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11章

久しぶりの逢瀬【2】

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 まだ時間があったので私達はキアーロ国の王都にやって来た。
 ブラン団長達はそりゃあもう、ものすごく別れを惜しんでくれた。もうちょっと顔を出した方がいいかもしれない……
 王都を歩いている冒険者と思われる若い男性が作業服を着ているのを目撃して、驚いて思わず立ち止まっちゃった。作業服に両手剣って……

 おばあちゃんのお店のドアを開けると、ちょうど商業ギルドのサルースさんと話しているところだった。

「あらまぁ! セナちゃん! 久しぶりだねぇ!」
「ネライおばあちゃんもサルースさんも久しぶり~」
「おや、今日はドラゴンはいないのかい?」

 サルースさんに理由を説明すると、「アッハッハ! 流石ドラゴンだねぇ」と笑っていた。

「会いに来てくれるなんて嬉しいよ」
「今日はどうしたんだい?」
「ネライおばあちゃんに作ってもらいたいものがあって」
「セナちゃんの頼みなら腕によりをかけて作るよ」
「これなんだけど……」

 描いておいたデザイン画を渡すと、サルースさんまで覗き込んだ。

「まぁ! 可愛らしいねぇ! エプロンかい?」
「そうなの」
「これはセナが着るつもりなのかい? 意外だねぇ」
「ううん。私の従魔のやつ。可愛いらしいのが好きなんだ」

 サルースさんに私が答えると、二人の視線は私の肩に移動した。

「クラオルじゃなくて別の子なんだけど、すごく大きいの」

 〝別の子〟でグレウスに視線が移ったけど、〝大きい〟で違うことがわかったのか、二人の意識が私に戻ってきた。

「サイズさえわかれば作れるよ。その従魔の子を呼んでもらえるかい?」
「えっとね、今は違う場所にいるから呼べないんだけど、サイズはメモしてきたよ! これで大丈夫?」
「まぁ! すごく細かく測ってくれたんだねぇ! これだけわかれば充分だよ」

 おばあちゃんは人型にサイズが書かれた紙を見てニッコリと笑った。
 サイズは全部ポラルが測ってくれたやつだから、間違いはないハズ。

「そうさねぇ、これはヒラヒラしてるのかい?」
「そうそう。うんとね、こんな感じのやつなんだけど……」

 布を出して折りたたんでフリルを作って見せる。

「なるほどねぇ! うんうん。これなら明日の午後にはできると思うよ」
「そんなに早くて大丈夫? 他のお仕事もあるでしょう?」
「ふふふ。心配してくれてありがとうね。今は子供も孫もいるからね。余裕があるんだよ」
「大丈夫ならいいんだけど……そうだ! おばあちゃんは魔物の素材で耐性付けられたりする?」
「物にもよるかねぇ……」
「スケイルヤーシリなんだけど、火の耐性付けられたりするかなって思って」
「あぁ! エプロンだからか!」

 横でサルースさんがポンッと手を打った。
 付与できるとのことなのでスケイルヤーシリの火袋を三つほど出すと、止められた。一つで充分でむしろ余るらしい。

「あと、お土産持ってきたんだ」
「お土産?」
「そう。えっと……かなり大きい箱とかある?」

 ネライおばあちゃんが奧から持って来てくれた桶にドン! ドン! とブラックマンティスを重ねる。

「セ、セナちゃん……これブラックマンティスに見えるんだけど……」

 ネライおばあちゃんは目が痛いのか目頭をグリグリしながら小さく聞いてきた。

「うん。ブラックマンティスだよ。昨日グレンが狩ってきたやつ」
「セナちゃん……前にも言ったと思うけど、ギルドに卸したら高額なんだよ? もらえないよ……」
「ん~、じゃあエプロンと交換にしよう!」

 私が胸を張って宣言すると、サルースさんが「ハッハッハ!」と大声で笑い始めた。

「本当にセナは面白いね! ネライ、こう言ってるんだからもらっておきな。こんな簡単にブラックマンティスを狩れるのはセナ達くらいだ。あんたは技術で返せばいいのさ」
「そんなこと言ったって返しきれないよ……サルースは価値がわかるでしょう!?」
「そりゃあそうさ。だけど、ギルドから買えば高くなる。それに、セナがギルドに卸すとは限らないから、なくなったらそのうち指名依頼でも出さなきゃいけなくなるだろう? この店にとって、色は必要不可欠だ。セナの好意を無下にするもんじゃないさ」

 流石サルースさん。口が上手い!
 ネライおばあちゃんはものすごく迷ってから、「本当にいいのかい?」と確認してきた。
 私はもちろんOK。
 元々、おばあちゃんに渡すために狩りに行くつもりだった。グレンが私の話を聞いて狩ってきてくれたんだよね。

「セナちゃん、欲しい服があったらいつでも言ってね! 手紙でデザイン画を送ってもらえたら作っておくよ!」
「わぁー! ありがとう! めっちゃ嬉しい!」

 いいこと聞いた! リアル二次元がいっぱい拝めそう!

「ハッハッハ! 本当に嬉しそうじゃないか! さて、セナ。うちのギルドに何か言うことはないかい?」

 サルースさんに真面目な様子で私の名前を呼ばれて首を傾げる。言わなきゃいけないことも特に思いつかない。

「シュグタイルハン国でいろいろとレシピ登録しただろう?」
「うん。するハメになった」
「ズルいじゃないか! あのカレーなんてあっという間に売り切れちまうんだよ! セナのレシピって言うから食べに行ったのに、食べられたのは初日だけ……」

 あぁ……なるほど。何か目玉になるものをレシピ登録しろってことか……

「あれはシュグタイルハン国のダンジョン産だよ。ラップサンドとベビーカステラはピリクの街でホットプレート見たから作ったけど……この二つはカリダの街のデタリョ商会に言えば作れなくはないと思うよ。タルゴー商会と取り引きしてるから」
「ふむ。それはギルドに戻ったらすぐに問い合わせしてみよう。セナ、この王都の近くにもダンジョンがあるんだよ。美味しいものを登録してくれるね?」

 サルースさんは有無を言わさぬような圧を出しながら、私の腕をガッチリと掴んだ。

「わかったよ……でも明日の夜には戻らなきゃだから、期間は明日だけだよ?」
「それならこれからギルドに行こうじゃないか!」

 サルースさんは先ほどとは打って変わって、機嫌よく私の手を握り直した。



 ギルドでダンジョン産一覧表を見せてもらったけど、食材はいろいろあるのに特に目玉になるものがない。
 道具を作る時間がないから、一般的に使われているものを使うことになる。調味料もケチャップやマヨネーズはもちろん、生クリームも売られていないから使えない。

「うーん……ピザ、うどん、パスタ、ラーメン……あぁ……パスタとラーメンめっちゃ食べたい……」

 一度意識してしまうと、頭の中がパスタとラーメンで埋め尽くされてしまう。
 あれ? 前に作って一回しか使ってない豚骨スープに野菜ぶっ込めばいいんじゃない? 物足りないかな? パンがあればイケるんじゃない?

「サルースさん、手間がかかるやつでもいい?」
「んん? 難しいのかい?」
「空間魔法使えたら大丈夫なんだけど、煮込むのに時間がかかるんだよね。ただ、その分真似しにくいとは思う」
「ふむ。何か技術は?」
「忍耐力かなぁ?」
「は?」
「魔法使わないで煮込むとなると……十時間って言いたいところだけど、六時間くらいあればいいかな? お店の営業中ずっと煮込んでおけば、次の日の分は作れると思うんだよね」
「ふむ。ちゃんと考えてあるんだね。そんなに時間をかけるなんて、余程美味しいんだろうね」

 ニヤニヤと笑うサルースさんがちょっと怖い。
 使う材料を伝えると「そんなのが料理になるのかい!?」と驚かれた。
 サルースさんに食材を任せ、私は急いで教会に転移。
 野菜スープバージョンを作るのは初めてだから、モタつかないように味を決めておきたい。
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