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第二部 10章

王族許可制ダンジョン

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 クラオルにいつも通り起こされて、体を起こすと見覚えのないベッドだった。両サイドにグレンとジルが寝ていて、ここがドコだか思い出した。

「そっか……ご飯食べた後、テンション上がったあの人とずっと喋ってたんだっけ……」

 途中から記憶がないから寝落ちしたんだと思う。
 青年は自分の名前すら忘れてて、勝手に〝グーさん〟と呼ばせてもらっている。
 顔色は悪いのに陽気なグール。
 意外にも料理上手で、夜ご飯は美味しかった。ほら、ゾンビ系が料理作ると何故か腐る……みたいなのマンガとかゲームとかであるじゃん? それを想像してたんだけど、そんなことなかったんだよね。見たことない食材も使われてて、ジュードさんと二人で質問攻めしちゃったし。

「グレンー。ジルー。起きてー。朝だよ朝」

 ペシペシ叩くと、グレンもジルも目をこすりながら起きてくれた。
 私達が部屋から出るといい香りが既に漂っていて、グレンのおなかが鳴った。
 客室がある二階から下りて、リビングへ向かうと「おはようございます!」とグーさんが挨拶してくれた。

「もうすぐできますから座って待っててください」
「はーい。ありがとう」

 私達が待っていると、遅れてガルドさん達があくびを噛み殺しながらリビングに入ってきた。
 グーさんに起こされたらしい。
 コルトさんは半分寝てるのか、席に座って頭がカクカクしている。

「前から思ってたが……朝早ぇな……」
「そう? 遅くしようか?」
「いや、いい。俺達もそのうち慣れる」

 ガルドさんと話していると「お待たせしましたー!」と、グーさんがお鍋を持ってきた。

「昨日、セナ様とジュードさんに教えてもらったミソの実のスープにしてみました! たくさん作ったのでいっぱい食べてくださいね!」

 お味噌汁、野菜のおひたし、キノコの炒め物、塩ゆでのマッシュポテト、フォン肉の薄焼き、あとはパンの代わりのクスクスみたいなのを押し固めて焼いたやつ。
 基本的な味付けは全部塩コショウ。森で採取できるもので完全に自給自足。
 ちなみに、この世界では塩コショウも森で採取されるらしい。私は見たことないけど、塩もコショウも木に実るんだって。見つけたらコテージに移植したい。

「美味しいー。やっぱお味噌汁はホッコリするねぇ」
〈まぁまぁだな!〉
「喜んでもらえて嬉しいです。ボクもこのミソスープ気に入りました!」

 グーさんはグレンの食べっぷりが嬉しいのか、ニコニコしながら一緒にご飯を食べている。
 ガルドさん達もご飯を食べて覚醒したらしく、お味噌汁をおかわりしていた。



 ご飯を食べ終わったらようやく出発。
 入り口は建物内の地下。厳重な扉をグーさんが開けると、薄暗い空間に階段が続いていた。
 グーさんも初めて入るらしく「ドキドキしますね」なんて言いながら先導してくれた。
 階段の先にある開けた場所の真ん中にポッカリと穴が開いていて、さらに階段が続いている先がダンジョンらしい。

「ボクはここまでです。皆さんの帰りをお待ちしています! あの……無事に帰ってきてくださいね?」
「ありがとう! うん! 任せて!」

 心配そうに顔を曇らせたグーさんに笑顔で言うと、安心したのか笑顔を見せてくれた。
 グーさんにお見送りされながら、私達はダンジョンに降りていく。

 長い階段を降りた先は洞窟型だった。
 鑑定をして【マースールー迷宮】という名前のダンジョンだと知った。

「さて、みんな出てきてくれるー? ウェヌスも。ダンジョン来たよー」

 私が呼びかけると、ネラース達は元気よく飛び出してきて挨拶してくれた。
 ウェヌスはこのダンジョンのために、私達が王都にいる間、精霊の国に戻って仕事を片付けてくれていたんだよね。

「しゅっぱーつ!」

 今回も基本的にはネラース達に戦闘を任せるつもり。ダンジョンに行くって言ったら、やる気満々になっちゃって……呼ばないっていう選択肢はなくなった。
 ネラース達の後ろに続いてのんびり歩いていく。

「魔物出てこないね?」
「はい。人が入っていないのになぜでしょうか?」

 しばらく歩いても魔物の気配も感じない。ダンジョンなのに不気味すぎるくらい静かで、私達の足音だけ響いている。

「お前らなぁ……もうちょっと危機感を持て」
「でもさー、ホントに気配しないよー」

 私とジルにガルドさんが注意すると、ジュードさんも魔物の気配のなさに首を捻った。
 ネラース達は狩る気満々だったのに、魔物がいないからか、じゃれ合いながら先を歩いている。

 そのまま魔物に遭遇することなく、階段を見つけて私達は第二層に降りた。
 第二層も魔物の気配が全然しない。変わらずのんびり歩いてるけど、グレンもこんなことは初めてらしい。

〈何かがおかしいな……ダンジョンなら普通は一層にも魔物が出る。二層にもいないとは……何かの前触れじゃなきゃいいが……〉
「ちょっとグレン! フラグ立ちそうなこと言わないで!」
〈フラグ? セナもおかしいと思うだろ?〉
「思うけどさ……フラグは気にしないで」

 確かにおかしいはおかしい。入れば強くなるって言われてるくらいだから、てっきり強めの魔物がどんどん出てくるのかと思ってた。ダンジョンだしね。

「実はグーさんが狩ってたとか?」
「入ったことないって言ってなかったか?」
「言ってたけど……それくらいしか思い浮かばなくない?」
「まぁ、そうだが……何があるかわからないのがダンジョンだ。とりあえず気を抜くな」

 ガルドさんも他に思い付かないらしく、警戒心を強めている。

 結局遭遇しないまま三層、四層、五層と降りてきたけど、一度も魔物が現れることはなかった。
 六層に降りるとボス部屋が待ち構えていた。
 魔物と戦っていないのにガルドさん達はちょっとお疲れモード。

「うーん……ボス部屋入る前にちょっと休憩しよ?」
〈入らんのか?〉
「おやつ食べてからにしよ?」

 グレンは戦いたかったみたいだけど、おやつに惹かれたのか文句は言われなかった。
 敷き布を出してプリンで一息つく。
 みんな甘いもので少し肩のチカラが抜けたみたい。

「セナ様? いかがなさいました?」
「ん? いや、ボス、何が出てくるのかなぁ? って考えてただけだよ」
「確かに想像付きませんね……」
「もし、一層からここまで魔物が現れないのがこのダンジョンのつねだとすると、精神的に疲れさせる目的なのかなって」
「どういうことだ?」

 ジルと話していると、ガルドさんが眉を寄せて聞いてきた。

「んと、ダンジョンって魔物がそこかしこにいるのが当たり前でしょ? なのにこのダンジョンには現れない。〝気配を消してるのかもしれない、どこからかいきなり現れるかもしれない〟って緊張して歩くじゃん? その緊張で精神的に疲れがあるまま、ボス部屋に突入するワケ。肉体的には疲れていなくても、精神をすり減らしたまま戦えば……体と心に齟齬が出る」
「だから俺達にこのプリンってやつ食わせたのか?」
「んー、私が食べたかっただけ!」

 ニヘラっと笑って見せると「いっちょ前に気遣いやがって」とガシガシと頭を撫でられた。

「では、セナさんの美味しいプリンに癒されましたし、そろそろ向かいましょうか?」

 モルトさんの一言で私達はボス部屋の扉を開けた。
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