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第三部 12章
仲間side【2】
しおりを挟む〈クラオル! 説明しろ! セナは!?〉
『壁が動いたのよ! 寄りかかった主様が落ちちゃったの!』
〈何だと!? 何故一緒にいない!?〉
『ワタシ達だって一緒にいたかったわよ! 飛び込む前に塞がったんだから!』
「セナ様は大人気ですねぇ」
喧嘩に発展しそうになったピリピリとした空間に、インプの緊張感のない発言が響いた。
インプはクラオルから事情聴取し、壁の仕掛けも解除。さらに一部の壁を消して見せた。
壁の裏は漆黒の闇。底が見えない。
「さて、少々嫌な予感がしますので、皆さんはここでお待ち下さい」
グレン達から反応が返って来る前にインプはスーッと闇に溶けた。
十メートルほど下へ降りると底に到着した。底にはセナはおらず、血痕だけが残されていた。
「…………これはマズイことになりましたね……報告しなければ」
インプはヴィエルディーオに連絡を取り、状況を説明。
さらに詳しく調べようと、魔法を展開し始めた。
◇
ヴィエルディーオはインプからの報告を受けて、ガルド達も全員己の空間に呼びつけた。
驚いている面々を前に、ヴィエルディーオは真剣な面持ちで口を開く。
「緊急事態じゃ。セナが消えた」
ヴィエルディーオの発言にグレンは〈どういうことだ!〉と詰め寄り、ジルベルトはあまりの衝撃に倒れかけたところをモルトに支えられた。
「生きてはおる。それは従魔であるお主達も繋がりが切れておらぬことからわかっておるじゃろう。セナはあの場から転移魔法陣でどこかに飛ばされた。どこに飛ばされたのかは、今あの子らが必死に探しておる」
〈何だと……〉
「セナ様が起動したとは思えません!」
堪らずジルベルトがヴィエルディーオに反論した。
「不完全な転移魔法陣故、セナの血に反応したようじゃ。なぜセナの魔力が辿れないのかはわかっておらぬ。見つけ次第お主達に知らせよう」
『そんな……主様……』
「あそこは調べさせている故、あの場には戻せない。ひとまず、安全な街にでもお主達を送って……」
「ちょっと待ってくれ」
ヴィエルディーオの話をガルドが遮った。
「あの馬達は俺達と契約させるためか?」
「そうじゃ」
「わざわざ罠にかけさせて殺したのか?」
「あの馬達はあの罠にかからなければ、お主達が戦ったオラジー猿に全滅させられていた。あの小さな個体は耐えられなかったようじゃがの。さらに、従魔となるかどうかは馬次第。きっかけを作っただけにすぎぬよ」
「そうか……」
「誤解は解けたかの?」
「あぁ……わざと殺したわけじゃないんだな……」
「ヒャーヒャッヒャ。当たり前じゃ。そんなことをしたらセナが悲しむじゃろ」
「ならいい」
ガルドはセナのことを考えて気にしていたことを見抜かれた気がして、目を逸らした。
《何か手伝えることはありませんか?》
ガルドとヴィエルディーオの会話が落ち着くのを見計らって、ウェヌスがヴィエルディーオに訊ねた。
《そうよ! 私達もセナちゃん探すわ!》
「俺達にもできることがあったら言ってくれ」
「ヒャーヒャッヒャ! セナは仲間に恵まれておるのぅ。そうじゃな……少し手伝ってもらおうかの」
ヴィエルディーオの言葉に全員の表情が明るくなった。皆ただ待つのは嫌だった。
そんなメンバーを見て、ヴィエルディーオは満足そうに頷いた後、指示を出す。
それぞれ視線を交わし、各々に与えられた仕事をこなすことを言葉にせず誓い合った。
◆ ◇ ◆
グレンとジルベルトはヴィエルディーオによってシュグタイルハン国に送られた。
緊急事態だと王城に冒険者ギルドと商業ギルドのマスター、タルゴー商会のリシータを呼び付ける。
「集まったが、セナはどうした?」
執務室に集められたメンバーを前に、アーロンが二人に問うた。
「そのセナ様が行方不明となったのです」
「はぁ!? どういうことだ!! 冗談がすぎるぞ!」
〈冗談でこんなこと言うか! 我らも貴様らに構わず探しに行きたいというのに!〉
ジルベルトが答えると、アーロンは驚いて怒鳴りつける。そのアーロンにグレンが怒りを滲ませながら怒鳴り返した。
「ど、どどどどどういうことなのでしょうか?」
「昔の地下実験施設で、ケガを負ったセナ様が転移魔法陣でどこかに飛ばされてしまったのです。セナ様の魔力が辿れないため、どこにいるのかわかっておりません」
ジルベルトが簡潔に説明すると、執務室に集められた面々は息を呑んだ。
「ちょっと待て。転移魔法陣なら魔力を流さなきゃ起動しないだろ? セナ自ら起動したのか?」
アーロンの後ろに待機していたドナルドが納得できないと口を挟んだ。
「……セナ様から流れた血に反応したのです」
「血か……チッ」
ドナルドは意図せずセナが飛ばされたことを知り、苦い思いで舌打ちをした。
「……セナから連絡がこないとなれば、そのケガで動けない可能性もあるのか……わかった。国内外に通達して見つけ次第保護させる。このことはキアーロ国には報告してるのか?」
「いえ、この後すぐに向かいます」
「なら、城の転移門を使え。オレも行く」
アーロンは宰相のレナードとギルマス達に指示を出し、グレンとジルベルトを転移門のある部屋まで連れて行った。
◇
キアーロ国でも同じ報告をすると、国交のある国にも協力を求める大掛かりな捜索願が出されることが決まった。
「もし見つかったときに連絡はどこにすればいいんだい?」
「カリダの街のブラン様宛にお願いします」
「カリダの街にいるのかい?」
「いえ。僕達はセナ様を探しますので。こういった場合、偽物も現れることが考えられます。ブラン様方には情報精査をお願いしようかと」
「なるほどね。わかったよ」
「では、僕達はカリダの街に向かいますので」
〈行くぞ〉
グレンはジルベルトに声をかけると、応接室の窓を開け、羽を出した。
ジルベルトはそのグレンの背に乗り、二人は窓から飛び立つ。
向かうはカリダの街。ブラン達に情報のとりまとめを依頼したら、キヒターのいる教会でヴィエルディーオへの報告が待っている。
セナはヴァインタミア族が暮らしている呪淵の森ならすぐに転移で戻って来られる。戻って来たらキヒターの教会に寄るだろうし、教会故神との連絡にちょうどいいと満場一致で決まった。
ブラン達は教会のことを知っているから、セナの情報が入り次第、早馬で知らせてくれるだろうとの予想も見込まれている。
キヒターやシュティー達の耳に入れば、念話ですぐに情報共有できる。
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