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第二部 10章
姉弟喧嘩
しおりを挟む一時間以上に亘って繰り広げられた姉弟喧嘩は、アーロンさんが姉の大剣を弾き飛ばしたことで終わったかに思えた……
アーロンさんは片手剣を握ったまま、拳で自分の姉を思いっきり殴り飛ばす。
見事なボディブローをくらって数メートルほど吹き飛んだ姉は、アーロンさんを睨みつけた。
「ゴホッ! なにする!」
「姉上? そんなに学習したいのか? まさか、国を治めるのに力だけでなんとかなると思ってないよな?」
「むっ……」
「そうか、そうか……ならば姉上もまた一から勉強が必要だな」
「い、いや……それは……」
「挑んできたのは姉上だろ? 敗者は勝者の言うことを聞く。さすがの姉上も知ってるよな?」
「ぐっ……」
あまりに腹が立ちすぎたのか、仄暗い瞳になったアーロンさんが低い声で言うと、姉は押し黙った。
その後、強制的に三人に正座をさせ、二時間ほどアーロンさんのお説教が続いた。
母親共々彼らは肩を落としていたけど……それでも、懲りていないのか「オレのことが好きなくせに」と少年の呟きが聞こえてきて、私もイラッとしてくる。
「その勘違い、迷惑なんだけど。むしろ嫌いだわ」
〈当然だな〉
「なっ!」
私がジト目で告げると、グレンが嬉しそうに相槌を打った。
「隣りで笑ってるけど、あなたもだよ」
「え!」
「そんなに驚くこと? 私とあなた達、一昨日が初対面だよね? 仮にも王族でしょ? 人の気持ちも考えずに、自分に都合よく解釈するなんておかしいと思わないの? 国の代表だよ? あなた達の言動一つで戦争だって起こりえるんだよ? 街の住民からの税金で生活させてもらってるのに……そんなこともわからない王族なんて国民が不幸になるわ。戦うにしても戦略が大事。戦略も練れない大将なんて、戦いに不必要でしょ。謝罪もないし、マジで今後私達に関わらないで」
この子達に仕えてる人達が不憫になってくる。どれだけ振り回され、尻拭いをさせられているのか……
大体、恋愛感情は別として、私の周りには顔も性格もイケメンが多い。どんだけ自信があるんだよ……と思ってしまう。
私が真顔で説いたからかはわからないけど、彼らは口を真一文字に結んで、俯いた。
このお説教がキッカケになるとは思えないけど、もう少し王族としての危機管理や責任を持って欲しい。まぁ、持ったところで王位継承権はないんだけどさ。
アーロンさんには次代をちゃんと育ててから引退してもらいたい……
お説教が終わったアーロンさんは、母親の方にも誓約書を書かせていた。
少年少女もそうだけど、母親の方も魔法ペンでの署名。神に誓うことになり、約束を違えることは叶わない。もし誓約を破ったら罰が下る。それは破り具合にもよるけど、おそらくパパ達が嬉嬉として罰を与える気がする。
クラオルが『ガイア様が〝どうしてくれようか〟って言ってたわ』って教えてくれたし……アーロンさんも「これ以上セナに迷惑をかけたら、姉上共々書庫に閉じ込める」と脅していた。その脅しに三人は「ひっ!」と声を漏らし、一番効いていそうで私は苦笑い。
◇
執務室に戻った私達は再びアーロンさんに謝られた。
「すまん。これで少しはマシになるといいんだが……」
〈マシにならなかったら?〉
「誓約書があるからセナ達には会えないだろう。それでもセナに迷惑をかけるようなら、僻地に飛ばすか、処刑も視野に入れる。廃嫡したところで変わらなさそうだからな……少しはまともになることを願う……」
お疲れ気味のアーロンさんにジャムパンを出し、気苦労を労う。
いつもだったらジャムのレシピを……って話になりそうだけど、そんな話題が出ることはなかった。ただ、グレンと競うように十個ほど平らげていた。
◇ ◆ ◇
あの一件が終わり、私達はのんびりと王都に一週間ほど滞在。
現在進行形で貴族のことを調べてくれているドナルドさん達にお礼のパンと、片手でつまめるラスクも渡した。
アーロンさんは次の日にはいつも通りに復活。プロテインの小ビンを二百個と腹筋ローラーの魔道具を「とりあえず」と、買い取ってくれた。お城の財源が復活したら、他のも徐々に買い取るらしい。〝他の人に売るなよ〟と何度もしつこいくらいに念を押された。私達が使うのはいいけど、売るのはダメらしい。
件の親子は私に会おうとする度にトイレに駆け込むハメになり、滞在中は平和だった。
誓約書にサインをしたせいか、家庭教師の授業をサボれなくなった少年少女は普段は大人しく生活。その反動か、訓練時はストレスを発散するかのように暴れまわっているらしい。
ただ、考えてから行動するようになり、少しは成長しているみたい。アーロンさんは「無駄な注意をしなくて済む」と喜んでいた。
◇ ◆ ◇
「セナっちー!」
「はーい!」
ガルドさん達は準備万端らしく、ワクワクが隠せていないジュードさんに呼ばれた。
今日からまったり旅が始まる。
「しゅっぱーつ!」
テンション高く私が声をかけると、馬車を引いたニヴェスが走り出した。
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