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11章

王都を出発

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 目指すはここシュグタイルハンから北の国……精霊達が教えてくれた腐呪ふじゅの森。
 途中ちょっと寄り道もするつもりではあるけど。



 一度、ブラン団長のいるキアーロ国に顔を出すか迷ったんだけど、やっとカリダの街の領主が決まり、ブラン団長達は忙しいみたい。なので、お手紙だけのやり取りにしておいた。

 デタリョ商会からは、「他の街にも出店し始めました。現在従業員を徹底的に育てておりますので、セナ様が訪れる街に我が商会があればぜひお立ち寄り下さい」と連絡がきた。
 ちなみに、キアーロ国の王都にも出店したらしい。ただ、既に四つも商会があるため、王都支店では私がレシピ登録したスライム系便利道具と、業務提携したタルゴー商会からの取り引き品であるホットプレートとカレーパックのみ扱っているそう。

 キアーロ国、商業ギルドのサルースさんからの手紙には、カレー粉を使った料理屋を一店舗出すことの許可について。これは、キアーロ国でも流行らせて、観光客を呼び込もうというアーロンさんの案。
 レシピ秘匿のため、デタリョ商会で扱うカレーパックはこのお店にのみ販売される。一日限定百食のカレーは大人気で、中敷きと共に話題をかっさらっているらしい。

 ネライおばあちゃんの服屋さんは、今や冒険者達に大人気で、半年待ちの予約販売だ。仕事に忙殺されない程度に余裕を持ってスケジュールを組んでいるらしく、「セナちゃんからの依頼はいつでも受けられるからね。依頼がなくても王都に来たら寄ってくれると嬉しいよ」と書かれていた。

 タルゴーさんからは、中敷き工房の現在、ソイ村の現状、デタリョ商会との業務提携について、スライム系のドロップ品の買い取りについて、スライム泥のエステ店の出店報告……と、手紙という名の分厚い報告書だった。
 タルゴーさんの特徴である語尾の〝ですわ!〟のオンパレードで、タルゴーさんが話しているところが容易に想像できて笑ってしまった。

 ミカニアの街で泊まった宿〝宿り木亭〟のラゴーネさんからはお礼の手紙。
 これは私がクラオルとグレウスの木彫り像を送ったから。お守りのあの像ね。
 井戸の件で私の味方をしたため、アーロンさんからも書状が届いたらしい。
 「またミカニアの街にお立ち寄りの際にはぜひ当宿へお越し下さい。従業員一同歓迎致します」と丁寧な字で書かれていた。

 グーさんからも早速手紙がきて、タルゴー商会の定期配達のお礼が書かれていた。タルゴー商会が気を利かせて、グーさんからの手紙の配達も請け負うことになったらしい。配達員に、私からアーロンさんに進言したことを聞いたみたいで、私達のために森で採取したものを保存しておいてくれるそう。
 近くに来たら遊びに行かないとね!



 王都を離れたところで、私はコテージのドアを出した。
 ジルは相変わらず御者席だけど、念話が使えるから何かあっても大丈夫! ネラース達もニヴェスと一緒に走ってるから、相当強い魔物じゃなければ任せておいて無問題モウマンタイ

 みんなには自由にしてもらい、私はグレンと一緒に作業部屋へ。

〈今日は何を作るんだ?〉
「ガルドさん達にあの石器を出されなくて済むように短剣と、ついでにジルの片手剣作れないかなって思って。ダンジョンで欠けちゃったでしょ?」
〈ふむ。ならば素材は神銀ミスリルじゃない方がよさそうだな〉
「そうなの? 神銀ミスリルで作る気満々だったんだけど……」
〈見るやつが見れば神銀ミスリルだとバレる可能性がある。セナは付与も上手いが、さすがに戻ってくる機能は付けられないだろう?〉
「うん」
神銀ミスリルの武器防具は高価だ。われらと常に行動するワケじゃないなら、狙われる可能性を考えておいた方がいい〉
「なるほど」

 グレンがすごくまともなこと言ってる……ちょっと見直したわ。
 そうなると、確実に神銀ミスリル以外がいいよね。
 ただの鉄だと、その辺の武器屋さんで売ってる量産品と変わらない。
 Sランクパーティであるガルドさん達が持っていてもおかしくない、そこそこのモノが理想だ。

 グレンと相談しながら、鉱石の成分を抽出、分離、合成させていく。
 ここで日本との違いが露見した。
 日本だと、成分を全て混ぜるんじゃなくて、違う金属を合わせて叩いて伸ばしたり、部位によって違う金属を使ったりするけど、この世界では全部混ぜても大丈夫。むしろ、ちゃんと混ぜた方が魔力浸透力が上がるらしい。
 ジルの弓矢を作るときは、溶かした鉄をそのまま成形してたから、成分の話までしていなかった。
 日本の匠が来たら「なんて楽なんだろう」って思う気がする。

 一塊ひとかたまりにした金属成分を炉で熱しながら叩いていく。横で、グレンがアドバイスをしてくれているのがありがたい。

「思ってたより硬いね」
〈ふむ。だが、初めて作ったにしては上手いと思うぞ〉
「ほんと? 厚さが一定じゃないのに?」
〈あぁ。われが初めて作ったモノはすぐに欠けたり、折れたりした。そうだな……ここはこうやって直すといい〉

 グレンは私を抱えるようにすぐ後ろに座り、私の手に重ねて打ち方を教えてくれる。
 力加減が上手いのかグレンが一緒に叩くと、みるみるうちに厚さが均一になっていく。

「おぉ~!」
〈後は刃先を叩いて尖らせる。こうやるっ、とチカラを込めなくていい〉
「へぇ~! やじりと叩き方が違うんだね」
〈できたぞ〉

 短剣を冷ましてよく見てみると、グレンが手伝ってくれた刃はいい感じなのに、私だけで打った持ち手のところはいびつさが否めない。

「これ、溶かしたら打ち直せる?」
〈あぁ、大丈夫だ。打ち直すのか?〉
「うん。どうせ作るならちゃんとしたやつ作りたい。これ、持ち手ブサイク……」

 私がガックリと肩を落とすと、グレンが笑いながら頭を撫でてくれた。

〈ククッ。セナは器用だからな。すぐにコツも掴むだろ。われが付き合ってやる〉
「ありがとう!」

 グレンに慰められてやる気を上げた私は、そこから毎日短剣作りに追われることになった。

 最初、一緒にいてくれたクラオルとグレウスは、二日もすると飽きたのか別行動に。
 朝から晩までのご飯の時間以外をグレンと共に鍛治部屋に籠ること六日、やっとガルドさん達用の短剣ができた。

「できたー! 最後の仕上げに付与だね!」
〈う、うむ〉

 斬れ味が増すように、丈夫で長持ちしますようにと願いを込めながら魔力を浸透させる。

「終わったー!」
〈またすごい付与を付けたな〉
「へ?」
〈……ククク。鑑定してみろ〉

 グレンの発言に首を傾げながら鑑定してみる。

┌【強玉鋼の短剣】───────────────────┐
・玉鋼をより強固にした素材の短剣
・純粋な金属成分にセナの魔力が浸透しており、玉鋼の中では最凶
・火力上昇、耐久性抜群、防錆、防汚、加速
・各属性魔法との相性が非常によい
・軽い隠蔽魔法がかけられており、余程目が肥えた者でなければ普通の短剣に見える
└────────────────────────────┘


「あれ? 防汚とかまで付いてる。まぁ、いいよね!」

 ちょっと気になるのは〝最強〟じゃなくて〝最凶〟って書いてあるところだけど……なぜか隠蔽もかけられてるらしい。わからなくなるのは無問題モウマンタイ

〈さすがセナだな。本当に面白い〉
「ん? それって褒めてる?」
〈もちろんだ。武器屋泣かせだとは思うがな〉
「むっ! 褒めてなくない?」

 グレンを見上げながら睨むと、〈ハハハッ〉と笑いながら頭をクシャクシャされた。
 むぅ……絶対誤魔化そうとしてる!

〈ククッ。五本ということはジルベルトのも入っているんだろう? 今度は寝るときに武器を抱きしめるのを止めさせないとな〉
「そういえば弓作ったとき、しばらく弓と一緒に寝てたね……」

 相当気に入ったのか、今でもよく弓の手入れをしてくれている。手入れってよりは柔らかい布で磨いている感じだけど。

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