305 / 540
11章
異世界は異世界
しおりを挟むゆっくりと旅館で癒された翌日、私とグレンとジルの三人は街に出てきた。ガルドさん達は疲れが抜けきらないと、旅館でお休み中。
原因は……昨日、神界で長時間すごしたせい。
神界は時間経過が遅い。
私は神人、ジルはハイエルフ、グレンやクラオル達は私と繋がりがある。でもガルドさん達は正真正銘の人間。
いくらパパ達の加護を受けていても、肉体と精神が離れた状態のまま、長時間神界にいるのは負担になるんだそう。
私自身が平気だから、パパ達もド忘れしていたらしい……
今朝クラオルにガイ兄から連絡があって発覚した。
二、三日休めば体調は元に戻ると教えてもらったけど、付き合わせちゃった私のせいだ。
ヒールが効かないから、何かお詫びを……と思ったものの、私ができることと言ったらご飯を作るくらい。取り柄がない……
ガルドさん達が喜んでくれそうな物がないかとプラプラしていたけど、特にこれといって見つからなかった。
「んー……どうしよう」
〈セナ、ちゃんと食べろ〉
『そうよ。主様が倒れたら、ガルド達も心配するわ』
お昼ご飯を食べながら考えていると、グレンとクラオルに注意された。
「はーい……」
『ご飯食べたら、あのお店探すんでしょ?』
「うん。この街にもお店があるって書いてあったから」
「セナ様、こちらのスープでしたら食べやすいかと思います」
「ありがとう」
ジルが気を遣って、スープを取り分けてくれた。
うん。みんなに気を遣わせてる。これじゃダメだ。しっかりしないと。
◇
食べ終えた私達は、食堂を出ておばあちゃんのお店を探し始めた。
何となく「こっちかな?」と勘を頼りに歩いていると、十分もかからずに見つけられた。
他の街同様、目立たないように細工されている建物で、見つけられる人はなかなかいなさそう。
中に入ると、あの若い姿ではなく、魔女スタイルのおばあちゃんに笑いながら出迎えられた。
「ヒャーヒャッヒャ! 待っておったよ」
「その姿で会うのは久しぶりだね」
「ヒャーヒャッヒャ! そうじゃの。宿は気に入ったかい?」
「超ビックリした! ご飯もめっちゃ美味しかったし、極楽だったよ!」
私が満面の笑みで言うと、おばあちゃんは一際大きく笑った。
おばあちゃんに促され、カウンター裏から以前お茶を飲んだティールームへ。
前にも飲んだことのある不思議なお茶とクッキーを出し、おばあちゃんは口を開いた。
「さて、セナの疑問に答えようかの」
「疑問?」
「そう。エアリルから渡された手紙に書いてあった件じゃ」
「それは……いいの?」
今ここには私以外もいる。
パパ達にも内緒にしていたのにここで聞いていいものなのかわからなくて、聞き返すと大丈夫だと頷かれた。
「今から話す内容はセナにしか聞こえぬ。安心してよい」
「え?」
首を傾げると、おばあちゃんの目線は私から外れた。視線を辿ると、私の隣りに座っているグレンもジルもクラオル達もみんな紅茶を飲んでいる。
魔法を使った感じはしなかったのに、おばあちゃんが何かしたらしい。
「まず、この世界になぜ発酵食品がないかじゃが……〝発酵〟という手順を踏むのは、セナがいた地球のある世界だけじゃ」
おばあちゃんはこの世界を創るときに他の世界も参考にした。それぞれの世界はそれぞれのルールがある。
ここには魔物や錬金、魔法やスキルなど、地球にはないものが存在する。地球……日本で生活していく上で毒や害に触れる機会は少ないけど、ここではそうじゃない。
地球のように、青カビは青カビでもブルーチーズは食べられる……なんてしてしまうと、鑑定を使えない人は食べられないモノも間違えて食べてしまう。
そのため、〝菌は全て害のあるもの〟と明確に線引きをすることにした。というよりも、地球のようにややこしい方が珍しいそう。
細菌やウィルス自体はあるけど、これは病気や怪我に関係するもの。
私のユニークスキルである【看破】は地球の記憶が多大に影響していて、普通の【看破】とは違う。それ故、地球のモノと類似していれば表示される仕様に意図せずなった。
と、教えてくれた。
私はここへきて異世界を改めて実感。今までは地球と同じ感覚でいたけど、こんな根本的に違うこともあるんだと、認識を改めさせられた。
「今までセナがいろいろと作れていたのは、地球の知識によるものが大きい。もしかしたらセナなら発酵食品も作れるかもしれんの」
「いやいや! 作ってなくてよかったよ……もし作るのに失敗して、病気をバラ撒くことにでもなったらヤバかったじゃん……バイオテロだよ! バイオテロ!」
「ヒャーヒャッヒャ! そう考えられるのはセナくらいじゃろうな」
おばあちゃん……笑いごとじゃないと思うよ……クラオル達大事な家族が、私が原因で病気になるなんて考えたくもない。
私がブルりと体を震わせると、おばあちゃんは嬉しそうに目を細めた。
「やはりセナは特別じゃな……さて、話しを戻そうかの。セナや精霊が作ったモノは理にかなっているから大丈夫じゃ。まさかスライムの核をあんな風に使うとか思わなんだがのぅ。ヒャーヒャッヒャ」
「大丈夫ならよかった……ちょっと心配してたんだよね」
おばあちゃんは笑いながら、お礼を伝えてきた。今まで見向きもされなかったモノが使われ始めて、いい影響が出ているらしい。
全部自分のためにしてきたことだけど、悪い影響じゃなくて本当によかった……
「ヒャッヒャッヒャ。後は、そうじゃの……発酵がないことに関してはゲームのようなシステムだと思えばよい」
「ゲーム?」
「そうじゃ。そう考えれば細かいことは納得できるじゃろう?」
「なるほど……」
確かにゲームだと思えば、何で粉を混ぜるだけで完成するのか……なんて疑問に思わない。
そういえばポーションとかを作るときもそうだ。あれはいつもゲーム感覚で作っていた。自分の中で無意識に感覚の違いがあったことに気付かされた。
「あぁ……めっちゃ納得した……気を付ける」
「ヒャーヒャッヒャ! セナはちゃんと現実だとわかっておる故、注意したかったわけではない。そう言った方がわかりやすいと思ったんじゃ」
「うん。わかりやすすぎた……」
「ヒャーヒャッヒャ! そろそろ戻そうかの」
「はーい」
おばあちゃんがゴホン! と咳払いをすると、無音だった空間に音が戻ってきた。音が戻ってきたことで、それまで無音だったことに気付いた。
グレン達ではなく、私に対して魔法を使っていたみたい。
687
お気に入りに追加
24,883
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。