかわかったため、ガルドの意見に賛成だ。

「今日はとりあえず戻るねー! お邪魔しましたー! ほら、コルトも!」
「え……あ、はい」

 これは相談が必要だと踏んだジュードがこの場を切り抜けようと早口でまくし立て、メンバーを促した。

 宿に戻り、コルトに何を使おうとしていたのか問いただすと、案の定セナが作ったポーションだと返ってきた。

「アレは俺達に何かあったときのためにセナに渡されたやつだ。他人に飲ませたら話題になるだろうが」
「……え? あ、そっちじゃない」
「は?」

 コルトはセナから受け取っていたポーションを順番にテーブルの上に出していく。

「……麻痺治し、毒消し、光魔法入り、骨強くするやつ、喉用……」
「お、おい、何だこれは……」
「……実験で作ったやつって言ってた。他にもある」
「はぁ……てっきり俺はあのなポーションかと思ったぞ……」
「オレっちもー」
「自分もです」
「……アレはだからダメ」

 コルト以外の三人は、自分達が思っていたポーションではないことに脱力した。

「ったく、焦らせるなよ……っつーか何でコルトがこんなに持ってんだ?」
「……回復魔法使わないで済むからって」
「なるほどな……あいつも面白がっていろんなモン作りすぎだろ……」
「あはは! 流石セナっちだよねー。あ! マッスル粉入りまである! 確かにこれだけ種類があれば治せるかもだねー」
「……うん。だから本人と会いたかった」
「今日戻ると怪しまれそうなので明日にしましょう。ポーションの入手先などを聞かれることを予想して、上手くはぐらかさなければ」
「……あ、そっか」

 モルトが懸念を指摘すると、コルトが考えていなかったことがわかった。



 翌日、再び馬具屋を訪れたガルド達は職人と会うことができた。と言っても、ベッドで眠る店主のお見舞いに来た感じだ。
 老人とは言えないくらい若々しい店主だったが、体中傷だらけだった。一番重症なのが、肩から腕が千切れかけていて、それを包帯で何とか繋ぎ止めている状態だ。包帯には血が滲んでいて、見るからに痛々しい。
 
 店主の症状にピッタリのポーションが見当たらなかったので、効きそうなものを五種類ほど見繕った。
 孫娘が見守る中、起き上がれない店主にガルド達は協力してセナ製作のポーションを飲ませる。
 ほどなくして老人が目覚めると、孫娘は泣きながら感謝を伝えてきた。

「本当にありがとうございます! 何てお礼を言えばいいのか……」
「治らねぇと思っていたが、まさか治しちまうなんてな。しかも前より調子がいい! ウチに用ってことは馬車か? 馬具か? すぐに作ってやるぜ!」

 起き上がった店主はもう何ともないらしく、血のついた包帯をそのままに腕をグルグルと回している。
 
「とりあえず馬具を頼む。従魔用だ」
「従魔!? 従魔だって!? 見せてくれ! ここだとあれだから、裏の倉庫に行こう!」
「え? あ! おいっ!」

 従魔と聞いた途端に瞳を輝かせた店主は興奮しながらベッドから降りるなり、ガルドの腕を掴んで引っ張っていった。

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