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9章
国王のギャップ
しおりを挟むポテチを食べながらアーロンさんを待っていると、食べ終わった頃「待たせた」と執務室に入ってきた。
ガルドさん達は立ち上がろうとしたけど、アーロンさんに手で制された。
アーロンさんが入ってきたことでガルドさん達はビキビキに緊張していまい、微動だにしない。
ソファは私達が座っているので、アーロンさんはイスを持ってきてお誕生席みたいにしてから座った。
「悪い、悪い。普通で構わん。何か食ってたのか? オレのはないのか?」
〈ない! これは我のだ〉
「そういうと思って、食堂で作ってもらいましたよ」
ポテチを入れていたお皿を見てアーロンさんが羨ましそうな顔をすると、リシクさんがベビーカステラのお皿をアーロンさんの前に置いた。
「セナの料理が食いたかったんだがな……」
「ワガママ言わないでください」
リシクさんにピシャリと言われて、アーロンさんはベビーカステラを一つ口の中に放り込んだ。
「こんふぁいのこひょて」
「飲み込んでから話してください。汚いでしょう」
リシクさんが言いながら紅茶を渡すと、アーロンさんはゴクゴクと紅茶を飲み干して「もう一杯」とティーカップをリシクさんに戻した。
「ふぅ。今回の件だが、まぁ、大丈夫だと思う」
「はあ……それではセナ様達はわからないでしょう。私が順を追って説明致します」
アーロンさんの代わりにレナードさんが説明してくれるらしい。
「中敷きと、まだ城下では販売されていないカレーの件についてです。両方ともセナ様のレシピだと嗅ぎ付けた貴族がいると情報が入ったのです。セナ様を囲うつもりなのかまではわかっておりませんが、セナ様のお仲間であるあなた方にも、ちょっかいを出してくるとも限りません。ですので、王家のメダルを送ることにしました」
「嗅ぎ付けた貴族に関しては、今ドナルドが調べている。元々、今回の件が解決したのはセナ達のおかげだからな。【黒煙】パーティにも報奨をって話しになってたんだ。いやー、久々の謁見は疲れるな」
アーロンさんはベビーカステラをつまみながら紅茶をグビグビ飲んでいて、リシクさんが呆れた顔をしながらピッチャーを持ってきた。
「そのメダルはオレが後見しているようなもんだ。セナと再会する前に指名依頼で苦労したらしいとアーノルドから聞いたからな。それがあれば他国でも活動しやすくなるだろ」
「あ、ありがとうございます」
「あぁー、オレは堅苦しいのは苦手だ。普通でいい、普通で」
お礼を言ったガルドさんに、アーロンさんはヒラヒラと手を振った。
ガルドさんはアーロンさんの様子を見て、最初よりは力が抜けたみたいだけど、まだ緊張しているのが伝わってくる。ガチガチに固まった顔が怖い。
「あの、僕にメダルを渡したのはなぜでしょうか?」
「ん? あぁ、あの場でセナに渡さないのは不自然だろ? だがセナにはすでに渡してある。グレンは従魔だし、ジルベルトがちょうどいいだろ。セナを守るのにもな」
「なるほど。ありがたくいただきます」
ジルは握っていたメダルを大事そうにマジックバッグに入れていた。
「では、報奨の件についてです。ガルドさん達は記憶喪失だったセナ様を助けてくれたと聞いております。その点も含めましてこちらの金額になりました。ご確認をお願い致します」
レナードさんからガルドさんが紙を受け取ると、ジュードさん達は確認するように覗き込んだ。
ガルドさんの目がだんだんと見開いていき「白銀貨八枚!?」と叫んだ。
白銀貨八枚ってことは800万か。四人で割れるようにしたのかな?
「少なくて悪いな。メダルのことがあるから少なくさせてもらった。ジジイ共がうるさくてな。その代わり、何かあれば力になる。セナのはこっちだ」
渡された詳細を見てみると、私達のは白金貨一枚。1000万だった。
グレンは〈少ないな〉と呟いていたけど、私からしたら充分だ。ただでさえ使い切れないくらいなのに、これ以上増えてもタンス貯金ならぬ無限収納貯金が増えるだけ。
ガルドさんは震える手でレナードさんから報奨の袋を受け取っていた。
「さて、報奨の話は終わった。ベヌグの街からここまで、食ったことのない料理ばかりだったとアーノルドが言っていたんだが……」
「作らないよ?」
「ダメか?」
「せっかくガルドさん達と会えたのに、レシピ登録してまた料理長達に教えるとか面倒だもん」
「そうか……残念だ……」
ワクワクしながら聞いてきたアーロンさんに拒否ると、アーロンさんはそれはもう盛大に肩を落とした。
「くくっ……あはははは!」
「おい、ジュード」
「だってさー、陛下さっきから面白すぎだよー」
「不敬だろうが」
「大丈夫ですよ。陛下がコレですので」
リシクさんが新しい紅茶ピッチャーをテーブルの上に置いて、笑いながらアーロンさんを指さした。
アーロンさんはジュードさんの爆笑も、リシクさんのコレ発言も気にした様子はなく……「楽しみだったのに」と肩を落としたままだった。
「じゃあ、ベヌグの街で買ったセナっちのレシピのパン食べるー?」
「いいのか!?」
「モルトー」
「はい、こちらです」
ジュードさんがモルトさんの名前を呼ぶと、モルトさんがナッツパンとドライフルーツパンをアーロンさんに渡した。
特に気にすることもなく、かぶりついたアーロンさんにガルドさんが驚いていた。
「毒とか調べなくていいのかよ……」
「そういえば、私が作ったやつもいつもそのまま食べてるね」
「ほう、ナッツとドライフルーツ入りか! これはこれで美味いな。オレは多少の毒には耐性があるし、セナはそんなことしないだろ? ガルド達はセナが信用してるからな。大丈夫だろ。なぁ、これはすでにレシピ登録してあるんだろ? 王都でも許可出してくれ」
ガルドさんからしたら食べ物の安全性の話より、この先食べられるかどうかの方が気になるらしい。
あっという間にモルトさんが渡した四つのパン平らげ、少し満足したらしい。
「そろそろ昼だな。食堂に行くか!」
今パンを食べたばかりなのに、アーロンさんは立ち上がって歩きだした。
疲れた様子のガルドさんに「陛下面白いねー」とジュードさんが話しかけ、ガルドさんはため息をつきながら頭を押さえながらアーロンさんに続く。
食堂に着くと、味を確かめて欲しいとカレーが配られた。
グレンは〈セナが作った方が美味しい〉と言っていたけど、ガルドさん達は「美味い美味い」と食べていた。
◇
ご飯を食べた私達はリシクさんに馬車で送ってもらい、宿まで戻ってきた。
今は私の部屋でジルが淹れてくれた紅茶を飲んでいる。
「ね? 大丈夫だったでしょ?」
「大丈夫だったが……もう行きたくはねぇな……」
「オレっちは謁見じゃないならいいかなぁー。謁見と普段が違いすぎだよー」
「そうですね。謁見は緊張しましたが、陛下は気さくな人でしたし」
「……ギャップ」
「俺はいつ不敬罪に問われるか気が気じゃなかったんだぞ……」
ガルドさんはジュードさんを睨み付けたけど、ジュードさんはどこ吹く風。
私からすればいつも通りのアーロンさん。っていうか、ギャップって単語があるんだね。ちょっと笑っちゃったよ。
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