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9章
新たなる旅立ちへ
しおりを挟む私が悩んでいると、クラオルから声がかかった。
『主様、ガイア様からの伝言で〝ティダチチカナサ〟はどうかって』
《ほう! なるほどな》
クラオルが言うと、アルヴィンが声を上げた。
グティーさんがいるため念話でアルヴィンに聞いてみると、今は使われていない大昔の言葉だそう。〝太陽と月〟という意味で、縁起がいいらしい。
「そうなんだ。じゃあ、その〝ティダチチカナサ〟でいいかな?」
「ちょっと待て。俺達にもわかるように説明しろ」
つい今しがたアルヴィンから聞いた話をそのままガルドさん達に伝えた。
縁起がいいと聞いて、ガルドさん達も異論はないみたい。
「慣れない言葉だから呼びにくいかな?」
「いや、クラン自体が今は組まれていない。一応、ギルドカードには記載されるが、そうそう呼ばれることはないと思う」
私の疑問にグティーさんが答えてくれた。
ガルドさんとグティーさんと話している間に、私以外のみんなが念話で話していたなんて私は知らなかった。
「そっか。じゃあいいかな?」
「じゃあその〝ティダチチカナサ〟で登録するぞ?」
私が頷くと、グティーさんはさっき署名した紙にクラン名を記入していく。
◆ ◇ ◆
《((皆には伝えておこう。セナにはああ言ったが、本来の意味は違う))》
〈((どういうことだ? セナに嘘を付いたのか?))〉
念話で話し出したアルヴィンを、グレンが睨みつけた。
《((嘘ではない。本当は〝太陽、月、愛しい者〟という言葉だ。だが、三つが合わさると違う意味を持つ。それは〝世界から愛されし者〟))》
〈((ほう……なるほどな))〉
《((セナちゃんにピッタリね!))》
反応したのはグレンとプルトンだけだったが、他のメンバーも皆似たようなことを思った。
《((先程ジルベルトの案をセナが嫌がったからな。本来の意味は伝えなかった。セナもジルベルトもそうだが、ガルド達も神達に気に入られたようだな))》
『そうね。主様を助けた功績は大きいわ。それに主様が信頼してるもの。護衛にはピッタリね』
クラオルの言葉に皆揃って頷いた。
ジルベルトだけは、神の期待に応えなければと決意を新たに、心の中で神に宣誓していた。
◆ ◇ ◆
「全員ギルドカード出してくれ」
「はーい。あれ? ジル?」
「はっ、はい!」
「大丈夫? 疲れちゃった?」
「いえ。大丈夫です。少しボーっとしておりました。申し訳ありません」
「ギルドカードだって」
私がジルに言うと、ジルはすぐにマジックバッグからギルドカードを取り出して、グティーさんに渡した。
私が気が付いてあげられなかっただけで、ジルは疲れてるのかもしれない。
今日はこの件が終わったら休ませてあげないと。
グティーさんはワープロ水晶玉にクラン登録の紙をFAXのように通してから、いつもの依頼の報告のときと同じようにギルドカードを水晶玉の下に差し込んでカチカチといじっている。
「よし。記載できたから返却する。自分のギルドカード確認してくれ」
グティーさんから返されたギルドカードにはキチンとクラン名が載っていた。
隣りに座るジルのを覗き込むと、私のギルドカードとは記載内容が違っていた。
「ん? このクランマスター? って何?」
「クランをまとめるリーダーのことだ。セナが中心なんだろ? 違うのか?」
「いや、それでいい」
私が答える前にガルドさんに肯定されてしまった。
むぅ……てっきり、ガルドさんがリーダーだと思ってたのに……先に名前書いちゃったからかな?
「パーティメンバーが増えた場合、ギルドでパーティ登録するだろうが、そのときにクランのこともギルドに言えばギルドカードに記載される。揉める原因になるだろうから、新しいパーティメンバーにも忘れずに伝えてやれ」
「わかった。今のところは増える予定はないんだけどね」
「そうか。他のパーティがセナ達のクランに入る場合は、セナの許可とパーティリーダーのサインが必要だ。クランに関しては特に注意事項とかはない。ただ、大所帯になれば揉め事も起こりやすくなる。パーティの増やしすぎには気を付けた方がいい」
「はーい!」
クランの登録も終わり、私達が帰ろうとすると、グティーさんに呼び止められた。
「そういえば商業ギルドから戻ってくるときに、陛下からボンヘドに使いが来てたぞ。セナのパンがどうのと言っていたから呼び出されるかもしれない」
「あぁー、アレか」
「あと、タルゴー商会に顔を出してやってくれ」
「はーい」
◇
ジルに疲れは大丈夫だと力説されたので、私達はギルドからそのままタルゴー商会を訪れた。
リシータさんを筆頭にタルゴー商会は私達を大歓待。
中敷きが飛ぶように売れていて、あっちこっちから問い合わせが殺到しているらしい。
リシータさんは興奮しながら身振り手振りで現状を教えてくれた。
「セ、セナ様に助言していただいた工房もリョウも好評で、働きたいと言う者が後を絶ちません! あ、新しい工房を作り、現在教育しております! す、全てセナ様のおかげでございます!」
「それはよかった」
「レシピ登録だけじゃなかったのかよ……」
ガルドさんに呆れたように言われてしまい、私は苦笑いで返した。
「ずっと疑問だったんだけどさー、そんなにセナっちの中敷きってすごいのー?」
「すすす素晴らしいなんてものじゃありません!」
ジュードさんが不思議そうに疑問を投げかけると、少し落ち着いたかに見えたリシータさんに再び火がついた。
ガルドさん達が引いているのにも気がつかず、リシータさんはどれだけ画期的かかつ機能的かを一時間以上に亘って熱く語った。
「あー、うん。すごいのはわかったー」
「そうそう。リシータさんに聞きたいことがあって」
リシータさんの勢いに呑まれ、ジュードさんが返答に困っていたので話題を替えさせてもらう。
「は、はい! 何なりと!」
「平民のパン屋さんで信頼できる人って誰かいる?」
「パ、パン屋でございますか? 次はパンのレシピを登録するのですか?」
「ううん。もう登録してあるやつなんだけど、アーロンさんが食べたがっててさ」
「な、なるほど。そうですね……」
リシータさんは少し悩んだ後、二つのパン屋さんを教えてくれた。二つのパン屋の店主は信頼のおける人物で、そのうちの一つは元兵士っていう変わった経歴を持つ女性らしい。リシータさんいわく、二人共少しクセがあるそう。
でも私は別に会うつもりはない。ボンヘドさんに伝えて、許可だけ出すつもり。レシピはナッツパンとドライフルーツパンだから簡単だしね。
グレンから〈腹が減った〉と主張されて、私達は宿に戻って夜ご飯を食べた。
◇
それから一週間、私は商業ギルドのボンヘドさんにパンの件で許可を出したり、ブラン団長やタルゴーさんと連絡取ったり、キヒターの教会に報告に行ったりとパタパタと動き回っていた。
その間ガルドさん達は依頼を受けたり、お買い物や街の観光をしたりと王都を楽しんでいてくれた。
あ! 欲しいかもしれないと、ポラル協力してもらってガルドさん達用の中敷きを作って渡すと、ブーツが軽くなったと喜んでくれたよ。足の痒さは特になかったらしい。
明日からはガルドさん達も一緒の冒険が始まる。
きっとワイワイと楽しい旅。
ワクワクが隠せないまま私は眠りについた。
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