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11章

勘違い神様

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 そのまま買い出しに行くという村人達と別れ、私達はそのまま教会へ向かう。

 この街はフォースタンケというらしい。街には四つほど広い池があり、サイコロの四の目のように点在している。その池を中心に家々は建ち、街が四つのブロックに分かれている感じ。
 そのうちの一つ、私達が入った北西の門から対角線上の南東の池は貴族街。この情報は村人が教えてくれた。

 門から一番近い教会でお祈りの長イスに座ると、ガルドさん達は私達を護るように座った。
 ガルドさん達の気遣いを感じながら、目を閉じる。すると呼ぶ前にパパ達の気配を感じた。

「セ~ナさんっ!」

 抱きしめられて目を開けると、既に神界の花畑。そして私はエアリルパパの腕の中だった。エアリルパパの隣りにはいつもの三人が微笑んでいる。
 今回はちゃんとガルドさん達も神界に呼ばれていた。緊張しているのか、ガルドさんの顔が強ばっている。

「待ってたんですよ。いつもの部屋に移動しますね」

 エアリルパパはそう言って、パチンと指を鳴らした。
 移動したいつものリビングのような部屋は、ガルドさん達用にソファが増えていた。

「ガルド達は左右のソファに分かれて座ってね」

 ガイにぃがガルドさん達に告げると、ガルドさんは強ばった顔のままコクコクと頷いた。

「セナはわらわと座るじゃろ?」
「何言ってる。俺と座るに決まってるだろ?」
「僕ですよね?」
「エアリルは今抱っこしているんだから私達に譲るべきだよ」

 パパ達四人は私が誰と座るかで揉め始めてしまった。

「パパ達がケンカするのは嫌だから、ジルとグレンと座るよ」

 ぶっちゃけ座る場所はどうでもいい私は、尤もらしい理由をあげて、収拾がつかなくなりそうな会話を強制終了させる。
 パパ達はパクパクとくちを開け閉めしてから、肩を落とした。

「仕方ないね。今日はそうしよう。ほら、エアリル。セナさんを降ろしてあげないと」
「はい……」

 エアリルパパはちからなくガイにぃに返事をして、私をソファに降ろした。

「さて、全員座ったね。本題に入ろうか?」
「そうじゃ! お願いとは何じゃ? わらわが叶えてやる! 国王か? 南パラサーの領主か?」
「騎士もいただろ?」
「ちゃんと罰を与えますよ!」
「いやいやいや! そういうんじゃないから!」

 なぜかお仕置きの方だと思われていて、私はブンブンと手を振って否定した。

「なんじゃ、違うのか……」

 残念そうにイグねぇくちを尖らせた。
 なんでこう罰を与えたがるのか……
 私に偉そうな態度を取っただけで、神からペナルティを受けるなんて可哀想すぎる。

「あのね、腐呪ふじゅの森の中心にあったヨーグルトの泉をコテージに繋げて欲しいの。ダメ?」
「何だ。そんなことだったのか。それならすぐにできるぞ」

 アクエスパパは何でもないように言ってのける。

「本当!?」
「ふふっ。嬉しそうだね。それくらい構わないよ」
「ありがとう! 超嬉しい! あと、その泉のふちに生えてた木ってあそこにしかない?」
「木?」
「そう、木。いろんな調味料が実ってたんだけど、一本しか生えてなかったの。飛んでたビネーガ蝶も別の場所に生息してるなら、その場所を教えて欲しい」

 私の発言にパパ達は悩み始めてしまった。
 腐呪ふじゅの森は中心に近付くほどにおいが濃くなるため、ほとんど人が立ち入らない。中心まで辿り着けたのは私達以外いないんじゃないか……ってくらい。
 そのため、腐呪ふじゅの森に何があるのか、パパ達も把握しきれていないらしい。

「セナさんが腐呪ふじゅの森で手に入れた物を教えてもらってもいいかな?」

 ガイにぃに言われて、私は見た方が早いと無限収納インベントリから順番に出していく。
 クサヤを出した瞬間――全員が「ぐふっ」と鼻を押さえた。

「あ! そうだ! くさいのもあるんだった!」

 急いで全部出し、乗せたテーブルに結界を張る。その後すぐに部屋に浄化をかけて消臭。
 鼻をリセットするのにインスタントコーヒーの欠片を一つずつ渡した。

『んもう! 主様! 鼻がひん曲がるかと思ったわ!』
「ごめーん。みんながくさいの苦手なの忘れてた」

 ペシペシとクラオルに抗議されて私が謝ると『全く……主様は食材としか見てないんだから……』と呆れ声が返ってきた。
 結界から漏れ出るにおいはあるものの、みんなの鼻はインスタントコーヒーで持ち直したみたい。

「こっち側に置いてあるやつはこれ以上いらないんだけど、こっち側のはいっぱい欲しいの。この小ビンに入れてあるのがビネーガ蝶の鱗粉だよ。こっちもこっちも両端にまとめてあるのが、両方共一本の木に実ってたやつ」
くささが際立つ方はいらない物なのか……」

 私がテーブルの上に乗せた収穫の成果を指さしながら説明すると、アクエスパパが呟いた。コーヒーの粒で鼻を誤魔化している。
 そう言われると、においが激しいやつがいらない物エリアに置いてあるかもしれない。
 臭豆腐や豆腐餻の粉が納豆よりくさいんだよね……

「いらない方は仕舞って大丈夫だよ。……この枯れ草に包まれているのは何かな?」
〈ダメだ! それは開けたらとんでもなくくさいんだぞ!〉

 私が仕舞ったのを確認して、ガイにぃは藁納豆を指さした。それを見たグレンが声を張り上げる。相当嫌みたい。
 グレンの様子に、ガイにぃはすぐに手を引っ込めた。

「あぁ、なるほど。これはセナさんの故郷にあった納豆という食べ物だね。確かセナさん、好んで食べていたよね?」
「うん。大好きだけど……ガイにぃ、納豆知ってるの?」
「いや、実物を見たのは初めてだよ。以前セナさんのの記憶を覗かせてもらったとき、よく食べていたからね」

 ガイにぃは鑑定をかけたらしい。
 あぁ……そういえば、私の記憶見られてたんだっけ。それで水着とかスーパー銭湯とか作ってたもんね……と納得した。

わらわはこのようなくさい物は知らぬ」
「俺も見たことないな」
「僕もです……」

 イグねぇが鼻をつまみながら言うと、アクエスパパもエアリルパパも頭を振った。
 なんとパパ達全員、を知らなかった。
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