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11章
鬼ごっこ
しおりを挟む翌日、領主関係者を回避しつつ、対岸へ渡る船の乗船券を買いに販売所へ訪れると、「出航は三日後だ」と言われてしまった。
毎日出てるのかと思ってたのに違ったらしい。
どうするか相談した結果、今日も釣りに行くことになった。
昨日とは違う場所にしようと、小型の船が係留されている埠頭の方へ向かう。
小型の船は漁師達の船らしく、ちょうど魚を船から降ろしているところだった。
ある物が気になった私は、忙しなく動いている男性達の邪魔にならないように見守り、一段落付いたタイミングを見計らって声をかける。
「おはようございます!」
「んあ? おはよう? 何か用か?」
「お兄さん、お兄さん。あの茶色い塊はなーに?」
私が指さしたのを見て、お兄さんは「あれは赤カワクサっつー草だよ」と教えてくれた。
茶色なのに赤なのか……
塊だと思っていたけど、よく見ると山のようにまとめてあっただけだった。
漁の網によく絡まり、邪魔なんだそう。他の網に絡まないように陸に上げて処分するらしい。
「食べられないの?」
「あれをか? …………ハハハハハハハ!!」
お兄さんは私の質問に虚をつかれたように一瞬固まってから爆笑。読んで字の如く、おなかを抱えて笑っている。
「嬢ちゃん面白ぇこと言うなー! ヌルヌルしてるだけの草だぞ? 味もしねぇし、食うやつなんかいねぇよ!」
「見てもいい?」
「ハハハ! いいぞ、いいぞ! なんなら持って帰って構わねぇ! そんかわり、いらなかったら処分場に持って行ってくれよ!」
お兄さんは笑いが治まらないまま、許可を出してくれた。
処分場の場所を尋ねると、今いる埠頭からほど近い場所。手押し車に積まれたカワクサを受け取ると、お兄さんは「荷車は後で持って来てくれ。腹壊しても知らねぇからなー」と一言添えて、船に戻って行った。
「食べられるの!?」
「まだ調べてないからわかんない。そうだったらいいなーって思って」
「ここでは邪魔になってしまいますので、先に移動しましょう」
ワクワクした様子のジュードさんと話していると、モルトさんに移動を促された。
ゴミだった場合のことを考えて、お兄さんに教えてもらった処分場へ。手押し車はジュードさんが運んでくれた。
処分場は広く、ゴミ集積場そのもの。山のようにカワクサが積まれているのに混じって、網やブイ……よくわからないものまで捨ててあった。ただ、なぜか臭くはない。
カワクサは太さ五センチ、長さは一メートルないくらいの茶色い葉っぱ。見た目は細長い笹の葉みたい。
みんなに見守られながら鑑定をしてみると……
「んあ! これは……」
『どうしたの?』
「これ、昆布になるんだって!! やったー! クラオル! 昆布だよ、昆布!」
『ちょっ! 落ちっ着きなさい!』
あまりの嬉しさにクラオルをガクガクと揺すって怒られた。
〈美味しいのか? 我の鑑定では〝河に生える草。ヌルヌルしていて味はない〟としか出てこないぞ〉
「毒じゃないけど、このままだと無味無臭って書いてあるよ」
「何かすると食べられるのー!?」
「高濃度の塩水で茹でた後、乾燥させると昆布になるって! 昆布はいい出汁が出るよ!」
期待の眼差しを向けてくるジュードさんに説明すると、ジュードさんはパァっと顔を綻ばせた。
この処分場にもいっぱいカワクサはあるけど、いつ捨てられたのかわからないものは触りたくない。
持ってきた手押し車のカワクサを回収して、お兄さんの元へ戻る。途中、また領主関係者と遭遇しそうになった。本格的に探されているっぽい。
先程のお兄さんに手押し車を返し、カワクサがもっと欲しいことを伝えると、「他の船にも言っておいてやるから、また明日来い」と了承してくれた。めっちゃ笑われたけどね!
予定していた釣りは領主関係者がウロチョロしているため断念。
ササッと買い物だけして宿に戻った。
宿からコテージに移動して、ジュードさんと昆布作り。
茹でると赤茶色に変化して、赤カワクサと呼ばれている理由がわかった。
グレンはそのままで食べられないことに肩を落としていたけど、昆布だしはそこそこ気に入ったみたい。
◇ ◆ ◇
次の日、約束していたカワクサを受け取りに埠頭へ。
「おっ! 来たな」
「じゃあ、この嬢ちゃんが?」
「そうそう! 物好きだろ?」
「ハハハハハハハ! ちげぇねぇな!」
お兄さんは漁師仲間に言っておいてくれたらしく、大量のカワクサを用意してくれていた。
お兄さんだけじゃなく、他の漁師にも笑われたけど、昆布が手に入るなら気にしない!
ただ、ガルドさん達が「お前ら、もっといいもん食わせてやれよ」って誤解されちゃって、申し訳ない……
今回、レシピ登録はしないでおくつもり。登録しちゃうと、昆布にする工程から、それを使った調理法まで教えなきゃいけなくなっちゃう。船のチケット買っちゃったし、変わらず領主に探されているから早めに街を出たい。
◇ ◆ ◇
船が出航する日、朝ご飯を食べているとプルトンが慌て始めた。領主宅にいた人物が、宿に近付いているらしい。
それを聞いた私達は急いで食べ終え、精算を済まして宿を出た。
プルトンの指示通りに街の中を迂回しながら移動して、船着き場へ着くとギルマスが待っていた。領主の追っ手が迫っていることを察知して、先回りしていたらしい。ギルマスの口利きで並んでいたお客さんより先に乗船。
「助かったな」
「だねぇ。プルトンもありがとう」
《気付いていないっぽいけど、まだ近いから安心はできないわ》
私達は次々に乗ってくる乗客に紛れ、気配を殺す。
船が出航するタイミングに合わせて甲板に出ると、あの偉そうな騎士の怒鳴り声が聞こえてきた。
グレンに持ち上げてもらって甲板から下を覗いてみると、騎士の周りには魚が散乱していた。どうやら、魚を運んでいた人とぶつかったみたい。騎士の近くでギルマスが満足そうに笑ってるから、ぶつかった人物はギルマスの差し金だと思われる。
「わーお。ギリギリだったっぽい?」
「あぁ。だが、もう船も動いているから大丈夫そうだな」
「ギルマスに感謝だね」
「そうだな」
ガルドさんもホッとした様子。
無事に船に乗れたことを実感した私達は笑顔で頷き合った。
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