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第二部 10章
マースールー迷宮たる所以【4】
しおりを挟む二十三階層へ降りると、また広場型の森。この階は臭くなくて、みんな揃ってホッとした。
出てくる魔物は先ほどとはちょっと違う蜂だけ。大きさは同じく一メートルくらいだけど、白色でお尻が大きい。パッと見、アンバランス差が目立っている。
魔物を倒しながら階段を探していると、先導していたネラースから念話が届いた。何かを見つけたらしい。
『美味しそうにゃ匂いがしますっ』
「え!? これ?」
私達が追い付くとネラースはそう言って、〝巨大な泥の山が乾燥しました〟みたいな物体を爪先でカリカリし始めた。
それは森の中にドドン! と現れた、高さは三メートル以上、横は四メートル以上あるドーム型の物体だった。
「なんだ?」
「美味しそうな匂いがするって」
「これがか!?」
ガルドさんに説明していると、わらわらと蜂が山の上から溢れ出てきた。
蜂の巣だったみたい。
一気に蜂に囲まれてしまい、ガルドさん達は武器で、私達は魔法で応戦。
ネラースは匂いが気になるのか、私達が戦っていてもずっとカリカリと土の山をいじっていて、どんどんと現れる蜂にグレンが痺れを切らした。
〈おい、ネラース! 貴様も戦え!〉
『……はい』
ネラースの返事には少し間があって、どれだけ気になるのかと苦笑いが零れる。
ネラースは参戦したけど、どんどんと蜂が現れ、地面には蜂蜜の小ビンが足の踏み場がないくらいに転がっている。
結局、全て倒すまでに二時間以上かかり、終わった頃にはガルドさん達は疲れを滲ませていた。
ドロップ品を全て回収。
今回も蜂蜜ではあったけど、ちょっと味が違うものだった。
魔物大量発生のダンジョンで手に入れたピンクの蜂の蜂蜜も違ったから、蜂によって味が違うんだと思う。
見た目はちょっと色が違うかな? ってくらいしか差がないのに、味は結構違う。今回はちょっと白っぽくてまろやか、ピンクの蜂のはちょっとピンクがかっていてとっても甘い。
ポラルに乾燥した泥山の上から偵察を頼み、ルフスとニヴェスに辺りの見回りをお願い。クラオルとグレンがネラースにお説教している間、私達はちょっと休憩。
「……大丈夫?」
「うん。コルトさんは疲れちゃった?」
「……もらったポーション飲んだから平気」
「よかった!」
コルトさんは微笑みなが私の頭を撫でてくれた。
「このポーションとマジックポーション、普通のと違うくないか?」
「ちょっと甘くて飲みやすいよねー」
「回復量も多い気がします」
「このポーションはセナ様が作った特別な物です」
「「「!」」」
不思議がっているガルドさん達にジルが自慢げに教えると、ガルドさん達はバッ! と私に振り向いた。
「アハ」
「笑って誤魔化すんじゃねぇよ……特別ってどういうことだ?」
「それは普通のポーションだよ。前に薬草に詳しい人に会って、いろいろ教えてもらったからちょっと改良したやつだけど」
「セナ様が手がける物は全て特別です」
私の返事を聞いてガルドさんは何か言いかけてたけど、ジルの信者発言でため息に変わった。
そんなガルドさんの肩をジュードさんが笑いながら叩いている。
〔ゴシュジンサマ、ナカ、ドロドロ、アリマシタ〕
「おかえり。ポラル、ありがとう。ドロドロって?」
〔ミエールツ、ニテルケド、チョトチガウ〕
「なんだろう? 新しい食材かな? 上からみんな入れそう?」
私が聞くと、ポラルは頭を振って否定した。私でも厳しそうなくらい穴は小さいらしい。
「グレンー」
〈呼んだか?〉
「前のダンジョンのときみたいに、穴開けてもらえない?」
〈わかった〉
お説教中のグレンを呼んでお願い。私がグレンを呼んだからお説教は終わりになったみたい。
ポラルが指示を出してグレンが穴を開けると、甘いような……ちょっと酸っぱいような香りが辺りに広がった。
中には十数個、小ビンの蜂蜜が転がっていて、ポラルが狩ったことがわかった。
『ご主人様……ごめんにゃさい……』
「大丈夫だよ。気になったんだよね? ただ、みんなで戦ってるときは協力してくれると嬉しいな」
穴に入ったところで小さくなったネラースに謝られた。
『はい……嫌いににゃらにゃいで下さい……』
「ふふっ。ネラースも大好きだから安心してね」
ネラースを撫でてあげるとスリスリと体を擦りつけてくる。
うん。可愛い。そしてモフモフたまらん。
小さいネラースを抱っこして、固まった泥山の中を見回す。
中は蜂の巣箱の層みたいなのが規則正しく並んでいて、乳白色の液体で満たされていた。
鑑定してみると【ロイヤルクイーン・ゼル】という物で、〝体の中を強くする液〟らしい。
手に取ってみるとドロッとしていて、ポラルが〝ドロドロ〟って言った理由がわかった。
そのまま舐めてみると、匂いと同じく独特の酸味が口の中に広がった。
「あぁ……わかった。多分、これローヤルゼリーだ」
〈なんだそれは?〉
「んーと、確か……疲れとか取ってくれる液体?」
〈食材か?〉
「使えなくはないだろうけど……食べてみたらわかるよ」
化粧品とかサプリに使われてるのは知ってるけど、細かい効能まではわからない。漠然と健康や肌にいいとしか……これでパックしたらお肌キレイになるかな?
〈まずい! 我は好かん!〉
「俺も美味いとは思えねぇな……」
「そう? オレっち結構好きかも」
「自分は食べられなくはない感じですね」
「……美味しくない……」
独特のピリッとくる酸味が好き嫌いを分けるんだと思う。
グレンとガルドさんとコルトさんは苦手、ジュードさんとモルトさんは大丈夫みたい。
とりあえず全部回収して、蜂の巣を後にした。
戻ってきたルフスとニヴェスが残った魔物を狩ってくれ、下層の階段も見つけてくれていた。
ニヴェス達の案内で下へ降りると、すでに悪臭が漂っていた。
いいことを思い付いた私は、ガルドさん達にお願いして一緒に元の階層に戻って来た。
「どうしたのー?」
「ちょっと思い付いたの」
ガルドさん達も一緒に上がって来たのはいいんだけど、私はコテージに行きたい。コテージのドアを出しちゃってもいいものなのか迷う。
クラオル達に念話で確認してみると、パパ達の許可が下りてないからまだダメらしい。今回はウェヌスがガルドさん達を眠らせてくれることになった。
階段の近くに厳重に結界を張り、グレン、ネラース達、精霊達にガルドさん達をお願いして私は残りのメンバーと共にコテージへ。
裁縫部屋で手伝ってもらいながら簡単なマスク製作。湿気がこもらないようにサンドスライムの砂を布に擦り込んで、浄化の光魔法でコーティング。
一時しのぎには大丈夫だと思う。
目にも染みるから、こっちは日本で売っていた花粉症用のゴーグル型メガネをモデルにプラプラスライムの液で作ってみた。
クラオル達獣タイプのメガネは私には難しくて、結界で我慢してもらう。
この先の魔力消費を考えて、マジックポーションを大量に飲んでおなかはタプタプだ。
「よしっ! できた! みんなありがとう! 戻ろう!」
私達が戻ると、リポップした蜂のドロップ品がまとめられていた。
蜂蜜を回収して、ウェヌスが魔法でガルドさん達を起こす。
少し不思議そうな顔をされたけど、特に何か言われることはなかった。
ガルドさん達はマスクを見たことがないらしく、半信半疑のまま付けてくれた。
「本当にこれで防げるのか?」
「ないよりはマシだと思う。あと、目はこれかけて」
「また不思議なもんを……」
マスクに透明なゴーグル型メガネをかけた私達は、傍から見たらちょっと怪しい一行だ。
獣タイプの従魔達も鼻にマスクを当てていて、ギャグ漫画みたい。
私の製作に一時間ほどかかっちゃったせいで、昼食の時間になっていた。結界の外にはリポップした蜂がいるけど、結界内には入って来られない。
お昼ご飯を軽く済ませ、結界の外に集まった蜂を駆除したら出発。
全員、激臭の対策装備を身に着けて、再び階段を降りた。
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