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11章

ローション野菜

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 買い物をしてはご飯のストックを作り、また買い物に行くこと数日、釣りを手伝ってくれた街の人と仲よくなった。
 私がセミエビを大量に買い取ったおかげで、生活にゆとりが出来たらしい。
 とある青年には「人生諦めてたけど希望が見えたよ。俺、漁師になる」と感謝された。私は欲しかった素材だから買い取っただけなんだけど……まぁ、前向きになれたのならいいのかな?

 呪術師が逃げたせいで街では騎士をよく見かけた。これについてはプルトンがちょこちょこと情報収集をしてくれている。
 おばあちゃんが言っていた通り、警備が緩くなるのはもう少しかかりそうとのこと。



 手紙を出しに行った冒険者ギルドでガルドさん達が捕まり、彼らは指名依頼を受けることになった。討伐ならお手伝いできたんだけど……護衛依頼だったため、私達とは別行動。
 そこで街から出られないことでストレスが溜まっているグレンのために、私達は転移でキヒターのいる教会を訪れた。

 毎度の如く予告しなかったのにキヒターが待ち構えていた。

《女神様! 今日はどうしたんですか?》
「グレンは狩り、私は薬草とシュティー達のミルクが欲しくて」
《薬草ならいっぱいあります!》
「ありがとう。シュティー達は?」
《今は見回りに行ってます!》
「見回り?」
《はい! こことあの泉の周りに魔物が出ないように狩ってくれてます!》
「マジか……」

 シュティー達って戦いたくないって言ってなかったっけ? 武器とか持ってるの?
 戻って来たら聞いてみよう……

われは狩りに行ってくるぞ〉
「ケガに気を付けてね?」
〈うむ! 昼に一度戻って来る〉
「行ってらっしゃい」

 グレンを送り出し、私は薬草をもらおうと教会の倉庫へ。
 倉庫には薬草だけじゃなくてブロック肉がいくつも置かれていた。
 キヒターの説明によると、全部シュティー達が狩った魔物の肉だそう。私のために解体済みでご丁寧に部位毎にまとめられているらしい……

「これはシュティー達が戻って来てからの方がよさそうだね……」
《それなら畑を見てください! 面白いの見つけたんです!》
「あ! ちょっと、そんなに引っ張らなくても……」

 面白いのって何?
 テンションの高いキヒターに手を引かれて畑に向かうと、見たことのない白と黄緑色の白ネギみたいな物とピンクの松茸みたいな物が植わっていた。ただ一つだけ異様と言えるのが松茸が透明な膜に覆われていることなんだけど……

《このヌルヌル、取っても取っても元に戻るんです! とっても不思議です!》
「……ふ、不思議だねぇ~」
《これで遊んでたらカプリコさんに怒られちゃいました》

 キヒターが手で膜を取ると、瞬間的に元に戻る。
 鑑定してみると白ネギに見えるのは【ウルウル菜】という野菜。山形県を中心とした東北地方で栽培されているウルイの類似品。
 ピンク色の松茸は【マラーション草】という。栄養豊富でコリコリとした食感。透明な膜は粘液で【マラーション剤】。水で薄めれば足留めや潤滑剤として使え、乾燥させれば片栗粉として使えるらしい。

「スライム液を片栗粉の代用品使ってたけど、こっちが本物なのね……」

 ちょっとローションちっくだと思ったけど、まさか本当にローションとして使えるとは…………足留めってテレビでやってたローション階段みたいな感じでしょ? ローションだと思うと食べたくないから、料理にはなるべくスライム液使うことにしよう。うん、そうしよう。

《いらないですか?》
「いや、美味しい野菜だから嬉しいよ。ありがとう」

 粘膜で遊んでいたキヒターが心配そうに私を見上げるから、頭を撫でてあげる。キヒターは《えへへ、よかったです!》と途端に笑顔になった。
 うん。ウルイは美味しい野菜だよ! ローションの方はちょっと遠慮したいけどね!



 まだシュティー達もグレンも帰って来ないため、キヒターも一緒にキノコ狩り。
 いつの間にか精霊の子達も手伝ってくれていて、二時間ほどで在庫が大量に増えた。よく使うから、とってもありがたい!
 精霊の子達にお礼のパンを渡し、私達は教会のキッチンで昼食を作り始めた。

「早速ウルイ使ってみようかな?」
《もう一つは使わないですか?》
「う……わかった……」

 可愛くキヒターに聞かれて、拒否できなかった……
 これは、腹をくくるしかない! キヒターのためだ。頑張れ私。
 鑑定によると、収穫しちゃえばローションは増えないから、水で洗い流せば普通に調理できるらしいんだよね。
 食感については書かれていたけど、味に付いては書かれていなかったから、これ単品よりは何かに混ぜた方がよさそう。
 
 あまり包丁の扱いに慣れていないキヒターに切り方を教えながら野菜をカットしてもらい、ジルには豚肉を担当してもらっている。
 私はつい先日釣ったセミエビを無限収納インベントリで解体してお刺身に。これだけだと足りなさそうだから、鮪と鰹も解体した。こっちはサク状だから包丁で切らないと。

 切ってもらった野菜と豚肉を使って豚汁を作り、大根と鶏肉の煮物、ウルイの酢味噌和え、茶碗蒸し……と、メニューはザ・お刺身定食。
 煮物の鶏肉がゴロゴロと大ぶりだから、グレンの肉欲求も満たしてくれるハズ!
 あのマラーション草は……粗みじん切りにして煮物に混ぜてみた。
 キヒターは私と台所に立てるのが嬉しいらしく、終始ご機嫌だった。

 お昼ちょっと前にグレンとシュティー達が揃って戻って来た。意外にもグレンがシュティー達を探して連れて来てくれたらしい。

「おかえり~」
『『本当にお嬢様がいたわ! ただいま!』』

 シュティーとカプリコは息ピッタリにハモった。流石仲よしなだけある。

〈あまり肉は狩れなかったが、ブラックマンティスがいたから狩ってきたぞ〉
「おぉー! ありがとう!」
『お肉ならあたい達が狩ったやつがあるわ!』
『そうよ! 倉庫にたくさんあるわ! お嬢様に渡そうと取っておいたの!』

 カプリコが言うと、シュティーが同調した。キヒターが言っていた通り、あのブロック肉は私のためだったらしい。

「さっきチョロっと見たよ。解体までありがとうね。でも先にみんなでお昼ご飯にしよ?」
〈うむ! 今日は何だ?〉
「ミンミンエビのお刺身定食だよ」

 教会前の広場にテーブルセットを出してご飯を配ると、シュティーとカプリコは顔を輝かせた。
 グレンからは〈肉が少ない〉って呟く声が聞こえてきたけど。

「今日はキヒターとジルに手伝ってもらったんだよ」
《まぁ! 味わって食べなくちゃ!》
《そうね! 初めてのキヒターのご飯だわ!》

 キヒターやシュティー達はセミエビも普通に食べ始めたけど、グレンとジルは一口目を恐る恐る食べていた。見た目から心配だったみたい。
 私も煮物が心配だったけど、は本当に食感だけで普通に食べられた。キクラゲみたいな感じだったからスライスした方がいいかもしれない。

〈この鶏肉のやつはコリコリしていて腹に溜まるな! 美味しいぞ!〉
「えぇ。このミンミンエビもプリプリしていて、見た目からは想像できない美味しさです」

 グレンもジルも気に入ってくれたみたいだから、今度ガルドさん達にも出してあげよう!
 シュティー達は料理に大興奮でベタ褒め。キヒターは美味しいけど、やっぱり私の魔力水が一番なんだそう。魔力水つおい……

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