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11章
子供好き村
しおりを挟む二日ほど滞在した北パラサーの街を出発してから、道中の街や村にはあまり寄らず、私達は腐呪の森に一番近い村に着いた。
「あいや~! 立派な馬車だ!」
「こんな辺鄙な村によく来なすった。ゆっくりしてけ~」
「まぁ! 可愛い子! ちょっと待ってて! 昨日、山フラゴラ採れたのよ!」
村は久しぶりの旅人だと、私達を歓迎。
おばさんが山フラゴラ――木いちごを私とジルにプレゼントしてくれた。
この村はバロータ村。
腐呪の森は異臭がして、近付けない。さらに手前には沼地が広がり、運が悪いと埋もれて動けなくなってしまう。そのため、村人も近付かないし、村を訪れる人もいないそう。
村人は二、三ヶ月に一度、街に行くくらい。ほぼ自給自足の生活で、主に農業と狩りで生計を立てているらしい。
宿そのものがなかったんだけど、使われていない建物を超特急で修理までして、好きに使っていいと言ってもらえた。
「すごい歓迎だね」
「おかずまで分けてくれるなんて中々ないよねー」
「ね! みんな優しい!」
夜ご飯を食べ終わって、みんなでまったり。
修理してくれた家はベッドも布団もないけど、キッチンとトイレはある。隙間風も入ってこないし、何より誰かの家にお邪魔するより気を遣わなくて済む。
心温かい村人に感謝しながら、毛布にくるまってみんなで雑魚寝。
────────────────────
翌朝、私達がストレッチをしていると、昨日とは別のおばさんが野菜をおすそ分けしてくれた。
笑顔でお礼を伝えると、おばさんは「いいのよ、いいのよ~」と私とジルの頭を撫でまくってから去って行った。この村の住民は子供好きが多いみたい。
◇
とりあえず、足がとられると聞いた沼地を見に行くと、沼地というよりも泥地や泥炭地と言った方がしっくりくる〝ぬかるみ地帯〟だった。湿気でジメジメしているから湿地とも言えそう。
馬車はおろか、普通に履いているブーツでは入りたくない。
これは……井戸掃除のときみたいな完全防備が必要だ。
私達が村へ戻ると、すぐに村長に話しかけられた。
私達がもう出発したのかと心配してくれていたらしい。
「あの魔物の話をしていなかったので、皆で誰が知らせに走るか相談しておりました」
「魔物?」
「はい。あの沼地に地面の中から急に現れる魔物がいるのです。その名もマーシュセンチピード」
〈あれは小さい。そんな危険はないだろう?〉
確か図鑑だと十五センチくらいのムカデだったと思うんだけど……
私達の疑問に村長はブンブンと頭を振って否定した。
「とんでもない! 三メートルはありますよ!」
「マジか……」
「あの魔物に遭遇したら最後、泥に引きずり込まれ、食べられてしまうのです」
「うげぇ……」
三メートルもある巨大なムカデなんて遭遇したくない……気持ち悪すぎる。
っていうかそれ、突然変異か別の種類な気がするんだけど……多分、鑑定できないからわからない感じかな?
村長にお礼を伝え、私達は家に戻った。
腐呪の森へは沼地を通るしかない。迂回するとかなりの遠回りになっちゃう。
私は数日かけてガルドさん達用の防水ズボンを製作。
その間、沼地を歩くのに埋もれにくいという〝かんじき〟みたいなものを村人が教えてくれた。日本の昔の映像とかで見る、雪国の人が靴の下に装着する輪っかみたいなやつね!
ぬかるみ用だからか、輪っかじゃなくてお皿みたいなやつだったけど……おばさん達が作り方を教えてくれて、それも全員分作った。
それにはクラオルの蔓が大活躍で、おばさん達からクラオルが大絶賛されていた。
一週間以上滞在させてもらって旅立つ前日、私はお世話になった村の井戸を【浄化玉】を使って掃除。
ガルドさん達はおじさん達と狩りに行き、大きな鹿を仕留めてきていた。
◇
翌朝、私達の家の前には既に村人が勢揃いしていて、お土産をいっぱいくれた。
「寂しくなるわ~」
「またいつでもいらっしゃいな!」
「あの魔物が出たら、これ、投げつけろよ!」
村のおじさんが最後に渡してきたのは、まさかのカレー粉だった。
そういえば目潰しで使われてたんだっけ……
優しい村人に別れを告げて、私達は出発!
途中までの道のりは馬車。ぬかるみ地帯直前で防水ズボンに着替え、村人に教えてもらった〝かんじき〟を装着。
「おぉ~。本当に沈まないね!」
「教えてもらえて正解でしたね」
「ね! みんな優しかった!」
〝かんじき〟のおかげで、泥の上でも想像以上に歩きやすい。
先人の知恵って素晴らしい!
「サクサク進もー!」
期待に胸を膨らませて、ひたすら歩く。
一時間、二時間と歩き続けているのに、一向に森が近付いている気がしない!
湿気が霧のように辺りを霞ませ、数メートル先は見えない。そのため、風魔法でなんとか十メートルほど視界を確保。
しかもこんな場所でも魔物はいる。
村人から聞いていた三メートルのムカデは出てきていないけど、二十センチほどのハゼみたいな魚とカエルがちょいちょい現れるせいで歩みが遅い。
「さすがに疲れてきたが……休憩できる場所がないな……」
〝かんじき〟を着けているとはいえ、立ち止まると足が少しずつ沈んでいく。体が全て埋まることは稀だろうけど、泥に嵌ったら抜け出すのが一苦労。
それを考えると、立ち止まれない。
〈我が運ぶか?〉
「グレンがドラゴンになったら、離れててもわかっちゃうよ。『ドラゴンが現れたー!』って騒ぎになりそう。羽だけなら大丈夫かもしれないけど……」
《セナちゃーん! こっちに地面が固いところがあるわよー!》
グレンと話している途中でプルトンが私を呼んだ。休憩できる場所を探していてくれていたらしい。
プルトンに教えてもらった場所に着き、私達はビニールシートに腰を下ろした。
念の為に作っておいてよかった!
「このジメジメした空気が気持ち悪いですね。余計に体力を消費する気がします……」
「……ベタベタする」
モルトさんとコルトさんは湿気にやられてお疲れモード。ガルドさんとジュードさんもあまり顔色がよくない。
とっくにお昼の時間は回っているけど、みんなは食欲がないみたい。
そんなみんなにサラダうどんを作り、果実水を渡す。
「あぁ……生き返るな……」
「ですね。さっぱりしていて、ペロリと食べられました」
ガルドさんが縁側のおじいちゃんのように果実水を飲みながら呟くと、モルトさんが相槌をうった。
少しは復活できたみたい。
「セナっちー、さっきから何やってるのー?」
みんなが休憩している間に思い付いた物を作っていると、ジュードさんが不思議そうに聞いてきた。
私が作ってるのはサンドスライムの砂と、同じくサンドスライムの核を使ったネックレス。
「この砂撒いたら、歩くの楽にならないかな? って思って。ネックレスは除湿用だよ。できた! ポラルありがとう!」
お礼を言うと、ポラルはスチャッと手を挙げていつものポジションへ。
みんなに声をかけて、核のネックレスを着けてもらう。
核に穴を空けてポラルの糸を通しただけの不格好なネックレスだけど、ないよりはマシだと思う。
【スライム砂】を作り終わったら出発!
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