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11章
異世界は異世界
しおりを挟むゆっくりと旅館で癒された翌日、私とグレンとジルの三人は街に出てきた。ガルドさん達は疲れが抜けきらないと、旅館でお休み中。
原因は……昨日、神界で長時間すごしたせい。
神界は時間経過が遅い。
私は神人、ジルはハイエルフ、グレンやクラオル達は私と繋がりがある。でもガルドさん達は正真正銘の人間。
いくらパパ達の加護を受けていても、肉体と精神が離れた状態のまま、長時間神界にいるのは負担になるんだそう。
私自身が平気だから、パパ達もド忘れしていたらしい……
今朝クラオルにガイ兄から連絡があって発覚した。
二、三日休めば体調は元に戻ると教えてもらったけど、付き合わせちゃった私のせいだ。
ヒールが効かないから、何かお詫びを……と思ったものの、私ができることと言ったらご飯を作るくらい。取り柄がない……
ガルドさん達が喜んでくれそうな物がないかとプラプラしていたけど、特にこれといって見つからなかった。
「んー……どうしよう」
〈セナ、ちゃんと食べろ〉
『そうよ。主様が倒れたら、ガルド達も心配するわ』
お昼ご飯を食べながら考えていると、グレンとクラオルに注意された。
「はーい……」
『ご飯食べたら、あのお店探すんでしょ?』
「うん。この街にもお店があるって書いてあったから」
「セナ様、こちらのスープでしたら食べやすいかと思います」
「ありがとう」
ジルが気を遣って、スープを取り分けてくれた。
うん。みんなに気を遣わせてる。これじゃダメだ。しっかりしないと。
◇
食べ終えた私達は、食堂を出ておばあちゃんのお店を探し始めた。
何となく「こっちかな?」と勘を頼りに歩いていると、十分もかからずに見つけられた。
他の街同様、目立たないように細工されている建物で、見つけられる人はなかなかいなさそう。
中に入ると、あの若い姿ではなく、魔女スタイルのおばあちゃんに笑いながら出迎えられた。
「ヒャーヒャッヒャ! 待っておったよ」
「その姿で会うのは久しぶりだね」
「ヒャーヒャッヒャ! そうじゃの。宿は気に入ったかい?」
「超ビックリした! ご飯もめっちゃ美味しかったし、極楽だったよ!」
私が満面の笑みで言うと、おばあちゃんは一際大きく笑った。
おばあちゃんに促され、カウンター裏から以前お茶を飲んだティールームへ。
前にも飲んだことのある不思議なお茶とクッキーを出し、おばあちゃんは口を開いた。
「さて、セナの疑問に答えようかの」
「疑問?」
「そう。エアリルから渡された手紙に書いてあった件じゃ」
「それは……いいの?」
今ここには私以外もいる。
パパ達にも内緒にしていたのにここで聞いていいものなのかわからなくて、聞き返すと大丈夫だと頷かれた。
「今から話す内容はセナにしか聞こえぬ。安心してよい」
「え?」
首を傾げると、おばあちゃんの目線は私から外れた。視線を辿ると、私の隣りに座っているグレンもジルもクラオル達もみんな紅茶を飲んでいる。
魔法を使った感じはしなかったのに、おばあちゃんが何かしたらしい。
「まず、この世界になぜ発酵食品がないかじゃが……〝発酵〟という手順を踏むのは、セナがいた地球のある世界だけじゃ」
おばあちゃんはこの世界を創るときに他の世界も参考にした。それぞれの世界はそれぞれのルールがある。
ここには魔物や錬金、魔法やスキルなど、地球にはないものが存在する。地球……日本で生活していく上で毒や害に触れる機会は少ないけど、ここではそうじゃない。
地球のように、青カビは青カビでもブルーチーズは食べられる……なんてしてしまうと、鑑定を使えない人は食べられないモノも間違えて食べてしまう。
そのため、〝菌は全て害のあるもの〟と明確に線引きをすることにした。というよりも、地球のようにややこしい方が珍しいそう。
細菌やウィルス自体はあるけど、これは病気や怪我に関係するもの。
私のユニークスキルである【看破】は地球の記憶が多大に影響していて、普通の【看破】とは違う。それ故、地球のモノと類似していれば表示される仕様に意図せずなった。
と、教えてくれた。
私はここへきて異世界を改めて実感。今までは地球と同じ感覚でいたけど、こんな根本的に違うこともあるんだと、認識を改めさせられた。
「今までセナがいろいろと作れていたのは、地球の知識によるものが大きい。もしかしたらセナなら発酵食品も作れるかもしれんの」
「いやいや! 作ってなくてよかったよ……もし作るのに失敗して、病気をバラ撒くことにでもなったらヤバかったじゃん……バイオテロだよ! バイオテロ!」
「ヒャーヒャッヒャ! そう考えられるのはセナくらいじゃろうな」
おばあちゃん……笑いごとじゃないと思うよ……クラオル達大事な家族が、私が原因で病気になるなんて考えたくもない。
私がブルりと体を震わせると、おばあちゃんは嬉しそうに目を細めた。
「やはりセナは特別じゃな……さて、話しを戻そうかの。セナや精霊が作ったモノは理にかなっているから大丈夫じゃ。まさかスライムの核をあんな風に使うとか思わなんだがのぅ。ヒャーヒャッヒャ」
「大丈夫ならよかった……ちょっと心配してたんだよね」
おばあちゃんは笑いながら、お礼を伝えてきた。今まで見向きもされなかったモノが使われ始めて、いい影響が出ているらしい。
全部自分のためにしてきたことだけど、悪い影響じゃなくて本当によかった……
「ヒャッヒャッヒャ。後は、そうじゃの……発酵がないことに関してはゲームのようなシステムだと思えばよい」
「ゲーム?」
「そうじゃ。そう考えれば細かいことは納得できるじゃろう?」
「なるほど……」
確かにゲームだと思えば、何で粉を混ぜるだけで完成するのか……なんて疑問に思わない。
そういえばポーションとかを作るときもそうだ。あれはいつもゲーム感覚で作っていた。自分の中で無意識に感覚の違いがあったことに気付かされた。
「あぁ……めっちゃ納得した……気を付ける」
「ヒャーヒャッヒャ! セナはちゃんと現実だとわかっておる故、注意したかったわけではない。そう言った方がわかりやすいと思ったんじゃ」
「うん。わかりやすすぎた……」
「ヒャーヒャッヒャ! そろそろ戻そうかの」
「はーい」
おばあちゃんがゴホン! と咳払いをすると、無音だった空間に音が戻ってきた。音が戻ってきたことで、それまで無音だったことに気付いた。
グレン達ではなく、私に対して魔法を使っていたみたい。
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