上 下
292 / 537
11章

鬼ごっこ

しおりを挟む


 翌日、領主関係者を回避しつつ、対岸へ渡る船の乗船券を買いに販売所へ訪れると、「出航は三日後だ」と言われてしまった。
 毎日出てるのかと思ってたのに違ったらしい。
 どうするか相談した結果、今日も釣りに行くことになった。

 昨日とは違う場所にしようと、小型の船が係留されている埠頭の方へ向かう。
 小型の船は漁師達の船らしく、ちょうど魚を船から降ろしているところだった。
 ある物が気になった私は、忙しなく動いている男性達の邪魔にならないように見守り、一段落付いたタイミングを見計らって声をかける。

「おはようございます!」
「んあ? おはよう? 何か用か?」
「お兄さん、お兄さん。あの茶色い塊はなーに?」

 私が指さしたのを見て、お兄さんは「あれは赤カワクサっつー草だよ」と教えてくれた。
 茶色なのになのか……
 塊だと思っていたけど、よく見ると山のようにまとめてあっただけだった。
 漁の網によく絡まり、邪魔なんだそう。他の網に絡まないように陸に上げて処分するらしい。

「食べられないの?」
「あれをか? …………ハハハハハハハ!!」

 お兄さんは私の質問に虚をつかれたように一瞬固まってから爆笑。読んで字の如く、おなかを抱えて笑っている。

「嬢ちゃん面白ぇこと言うなー! ヌルヌルしてるだけの草だぞ? 味もしねぇし、食うやつなんかいねぇよ!」
「見てもいい?」
「ハハハ! いいぞ、いいぞ! なんなら持って帰って構わねぇ! そんかわり、いらなかったら処分場に持って行ってくれよ!」

 お兄さんは笑いが治まらないまま、許可を出してくれた。
 処分場の場所を尋ねると、今いる埠頭からほど近い場所。手押し車に積まれたカワクサを受け取ると、お兄さんは「荷車は後で持って来てくれ。腹壊しても知らねぇからなー」と一言添えて、船に戻って行った。

「食べられるの!?」
「まだ調べてないからわかんない。そうだったらいいなーって思って」
「ここでは邪魔になってしまいますので、先に移動しましょう」

 ワクワクした様子のジュードさんと話していると、モルトさんに移動を促された。
 ゴミだった場合のことを考えて、お兄さんに教えてもらった処分場へ。手押し車はジュードさんが運んでくれた。
 処分場は広く、ゴミ集積場そのもの。山のようにカワクサが積まれているのに混じって、網やブイ……よくわからないものまで捨ててあった。ただ、なぜかくさくはない。

 カワクサは太さ五センチ、長さは一メートルないくらいの茶色い葉っぱ。見た目は細長い笹の葉みたい。
 みんなに見守られながら鑑定をしてみると……

「んあ! これは……」
『どうしたの?』
「これ、昆布になるんだって!! やったー! クラオル! 昆布だよ、昆布!」
『ちょっ! 落ちっ着きなさい!』

 あまりの嬉しさにクラオルをガクガクと揺すって怒られた。

〈美味しいのか? われの鑑定では〝河に生える草。ヌルヌルしていて味はない〟としか出てこないぞ〉
「毒じゃないけど、このままだと無味無臭って書いてあるよ」
「何かすると食べられるのー!?」
「高濃度の塩水で茹でた後、乾燥させると昆布になるって! 昆布はいい出汁が出るよ!」

 期待の眼差しを向けてくるジュードさんに説明すると、ジュードさんはパァっと顔を綻ばせた。
 この処分場にもいっぱいカワクサはあるけど、いつ捨てられたのかわからないものは触りたくない。

 持ってきた手押し車のカワクサを回収して、お兄さんの元へ戻る。途中、また領主関係者と遭遇しそうになった。本格的に探されているっぽい。
 先程のお兄さんに手押し車を返し、カワクサがもっと欲しいことを伝えると、「他の船にも言っておいてやるから、また明日来い」と了承してくれた。めっちゃ笑われたけどね!

 予定していた釣りは領主関係者がウロチョロしているため断念。
 ササッと買い物だけして宿に戻った。
 宿からコテージに移動して、ジュードさんと昆布作り。
 茹でると赤茶色に変化して、赤カワクサと呼ばれている理由がわかった。
 グレンはそのままで食べられないことに肩を落としていたけど、昆布だしはそこそこ気に入ったみたい。

◇ ◆ ◇

 次の日、約束していたカワクサを受け取りに埠頭へ。

「おっ! 来たな」
「じゃあ、この嬢ちゃんが?」
「そうそう! 物好きだろ?」
「ハハハハハハハ! ちげぇねぇな!」

 お兄さんは漁師仲間に言っておいてくれたらしく、大量のカワクサを用意してくれていた。
 お兄さんだけじゃなく、他の漁師にも笑われたけど、昆布が手に入るなら気にしない!
 ただ、ガルドさん達が「お前ら、もっといいもん食わせてやれよ」って誤解されちゃって、申し訳ない……

 今回、レシピ登録はしないでおくつもり。登録しちゃうと、昆布にする工程から、それを使った調理法まで教えなきゃいけなくなっちゃう。船のチケット買っちゃったし、変わらず領主に探されているから早めに街を出たい。

◇ ◆ ◇

 船が出航する日、朝ご飯を食べているとプルトンが慌て始めた。領主宅にいた人物が、宿に近付いているらしい。
 それを聞いた私達は急いで食べ終え、精算を済まして宿を出た。
 プルトンの指示通りに街の中を迂回しながら移動して、船着き場へ着くとギルマスが待っていた。領主の追っ手が迫っていることを察知して、先回りしていたらしい。ギルマスのくち利きで並んでいたお客さんより先に乗船。

「助かったな」
「だねぇ。プルトンもありがとう」
《気付いていないっぽいけど、まだ近いから安心はできないわ》

 私達は次々に乗ってくる乗客に紛れ、気配を殺す。
 船が出航するタイミングに合わせて甲板に出ると、あの偉そうな騎士の怒鳴り声が聞こえてきた。
 グレンに持ち上げてもらって甲板から下を覗いてみると、騎士の周りには魚が散乱していた。どうやら、魚を運んでいた人とぶつかったみたい。騎士の近くでギルマスが満足そうに笑ってるから、ぶつかった人物はギルマスの差し金だと思われる。

「わーお。ギリギリだったっぽい?」
「あぁ。だが、もう船も動いているから大丈夫そうだな」
「ギルマスに感謝だね」
「そうだな」

 ガルドさんもホッとした様子。
 無事に船に乗れたことを実感した私達は笑顔で頷き合った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生幼児は夢いっぱい

meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、 ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい?? らしいというのも……前世を思い出したのは 転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。 これは秘匿された出自を知らないまま、 チートしつつ異世界を楽しむ男の話である! ☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。 誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。 ☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*) 今後ともよろしくお願い致します🍀

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 【5/22 書籍1巻発売中!】

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

転生幼女の愛され公爵令嬢

meimei
恋愛
地球日本国2005年生まれの女子高生だったはずの咲良(サクラ)は目が覚めたら3歳幼女だった。どうやら昨日転んで頭をぶつけて一気に 前世を思い出したらしい…。 愛されチートと加護、神獣 逆ハーレムと願望をすべて詰め込んだ作品に… (*ノω・*)テヘ なにぶん初めての素人作品なのでゆるーく読んで頂けたらありがたいです! 幼女からスタートなので逆ハーレムは先がながいです… 一応R15指定にしました(;・∀・) 注意: これは作者の妄想により書かれた すべてフィクションのお話です! 物や人、動物、植物、全てが妄想による産物なので宜しくお願いしますm(_ _)m また誤字脱字もゆるく流して頂けるとありがたいですm(_ _)m エール&いいね♡ありがとうございます!! とても嬉しく励みになります!! 投票ありがとうございました!!(*^^*)

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。