上 下
244 / 538
9章

最後の一人

しおりを挟む


 二日後の朝ジュードさんが目覚め、同じ日の夜モルトさんが目を覚ました。やっぱり眠り病にかかっていた記憶はなく、普通に起きた感覚らしい。
 二人共私がいることに驚き、そして喜んでくれた。
 助けてもらったお礼を言うと、逆にお礼と謝罪をされてしまった。

 それから一週間も経つと、村人はほとんどが目覚め、残すところ後数人。
 元気になった村人達が私達が滞在できる家を作ってくれ、部屋は別だけど、ガルドさん達と同じ家で寝泊まりするようになった。

 さらに一週間で村人は全員目を覚ました。
 村は眠り病にかかる以前の状態に戻り、村人は各々おのおの活動をしている。
 なのに……なのに、なぜかコルトさんだけ起きてくれない。
 パパ達も理由はわからないらしい。


 その間、グレンは体がなまるとよく狩りに行っていた。ちなみに、ガルドさん達が苦労したモントモンキーという猿の魔物はグレンによって狩り尽くされました……
 ジルはジルで村のお婆さん――ヘルバばぁから薬草の話を聞いたり、ガルドさん達に稽古を付けてもらったりしている。アルヴィンはエルミスとプルトンに教わりながらジルのサポート。ジルの成長を見守れるのが嬉しいらしい。
 グレンとジルはガルドさん達に慣れ、村人達とも仲良くしている。
 ジルはガルドさん達によく撫でられていて、少し恥ずかしそうに照れながらも嬉しそうな姿をよく見かけた。
 私は街に買い物に行ったり、アーロンさんやブラン団長やタルゴーさんと連絡を頻繁に取っていて、なんだかんだと忙しく過ごしている。



 毎日交代交代で付いていて、今日は私がコルトさんを見守る番。とは言っても、ガルドさん達は狩りに出かけていないものの、グレンとジルは村にいる。

 コルトさんにポーションを飲ませ、私はベッド横のイスに座った。
 コルトさんは眠ったままだから話かけても反応はない。それでも、反応してくれるんじゃないかと期待して話しかけてしまう。

「今日のお昼はチキンタツタバーガーだったんだよ。コルトさんは鶏肉好き? ……ねぇ、コルトさん。コルトさん起きたらアーロンさんがお城に来いって言ってたよ。王都に行ったら一緒にカレー食べよ? あとね、美味しい果実水のお店があるんだよ。ねぇ、コルトさん……」

 ペラペラと一人で喋り続け、会ったときからのことを思い返す。

 記憶がなくて正体不明だった私をガルドさん達はいつも守ってくれていた。
 歩くときはモルトさんに手を引かれて、走るときはみんなの背中におんぶしてもらってた。
 コルトさんの光魔法キレイだったんだよねぇー。走るときは忍者みたいで揺れなかったし……ストレッチするときに寝ぼけてることも多くて、目をゴシゴシする姿は可愛かった。
 私が号泣しちゃったときも、支離滅裂なこと言ってたと思うけど、コルトさんは根気よく聞いてくれた。
 私が恥ずかしがるからと歌ったやつも秘密にしてくれたんだよね……しかも一回でサビのメロディー覚えちゃうっていう。

 思い出して、懐かしむように私のくちからメロディーが零れていく。
 それは開けた窓から風に乗り、村全体に広がっていった。

「うひっ!」

 もうすぐ曲が終わるというとき、腕を取られてベッドに引きずり込まれた。

「コルトさん?」
「……会いたかった……夢でも嬉しい……」
「コルトさん!」

 私がギューっと抱きつくと「夢じゃない?」と呟かれた。

「起きてくれてよかった!」
「……起きた?」

 コルトさんは状況をよくわかっていないらしく、眠ったまま起きなかったと教えると目を丸くさせた後、何かに納得したように頷いた。

「……だから……」
「ん? コルトさん?」
「……夢、だと思う……ずっと何かが身体に絡みついて動けなかった……でも会えないなら動けなくてもいいと思ってた……そしたら……あの歌が聞こえた……すぐ近くで……会いたくて手を伸ばしたら……絡みついてたのが消えてなくなって…………目の前に会いたかった子がいた」

 最後は嬉しそうに優しく微笑みながらギュッと抱きしめてくれた。
 私の歌が起こすキッカケになったみたい。もっと早く歌えばよかった……

「……本当に無事でよかった。ケガは?」
「大丈夫だよ。助けてくれてありがとう!」
「……ううん。最後助けてくれたのはキミでしょ? ありがとう」

 コルトさんは私の鼻をツンツンして笑った。

「……ガルドさん達は?」
「みんないるよ。今は狩りに行ってる」
「……そっか。謝らないと」
「謝る?」

 コルトさんは、自分のせいでみんなが大変だったと思っているらしい。そんな話はガルドさん達から聞いてないんだけど、気に病むならそうした方がいい。言わないまま誤解が誤解を生んですれ違いになっちゃうかもしれないからね。

 ひとまず紹介したい人がいると、グレンとジルにコルトさんが起きたことを念話で飛ばした。
 二人とも急いで駆け付けてくれ、グレンはコルトさんのベッドの中にいる私を見て警戒心を露わにした。

〈グルルルル〉
「グレン?」
〈貴様……われのセナから手を離せ!〉
「……セナ?」
「私のことだよ。思い出したの。私の名前はセナ・エスリル・ルテーナ」
「……セナ。いい名前……」
〈ぬぁぁ! さっさと解放しろ!〉
「わわっ!」
「……あ」

 グレンはしびれを切らしたのか、ズカズカと歩いてきてをひったくった。
 残念そうなコルトさんにフンっと鼻を鳴らし、〈われのセナだ〉とさっきと似たようなセリフを言った。

「んもう! ビックリしたじゃん!」
〈何もされてないだろうな?〉
「へ? あはは! 何かあるわけないよー。コルトさんだし、クラオルとグレウスも一緒だよ?」
〈ふむ。ならいい〉

 グレンは納得したのか、一度グリグリと頬ずりした後、抱きかかえていた私を降ろしてくれたのでコルトさんにジルとグレンを紹介した。
 グレンがドラゴンだと教えると、コルトさんは目をまん丸にして驚いていた。

「ガルドさん達にも教えないとね。んーと……今は森にいるね」
われが呼んできてやる。ジルベルトはこやつを見張ってろ〉
「かしこまりました」

 窓から飛び立ちそうなグレンを引き止めて、ついでにお願いとアーロンさんへのお手紙とネルピオじいに伝言を頼んだ。



 ガルドさん達は急いで戻ってきてくれた。狩っていた魔物はグレンがちゃちゃっと倒しちゃったんだそう。

 ガルドさんは起きたコルトさんを見て、うるうるとしながらも「心配かけやがって」とこずいていた。
 ジュードさんもモルトさんも、コルトさんが起きたことに大喜びで、子供のようにじゃれついている。

 私達が騒いでいたからか、最後の一人であるコルトさんが目を覚ましたことは村中にあっという間に広まり、村全体でお祝いムード。

 村長が「うたげをしましょう!」と村人に声をかけると、あれよあれよという間に、村の中心にあるレリーフの回りには村人が持ち寄った素朴なご馳走が並んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。