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第二部 10章
マースールー迷宮たる所以【5】
しおりを挟む「おぉー! すごーい! 臭くないー!」
「これなら大丈夫そうだな」
「しかし、先ほどのことを考えると武器は使わない方がよさそうですね」
ガルドさん達の言葉に、コルトさんも頷いた。
クラオル達も前よりはマシみたい。結界のおかげで涙も流していない。
やる気を上げたネラース達の先導で、魔物を狩りながら迷路型の森を進んで行く。私はもちろんエルミスの腕の中。
臭気で集中力が途切れないため作業効率が上がり、そのまま二十六階層のボス部屋まで来た。
ここまででネラース達が見つけてくれた宝箱は、全てポーション。今までの運がよすぎたのか、アーロンさんが求めていた魔道具は一つも出ていない。
冒険者のドッグタグも見つけてしまい、今のところ二十二個。多分この先も増えると思う。
臭い魔物じゃありませんように……と願いながらボス部屋の扉を開ける。そこには巨大向日葵のような植物がボス部屋の半分ほど植わっていた。高さは五メートルほどで数は三十以上。色は黄色・赤・茶色・白・オレンジと様々。
よく見ると花の中央に顔のような模様があった。
私達がボス部屋に入り、扉が閉まると向日葵達はクネクネと動き始めた。
一本、また一本と地面から根っこを出し、歩いてコチラへ向かって来る。
〈セナ、焼いてもいいか?〉
「いいよ!」
グレンに許可を出すと、グレンはルフスと一緒に羽ばたいた。上から攻撃するみたい。
グレンとルフスが同時に炎を吐くと、向日葵達は炎から逃げようと根っこの足で部屋中を走り回り始めた。
私達はコチラに向かって来た向日葵を狩っていくだけ。
三十分もかからず、ボス部屋を攻略できた。
今回のドロップ品は五百ミリのペットボトルサイズのビンに入った液体が四十本と、大量の向日葵の種。
液体は【日焼け油】。〝強く見せることができる油〟。利用方法は日本のサンオイルみたいに肌に塗ると日に焼けやすくなるらしい。ちなみに無毒なので食用にも使える。
ひまわりの種は【ビッグゾンジラの種】。〝筋肉や肌が強くなる種〟。これは普通の食用ひまわりの種と同じみたい。殻を取って中身を食べる。焼いてもよし、炒ってもよし、煮てもよし、もちろんそのまま食べてもよし。調理法で栄養価は変わらないらしい。ただ、地球とは違って食べすぎの弊害はないみたい。
スキムミルクも充分使えるけど、食べられるモノは嬉しい。特にコレはボス戦だから手に入りにくいものだと思う。まぁ、大量だからそんなにすぐなくならないと思うけど……
「まともに使えそうなものキター!」
〈食べられるのか?〉
「うん! いつも食べてるナッツと同じ感じ!」
〈そうか!〉
プロテインもローヤルゼリーも美味しくなかったから、グレンは殊更嬉しそう。
笑顔で手を伸ばしてきたグレンの手の平に向日葵の種を乗せてあげる。
ジュードさんがキラキラとした顔を向けてくるので、みんなで試食タイム。
「こうやって殻を割って、中身を食べるの」
みんなに見せながら食べてみせると、それぞれ食べた。
味は日本の向日葵の種そのまんま。飼っていたハムスターのエサ用に買ったやつを食べた小学生時代を思い出してしまった。
〈あまり美味しくないな……〉
「ふふっ。パンとかに入れたり、ローストして味付けたら普通に食べられるよ。今度パン焼くときに作ってあげるね」
〈うむ! 楽しみにしている!〉
ジュードさんも首を傾げていたけど、私とグレンの会話を聞いて納得したみたい。
全部回収して続き部屋から下へ降りる。
二十七階層も森の迷路型。ただ、カメムシが登場しなくなり、その代わりにカラフルな蝶や蛾が現れるようになった。
この二種は状態異常の鱗粉をこれでもかと撒いてきて、ピンクやら青やら黒やらと空気中の色を変えてくる。
ただ、私達は結界を張っているし、マスクもしたまま。状態異常には誰もかからなかった。
最初の方はみんな警戒して様子を窺っている間に鱗粉を撒かれていたけど、攻撃をしてこないことがわかると、さっさとネラース達に狩られていく。
ガルドさん達はネラース達を褒めてくれ、さらにやる気を上げたネラース達の狩りのスピードが上がった。
この階層のドロップ品はスキムミルクと蜂蜜にプラスして鱗粉。
鱗粉は食紅みたいな着色料。水に溶かして使うらしいんだけど……正直なくても困らない。
ネラース達に任せたまま進み、三十一階層のボス部屋へ。
扉を開けると、中には何もいない。
「気配はあるのに…………ヒィィィィィーーーー!」
天井を見上げた私の引きつった悲鳴が響き渡った。
天井には三メートルはありそうな巨大なカブト虫の幼虫みたいなイモムシが三匹ぶら下がり、前後左右にプランプランと揺れている。
「無理無理無理無理無理無理! ヤダヤダヤダヤダ!」
私はエルミスにしがみついて、何とかしてくれと必死にアピール。
そんな私を見てガルドさん達は驚いていたけど、気にする余裕はない。
《主よ。落ち着け。大丈夫だ! ちょっ、苦しい……》
《セナ様、落ち着いて下さい。大丈夫です。私達が手出しさせません》
「うぅ……吐きそう……」
え!?
ウニョンウニョンと動く気持ち悪さに血の気が引いて、私はグロッキー。
ガルドさんから「そんなにか……」って声が聞こえた。「そんなにだよ!」とつっこむ余力は今の私にはない。
目を閉じたいけど、閉じたくないジレンマに私が陥っている中、グレン達が行動を開始した。
グレンとルフスが羽ばたいて炎の玉をぶつけると、ドーン! と激しい音を立ててイモムシが落下。
地面に落ちたイモムシに向かってネラース達が魔法を放ち、タイミングに合わせてガルドさん達が切り込んで行く。
言葉を交わしていないのに息がピッタリだ。
《セナちゃんの敵は私達の敵よー!》とプルトンが声を張り上げながら、ウネウネと動くイモムシの動きを結界を上手く使って阻害していた。
イモムシは硬いのか耐性があるのか、かなりしぶとい。一時間以上攻撃されまくっているのに一向に戦闘が終わる気配がない。
イモムシは体全体で体当たりをするようにみんなに攻撃していて、避けられなかったときの一撃が重いみたい。ガルドさん達は武器を盾代わりにして凌いでいるけど、耐える表情が大変さを物語っている。
鑑定してみるとほぼ筋肉で、物理攻撃耐性を持っているらしい。
〈セナ! 毒は!?〉
「うぅ……あるよ……はい。アレ、物理攻撃耐性持ってるから魔法のがいいかも……」
グレンに毒薬を渡すと、グレンは私の頭を撫でてから戦闘に戻って行った。
グレンが声を張り上げて全員を下がらせると、プルトンがイモムシに結界を張った。そこへグレンが上から毒を振りかけ、動きが鈍くなったところで戦っている全員で魔法の総攻撃。
ドカーン! と派手な音がして、爆風が起こった。
土ぼこりが収まると、エフェクトが現れ、巨大カブト虫の幼虫が消えた。
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