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11章

改革と鬼母との晩餐

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 その後数日、家や村を囲っている機能していない柵の修理もお手伝い。ジルとグレンは乗り気じゃなかったけど、私がチョロチョロと動く度に手伝ってくれた。
 村人に簡単な計算についての青空教室も実施。
 この頃には兵士と村人はよく話をするようになっていて、私達やガルドさん達に対しても奇異な視線を送ってくることはなくなった。
 むしろ、ルシールさんやシューネさんやクエバさんよりも、なぜか私達には腰が低い。あの薬草採取時に偉そうにしていた子ですら「セナ様は何でも知ってるんだな」と〝セナ様〟呼び。

 連日肉体労働をしている兵士さんも汚れが目立ってきたので、急遽露天風呂も作った。
 兵士さん達には好きに使ってもらうけど、問題はお風呂を見たことすらない村人だ。前に王都マルマロで孤児の子達を洗ったとき同様、強制的に常に土まみれの村人を洗ってお風呂に入ってもらう。

 露天風呂は私以外お湯の管理ができないため、私がいる間だけ。
 それを知った村人の何人かはシューネさんに、お風呂は自宅に作れるのか聞いていた。
 その村人はお風呂の魔道具は高いことを聞いて意気消沈。あまりにも落胆していたので「村人でお金を出しあって、みんなで使えるお風呂を作るのもいいかもね」とアドバイスしておいた。

 魔法を鍛えれば自分で作れるけど、魔法に慣れていない村人には危険だとクラオルから注意されたので伝えていない。
 お風呂の魔道具は大きな物になればその分高くなるけど、そこは言わないでおく。シューネさんには「さすがセナ様! 商売が上手いですね!」なんて言われてしまった。そんなつもりはなかったのに……

 村は以前とは違い、日中でも老人以外が出歩くようになった。子供達は無邪気に村の中を走り回り、大人達も余裕が出てきたのか、村には笑顔が溢れている。
 結局、六日ほど滞在して、私達は村を後にした。

◇ ◆ ◇

 一緒に戻って来たルシールさん達と別れ、私達は宿へ。
 ジルの紅茶を飲みながら、ソファで一息つく。

「ちょっと疲れたねぇ……」
〈ふむ。だが、また明日からレシピの話をするんだろ?〉
「そうなんだよね。それに今日中にアーロンさんに手紙書かないとだし、夜はルシールさんのところに行かないとだよ」
『主様が休む暇がないわ』

 クラオルとグレウスがスリスリして私を癒してくれる。
 私の気の重さはルシールさん宅で夜ご飯を食べなきゃいけないせい。「セナ様にお礼をしないなんて、とんでもない! 他の貴族に示しがつきません!」なんて言われた私は押しに負けた。

 別部屋に泊まるガルドさん達に聞いてみると、ガルドさん達も時間まで部屋でくつろぐらしい。
 アーロンさんへの手紙を宿の店主に頼み、私達はコテージへ。
 グレンとジルはルシールさん宅のご飯が期待できないと、私が作った筑前煮を食べている。鍋ごと出したから、例えルシールさん宅で美味しくないご飯が出ても大丈夫だと思う。
 私はゆっくりとお風呂に入り、ベッドでクラオル達をモフモフさせてもらう。

「あぁ……モフモフって素晴らしい……」
『ふふふ。主様ったら。今にも眠っちゃいそうじゃないの』
「癒されるぅ……」

 クラオルの『起こしてあげるわ』という声を聞いて、私は眠気に逆らうことを止めた。



 クラオルとプルトンに起こされ、私は眠気まなこのまま宿に戻る。
 ジルの紅茶で頭を覚醒させていると、ほどなくしてルシールさんからの使いの人が訪れた。わざわざ馬車で迎えに来てくれたらしい。
 馬車二台にガルドさん達と分かれて乗り、ルシールさん宅へ。
 ルシールさんの家は今まで見てきた貴族のやしきよりは小さいものの、前庭にオレンジ色のナデシコみたいな花が咲き乱れる女性らしい雰囲気。権力やお金持ちアピールがないため、私も入りやすい。

 ガルドさん達と一緒にやしきの中に入ると、ルシールさんに出迎えられた。
 ルシールさんは割烹着は着ておらず、上質な布のロングワンピース姿だった。胸元の大きな宝石ブローチが上品な高級感を漂わせている。
 割烹着がデフォルトだと思っていたけど、勘違いだったらしい。

 早速、食堂に案内してもらう道中、廊下や窓辺には花瓶に花が生けてあって、ルシールさんの花好きが窺える。
 ルシールさんはある扉の前で「こちらです」と足を止めた。

 中はさすが貴族! って感じの長テーブルとイス。映画やマンガで見ていたけど、実際に見るのは初めて。さらに壁際には十人以上の執事さんとメイドさんが並んでいる。
 食堂の雰囲気に呆然とする私に「席までご案内致しますわ」と、ルシールさんはニッコリと微笑んだ。
 すると、壁際に並んでいた執事が寄ってきて「セナ様はこちらにお願い致します」と席に座らせてくれた。グレウスやジル、ガルドさん達も一人一人案内されている。

 左から順に、ルシールさん、私、グレン、ジル。向かい側は一席空けて、ガルドさん、ジュードさん、モルトさん、コルトさんだ。
 なぜか私はルシールさんの隣りだった。

 私達が全員着席すると、ルシールさんも席に座り、パンパン! と手を叩いた。
 それが合図だったかのように、入って来たのとは別の扉から料理が運ばれてくる。

「皆様の好みがわからなくて……乾杯の白ワインのみ用意してあります。エールや赤ワインなど、ご希望があれば給仕にお伝え下さい。セナ様とジルベルト様には僭越ながらフラゴラの果実水をご用意させていただきましたわ」

 ガルドさん達は緊張からお酒を頼む余裕はなく、グレンだけが赤ワインを頼んだ。
 ルシールさんの乾杯の音頭で食事がスタート。

 日本とは違って、この世界の大食い具合ゆえか……初っ端から前菜とは思えないくらいの量。私とジルは子供用なのか少なめだけど、グレンやガルドさん達は私の二倍もある。今はまだいいけど、二、三品食べたらおなかいっぱいになりそう。

 この世界のマナーがよくわかっていない私は、日本で行ったそこそこ高級レストランを思い出しながらナイフとフォークを進めていく。
 超高級レストランなんか行ったことないからね!
 フルコース形式の執事やメイドに見られながら食べるのは、正直緊張する。やっぱりみんなで和気あいあいと食べるご飯の方が好き。

「マナーなどは気にせず、お好きに食べてくださって構いません。それにしても……セナ様とジルベルト様は所作がキレイですのね」
「ありがとうございます」

 微笑みながら満足そうに頷くルシールさんに、及第点をもらえたみたい。
 マナーを気にするなって、こんな会場で慣れないフルコース形式のご飯が出されたら普通は緊張しちゃうよ!
 まぁ、緊張しているのは私とガルドさん達だけで、ジルは慣れたように、グレンは本当に気にしないでナイフは使わずフォークをぶっ刺して食べているけど……

「本当にこの度の一件には感謝してもしきれません。アーロン陛下より、セナ様は料理がお好きと伺っております。本日の食事はサフロムの街で採れる食材をメインで使っております。何か気になる点やご希望の食材がありましたら、仰って下さい」
「わぁ~。ありがとうございます!」

 そういうことなら、ただ食べるだけじゃもったいない。
 ジュードさんを見てみると、目が合った。きっとジュードさんも思っていることは同じだと思う。
(使えそうな食材か見極めないと!!)

 実物も見たいし、他の調理法も聞きたい私は食べ終わった後、料理人さんと会わせてもらえないかとお願い。私とジュードさんの様子にルシールさんは笑って快諾してくれた。

 やる気が上がった私は、鑑定で入っている食材を調べて、頭の中にメモしていく。
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