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11章

隠れ宿【2】

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 残された私達は再び顔を見合わせ、ひとまず部屋に入ってみることに。

 説明された通りに魔石に魔力を流してみると、魔石が青く色付いた。これで開くらしい。
 ドアを開けると玄関があり、低めの段差を上がる仕様。壁に〝ここで履物を脱いでお上がり下さい〟と書かれた張り紙がしてあった。

 スリッパを脱ぎ、その先にあった引き戸を開けると……

「マジで旅館じゃん……」

 二十畳はありそうな広い和室に窓際の板の間にはイスとテーブル。さらに和室の左右にはドアが付いていた。
 街の中のハズなのに、窓からは〝人里から離れた山の上からの景色〟のような山々と木々。絶景が広がっている。

「セナ様、これは何と書いてあるのでしょう?」

 ジルから和室のテーブルに置いてあった紙を渡された。
 その紙には、この旅館についてで書かれていた。
最後におばあちゃんの名前が記載されているから、おばあちゃんからの置き手紙だ。

「あぁ……なるほど。いろいろ納得……」
「ちゃんと説明しろ」
「んとね、まず、ここまで案内してくれたのはインプっていう種類の妖精なんだけど、おばあちゃんの神使なんだって。で、この旅館はそのインプが造った宿。せっかく造ったのに、隠れすぎてて何百年もお客さんが来ないから、私達に泊まってあげて欲しかったんだって」
「安全なんだな?」
「うん。もし街で何かあっても、この宿まで逃げて来ちゃえば、インプが匿ってくれるって書いてあるよ」

 ガルドさんは私の説明を聞いて、一気に脱力。
 グレンもジルも安心できたみたいで、みんなで座布団に座った。
 ジルがテーブルに置いてあったほうじ茶を急須で淹れ、みんなで一息つく。
 ちゃんとお茶請け用に〝ミーカン〟というみかんが用意されている徹底ぶり。

「それでね、何泊しても同じ値段だから、泊まれば泊まるほどお得だって。部屋はオートロック……勝手に鍵がかけられるから、入るときは必ず魔力を流さなきゃダメなの。気を付けてね」
「だから一泊か聞いても答えなかったのか……」
「そうみたい」
「一年とか泊まり続けても同じ値段なのー?」
「この書き方だと、多分そうだと思う」
「それは……すごいですね……値段を聞いたときは高いと思いましたが、追加料金を取らないなんて……確かに泊まれば泊まるほどお得ですね」

 ジュードさんの疑問に答えると、モルトさんが感心したように頷いた。

「なんかね、人を選ぶんだって」
「選ぶですか?」
「うん。請求が最初だけなのは変わらないんだけど、お客さんによって値段が変わるらしいよ。どういう基準なのかはわからないけど」

 私達に示された金額が高いのか安いのか……おそらく安い方だとは思うけど、他の人を知らないから何とも言えない。

「あと、あの左右のドアはガルドさん達と私達の部屋に続いてて、部屋にも露天風呂が付いているけど、一階に大浴場もあるらしいよ」
「露天風呂なんて、セナと会うまで知らなかったぞ……とりあえず、すげぇ宿ってことはわかった」

 ガルドさんは疲れたように言い、お茶を流し込んだ。

「それにしてもここは不思議な物がいっぱいですね。床もそうですが、このような建物の造りは見たことがありません。この飲み物も美味しいですが、初めて飲みました」

 モルトさんがキョロキョロと部屋を見回すと、ガルドさん達もそれに倣った。
 ここが旅館風なのは、私のことをおばあちゃんから聞いたインプが喜ぶ余り、私の好みに改装したせい。前はちゃんとホテル風だったらしい。
 お茶は私が泊まってくれるならと、おばあちゃんが用意してくれたもの。

「お茶はこの辺では手に入らないけど、泊まっている間は飲み放題って書いてあったよ」
「まさか……」
「泊まってくれるお礼だって」
「マジかよ……貴重なもんじゃねぇか……一気飲みしちまったぞ……」
「飲み放題だから好きなだけ飲めばいいと思うよ」
「いいのか?」
「むしろいっぱい飲んだ方が喜んでくれると思うよ」

 ガルドさんは私の意見でホッと息を吐いた。

〈買えないのか?〉
「ん~、どうだろ? おばあちゃんのお店に行ったときに聞いてみよっか?」

 グレンもジルも気に入ったみたいだし、手に入るなら私もぜひ欲しい! 欲を言えば、パパ達がいつも飲ませてくれる日本で大好きだったペットボトルの緑茶も。

 休憩をした私達は部屋の確認に動き出した。
 私達の部屋にもガルドさん達の部屋にもリビングルーム、ベッドルーム、室内風呂、トイレ、洗面所、露天風呂。
 私達が廊下から入った部屋は私達がみんなでゆっくり休める部屋だったらしい。
 洗面所とお風呂場にはボディソープと洗顔フォームまで完備。表記は〝体用〟と〝顔用〟だった。
 旅館あるあるの浴衣までちゃんと用意されていて、私は驚くばかり。
 ただ、さすがに布団じゃなくて、ベッドだったのがちょっと安心した。

「本当にすげぇな……」
「ねー! シュグタイルハン国の王都もすごいと思ってたけど、それ以上だよー! 早速露天風呂入ろうかなー?」
「そうするか」

 大興奮のジュードさんとガルドさんは部屋付きの露天風呂に入るみたい。



 それぞれゆっくりすごして夕食の時間、運ばれてきたのは山の幸をふんだんに使った山盛り料理だった。

「イッヒッヒ。このドジョーという魚はこの街の池で釣れたものです。こちらの肉はセキトリベアを赤ワインで煮込んであります。パンのおかわりもありますが、先に持って来ましょうか?」
〈うむ! われはこの籠を三つ〉

 グレンが遠慮なく言うとジルも名乗りを上げ、結局、私以外は山盛りパンを一人につき一籠以上頼むことになった。
 一籠に十個以上入ってるのに……相変わらずすごい食欲……

 料理はさすがに和食の味付けじゃなくて、この世界寄り。それでも、今まで食べた中で一番美味しかった。
 クラオルや精霊達も褒めていて、私はお皿を回収しにきたインプを捕まえて質問攻め。
 宿のことは教えてくれなかったのに、料理に関してはちゃんと教えてくれた。あの怪しい笑いの声が大きくなっていたから、嬉しかったのかもしれない。


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