322 / 540
11章
馬と罠
しおりを挟む朝からテンションの高いネラース達を宥め、みんなでラジオ体操して準備はバッチリ。
「今日は森を歩きながら進みます! 離れてもいいけど、ちゃんと位置は確認してね? お昼ご飯には私のところに集合すること」
『『『『はーい!』』』』
「行ってきていいよ」
私がネラース達に声をかけると、『わーい!』と飛び出して行った。
「んじゃ俺達も出発するか」
「うん!」
歩き出した私達の話題は、魔女おばあちゃんが言っていた〝私達の望むモノ〟について。
心当たりはないのか聞かれたんだけど、食材くらいしか思い浮かばないんだよね……
「でも、おばあちゃんの言い方だと食材じゃないと思う」
「どういうことだ?」
「〝望むモノがいる〟って言ってたでしょ? 食材ならあるって言うと思うんだよね。だから生き物じゃないかと思ってたの。ただ、ケチャップが魔物だったから、食材関係の魔物の可能性もあるけど……」
「なるほどな」
「あ! ペンペン草! あっちはサヴァ草だ!」
話している途中で薬草を見つけて採取していく。
「あんま離れんなよ」
「はーい!」
「セナ様、先ほどクロバ草が生えておりましたので採取しておきました」
「わー! ジル、ありがとう!」
「っつーか、セナもジルベルトもこの森ん中でよく見つけられるな……」
「セナっちだからねぇー。ジルベルトはヒュノス村のお婆さんに鍛えられてたし」
なんか呆れられてる感じがするんだけど、何でだろ? 薬草はあって困るもんじゃないのに……
「あ! グレン、魔物いたけど、狩ってくる? それとも一緒に狩る?」
〈暇だから狩ってくる。セナはジルベルトとガルド達から離れるな〉
「はーい。気を付けてね」
グレンを送り出して私は薬草採取を再開。
この森は薬草が多い。採取に来る人が少ないのかな?
なんてことを考えながらウロチョロしていると、ニヴェスから念話が届いた。
『((ご主人様、罠にかかった魔物がいますン))』
「((罠?))」
『((はい。いっぱいあって近付けないですン))』
ガルドさん達に理由を説明して、グレンに念話を飛ばしてからニヴェス達のところへ向かう。
私はガルドさん、ジルはジュードさんの背中におぶわれて向かった先には、太い蔓に巻かれた馬が七頭いた。
馬は苦しげな声を漏らし、息も絶え絶え。
「何これ……」
《酷いな……》
《セナちゃん、無闇に近づいちゃダメよ。魔法があちこちに仕掛けられてるわ》
私達に気が付いた一番大きな馬が暴れて、さらに蔓に締め上げられてしまった。
「助けてあげるから暴れちゃダメ! もっと苦しくなっちゃう!」
『そうよ! 大人しくしなさい! 死にたいの!?』
クラオルの援護が効いたのか、私を睨みつけていた目が驚きに染まった。
《セナちゃん、これ、多分だけど、あのサーカス団の呪術師の魔法だと思うわ》
「え!?」
《ただ、魔法がかけられたのは三週間くらい前ね》
三週間っていうと、あの街でサーカスの催しが始まる前だ。サーカス団がフォースタンケの街に来る前に仕掛けたと思ってよさそう。
自然に生えている蔓に魔法をかけ、触れたモノに絡みつくようになっているらしい。
切っちゃえばいいんじゃないかと思ったけど、動けばさらに絡みつかれるなんて悪循環に陥ってしまう。しかも、魔物は魔法を使えない個体も多く、使えたとしても自身を傷付けずに蔓だけを切るような精密な魔法は難しいそう。
(こうやって罠にかけた魔物に隷属の首輪を着けてたのね……なんてヤな奴! 見つけたらとっ捕まえてやる!)
《数が多いが、一つずつ解除すれば大丈夫そうだ》
「よし! やろう!」
エルミスとプルトンに教えてもらいながら無効化していく。解除というよりも魔法を上書きして作動しないようにする感じ。
闇魔法だったのでネラース、ジル、プルトンにも手伝ってもらう。ガルドさんは手伝ってくれようとしたんだけど、調整が難しいのかできなかった。
〈何だコイツらは?〉
「あ、グレン。おかえり。あのサーカス団の呪術師が仕掛けてた罠を解いてるの。近付いちゃダメだよ?」
〈わざわざ解除しなくても引きちぎればいい〉
「ちょっと、グレン!」
〈うおっ!〉
「だから言ったのに……」
ズンズンと近寄ったグレンに蔓が絡みついてしまった。腕も足も捕られて、引きちぎるどころじゃなくなっている。
「グレン、大人しくしてて。火はダメだよ? 森が燃えちゃうでしょ」
〈ムゥ……わかった……〉
グレンを助け出し、一つ一つに魔法を重ねがけしていく。
こんな厄介な罠よく作ったよね……
蔓が解かれた馬達はかなり衰弱していて、ヒールでは骨折や引き裂かれた皮膚しか治らなかった。
クラオルに許可をもらい、チートなリンゴを食べさせていく。
「あ……この子……」
《そうなの。助けたときにはもう……》
「間に合わなくてごめんね……」
最後の一頭、一番小さい子は既に手遅れだった。
私が子馬を撫でてあげていると、回復した六頭の馬が集まってきた。
馬達はしきりに子馬に鼻を擦り寄せていて、その姿は「起きなさい」と言っているように見える。
馬達から離れ、様子を見守っていると隣りに来たガルドさんにガシガシと頭を撫でられた。
「気に病むな。セナは助けてやっただろ? 誰もお前さんを責められねぇよ」
「でも……」
「両手で救おうとしても手から零れちまうのだってある。そんなもんだ」
「それ、仏様の手の話?」
「何だそれは」
「ううん、何でもない。ありがとう」
確か仏様は手から零れちゃう人も救おうと、手に水かきみたいなのが付いている。それでも零れ落ちる人もいるから、何度も救いの手を差し伸べる――みたいな話だったと思うんだけど……昔、観光地でチョロっと聞いただけだから記憶が定かじゃない。
――――ヒヒィィィィィン!!
子馬が起きないことがわかったのか、馬達の悲しげな嘶きが響き渡った。
706
お気に入りに追加
24,895
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
妹を溺愛したい旦那様は婚約者の私に出ていってほしそうなので、本当に出ていってあげます
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族令嬢であったアリアに幸せにすると声をかけ、婚約関係を結んだグレゴリー第一王子。しかしその後、グレゴリーはアリアの妹との関係を深めていく…。ある日、彼はアリアに出ていってほしいと独り言をつぶやいてしまう。それを耳にしたアリアは、その言葉の通りに家出することを決意するのだった…。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?
藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。
目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。
前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。
前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない!
そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。