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9章
最後の一人
しおりを挟む二日後の朝ジュードさんが目覚め、同じ日の夜モルトさんが目を覚ました。やっぱり眠り病に罹っていた記憶はなく、普通に起きた感覚らしい。
二人共私がいることに驚き、そして喜んでくれた。
助けてもらったお礼を言うと、逆にお礼と謝罪をされてしまった。
それから一週間も経つと、村人はほとんどが目覚め、残すところ後数人。
元気になった村人達が私達が滞在できる家を作ってくれ、部屋は別だけど、ガルドさん達と同じ家で寝泊まりするようになった。
さらに一週間で村人は全員目を覚ました。
村は眠り病に罹る以前の状態に戻り、村人は各々活動をしている。
なのに……なのに、なぜかコルトさんだけ起きてくれない。
パパ達も理由はわからないらしい。
その間、グレンは体が鈍るとよく狩りに行っていた。ちなみに、ガルドさん達が苦労したモントモンキーという猿の魔物はグレンによって狩り尽くされました……
ジルはジルで村のお婆さん――ヘルバ婆から薬草の話を聞いたり、ガルドさん達に稽古を付けてもらったりしている。アルヴィンはエルミスとプルトンに教わりながらジルのサポート。ジルの成長を見守れるのが嬉しいらしい。
グレンとジルはガルドさん達に慣れ、村人達とも仲良くしている。
ジルはガルドさん達によく撫でられていて、少し恥ずかしそうに照れながらも嬉しそうな姿をよく見かけた。
私は街に買い物に行ったり、アーロンさんやブラン団長やタルゴーさんと連絡を頻繁に取っていて、なんだかんだと忙しく過ごしている。
◇
毎日交代交代で付いていて、今日は私がコルトさんを見守る番。とは言っても、ガルドさん達は狩りに出かけていないものの、グレンとジルは村にいる。
コルトさんにポーションを飲ませ、私はベッド横のイスに座った。
コルトさんは眠ったままだから話かけても反応はない。それでも、反応してくれるんじゃないかと期待して話しかけてしまう。
「今日のお昼はチキンタツタバーガーだったんだよ。コルトさんは鶏肉好き? ……ねぇ、コルトさん。コルトさん起きたらアーロンさんがお城に来いって言ってたよ。王都に行ったら一緒にカレー食べよ? あとね、美味しい果実水のお店があるんだよ。ねぇ、コルトさん……」
ペラペラと一人で喋り続け、会ったときからのことを思い返す。
記憶がなくて正体不明だった私をガルドさん達はいつも守ってくれていた。
歩くときはモルトさんに手を引かれて、走るときはみんなの背中におんぶしてもらってた。
コルトさんの光魔法キレイだったんだよねぇー。走るときは忍者みたいで揺れなかったし……ストレッチするときに寝ぼけてることも多くて、目をゴシゴシする姿は可愛かった。
私が号泣しちゃったときも、支離滅裂なこと言ってたと思うけど、コルトさんは根気よく聞いてくれた。
私が恥ずかしがるからと歌ったやつも秘密にしてくれたんだよね……しかも一回でサビのメロディー覚えちゃうっていう。
思い出して、懐かしむように私の口からメロディーが零れていく。
それは開けた窓から風に乗り、村全体に広がっていった。
「うひっ!」
もうすぐ曲が終わるというとき、腕を取られてベッドに引きずり込まれた。
「コルトさん?」
「……会いたかった……夢でも嬉しい……」
「コルトさん!」
私がギューっと抱きつくと「夢じゃない?」と呟かれた。
「起きてくれてよかった!」
「……起きた?」
コルトさんは状況をよくわかっていないらしく、眠ったまま起きなかったと教えると目を丸くさせた後、何かに納得したように頷いた。
「……だから……」
「ん? コルトさん?」
「……夢、だと思う……ずっと何かが身体に絡みついて動けなかった……でも会えないなら動けなくてもいいと思ってた……そしたら……あの歌が聞こえた……すぐ近くで……会いたくて手を伸ばしたら……絡みついてたのが消えてなくなって…………目の前に会いたかった子がいた」
最後は嬉しそうに優しく微笑みながらギュッと抱きしめてくれた。
私の歌が起こすキッカケになったみたい。もっと早く歌えばよかった……
「……本当に無事でよかった。ケガは?」
「大丈夫だよ。助けてくれてありがとう!」
「……ううん。最後助けてくれたのはキミでしょ? ありがとう」
コルトさんは私の鼻をツンツンして笑った。
「……ガルドさん達は?」
「みんないるよ。今は狩りに行ってる」
「……そっか。謝らないと」
「謝る?」
コルトさんは、自分のせいでみんなが大変だったと思っているらしい。そんな話はガルドさん達から聞いてないんだけど、気に病むならそうした方がいい。言わないまま誤解が誤解を生んですれ違いになっちゃうかもしれないからね。
ひとまず紹介したい人がいると、グレンとジルにコルトさんが起きたことを念話で飛ばした。
二人とも急いで駆け付けてくれ、グレンはコルトさんのベッドの中にいる私を見て警戒心を露わにした。
〈グルルルル〉
「グレン?」
〈貴様……我のセナから手を離せ!〉
「……セナ?」
「私のことだよ。思い出したの。私の名前はセナ・エスリル・ルテーナ」
「……セナ。いい名前……」
〈ぬぁぁ! さっさと解放しろ!〉
「わわっ!」
「……あ」
グレンはしびれを切らしたのか、ズカズカと歩いてきて私をひったくった。
残念そうなコルトさんにフンっと鼻を鳴らし、〈我のセナだ〉とさっきと似たようなセリフを言った。
「んもう! ビックリしたじゃん!」
〈何もされてないだろうな?〉
「へ? あはは! 何かあるわけないよー。コルトさんだし、クラオルとグレウスも一緒だよ?」
〈ふむ。ならいい〉
グレンは納得したのか、一度グリグリと頬ずりした後、抱きかかえていた私を降ろしてくれたのでコルトさんにジルとグレンを紹介した。
グレンがドラゴンだと教えると、コルトさんは目をまん丸にして驚いていた。
「ガルドさん達にも教えないとね。んーと……今は森にいるね」
〈我が呼んできてやる。ジルベルトはこやつを見張ってろ〉
「かしこまりました」
窓から飛び立ちそうなグレンを引き止めて、ついでにお願いとアーロンさんへのお手紙とネルピオ爺に伝言を頼んだ。
◇
ガルドさん達は急いで戻ってきてくれた。狩っていた魔物はグレンがちゃちゃっと倒しちゃったんだそう。
ガルドさんは起きたコルトさんを見て、うるうるとしながらも「心配かけやがって」とこずいていた。
ジュードさんもモルトさんも、コルトさんが起きたことに大喜びで、子供のようにじゃれついている。
私達が騒いでいたからか、最後の一人であるコルトさんが目を覚ましたことは村中にあっという間に広まり、村全体でお祝いムード。
村長が「宴をしましょう!」と村人に声をかけると、あれよあれよという間に、村の中心にあるレリーフの回りには村人が持ち寄った素朴なご馳走が並んだ。
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