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11章

相談と国王権力

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 アーロンさんからの返事を待つ間に、匂い鉱石の使い道について話そうと、私はスモークチーズを出した。

「まず、私がなんでフィメィ村のことを聞きに来たのか、から説明しますね」

 森で迷子のツィンク君達を助けたところから、村の様子、ツィンク君とその両親から聞いた話、匂い鉱石の採掘について、匂い鉱石の実験……と、順番に話していく。途中、プルトンとエルミスからの情報も混ぜておいた。
 ところどころで、〝俺はその話、知らねぇぞ〟ってガルドさんからの視線を感じたけど、今はスルーさせてもらう。
 ガルドさん、ごめんね! 後でちゃんと話すから!

「それで、できたのが……この、スモークチーズです」
「本当に食えるのか?」
「セナ様を疑うわけではないのですが、ちょっと信じがたいですね……」

 クエバさんとシューネさんは二人共、チーズを見つめて悩んでいる。
 そこへ、ギルド職員がバタバタとアーロンさんからの返事を持ってきた。

「ふふっ。さすがアーロンさん。話しが早い!」

 読んだ手紙はグレン、ジル、ガルドさんと回してもらう。
 クエバさんとシューネさんには私とは別に手紙が届いている。

「ですが、この街にはタルゴー商会はないのですね……」
「そうみたいだね。むしろ商会がないとは思ってなかったや」

 アーロンさんからの手紙には、ここサフロムの街には商会がなく、個人店のみ。基本的に畜産と農業で生計を立てている住民が多い。新しいレシピはものすごーく魅力的だけど、販売者はよく吟味した方がいい。という内容が書かれていた。

 手紙を読んだクエバさんとシューネさんは、「陛下が言うなら……」と放置されていたスモークチーズを食べた。感想は「エールが飲みたくなるな……」だった。右手をクイクイとしているのは、無意識のお酒を飲みたいアピールだと思う。

「これがあの匂い鉱石からできるなんて……」
「これがあったら、いくらでもエールが飲めちゃうね……」
「「ぜひ登録を!」」

 示し合わせたかのようにハモった二人に笑ってしまう。
 今回のレシピもカレー粉同様、作り方そのものがレシピ登録となった。私が許可を出した人物以外は販売不可。つまり、作り方そのものを秘匿できる人物じゃないとダメ。

「誰に許可を出しましょうか……」
「まずは場所じゃないか? これは売れると思うよ。他の街にも運ぶことを考えたら大量に作らなきゃだろ?」
「そうですね……」

 シューネさんとクエバさんの相談が始まってしまった。
 誰に許可をするかも重要だけど、先にあの村をなんとかしたい。
 アーロンさんからの手紙では、この街の領主にも手紙を出したから、兵士と共に村の現状の原因を捕まえて欲しい。兵士への指示は一任するから好きに使え。と書かれていた。
 領主も巻き込むなら、そちらにも説明が必要だ。

「領主に話さなくていいんですか?」
「ん? ああ。あの人は伺わなくても大丈夫なのさ。そろそろ来るんじゃないか?」

 クエバさんがそう言うので、二人が相談し合っているのを見守る。
 十分後、現れたのは〝一昔以上前のお袋〟だった。
 ほっかむりのように頭に被った三角巾からキツいパーマがかかった前髪が覗いていて、ロングワンピースの上から割烹着を着ている。推定六十代前半だけど……タルゴーさんのような華やかさはなく、どっしりと構えているような雰囲気。キツめの眼差しと相まって、雰囲気は鬼嫁ならぬ鬼母。子供が悪いことをしたら容赦なくおしりペンペンとかしそう。

「来ると思ってたよ。領主の登場だね」
「アーロン陛下直々じきじきの手紙を受け取りました。奴隷のように扱われている住民がいるってどういうことですの?」

 ドアの前で仁王立ちした領主は、開口かいこう一番にそう言った。見た目はキツそうだけど、さすが貴族たる所以ゆえんか、口調は丁寧だった。

「この街じゃないよ。フィメィ村さ」
「フィメィ村……あの匂い鉱石の村ですわね……」

 眉を寄せた領主にクエバさんが座るように促した。
 座ってから私と目が合って、そこで初めて私達に気がついたらしい。

「まあ! お客様がいるところへ押しかけて失礼致しました。わたくし、この街の領主をしておりますルシールと申します」

 私達も自己紹介をすると「まあ! あなたがセナ様ですのね! お会いできて嬉しいですわ!」と手を握られた。
 さっきの威圧感のある雰囲気はなりを潜め、目元を和らげている。
 変わり身が速い……

 領主のルシールさんに村の様子を伝えると、ピクピクと眉と口元くちもとを引きつらせ、アーロンさんからの手紙をグシャリと握りつぶした。
 相当怒ってるみたい。「あのクソジジイ……」と呟く声は低い。
 領主とあの村長が知り合いなことに驚きだよ。

「元々、あの村は匂い鉱石で財を成しましたが、村長には歴代困らされておりました。一度、生活が苦しいのなら援助もできると、村長に村の現状を聞いたのです。しかし……『お前らは匂い鉱石をわかっていない!』と言うばかりで話しが通じませんでした。まさかそのように村人が奴隷のように扱われているなんて……確認を怠ったわたくしの失態です」

 ルシールさんは悔しそうに唇を噛んだ。
 その後、早い方がいいだろうと、今日中に村に戻ることになった。
 ルシールさんや兵士さん達の準備の間、私達はお昼ご飯を済ませた。



 集合時間になり、門前に向かうと……この街にこんなに兵士がいたのかというほど集まっていた。おそらく六十人くらい。
 さらにルシールさん、クエバさん、シューネさんも揃って向かうらしく、その三人にもお付きの人がいる。
 冒険者ギルドに案内してくれた兵士さんを見つけて、声をかけた。

「ねぇ、お兄さん。兵士さん多くない?」
「陛下より、街の警備に必要最低限残し、その他は全員セナ様に協力するようにと」
「マジか……」
「はい! 陛下とセナ様のお役に立とうと、非番の兵も集合しています」
「わお……」

 アーロンさんからの通達でやる気を漲らせている兵士さんに、規模を縮小してくれとは言えず……移動に時間がかかりそうだと思ったけど、魔馬車で休憩も最低限で向かうらしい。
 陛下からの要請だと街の住民にも協力してもらい、街にいる魔馬を全て集めたとお兄さんは教えてくれた。
 アーロンさんの権力を目の当たりにして、ガルドさんと私は苦笑い。

 お馬さんを見に行き、この先のことを考えてヒールをかけてあげる。

「休憩少ないんだって。大変だけど、頑張ってくれる?」

 私が話しかけると、お馬さんは鼻息荒く顔を擦りつけてきた。
 魔馬達もやる気充分みたい。

 クエバさんの号令で、総勢八十人ほどに膨れ上がった大所帯の一行は出発。


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