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11章

厄介な害獣

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 グレンに案内してもらった場所でみんなで簡単にお昼ご飯。
 馬達は何がいいかわからなかったから人参を出したんだけど……私達が食べていたコロッケパンが気になるというので出してあげた。ソースなしが気に入ったらしい……
 ただ、馬も全員分となると量がすごくて、これから給食のおばちゃん度が増しそう……



 鞍がないので馬達には影に入ってもらい、私達は森の散策を再開。
 グレンやネラース達が狩った魔物は、今までも遭遇したことのあるボアやウルフ系、ホーンラビだった。唯一、通常時に遭遇していないのは鹿だったんだけど、これはお肉屋さんで買ったことのあるお肉だったんだよね。
 おばあちゃんが言っていた〝望むモノ〟がわからないから、またニヴェス達には好きに行動してもらい、私はマップをチェック。

「んん??」
『どうしたの?』
「何かこの先にあるっぽいよ」
〈何かって何だ??〉
「わかんないけど、倉庫……かな?」

 マップではいくつか箱っぽいものがあるけど、村の名前が表示されないから村じゃないっぽい。
 とりあえずその倉庫を目指すことにした。

〈暇だな〉
「あんまり魔物いないもんねぇ。あ! またペンペン草!」
〈さっきから採ってるそれは何だ?〉
「これ? 契約ペンに使われる素材だよ。葉っぱがペン先みたいでしょ?」

 ペン先ってかなり大ざっぱな括りだけど、ペンペン草の葉っぱは万年筆のペン芯のような形をしている。日本の〝ペンペン草〟とは異なる。
 実際の契約ペンは万年筆型もあるけど、ボールペンや油性ペンみたいなのもあって、使う人の好みで選べる。そういうところはこの世界でも発達しているんだよね。ご飯は全然なのに……
 私としてはペンよりご飯を発達させて欲しかった。



 数時間後、辿り着いたのは村の跡地だった。
 長年放置されたのか、建物の壁や屋根にまで草が生い茂っている。
 崩れている建物も多かったけど、残っている建物に魔物が付けたと思われる大きな爪跡があった。魔物に襲われて廃村になったっぽい。

「急いで逃げ出したみてぇだな。家ん中の家財道具はそのままだ」
「オレっちが見た家も似た感じー。ツルハシとかシャベルとか鎌とか道具の種類がいっぱいだったから、農村だったのかもー」
「この廃村には特に何もなさそうだね」

 この村を襲った強い魔物の気配もしない。
 おばあちゃんが言っていた〝望むモノ〟はここにはないみたい。
 一度近くの街でちゃんと詳細を聞いた方がよさそう。まさか馬達のことじゃない……よね? 私は特に従魔望んでなかったし。


 村を後にしてしばらく歩いていると、ネラース達から念話が届いた。
 魔物を見つけて、私達の方に追い立てているらしい。
 気配を探ると、数が多かった。
 みんなに説明して、魔物を待ち構える。私はクラオルに頼んで樹上からぶら下がった。

 ドドドドと地面を揺らしながら現れたのは【オラジー猿】。
 アクランが猿が横に逃げないように魔法で牽制している。
 パッと見はオランウータンとチンパンジーを混ぜた感じ。動物園で見たような可愛らしさの欠片もなく、この世界では農家の敵で害獣扱いの魔物だ。

 待ち構えていたグレンが空に向かって炎を吐き、驚いて失速したところに私が上からローションを振りかける。
 これなら足元が滑るからジャンプもできないハズ。一応作っておいてよかった! こんなにすぐ役に立つなんて!

 みんなはローションを踏まないように離れた場所から魔法で狩っていく。
 滑る猿の中にも魔法を使ってくるやつがいて、その攻撃をエルミスとプルトンが相殺している。
 私も加勢しないと!

「うわっ! ちょ、何!?」

 いざ、魔法で上から攻撃しようとすると、体がぶらんぶらん揺れ始めて焦る。
 何で!? と思ったら、いつの間にか猿が私と繋がっているつるを攻撃していた。

 揺さぶられていることでつるがおなかに食い込んで気持ち悪い。
 ポラルとクラオルがつるを登って猿に攻撃を繰り出している間も、私はぷらんぷらんと揺れている。
 今、ここで下に落ちたらローションまみれになっちゃう。それは嫌。マジで嫌。せめて普通の地面がいい。

 クラオルとポラルが樹上にいた猿を排除してくれたのを確認して、私は一安心。
 ターザンのように自分で勢いを付けて、風魔法でつるを切る。
 無事に着地した刹那――地面が崩れ落ちた。

「え!?」
『主様っ!』

 上から降ってきたクラオルとポラルを反射的にグレウスと一緒に抱きしめ、グルングルンと回転しながら落ちていく。

 頭も顔も打ちまくり、朦朧とする私は何か柔らかいモノの上に投げ出された。

「カハッ……ゴホッゴホッ。ヴゥ……」

 いくら柔らかいといっても、勢いのまま叩きつけられて一瞬息が止まった。
 ひとしきり咳が落ち着くのを待って、腕の中のクラオル達を確認する。

「大丈……ヴッ! オェェ……」

 大丈夫か聞こうとくちを開くと、この世のモノとは思えない激臭が鼻を襲い、思わず横を向いて吐いてしまった。
 横を向いたことで、クッションになっていたのは先ほどまで戦っていた猿だったことがわかった。
 やべぇ……マジでくせぇ……
 ただでさえ頭がガンガンと痛いし、気持ち悪くて目も霞むくらいなのに、悪臭がさらにそれらに拍車をかける。
 しかもこの場所は薄ら寒くて嫌な感じがする。

『主様!』
「三人共……無事……?」
『主様が大丈夫じゃないわ! 治して!』

 慌てるクラオルに言われておデコに手を当てると、血が手にベットリと付いた。ぶつけた際に頭を切ったらしい。

「あぁ……ヒール……あぁ、マジか……」

 ちょっと予感はしてたものの、魔法が使えなかった。
 吐き気を我慢して他の魔法を試してみても、同じ。クラオル達にも試してもらったけど、ダメだった。
 ここは魔力が使えない細工がしてあるっぽい。
 霞む目を上げて状況を確認する。ココは洞窟。暗いけど私達が落ちてきた穴から光が入ってきているから、暗闇ではない。目を動かすと、格子のような物が見えた。

「……牢屋?」

 ここは洞窟内に閉じ込めておくように造られた地下牢みたい。

「魔法使えないから回復できない。ポラルは魔力使わなくても糸出せたよね?」
〔デキル!〕
「落ちてきた場所を登ってって、みんなに伝えて。穴から入っちゃダメ。他に入り口があるハズだから、そこを探してって。そしたらこの魔法使えない細工何とかできると思う」
〔イソグ!〕

 ポラルは簡潔に答え、すぐに糸を使って開いた穴を登って行った。
 ポラルに頼むのに一気に喋った私は再びリバース。ちょっと本格的にヤバいかもしれない。

『主っ!』
『主様!』
「……大丈夫だよ。ちょっと寄りかかりたい……」

 立ち上がれなくて、四つん這いのままのそのそと移動していく。

「……うぅ……マジくさすぎ……クラオル達は大丈夫なの?」
『これ、死臭よ……ワタシ達はあの森で暮らしてたから平気よ』
「マジか……」

 そういえば呪淵じゅえんの森って危険エリアなんだっけ……常に死と隣り合わせだったってことね。こんなに可愛いのに……

「……みんながすぐ助けてくれるだろうから待ってようね」

 やっと壁際に辿り着き、安心させるようにクラオルとグレウスに話しかけた。

「ふぅ……え? ……ウソぉぉぉぉ!?」
『主様!』
『主!』

 壁に寄りかかった瞬間、壁が動いて私は再び落ちる。
 驚いていたクラオルとグレウスが一瞬見えたけど、逆光でシルエット。しかもすぐに壁が戻ってしまった。
 真っ暗な中真っ逆さまに落下して、地面に叩きつけられたのを最後に、私は意識を手放した。


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