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第二部 10章
マースールー迷宮たる所以【9】
しおりを挟む順調に進んで、砂漠の五十九階層を歩いていたときに事件が起こった。
突然、私達の足元の砂がぐるぐると渦を巻いて、あっという間に蟻地獄のように私達を飲み込んだ。
私達が落とされたのは六十階層。グレンが言っていた、落とし穴みたいに落とされるってやつだったみたい。
ガルドさん達は不意に落とされたことで尻もちを付いていて、グレンやネラース達はしっかりと着地、アルヴィンがジルを抱えていて、私もウェヌスの腕の中。
《セナ様、おケガはありませんか?》
「ゴホッ……ウェヌス、ありがとう。大丈夫だけど、叫んだ拍子に砂食べちゃった……」
周りを見渡すと、雰囲気がガラリと変わっていた。
石の洞窟……というよりも神殿、もしくは遺跡風と言った方がしっくりくる。
人工的な石畳の床に石の壁。
私達は小部屋に全員落とされていた。
〈なんだここは……〉
「こういうことってよくあるの?」
〈いや、落ちることはあるが、こんな場所に落とされるのは我も初めてだ。神殿か……?〉
グレンもガルドさん達も精霊達もわからないと言う。
全員いることをしっかりと確認して、砂漠じゃなくなったためアクランを影から呼んだ。
「でも、ここ六十階層らしいから、ダンジョンの続きではあるみたいだよ」
『主様、ガイア様と連絡が取れないわ』
「それは……ヤバそうだね。でもここから出られる転移装置が見当たらないよ」
『主様の転移は使えない?』
「…………ダメだね……」
『なら、進むしかないのね……』
クラオルに言われて転移を試したけど、どうも上手くいかない。外と接続ができない感じだ。
上の階層に行けないかともう一度試してみたけどダメだった。
ガルドさん達にも充分注意するように伝えて、私達は小部屋から続く通路へ足を踏み出した。
五十メートルほど進むと、先導していたニヴェスに止まるように言われた。罠が仕掛けられているらしい。
ニヴェスの指示通りに回避して再び進み始めると、すぐにまた別の罠があった。
「これって、このまま罠だらけってことはないよね?」
〈わからん。ダンジョンだからありえなくはない〉
「これ、俺達じゃ判別できないぞ」
相談した結果、ガルドさん達はネラース達の背に乗ることになった。
ネラースにはガルドさん、アクランにはジュードさん、モルトさんとコルトさんの二人はニヴェスの背へ。
私とジルは精霊に抱えてもらい、グレンは歩きだ。
しばらく歩いていると、何かカチッとスイッチみたいな音がして、床がパッカリと開いた。
ネラース達が瞬時に回避して難を逃れたものの、ジュードさんは「まだ心臓がバクバクしてるー」と言っていて、ガルドさんやモルトさんも不安そう。
その後もちょいちょい罠が発動して、カエルが落ちてきたり、ヤリがすぐ横の壁に刺さったり、床から炎が吹き上がったり……といろいろありつつ、広めの小部屋に辿りついた。
部屋にはガーゴイルのような石の像が四隅にあって、ちょっと不気味だ。
「ここ、セーフティーエリアかな?」
「なら休憩しよう。身が持たん」
「そうだねー。もうお昼過ぎてるし、ご飯食べよー」
ガルドさん達は罠のせいで精神的に疲れてるっぽい。
元気が出るようにお昼ご飯はウツボを焼いた。
食べたことのない鰻丼にガルドさん達は美味しいとガツガツ食べていたけど、やっぱりどこか落ち着かないみたい。
〈((セナ、どうした?))〉
「((ここさ、魔物の気配はするのに何で出てこないのかなって思って。あと、ずっと気になってたんだけど、亡くなった冒険者達の装備品がないんだよね))」
考えていた私にグレンから念話が届いた。
通常のダンジョンなら、亡くなった冒険者の装備品はダンジョンが吸収するか、周りにいる魔物が剥いで自分のものにしたりする。
ダンジョンに吸収された装備品は宝箱として、ダンジョン内のどこかに置かれていることが多い。
このダンジョンで装備品を身に付けた魔物は出てきていないし、ネラース達が見つけてくれた宝箱は全部ポーションだ。
〈((そう言われるとそうだな……このダンジョンは他のところと勝手が違うところが多い。種類の違う魔物から同じドロップ品が出たことも驚きだ。この先がどうなるのかは我にもわからん。気を引き締めた方がよさそうだな))〉
私はグレンと頷きあった。
クラオルがガイ兄とコンタクトを取れないことも引っかかる。
ネラース達にガルドさんの守りを優先するようにお願いした。
ご飯も食べ終え、充分に休んだところで出発しようと顔を上げた私から「え」と声が漏れた。
部屋の四隅にあったガーゴイルがいつの間にか私達の近くに移動していて、私達を囲っている。
気付いたガルドさん達も戦闘体勢になり、私は全員を守るように結界を張った。
「どうなってるの? 不気味すぎるんだけど……」
「動いた気配なかったぞ……」
「気味が悪いですね……」
ウェヌスは私を抱きかかえ、エルミスとプルトンが私を守るように立っている。
しばらく睨み合いが続き、ガーゴイルの瞳が白く光った瞬間――私達の足元に魔法陣が現われ、フラッシュのように激しく発光した。
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