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11章
神様は神様
しおりを挟むそれはエアリルパパから「忘れるところでした。セナさんにヴィエルディーオ様から手紙を預かってます」と渡されたことから発覚した。
手紙には何も書かれていない代わりに、私の頭の中でおばあちゃんの声が再生された。
この世界にはそもそも〝発酵食品〟というモノが存在しない。元の世界では発酵させて作らなければならなかった物そのものが、完成系に近い状態で存在する。つまるところ、〝発酵〟という仕組み自体がない。
チーズなんかは【レーネット粉末】という粉を使って作るが、それは地球のように発酵させているワケではない。
A+B=Cと決まっている。
モウミルク+レーネットの粉末=ゴーダチーズ。このとき、地球のチーズ作りのように水分が出たりはしない。モウミルクの量がそのままチーズに変化する。
チーズの種類は何のミルクを使用するかで変わる。
わかりやすいのが納豆。日本では大豆を藁に付いている納豆菌で発酵させていた。しかし、この世界では茹でた大豆を藁で包み、温めながら発酵を促したからといって納豆はできない。ただ単に茹でた大豆を放置して傷ませただけとなる。
この世界での〝腐ったもの〟とは傷んで食べられないモノのこと。舌がピリピリする、おなかを壊すなどの軽度なものから、手足が壊死する、目が見えなくなる、死亡するなどの重度のものまで引き起こす……いわば毒化したモノを示す。
……という衝撃と驚愕の内容だった。
とどのつまり、前世の〝発酵〟という常識はこの世界では非常識どころではなく、ありえないこと。菌の種類や温度などがわからなくて試していなかったけど、作ろうとしたとしても、初めから不可能だったのだ。
何でクラオル達やパパ達と話が微妙に通じていなかったのかがわかった。
発酵食品って言ってもわかってもらえなかったはずだよ……
「マジか……」
『あら? 何も書いてないじゃない』
「今、おばあちゃんの声が聞こえて、いろいろ教えてくれたよ」
「なるほど。魔法の手紙だったんですね。その魔法は、指定された人物が手紙を開いたときの一度しか聞けません。その人にしか聞こえないので、内容が他者にバレないのです。ヴィエルディーオ様がその魔法を使うということは、余程の内容なのでしょう」
ここにはガルドさん達もいる。この世界の仕組み的にありえないことなら、パパ達に内緒にしたことも納得できる。
おそらく、この世界に少なからず影響が出るんだろう。
私が発酵について詳しく知らなかったことと、説明下手なことが幸いした。
余計なことしてなくてよかった……
「とりあえず、こっち側のやつ欲しいんだけど、他の場所にあったりしない?」
おばあちゃんが秘密にした内容を話すワケにもいかず、私は話題を戻した。
パパ達は記憶を辿るかのように「うーん……」と考え始めてしまった。
私はパパ達の反応を見て、あそこに行かないと手に入らないのかと肩を落とす。
「なさそうだね……」
「私達が全員知らないとなるとそうだね……一本しかないなら、セナさんの空間に移植はできないかな」
「そうだよね……」
「しかし、他に存在する場所があったとしても、この臭さはセナの空間には向かんのぅ……」
私のコテージに移植したら、この世界の人が手に入れられなくなっちゃう。
流石にそこまでして欲しいとは言えない。それにコテージの空間が臭くなるのは私も遠慮したい……
定期的にあそこに行かなきゃダメらしい。
あの森の臭いに今後も耐えなきゃいけないのか……フンコロガシのフン撒いたら収穫量上がるかな……?
「ふふっ。セナさん安心して下さい。この世界にあるものなら、僕達が作れます」
「え?」
気落ちする私にエアリルパパが微笑む姿に首を傾げる。
「そうだな。アッチにしかない物だと詳細を聞かなきゃいけないが、こっちに現物があるなら可能だ」
アクエスパパはニヤリと私に笑いかけた。
聞かなきゃいけないのは、元の世界である地球の神様かな?
本当か確認すると、アクエスパパが得意気に指を鳴らし、手の中にマヨネーズの小ビンと同じ物を出現させた。
渡された小ビンの中身を味見してみると、ちゃんとマヨネーズ。
「な?」
「おぉー! パパすごい! すごい!!」
「ククク。まあな」
「ムッ。僕もできますよ!」
対抗心を燃やしたのか、今度はエアリルパパがマヨネーズを出した。
「おぉぉ!! エアリルパパもすごい!」
私が手を叩きながら褒めると、エアリルパパは「えへへ」と照れた。
すると、イグ姐とガイ兄までマヨネーズを出して渡してくれた。
何故マヨネーズなのかを聞いてみると、「これが一番臭くないから」だそう。
何だろう……ものすごく納得しちゃった。
◇
パパ達が木に実っていた調味料を作ってくれることになり、私達はガゼボのある草原へ移動した。
「クラオルから聞いていたから楽しみにしていたよ」
ガイ兄を筆頭にワクワクと期待の眼差しを向けられて、私はバロータ村で作っておいた料理を広げる。
どんどんと置かれていく品を見て、パパ達はさらに瞳を輝かせた。
「すごいです! これは何ですか?」
「このサラダは不思議な香りじゃの」
「エアリルパパのはナスと豚のピリ辛豆板醤炒め、イグ姐の方はアンチョビサラダ。ドレッシングにアンチョビを使ってるの。両方共腐呪の森で手に入れた調味料を使ってるんだよ」
私がそう説明すると、パパ達四人は「いっぱい作らないと!」と、食べる前からやる気満々。
多分、私が欲しがっているから作ってくれるだろうけど……気に入ったら数がどえらいことになりそう……
以前作った物だけだとグレン達は飽きるかな? と、今回は油淋鶏と棒々鶏も作ってみた。
案の定グレンとジュードさんはこの二品に目が釘付け。
食べ始めると、大絶賛だった。パパ達は満面の笑みで私を褒めちぎり、すごいスピードで料理を食べていく。
グレンですらパパ達の勢いに遠慮していた。
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