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11章

押し売り商人

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 私達が乗った船は風のちからを推進力にする帆船。っていっても、あの港には帆船以外は見当たらなかったから、エンジンの魔道具が搭載されている船があるのかは謎。パパ達に聞いたらわかるかもしれないけど、ガルドさん達もグレンもジルも知らないと言っていた。

 風の強さにもよるけど、遅くとも夜には対岸に着けるらしい。
 船の中には乗客が休憩できる大部屋と食堂があった。食事は別料金で、お酒も飲めるそう。
 乗客はそれぞれ思い思いにくつろいでいる。

 船の探検が終わった私達は、再び甲板にやってきた。
 風はそこそこ吹いているものの、日がサンサンと降り注いでいて暖かい。
 初めは船から河を眺めていたけど、風景が変わらなくて飽きてしまった。

 こういう船に乗ったら、人生に一度はやってみたかったことがある。

「ここでゴロンチョしたら怒られるかな?」
「眠いのでしたら部屋へ戻りますか?」
「ううん。甲板で寝てみたかったの。気持ちよさそうじゃない?」
「ここは人が多いし、目立つからな……後ろの甲板ならいいんじゃないか?」

 ジルに理由を説明すると、ガルドさんが案を出してくれた。
 船尾のデッキに向かうと、既に先客の男性が一人、寝そべっていた。
 男性は私達に気が付くと、ギョッとした表情を浮かべてそそくさと去ってしまった。

「なんか追い出したみたいになっちゃったね……悪いことしちゃった」
〈勝手にいなくなったんだ。気にするな〉

 男性には悪いけど、せっかくなら寝転がりたい私はラグを出した。その上にゴロンと横になると、想像以上に気持ちがいい。
(これこれ! 映画で見てやってみたかったんだよね~!)
 隣りでガルドさん達も気持ちよさそうに伸びをしている。
 ポカポカ陽気に、眠気に誘われるまま眠ってしまった。



 お昼ご飯に起こされ、食堂でご飯を食べた私達は大部屋へ移動。また寝転がりたかったのに、体が冷えるからとダメ出しされてしまった。
 大部屋では、眠っている人もいるけど、大まかグループに分かれて話している人達が多かった。
 私達も床に座って話しながら時間を潰していると、商人風の恰幅のいいおじさんに話しかけられた。

「あなた方は冒険者とお見受けしますが、よく効くポーションはいかがですか?」
「いや、ポーションなら持っているから結構だ。他を当たってくれ」

 ガルドさんが代表して間髪入れずに拒否すると、商人は「他にも取り扱っております。薬草などはいかがですか?」と食い下がった。

「何も買うつもりはない」
「しかしお子様がいる旅ですと、ケガの対策は必要かと。それともケガをしても放置するのですか? それはお子様が可哀想では?」
「回復魔法使えるやつがいるんでな。心配は無用だ」
「ではマジックポーションなどはいかがでしょう?」
「いらん。いい加減しつこいぞ」

 諦めの悪い商人にガルドさんが睨みを利かせると、商人は「いやはや残念ですな」とニヤニヤしながら去っていった。
 おじさんがいなくなったのを確認して、グレンとジルは瞬間的に警戒していたのを解いた。

「何、今の……」
「乗り合い馬車とかでもたまにあるんだよー。断れない人は買わされるから、スッパリ断るのが一番!」

 なるほど。こういう閉鎖的空間だと、押し売りみたいなのもあるのね……今まで乗り合い馬車も乗ったことなかったから知らなかった。

「セナ。ああいうやからもいるから、なるべくグレンか俺達から離れるな。ジルベルトもだ」
「わかった!」
「かしこまりました」
「悪い噂は聞かないが、俺達もこの国のことはよくわからん。気を付けるにこしたことはない。わかったか?」
「はーい」

 ガルドさん達は今の一件で気を引き締めたみたい。
 確かに、知り合いの王族がいたキアーロ国やシュグタイルハン国とは違う。今までは歓迎ムードで迎えられていたけど、これからはそういうこともない。
 あんまり目立つようなことはしないでおかないと、あの領主みたいに付き纏われたら面倒極まりない。相手が貴族ならそれこそ権力をかざしてくる可能性もある。各街で長居はしない方がよさそう。


 その後は何もなく、日が暮れる前には対岸に着いた。
 この対岸側も街になっていて、〝北パラサーの街〟と呼ばれているらしい。私達が船に乗った方は〝南パラサーの街〟。ちなみに同じ街の名前なのに領主は違うそう。
 ややこしいけど、あの領主からの追っ手はなさそうで、その点だけはよかった。

 北パラサー側の冒険者ギルドを訪れると、南パラサーのギルマスからの手紙が届いていた。
 こちらでもギルマス対応。素材ではなくお肉を売り、手紙の返事をお願いして私達はギルドを出る。
 ギルドを出ると、思っていたよりも時間がかかっていて、もう日が暮れ始めていた。

 私達はグレンの嗅覚で選ばれたお店で夜ご飯を食べ、ギルドで教えてもらった宿へ。
 こっち側の宿も身分によって泊まれる宿が違うけど、南側の宿より少しだけキレイだった。それでも汚れとにおいが気になる私は【クリーン】をかけちゃったんだけどね。

 明日はどうするかを相談して、コテージでゆっくりお風呂に入る。湯船でウトウトしてクラオルに怒られ、宿のベッドへダイブ。
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