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11章
久しぶりの逢瀬【1】
しおりを挟む久しぶりに挨拶に来ただけだから特に用はなかったんだけど、以前話していたウツボと蜘蛛の素材を見せてあげることになった。
「素晴らしいですね! 流石セナ様です! コチラとこちらはぜひとも買い取らせて下さい!」
「まだまだいっぱいあるから何個でも大丈夫だよ」
「残しておいてくださったのですね! すぐに査定と書類をまとめて参ります! こちら一度お預かりしてもよろしいですか!?」
「う、うん。大丈夫だよ」
ジョバンニさんの勢いに頷くと、パパッとマジックバッグに入れて退出していった。
残しておいたわけじゃないんだけど……まぁ、いいか。
ジョバンニさん達が席を外している間に、ブラン団長に「家があるのか?」と聞かれた。
おそらく、レスリーさんに売った家具を何で持ってるのかってところだよね……
クラオルに教会の話をしてもいいものなのか聞いてみると、『任せるわ』と返ってきた。
「えーっとね……フレディ副隊長が私を見つけてくれた廃教会あるでしょ? 今、あそこに私の家族――従魔が住んでるの」
「……他にもいたのか」
「うん。前に人間に酷い目に遭わされたから、すごく傷つきやすい子達なの。デタリョ商会のおじいちゃんには服を買うときに会わせたんだけど、内緒にしてもらったんだ」
「……そうか。俺達に話してもよかったのか?」
「ブラン団長達だから。でも内緒にしてくれる?」
私が問いかけると、三人とも口外しないことを約束してくれた。
ただ、ジョバンニさんには報告しておかないと、呪淵の森に素材を取りに行く冒険者から連絡が入るかもしれないらしい。
教会には悪いやつは近付けないけど、見回りで森にいるときに遭遇したら大変。
戻ってきたジョバンニさんにも秘匿情報だと説明すると、「もちろん、神に誓って秘密は守ります」と言ってくれた。
「呪淵の森に入る冒険者もなかなかおりませんが、討伐隊を組むことのないように致します」
「ありがとう! 人間が苦手だから攻撃しなければ大丈夫だと思う」
「……ちょっと待て。心配するのは冒険者達の方なのか?」
「ううん。シュティー達の方が心配だよ。呪淵の森の魔物を軽くのしちゃうから、その辺の冒険者よりは強いと思うけど……ケガはするかもしれないし、何より二人共優しいから〝人間に攻撃された〟っていう心の傷が心配」
実際、シュティー達が魔物を狩ったときに負った傷は、ちょっとした切り傷や擦り傷くらいだったらしいし。それも、キヒターの薬草ですぐに治ったと言っていた。
それに昨日、武器作っちゃったし、近接戦になったら生半可な冒険者じゃ太刀打ちできないと思うんだよね……強力な魔法バンバン撃たれたら別だろうけど。
ブラン団長達やジョバンニさんは私の発言を聞いて顔を引きつらせた。
「す、すごく強い従魔なのですね……ちなみに、種族を聞いてもよろしいでしょうか?」
「えっとね、確か……シュティーがミノタウローナでカプリコがサテュロナって言ってたよ」
「「「「!」」」」
私が種族を答えると、四人共ビクッと反応した。
そんなに驚くことかと首を傾げると、パブロさんが「悪夢級の魔獣だよ」と教えてくれた。
何でも、天災級ほどではないものの、討伐するとなれば何十人も人手が必要で、間違いなく死人が出るくらいの強さらしい……
「そうなの? でもシュティー達は争いは好きじゃないって言ってたし、最初から話が通じたよ?」
「……本当か?」
「うん。平和に普通の生活がしたいって。二人共、可愛い物が大好きな女の子だよ」
「ま、まぁ、セナさんの従魔でしたらそこら辺の魔物より安全性は高いでしょう。意思疎通ができるのであれば尚更。その強さであれば呪淵の森から魔物が溢れることもなさそうです」
「うん。それは大丈夫だよ」
パパ達の結界石で脅威は漏れ出ないハズだから、例えシュティー達がいなかったとしても保証できる。もし漏れ出たら……完全にパパ達のせいにできるもん。
「……それならあの廃教会はセナを持ち主にしよう」
「へ?」
「……いないとは思うが、セナが修理したことで自分の所有物だと主張するやつが現れる可能性がある」
「そんなことしちゃっていいの?」
ブラン団長は「利用できる物は利用することにしたんだ」とフッと笑った。
(そんな顔もイケメンがやるとキマるのかぁ……罪な男だねぇ)
あの教会には悪いやつは近付けないんだけど、説明するとなるとパパ達の話をしなきゃいけない。
(黙っておこう)
ブラン団長はその場で王様に手紙を書いて、すぐに送ってもらっていた。
前の一件で王族であることを吹っ切ったみたい。
◇
熊屋さんで昼食を食べた私達が久しぶりにパン屋【パネパネ】を訪ねると、お店は大盛況だった。外にまでお客さんが並んでいる。
「わぁー、混んでるね」
「……セナのレシピが話題になって以来ずっとこうだ」
マジか……
「こんにちはー」
「いらっしゃ……セナちゃん! 父さん、母さん! セナちゃんだよ! 早く!」
私を見たネネさんが厨房に向かって大声で呼ぶと、バタバタとドーグルさんとムッタさんが走ってきた。
お会計をアルバイトと思われる女性に任せ、三人は歓迎してくれた。
「そうだ、師匠! 味見してくれ!」
まだ師匠呼びは直ってなかったのかと思いながら、渡されたジャムを味見してみる。
「うん。ちゃんとブルーベリージャムです。美味しい」
「おぉー! やったぞー!」
ドーグルさんは拳を上げ、ムッタさんとネネさんは手を握り合って喜んでいて、私は目を瞬かせた。
「これでジャムパンを販売できる!」
「え!? まだ販売してなかったんですか?」
「ジャムが難しいからだ!」
「そうなのよ~。私達、欲張って三つも教えてもらったでしょう? それぞれ練習しても美味しくならないから、まずは一つを作れるようになろうと思ったの。それでようやく、ここまで作れるようになったのが一ヶ月前。毎日作ってはいたんだけど、自信がなくて発売できなかったのよ~」
「なるほど……」
しかも私の行き先を知らないから、連絡のしようもなかったらしい。
まさかまだジャムと格闘しているとは……メロンパンとかの方が簡単だったかも……
「立ち寄った街でブラン団長達にお手紙書いてるので、ブラン団長達に聞けば連絡取れます」
「あら、そうだったのね! いいこと聞いたわ!」
「明日からこのジャムパンを発売する! 師匠! 俺は……俺は今猛烈に嬉しい!」
「!」
ドーグルさんがジワジワと近付いてきたと思ったら、後ろからジルに手を引かれた。
あれ? と思ったときには、ジルがドーグルさんに抱きしめられていた。
「落ち着いていただけますか?」
抑揚のない声で注意するジルを見て、ムッタさんとネネさんがパァン! と、ドーグルさんの頭を叩いた。
「ヴ……」
「ちょっと! 離れなさい!」
「ごめんなさいね。興奮しすぎたみたい」
「す、すまん」
ドーグルさんが離れると、ジルは再び後ろに下がった。ただ、ボソッと「次はありません」なんて物騒な発言をしていて、その後はお店を出るまで警戒を解くことはなかった。
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