294 / 537
11章
着ぐるみのオッサン?
しおりを挟む────────────────────
翌朝、再び冒険者ギルドへ。南パラサーでは、あの偉そうな騎士に絡まれそうで街の外に出られなかったんだけど、こっち側なら大丈夫だろうと、依頼を見に来た。
宿のお姉さんが、魔物の魚〝魔魚〟について教えてくれたんだよね。捕まえるのが大変な分、いい値段で買取ってもらえるそう。食べられる魔魚と食べられない魔魚がいて、詳細はギルドで依頼を受けるときにでも聞けばいいとアドバイスももらった。
お金よりその情報が欲しいのと、どんなのか見てみたいから受けてみることにしたんだけど……
「魔魚の名前が書かれてても、名前からは想像できないね」
「だなぁ……依頼書持ってって、受付けで聞くか」
ガルドさんが依頼書を剥がそうとすると、横から伸びてきた手が奪っていった。
「なんだぁ? 依頼は早い者勝ちだから、これはオレんだ!」
間違いなく絡まれたら面倒なタイプ。ガルドさんから「どうする?」って目で問われて、私は首を横に振った。
「見てみたかったけど、違うのにしよ?」
「……そうだな。どれがいい?」
「ギャハハ! お前ら子守りしながら依頼なんて大変だな!」
依頼書を奪っていった男性は私を見て爆笑しながら依頼書をカウンターへ持って行った。混んでる時間からズラしたとはいえ、まだ人はいる。あの人物のせいでチクチク視線を感じるようになってしまった。
〈セナ……〉
「ダメだよ? 今暴れたら活動しにくくなっちゃう」
〈……〉
「その代わり、討伐依頼はどう? ガルドさん達に頼んだら、高ランクの依頼内容もできるよ?」
〈……なら、これだな〉
グレンは不満そうだけど、一枚の依頼書を指さした。
依頼書はAランク用。注目を集めているので、カモフラージュのためにもう一枚依頼書を剥がした。
ガルドさん達はグレンが希望した依頼を受けてくれ、私とジルはCランクの依頼を受ける。
グレンは街を出て獲物を探している間も、放つオーラが怒っている。
「グレンー。機嫌直して? はい。パンあげるから」
〈なぜセナは言い返さない! パンは美味しいが、誤魔化されんぞ〉
「えぇー。だって、力量も測れない人に言ってもねぇ……騒ぎが大きくなるだけだし、面倒じゃん?」
「話す価値もないということですね」
〈そうか! そうだな!〉
いや、ジルさん……そこまで言ってないよ……
グレンの機嫌が直ったから否定するのも微妙かなと私は苦笑い。
私の気持ちがわかったのか、ガルドさんに頭をクシャクシャと撫でられた。
そうこうしているうちに、私達の前にに現れたのは、三十センチもあるカタツムリ。これは私とジルが受けたCランクの依頼。
カタツムリはグレンにより瞬殺されていき、五分も経たないうちに規定の二十匹に到達した。早い……
カタツムリを回収したら、ガルドさんに受けてもらった魔物の生息域へ向かう。
河沿いを進み、お目当ての場所に近付いたら索敵。
見つけた魔物はまたもやグレンによって瞬殺。
この一メートル以上もあるオオサンショウウオのような魔物は、皮膚の硬さで物理が効きにくく、全身を覆っている粘膜のようなヌメリで魔法も効きにくいハズなのに……グレンには意味を成さなかった。
思っていたよりも早く討伐が終わったため、私達は河岸でランチタイム。
食後は釣り。私は釣れないのでみんなのおやつを作る。
一位になった人にはオマケを付けるとお知らせすると、みんなはやる気を上げて竿を構えた。
グレン、ガルドさん、ジュードさんは経験者で有利だから、釣った数からマイナス五匹の予定。
今回のおやつはティラミスとシュークリーム!
コーヒーが手に入ったら食べたかった二品。コーヒーの苦味が苦手なみんなのために、甘めなコーヒーを使う。
「オレっち六匹目ー!」
〈む! まだ始まったばかりだ!〉
「騒ぐな。魚が逃げる」
ジュードさんとグレンにガルドさんが注意。その三人の近くでジル、モルトさん、コルトさんが静かに……でも的確に魚を釣り上げている。
この世界の魚は全体的に大きいけど、見た目は日本の魚と大差ない。
クラオル情報によると、アクエスパパがくれた黒マグロなんかは魔魚に分類されるらしい。魚と魔魚の違いは攻撃してくるかどうかで、基本的にはどっちも食べられるそう。簡単に釣れるのが〝魚〟で、釣るのが大変だったり戦うことになったりするのが〝魔魚〟。
話を聞いて明確な違いはないことがわかった。魔物と魔獣の違いみたいなもんだね。
「くっ! 引きがすごいです!」
〈大物か!?〉
ジルの竿が折れそうなくらいにしなり、踏ん張っているジルの後ろからグレンが支えた。
二人でも川に引きずり込まれそうで、グレンの腰をガルドさんとジュードさんが引っ張る。
「これ、相当な大物だぞ! モルト! ロープ巻け!」
ガルドさんから指示を受けたモルトさんがテキパキとジル達をまとめてロープで巻き、さらに河岸の大きな岩にロープを結び付けた。
「上がるぞ! 引けぇぇ!」
ガルドさんのかけ声でジル達四人が踏ん張り、勢いよく河から飛び出してきた魚をコルトさんが網でキャッチ。魚の勢いと重さでコルトさんは転んじゃったけど、連携が素晴らしい。
「コルトさん大丈夫!?」
「……大丈夫」
コルトさんから大丈夫だと返事が来たので、倒れ込んだ四人に駆け寄る。
一番後ろを支えていたジュードさんが三人の重さで唸っていて、モルトさんが急いでロープを解いた。
「ぷはぁー。重かったー」
〈魚は!?〉
「……ココ」
グレンはジュードさんより釣った魚が気になるらしく、すぐにコルトさんの元へ。
「ジル、大丈夫?」
「は、はい。驚きで少々手が震えております」
呆然としながら答えるジルにガルドさんが「頑張ったな」と頭を撫でる。三人に【ヒール】をかけてから、釣り上げた魚を見に行くと、魚は網の中でピクピクと痙攣していた。
〈暴れるから大人しくさせておいた〉
「なるほど……」
釣り上げた魚は……一メートルほどのオタマジャクシに手足を生やした着ぐるみを着たオッサン……に見える。
顎下にあるシワが気の抜ける顔っぽくて、生えている手足が胴体と色が違う。
実際に着ぐるみを着ているわけではないから、人面魚ならぬ人面オタマジャクシ? とでも言えばいいんだろうか……
「絶妙に気持ち悪いね……」
『これ、魔魚だと思うわ。魔力感じるもの』
「え? これが魔魚? まさか魔魚って全部こんな感じじゃないよね?」
『それはワタシにもわからないわ』
とりあえず鑑定してみると、確かに魔魚だった。水魔法を使って攻撃してくるらしい……泥臭く、食用には向かないそう。ただ、素材としては高く売れるみたい。
みんなに鑑定内容を教えると、見た目の気持ち悪さからか、食べられないことに全員が納得した。
魚釣りの雰囲気じゃなくなったので、デザートタイム。
数はコルトさんがブッチギリで多かったんだけど、「ジルベルトが頑張った」と優しいコルトさん。
今回の優勝者はジルに決まった。
ジルはジルで「数で負けている」と遠慮するので、結局みんなでティラミスとシュークリームを食べる。
多めに作っておいてよかった!
◇
ギルドで納品と一緒にオタマジャクシを出すと、予想以上に高額で買い取ってくれた。
「まさかあれが金貨五十枚になるとはな」
「引きが強かったから、高いのかもー」
「本当に僕が受け取ってよろしいのですか?」
「おう! ジルベルトが釣ったからな。誇っていいんだぞ」
遠慮しようとするジルの頭を撫でて、受け取らせるガルドさんとジュードさん。ジルはそんな二人に挟まれてくすぐったそうに笑っている。
仲良しの兄弟みたいで微笑ましい。
594
お気に入りに追加
24,616
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
転生幼女の愛され公爵令嬢
meimei
恋愛
地球日本国2005年生まれの女子高生だったはずの咲良(サクラ)は目が覚めたら3歳幼女だった。どうやら昨日転んで頭をぶつけて一気に
前世を思い出したらしい…。
愛されチートと加護、神獣
逆ハーレムと願望をすべて詰め込んだ作品に…
(*ノω・*)テヘ
なにぶん初めての素人作品なのでゆるーく読んで頂けたらありがたいです!
幼女からスタートなので逆ハーレムは先がながいです…
一応R15指定にしました(;・∀・)
注意: これは作者の妄想により書かれた
すべてフィクションのお話です!
物や人、動物、植物、全てが妄想による産物なので宜しくお願いしますm(_ _)m
また誤字脱字もゆるく流して頂けるとありがたいですm(_ _)m
エール&いいね♡ありがとうございます!!
とても嬉しく励みになります!!
投票ありがとうございました!!(*^^*)
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。