251 / 538
9章
新たなる旅立ちへ
しおりを挟む私が悩んでいると、クラオルから声がかかった。
『主様、ガイア様からの伝言で〝ティダチチカナサ〟はどうかって』
《ほう! なるほどな》
クラオルが言うと、アルヴィンが声を上げた。
グティーさんがいるため念話でアルヴィンに聞いてみると、今は使われていない大昔の言葉だそう。〝太陽と月〟という意味で、縁起がいいらしい。
「そうなんだ。じゃあ、その〝ティダチチカナサ〟でいいかな?」
「ちょっと待て。俺達にもわかるように説明しろ」
つい今しがたアルヴィンから聞いた話をそのままガルドさん達に伝えた。
縁起がいいと聞いて、ガルドさん達も異論はないみたい。
「慣れない言葉だから呼びにくいかな?」
「いや、クラン自体が今は組まれていない。一応、ギルドカードには記載されるが、そうそう呼ばれることはないと思う」
私の疑問にグティーさんが答えてくれた。
ガルドさんとグティーさんと話している間に、私以外のみんなが念話で話していたなんて私は知らなかった。
「そっか。じゃあいいかな?」
「じゃあその〝ティダチチカナサ〟で登録するぞ?」
私が頷くと、グティーさんはさっき署名した紙にクラン名を記入していく。
◆ ◇ ◆
《((皆には伝えておこう。セナにはああ言ったが、本来の意味は違う))》
〈((どういうことだ? セナに嘘を付いたのか?))〉
念話で話し出したアルヴィンを、グレンが睨みつけた。
《((嘘ではない。本当は〝太陽、月、愛しい者〟という言葉だ。だが、三つが合わさると違う意味を持つ。それは〝世界から愛されし者〟))》
〈((ほう……なるほどな))〉
《((セナちゃんにピッタリね!))》
反応したのはグレンとプルトンだけだったが、他のメンバーも皆似たようなことを思った。
《((先程ジルベルトの案をセナが嫌がったからな。本来の意味は伝えなかった。セナもジルベルトもそうだが、ガルド達も神達に気に入られたようだな))》
『そうね。主様を助けた功績は大きいわ。それに主様が信頼してるもの。護衛にはピッタリね』
クラオルの言葉に皆揃って頷いた。
ジルベルトだけは、神の期待に応えなければと決意を新たに、心の中で神に宣誓していた。
◆ ◇ ◆
「全員ギルドカード出してくれ」
「はーい。あれ? ジル?」
「はっ、はい!」
「大丈夫? 疲れちゃった?」
「いえ。大丈夫です。少しボーっとしておりました。申し訳ありません」
「ギルドカードだって」
私がジルに言うと、ジルはすぐにマジックバッグからギルドカードを取り出して、グティーさんに渡した。
私が気が付いてあげられなかっただけで、ジルは疲れてるのかもしれない。
今日はこの件が終わったら休ませてあげないと。
グティーさんはワープロ水晶玉にクラン登録の紙をFAXのように通してから、いつもの依頼の報告のときと同じようにギルドカードを水晶玉の下に差し込んでカチカチといじっている。
「よし。記載できたから返却する。自分のギルドカード確認してくれ」
グティーさんから返されたギルドカードにはキチンとクラン名が載っていた。
隣りに座るジルのを覗き込むと、私のギルドカードとは記載内容が違っていた。
「ん? このクランマスター? って何?」
「クランをまとめるリーダーのことだ。セナが中心なんだろ? 違うのか?」
「いや、それでいい」
私が答える前にガルドさんに肯定されてしまった。
むぅ……てっきり、ガルドさんがリーダーだと思ってたのに……先に名前書いちゃったからかな?
「パーティメンバーが増えた場合、ギルドでパーティ登録するだろうが、そのときにクランのこともギルドに言えばギルドカードに記載される。揉める原因になるだろうから、新しいパーティメンバーにも忘れずに伝えてやれ」
「わかった。今のところは増える予定はないんだけどね」
「そうか。他のパーティがセナ達のクランに入る場合は、セナの許可とパーティリーダーのサインが必要だ。クランに関しては特に注意事項とかはない。ただ、大所帯になれば揉め事も起こりやすくなる。パーティの増やしすぎには気を付けた方がいい」
「はーい!」
クランの登録も終わり、私達が帰ろうとすると、グティーさんに呼び止められた。
「そういえば商業ギルドから戻ってくるときに、陛下からボンヘドに使いが来てたぞ。セナのパンがどうのと言っていたから呼び出されるかもしれない」
「あぁー、アレか」
「あと、タルゴー商会に顔を出してやってくれ」
「はーい」
◇
ジルに疲れは大丈夫だと力説されたので、私達はギルドからそのままタルゴー商会を訪れた。
リシータさんを筆頭にタルゴー商会は私達を大歓待。
中敷きが飛ぶように売れていて、あっちこっちから問い合わせが殺到しているらしい。
リシータさんは興奮しながら身振り手振りで現状を教えてくれた。
「セ、セナ様に助言していただいた工房もリョウも好評で、働きたいと言う者が後を絶ちません! あ、新しい工房を作り、現在教育しております! す、全てセナ様のおかげでございます!」
「それはよかった」
「レシピ登録だけじゃなかったのかよ……」
ガルドさんに呆れたように言われてしまい、私は苦笑いで返した。
「ずっと疑問だったんだけどさー、そんなにセナっちの中敷きってすごいのー?」
「すすす素晴らしいなんてものじゃありません!」
ジュードさんが不思議そうに疑問を投げかけると、少し落ち着いたかに見えたリシータさんに再び火がついた。
ガルドさん達が引いているのにも気がつかず、リシータさんはどれだけ画期的かかつ機能的かを一時間以上に亘って熱く語った。
「あー、うん。すごいのはわかったー」
「そうそう。リシータさんに聞きたいことがあって」
リシータさんの勢いに呑まれ、ジュードさんが返答に困っていたので話題を替えさせてもらう。
「は、はい! 何なりと!」
「平民のパン屋さんで信頼できる人って誰かいる?」
「パ、パン屋でございますか? 次はパンのレシピを登録するのですか?」
「ううん。もう登録してあるやつなんだけど、アーロンさんが食べたがっててさ」
「な、なるほど。そうですね……」
リシータさんは少し悩んだ後、二つのパン屋さんを教えてくれた。二つのパン屋の店主は信頼のおける人物で、そのうちの一つは元兵士っていう変わった経歴を持つ女性らしい。リシータさんいわく、二人共少しクセがあるそう。
でも私は別に会うつもりはない。ボンヘドさんに伝えて、許可だけ出すつもり。レシピはナッツパンとドライフルーツパンだから簡単だしね。
グレンから〈腹が減った〉と主張されて、私達は宿に戻って夜ご飯を食べた。
◇
それから一週間、私は商業ギルドのボンヘドさんにパンの件で許可を出したり、ブラン団長やタルゴーさんと連絡取ったり、キヒターの教会に報告に行ったりとパタパタと動き回っていた。
その間ガルドさん達は依頼を受けたり、お買い物や街の観光をしたりと王都を楽しんでいてくれた。
あ! 欲しいかもしれないと、ポラル協力してもらってガルドさん達用の中敷きを作って渡すと、ブーツが軽くなったと喜んでくれたよ。足の痒さは特になかったらしい。
明日からはガルドさん達も一緒の冒険が始まる。
きっとワイワイと楽しい旅。
ワクワクが隠せないまま私は眠りについた。
693
お気に入りに追加
24,718
あなたにおすすめの小説
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。