319 / 538
11章
久しぶりの逢瀬【1】
しおりを挟む久しぶりに挨拶に来ただけだから特に用はなかったんだけど、以前話していたウツボと蜘蛛の素材を見せてあげることになった。
「素晴らしいですね! 流石セナ様です! コチラとこちらはぜひとも買い取らせて下さい!」
「まだまだいっぱいあるから何個でも大丈夫だよ」
「残しておいてくださったのですね! すぐに査定と書類をまとめて参ります! こちら一度お預かりしてもよろしいですか!?」
「う、うん。大丈夫だよ」
ジョバンニさんの勢いに頷くと、パパッとマジックバッグに入れて退出していった。
残しておいたわけじゃないんだけど……まぁ、いいか。
ジョバンニさん達が席を外している間に、ブラン団長に「家があるのか?」と聞かれた。
おそらく、レスリーさんに売った家具を何で持ってるのかってところだよね……
クラオルに教会の話をしてもいいものなのか聞いてみると、『任せるわ』と返ってきた。
「えーっとね……フレディ副隊長が私を見つけてくれた廃教会あるでしょ? 今、あそこに私の家族――従魔が住んでるの」
「……他にもいたのか」
「うん。前に人間に酷い目に遭わされたから、すごく傷つきやすい子達なの。デタリョ商会のおじいちゃんには服を買うときに会わせたんだけど、内緒にしてもらったんだ」
「……そうか。俺達に話してもよかったのか?」
「ブラン団長達だから。でも内緒にしてくれる?」
私が問いかけると、三人とも口外しないことを約束してくれた。
ただ、ジョバンニさんには報告しておかないと、呪淵の森に素材を取りに行く冒険者から連絡が入るかもしれないらしい。
教会には悪いやつは近付けないけど、見回りで森にいるときに遭遇したら大変。
戻ってきたジョバンニさんにも秘匿情報だと説明すると、「もちろん、神に誓って秘密は守ります」と言ってくれた。
「呪淵の森に入る冒険者もなかなかおりませんが、討伐隊を組むことのないように致します」
「ありがとう! 人間が苦手だから攻撃しなければ大丈夫だと思う」
「……ちょっと待て。心配するのは冒険者達の方なのか?」
「ううん。シュティー達の方が心配だよ。呪淵の森の魔物を軽くのしちゃうから、その辺の冒険者よりは強いと思うけど……ケガはするかもしれないし、何より二人共優しいから〝人間に攻撃された〟っていう心の傷が心配」
実際、シュティー達が魔物を狩ったときに負った傷は、ちょっとした切り傷や擦り傷くらいだったらしいし。それも、キヒターの薬草ですぐに治ったと言っていた。
それに昨日、武器作っちゃったし、近接戦になったら生半可な冒険者じゃ太刀打ちできないと思うんだよね……強力な魔法バンバン撃たれたら別だろうけど。
ブラン団長達やジョバンニさんは私の発言を聞いて顔を引きつらせた。
「す、すごく強い従魔なのですね……ちなみに、種族を聞いてもよろしいでしょうか?」
「えっとね、確か……シュティーがミノタウローナでカプリコがサテュロナって言ってたよ」
「「「「!」」」」
私が種族を答えると、四人共ビクッと反応した。
そんなに驚くことかと首を傾げると、パブロさんが「悪夢級の魔獣だよ」と教えてくれた。
何でも、天災級ほどではないものの、討伐するとなれば何十人も人手が必要で、間違いなく死人が出るくらいの強さらしい……
「そうなの? でもシュティー達は争いは好きじゃないって言ってたし、最初から話が通じたよ?」
「……本当か?」
「うん。平和に普通の生活がしたいって。二人共、可愛い物が大好きな女の子だよ」
「ま、まぁ、セナさんの従魔でしたらそこら辺の魔物より安全性は高いでしょう。意思疎通ができるのであれば尚更。その強さであれば呪淵の森から魔物が溢れることもなさそうです」
「うん。それは大丈夫だよ」
パパ達の結界石で脅威は漏れ出ないハズだから、例えシュティー達がいなかったとしても保証できる。もし漏れ出たら……完全にパパ達のせいにできるもん。
「……それならあの廃教会はセナを持ち主にしよう」
「へ?」
「……いないとは思うが、セナが修理したことで自分の所有物だと主張するやつが現れる可能性がある」
「そんなことしちゃっていいの?」
ブラン団長は「利用できる物は利用することにしたんだ」とフッと笑った。
(そんな顔もイケメンがやるとキマるのかぁ……罪な男だねぇ)
あの教会には悪いやつは近付けないんだけど、説明するとなるとパパ達の話をしなきゃいけない。
(黙っておこう)
ブラン団長はその場で王様に手紙を書いて、すぐに送ってもらっていた。
前の一件で王族であることを吹っ切ったみたい。
◇
熊屋さんで昼食を食べた私達が久しぶりにパン屋【パネパネ】を訪ねると、お店は大盛況だった。外にまでお客さんが並んでいる。
「わぁー、混んでるね」
「……セナのレシピが話題になって以来ずっとこうだ」
マジか……
「こんにちはー」
「いらっしゃ……セナちゃん! 父さん、母さん! セナちゃんだよ! 早く!」
私を見たネネさんが厨房に向かって大声で呼ぶと、バタバタとドーグルさんとムッタさんが走ってきた。
お会計をアルバイトと思われる女性に任せ、三人は歓迎してくれた。
「そうだ、師匠! 味見してくれ!」
まだ師匠呼びは直ってなかったのかと思いながら、渡されたジャムを味見してみる。
「うん。ちゃんとブルーベリージャムです。美味しい」
「おぉー! やったぞー!」
ドーグルさんは拳を上げ、ムッタさんとネネさんは手を握り合って喜んでいて、私は目を瞬かせた。
「これでジャムパンを販売できる!」
「え!? まだ販売してなかったんですか?」
「ジャムが難しいからだ!」
「そうなのよ~。私達、欲張って三つも教えてもらったでしょう? それぞれ練習しても美味しくならないから、まずは一つを作れるようになろうと思ったの。それでようやく、ここまで作れるようになったのが一ヶ月前。毎日作ってはいたんだけど、自信がなくて発売できなかったのよ~」
「なるほど……」
しかも私の行き先を知らないから、連絡のしようもなかったらしい。
まさかまだジャムと格闘しているとは……メロンパンとかの方が簡単だったかも……
「立ち寄った街でブラン団長達にお手紙書いてるので、ブラン団長達に聞けば連絡取れます」
「あら、そうだったのね! いいこと聞いたわ!」
「明日からこのジャムパンを発売する! 師匠! 俺は……俺は今猛烈に嬉しい!」
「!」
ドーグルさんがジワジワと近付いてきたと思ったら、後ろからジルに手を引かれた。
あれ? と思ったときには、ジルがドーグルさんに抱きしめられていた。
「落ち着いていただけますか?」
抑揚のない声で注意するジルを見て、ムッタさんとネネさんがパァン! と、ドーグルさんの頭を叩いた。
「ヴ……」
「ちょっと! 離れなさい!」
「ごめんなさいね。興奮しすぎたみたい」
「す、すまん」
ドーグルさんが離れると、ジルは再び後ろに下がった。ただ、ボソッと「次はありません」なんて物騒な発言をしていて、その後はお店を出るまで警戒を解くことはなかった。
671
お気に入りに追加
24,718
あなたにおすすめの小説
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。