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11章

カリダの街の領主

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 翌朝起きた私はブラン団長達に会うためにカリダの街へと飛んだ。
 ブラン団長達は私が転移できることは知ってるけど、他の騎士団員さん達は知らない。ちゃんと門を通ったら、「久しぶりだね」と笑顔で声をかけてもらえた。

 宿舎に着くと、ブラン団長達や団員さん達が入り口で待ち構えていた。門を警備していた騎士団員さんから連絡がきてたみたい。
 パブロさんに「おかえり!」と抱きしめられ、フレディ副隊長とブラン団長は頭を撫でてくれた。

「……セナもジルベルトも元気そうで安心した。グレン殿は?」
「グレンはストレス発散のために狩りに行ったの」
「……なるほど」

 挨拶もそこそこに、私に紹介したい人がいると連れられた場所は領主邸だった。
 前に見たときとは違って余計な装飾が剥がされ、威厳のある雰囲気。通された部屋も余計な物が一切置かれていくて、よく言えばものすごくシンプル。悪く言えば棚やカーテンなど家具すら足りていない。

「すみません。お待たせしました。僕はこの度領主をやらされることになったレスリー・ロガスです。そこの堅物、フレディ副隊長様の兄なので、気軽に接してね」
「レスリー……」

 応接室に現れた若い男性はニコニコと軽~く自己紹介してきた。
 そんな領主を低い声で呼びながら睨みつけるフレディ副隊長。
 兄と言っていただけあって、髪色と目元のパーツは似ているけど瞳の色は濃い緑。
 笑顔を振りまいているからか雰囲気が全然違う。なんて言えばいいのか……飄々ひょうひょうとしていて軽い。ただ、私を見る目が一瞬真剣だったから、真面目な部分もありそうな気がする。実際のところどうかはわからないけどね。

「おぉ、怖い。そんな声を聞かせたら怖がられてしまうよ?」
「はぁ……セナさん、この男が言っていた通り、一応私の兄になります。こんなのですが、腕は確かです」

(フレディ副隊長の言い方だと、強さ的にも書類的にも強いって意味かな?)
 お兄さんは「こんなのなんて酷いなぁ」なんて笑っている。
 私達が自己紹介をすると、「レスリーって呼んでくれると嬉しいな」と微笑まれた。

 彼が言うには、この街はブラン団長の領地みたいなものだから、自分は補佐のつもりとのこと。ブラン団長に即刻否定されてたけど。
 元々歴代の領地が別にあり、そこは長男が継いだそう。自分は継がなくていいと思ってたのに、今回任せられることになったのは予想外だったらしい。
 ちなみに、このお兄さんは三男で、領地の騎士団をまとめている次男がいる。さらにフレディ副隊長の下にも弟がいて、その子は騎士見習いとして領地で頑張っているそう。

「フレディ副隊長のお兄さんなら安心だね!」
「フレディから引き取りたいって連絡がきたときは驚いたけど、こんな可愛らしい子とはねぇ……」

 何のことかとフレディ副隊長を見上げると、私がお世話になっていたときに引き取り手がいなければ養子として迎えるつもりだったと説明してくれた。
 ブラン団長もそうだけどフレディ副隊長まで……優しすぎでしょ!

「そうそう。あのときはみんな驚いて、家族会議したんだよ。フレディが頭を打ったんじゃないかって。うちには女の子がいないからね。しかもセナさんみたいな可愛い子が妹なんて大歓迎だよ。あのときの話はなくなったけど、いつでも言ってね」
「えっと……ありがとう?」

 私の返事を聞いて、レスリーさんは満足そうに頷いた。

「では、挨拶も済ませましたし戻りましょうか?」
「えぇー。酷いなぁ。お兄様が色々足りない中で頑張ってるのに」
「元々あった家具を全て払い下げしたのはあなたでしょう」
「アイツが使ってた物なんて誰も使いたくないよ。ほとんど買い手も付かなくて結局処分になったくらいなのに」
「後先考えずに実行したのが……ってセナさん、どうしました?」

 兄弟喧嘩を始めてしまったフレディ副隊長の服をちょいちょい引っ張って、話に割り込ませてもらう。

「家具足りないの?」
「え、えぇ。必要な数が多すぎて、この街の商会では間に合わなかったのです」
「昨日デタリョ商会ではソファとテーブルあったよ?」
「あぁ、それはデザインによる物でしょう。こういった応接室などで使えそうな物は入荷次第届けるように頼んでありますので」

 なるほど。確かにおじいちゃんに頼んだのは暖かい雰囲気のソファとテーブル。
 家具コーナーを見たわけじゃないけど、応接室にリクライニングソファは置けないもんねと納得した。

「前に買ったやつ使う?」
「セナさんが使うのでは?」
「模様替えして使わなくなったの。前もほとんど使ってないからキレイだとは思うんだけど……中古はいらない?」

 フレディ副隊長は悩む素振りを見せたけど、レスリーさんに見せて欲しいと言われたので、昨日廃教会で回収した家具を出す。
 書斎とシュティー達の部屋の家具を見て、お兄さんは「買い取るよ」と言い出した。
 使わなくなった家具だからお金はいらないのに、「他の貴族に何言われるかわからないから、払わせて。僕、一応領主だからね」と、言いくるめられた。
 本当にそうなのかもしれないけど、おそらくレスリーさんの優しさな気がするのは気のせいかな?
 結局、半額ほどで全部買い取ってくれた。



 次に訪れたのは冒険者ギルド。
 ジョバンニさんに挨拶すると、前に会ったことのあるキツネ耳のお姉さんを紹介された。
 前のギルマスが捕まったため、ジョバンニさんがギルマスに昇格。このキツネ耳のお姉さん――アマリアさんがサブマスにランクアップしたそう。

「キツネのお耳可愛い……」
『(主様ったら、心の声が漏れてるわ……本当にモフモフに目がないんだから……)』
「ふふっ。ありがとうございます。よろしくお願いしますね」

 ピクピクと動くキツネ耳を目で追っていると、クラオルからベシベシと叩かれた。

「ちょ、ちょっと落ち着いて。どうしたの?」
『主様にはワタシ達がいるでしょ!』

 キツネ耳にヤキモチを妬いたらしい。
 か、可愛すぎる!!
 『浮気はダメよ!』とプリプリしているクラオルとちょっと拗ねているグレウスを膝の上で撫でてあげる。

「……大丈夫か?」
「うん。可愛いヤキモチ」
「……よくわからないが大丈夫ならいい」

 私達の話が落ち着くのを待ち、ジョバンニさんに「本日は何か問題でも?」と聞かれた。

「ううん。カリダの街に来たから挨拶に来ただけだよ」
「そうでしたか。ありがとうございます。大変光栄です」

 私達が揃って訪れたから、何かあるのかと思っていたらしい。
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