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11章

馬と罠

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 朝からテンションの高いネラース達を宥め、みんなでラジオ体操して準備はバッチリ。

「今日は森を歩きながら進みます! 離れてもいいけど、ちゃんと位置は確認してね? お昼ご飯には私のところに集合すること」
『『『『はーい!』』』』
「行ってきていいよ」

 私がネラース達に声をかけると、『わーい!』と飛び出して行った。

「んじゃ俺達も出発するか」
「うん!」

 歩き出した私達の話題は、魔女おばあちゃんが言っていた〝私達の望むモノ〟について。
 心当たりはないのか聞かれたんだけど、食材くらいしか思い浮かばないんだよね……

「でも、おばあちゃんの言い方だと食材じゃないと思う」
「どういうことだ?」
「〝望むモノが〟って言ってたでしょ? 食材ならって言うと思うんだよね。だから生き物じゃないかと思ってたの。ただ、ケチャップが魔物だったから、食材関係の魔物の可能性もあるけど……」
「なるほどな」
「あ! ペンペン草! あっちはサヴァ草だ!」

 話している途中で薬草を見つけて採取していく。

「あんま離れんなよ」
「はーい!」
「セナ様、先ほどクロバ草が生えておりましたので採取しておきました」
「わー! ジル、ありがとう!」
「っつーか、セナもジルベルトもこの森ん中でよく見つけられるな……」
「セナっちだからねぇー。ジルベルトはヒュノス村のお婆さんに鍛えられてたし」

 なんか呆れられてる感じがするんだけど、何でだろ? 薬草はあって困るもんじゃないのに……

「あ! グレン、魔物いたけど、狩ってくる? それとも一緒に狩る?」
〈暇だから狩ってくる。セナはジルベルトとガルド達から離れるな〉
「はーい。気を付けてね」

 グレンを送り出して私は薬草採取を再開。
 この森は薬草が多い。採取に来る人が少ないのかな?
 なんてことを考えながらウロチョロしていると、ニヴェスから念話が届いた。

『((ご主人様、罠にかかった魔物がいますン))』
「((罠?))」
『((はい。いっぱいあって近付けないですン))』

 ガルドさん達に理由ワケを説明して、グレンに念話を飛ばしてからニヴェス達のところへ向かう。
 私はガルドさん、ジルはジュードさんの背中におぶわれて向かった先には、太いつるに巻かれた馬が七頭いた。
 馬は苦しげな声を漏らし、息も絶え絶え。

「何これ……」
《酷いな……》
《セナちゃん、無闇に近づいちゃダメよ。魔法があちこちに仕掛けられてるわ》

 私達に気が付いた一番大きな馬が暴れて、さらにつるに締め上げられてしまった。

「助けてあげるから暴れちゃダメ! もっと苦しくなっちゃう!」
『そうよ! 大人しくしなさい! 死にたいの!?』

 クラオルの援護が効いたのか、私を睨みつけていた目が驚きに染まった。

《セナちゃん、これ、多分だけど、あのサーカス団の呪術師の魔法だと思うわ》
「え!?」
《ただ、魔法がかけられたのは三週間くらい前ね》

 三週間っていうと、あの街でサーカスの催しが始まる前だ。サーカス団がフォースタンケの街に来る前に仕掛けたと思ってよさそう。
 自然に生えているつるに魔法をかけ、触れたモノに絡みつくようになっているらしい。
 切っちゃえばいいんじゃないかと思ったけど、動けばさらに絡みつかれるなんて悪循環に陥ってしまう。しかも、魔物は魔法を使えない個体も多く、使えたとしても自身を傷付けずにつるだけを切るような精密な魔法は難しいそう。
(こうやって罠にかけた魔物に隷属の首輪を着けてたのね……なんてヤな奴! 見つけたらとっ捕まえてやる!)

《数が多いが、一つずつ解除すれば大丈夫そうだ》
「よし! やろう!」

 エルミスとプルトンに教えてもらいながら無効化していく。解除というよりも魔法を上書きして作動しないようにする感じ。
 闇魔法だったのでネラース、ジル、プルトンにも手伝ってもらう。ガルドさんは手伝ってくれようとしたんだけど、調整が難しいのかできなかった。

〈何だコイツらは?〉
「あ、グレン。おかえり。あのサーカス団の呪術師が仕掛けてた罠を解いてるの。近付いちゃダメだよ?」
〈わざわざ解除しなくても引きちぎればいい〉
「ちょっと、グレン!」
〈うおっ!〉
「だから言ったのに……」

 ズンズンと近寄ったグレンにつるが絡みついてしまった。腕も足も捕られて、引きちぎるどころじゃなくなっている。

「グレン、大人しくしてて。火はダメだよ? 森が燃えちゃうでしょ」
〈ムゥ……わかった……〉

 グレンを助け出し、一つ一つに魔法を重ねがけしていく。
 こんな厄介な罠よく作ったよね……
 つるが解かれた馬達はかなり衰弱していて、ヒールでは骨折や引き裂かれた皮膚しか治らなかった。
 クラオルに許可をもらい、チートなリンゴを食べさせていく。

「あ……この子……」
《そうなの。助けたときにはもう……》
「間に合わなくてごめんね……」

 最後の一頭、一番小さい子は既に手遅れだった。
 私が子馬を撫でてあげていると、回復した六頭の馬が集まってきた。
 馬達はしきりに子馬に鼻を擦り寄せていて、その姿は「起きなさい」と言っているように見える。

 馬達から離れ、様子を見守っていると隣りに来たガルドさんにガシガシと頭を撫でられた。

「気に病むな。セナは助けてやっただろ? 誰もお前さんを責められねぇよ」
「でも……」
「両手で救おうとしても手から零れちまうのだってある。そんなもんだ」
「それ、仏様の手の話?」
「何だそれは」
「ううん、何でもない。ありがとう」

 確か仏様は手から零れちゃう人も救おうと、手に水かきみたいなのが付いている。それでも零れ落ちる人もいるから、何度も救いの手を差し伸べる――みたいな話だったと思うんだけど……昔、観光地でチョロっと聞いただけだから記憶が定かじゃない。

――――ヒヒィィィィィン!!

 子馬が起きないことがわかったのか、馬達の悲しげな嘶きが響き渡った。

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