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第二部 10章

マースールー迷宮たる所以【10】

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 眩しさに閉じていた目を開けると、目の前には魔物の大群が待ち構えていた。
 目視できるだけでもオーク系、ゴブリン、牛、馬、熊、虎……と、多種多様な魔物が鎧や武器を持って武装している。全魔物が二足歩行の筋骨隆々のマッチョだった。

「うおっ!」
〈チッ! モンスターハウスか! 気を付けろ!〉

 ガルドさんにいきなり襲いかかってきたゴブリンを弾き飛ばしながら、グレンが叫んだ。
 モンスターハウス――別名パニックルーム、または殺人部屋。ダンジョンの中に存在する、魔物で溢れ返った部屋のことを示す。

 今までのマッチョな筋肉を見せびらかしていた魔物とは違って、攻撃をしかけてくる。スピードも速いし、攻撃力が桁違い。
 みんな散らばって各々おのおの向かってくる魔物からの攻撃を回避しながら攻撃していく。
 私も例に漏れず、刀と短剣を握りしめて向かってくる敵を魔法で牽制しながら切り倒す。

 ガルドさん達は魔物の力任せの攻撃に耐えるのでいっぱいいっぱいみたい。
 プルトンに結界を担当してもらい、私はゲームのように攻撃力とスピードが上がるように願いながら、みんなの身体に魔力をまとわせた。
 ガルドさん達は「なんだこの感覚は」と驚いていたけど、圧され気味だった魔物の攻撃を逆に弾き返していた。
 ぶっつけ本番だったけど、成功したらしい。

 混戦というよりも大乱闘と言った方がいいかもしれない。
 ただ、グレンやネラース達は楽しそうにイキイキと魔物を狩っていて、精霊達は淡々と魔法を放つ姿が対比的。

「ジル!」
「ありがとう、ございます」

 ジルに向かって飛んできた弓矢を風魔法で撃ち落とした。
 魔物なのに飛び道具で的確に狙ってくるなんて厄介だ。
 アルヴィンにジルをちゃんとフォローするように言い、ルフスにガルドさん達の回復を頼む。
 倒しても倒しても一向に減らない魔物にちょっと焦ってくる。

《セナ様、そのまま魔力を使い続けるのは危険です》
「でもっ、ここ乗り切らないとっ!」

 みんなに魔力をまとわせたことで魔力がゴリゴリ減っていくのはわかってるけど、みんなの安全を考えたら解除はできない。
 マジックポーションを飲みながら敵を倒していると、ウェヌスの雰囲気が変わった。

《グレン! ネラース達も! 遊んでないでさっさと片付けますよ! セナ様の負担になっているのがわからないのですか!? どきなさい!》

 いつになく声を張り上げたウェヌスは、言いながら手の平から光線を出した。それはまばゆい光を放ちながら敵に真っ直ぐ発射され、線上にいた魔物を焼却していく。
 見た目は完全にバトル漫画のパフパフ好きな仙人の必殺技……の片手バージョン。

「わお……」

 ウェヌスの攻撃に圧倒されていると《プルトン! マズイ! ガルド達を守れ!》とエルミスが叫んだ。
 私はエルミスに抱えられ、同じくアルヴィンに抱えられたジルと共に入り口近くまで後退させられる。
 ウェヌスはグレンやネラース達がいるのも構わず何回も光線を放ち、ネラース達は巻き込まれないようにと右往左往。
 ドン! ドーン! と激しい音を立て、衝撃で部屋全体が揺れている。

《まだ理性があるだけマシだな……》
「ネラース達が危ないよ!」
《いや、キチンと避けられるようにしているから大丈夫だ。見てみろ》

 エルミスに言われて見てみると、ネラース達はウェヌスの攻撃に合わせて魔物を追い詰めていた。
 慌てていたのは最初だけだったらしい。
 ウェヌスが光線を出し始めてから二十分ほど経つと、魔物はほとんどいなくなり、床にはそこらじゅうにドロップ品が転がっている。
 最後の一発をお見舞いして全て魔物が消えたのを確認したウェヌスは《ふぅ……》と息を吐いた。いつものウェヌスに戻ったみたい。

《セナ様、大丈夫ですか?》
「う、うん。私は大丈夫だけど、ウェヌスは大丈夫? ポーション飲む?」
《私を心配していただいてありがとうございます。ポーションは大丈夫ですが、少々興奮してしまいましたのでセナ様のシャーベットをいただけたら嬉しいです》

 あんなにボンボン破壊光線を出していたのに疲れも見せないウェヌスは、私が想像していたよりも遥かに強いことがわかった。

《ちょっと! こっちのことも考えてくれる!?》
《おや、あまり被害が出ないようにしましたが? それともあのままセナ様が倒れてもよかったと言うのですか?》
《んもう! そんなこと言ってないじゃない!》

 ガルドさん達を結界で守ってくれていたプルトンがウェヌスに怒ると、ウェヌスはシレッと返した。プルトンは言い返せないのか〝ぐぬぬ〟と悔しそう。

「プルトン、ありがとう。大丈夫?」
《セナちゃーん!》

 プルトンはをエルミスから奪い取り、私の頭にスリスリと頬ずり。
 これは……いつもイグねぇにやられてる感じだ。
 腕を伸ばしてプルトンの頭を撫でてあげると、少し落ち着いてくれたみたい。

「ドロップ品回収しないと」
《それはセナ様に負担をかけた彼らにやってもらいましょう。わかりましたね?》

 ウェヌスがニッコリとネラース達に笑いかけると、ネラース達はビクッと反応した後すぐにドロップ品を集め始めた。

 グレンとネラース達がドロップ品を集めてくれている間に私達はラグを敷いて休憩。
 ガルドさんと精霊達にとりあえずのジャムパンを渡し、疲れているみんなのために特別なシャーベットを作る。

「ウェヌスってすごいんだねー! オレっちあんな魔法初めて見たよー!」
「だな……結局、俺達はあんま役に立ってねぇな……」
「まさか精霊の本気を見られるとは思いませんでした」
《あれはウェヌスの本気ではない》
「「「「え」」」」
《ええ。少し熱くなってしまいましたが、本気ではありませんね》

 ガルドさん達と精霊の話を聞きながら、チートなリンゴを使った〝アポの実シャーベット〟を完成させ、みんなに配った。
 回収してきてくれたネラース達を撫でて労い、ネラース達にも渡すと大喜びでがっついている。
 私も食べると、リンゴパワーで体力も魔力も回復していくのを実感。

「なんだこのシャーベットは……おい、セナ!」
「みんな疲れてるから特別だよ」

 ガルドさんは聞きたかったみたいだけど、私が言わないことがわかったのか「ったく」と呆れたように言い、残りのシャーベットを食べた。
 一緒にいてもらってるのにあんまり秘密が多いのはちょっと嫌。パパ達からの許可をもらったらちゃんと話したい。引かれないといいんだけど……

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