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9章

信者スキルと契約

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 翌朝、ご飯を作って馬車から降りると、馬車の周りには村人が集まっていた。
 眠り病にかかっていた村人数人が起きたらしく、報告とお礼にきたらしい。
 そのうちの一人、おじいさんに跪かれてお礼を言われてしまい、私は顔が引きつってしまった。

「大げさだよ!」
「とんでもございません! 娘夫婦は亡くなってしまいましたが、私にとって孫娘は最後の希望だったのです。その孫娘が起きてくれて……うぅ…………ジルベルト様の仰っていた通り、素晴らしい御方……全て……全てセナ様のおかげです……」
「ジルから?」
「はい。セナ様は慈悲深く、とてもお優しい方だと。お仲間たけではなく、我々も救って下さるために尽力していただいていると。食事もポーションも全てセナ様からのいただき物だと……」

 まさか私がいない間に布教活動されていたなんて!
 ジルを恨みがましく見ると、ニッコリと微笑まれてしまった。
 違う。ジル、違うよ。微笑んで欲しかったわけじゃないんだよ……

「えっと……娘さん夫婦は残念だけど、孫娘さんが起きてよかった。孫娘さんのためにも長生きしてね」
「あああぁ……やはり女神様のような御方だ……」

 なんでそうなった!
 この場をどうすればいいのか悩んでいると、グレンが〈セナは忙しい。起きたならその孫娘に付いててやればいい〉と助け舟を出してくれた。
 おじいさんは涙をボロボロと零し、ペコペコと頭を下げながら戻っていった。
 埋もれそうな私はグレンに抱っこされて、村長宅へ避難。

「んもう、ジル!」
「はい。何かいけませんでしたか?」
「何であんなこと言ったの?」
「セナ様特製ポーションを渡して、やつれた村人を戻したのに……井戸の件と、セナ様の食事のスープに関してコソコソと文句を言うやからがいましたので、セナ様の素晴らしさをお教えしました。あのご老人はそれを聞いていたようですね。セナ様の素晴らしさをご理解いただけたようで嬉しく思います」
「……なるほど」

 特に何も思ってなかったワケじゃなかったのね……ジルのおかげで直接文句を言われなかったのか……
 でも二、三日しか離れてなかったのに……洗脳早くない!? 信者スキル優秀すぎない!?

 ジルのおかげで不満を爆発されずに済んだことを考えると、文句も言えなくて……私は言葉を呑み込むしかなかった。

 気を取り直して村長に村人用の朝ごはんを渡し、私達はガルドさん達の部屋を訪ねた。ガルドさんはすでに起きていて「はようさん」と挨拶してくれた。
 ジュードさん達は起きてはおらず、私達は朝ごはんを食べた。

 ジルとグレンにお留守番を頼み、私は転移でベヌグの街へ。
 冒険者ギルドに入ると、ギルマスのネルピオじいが飛んできた。

 応接室で早速「何か進展があったのか?」と聞いてくるネルピオじいに解決しそうだと話すと、瞳に涙を湛え「そうか、そうか……」と頷かれた。

「王都からお前さんの知り合いじゃと言う者が来ておるが会うかの?」
「知り合い?」
「名をアーノルドと言っておった」
「アーノルドさん! 会う!」

 ネルピオじいがアーノルドさんに使いを出すと、寝癖頭のまますぐに来てくれた。

「お嬢ちゃん!」
「やっほー!」
「…………はあ。気が抜けちまったよ……大丈夫そうだな」
「うん」
「アーロンから昨日報告を受けたが、村は今どうなってる?」

 やれやれとため息をついたアーノルドさんに、村の現状を伝えるとホッと息を吐いた。

 アーノルドさんは私が王都を出た後すぐに、アーロンさんの命令を受けてこの街まで飛んできたらしい。
 昨日ヘロヘロ状態で着いたところに、アーロンさんから「解決できそうらしい」と報告を受けたんだそう。

「とりあえず、お嬢ちゃんが村のために消費したものを書き出してくれ。アーロンが払う」
「わかった。一応アーロンさんへの報告の手紙も持ってきたんだよ」
「助かる」
「書くから、アーノルドさんはこれ食べて待ってて。朝ごはん食べてないんでしょ?」

 私がウインナーロールを渡すと、アーノルドさんは大げさに喜んでかぶりついた。
 ポーションの素材や食材を書き出してリスト化すると、ネルピオじいに驚かれた。予想外に見やすかったらしい。
 アーノルドさんはこれからどうするのか聞いてみると、まだどうするかは決まってないんだそう。
 そもそも 私が解決するまでは村には立ち入り禁止だけど、情報収集や解決後のために向かわされたらしい。「解決した後、アーロンから指示がくるだろ。それまでのんびりさせてもらう」とのことだった。

 その後一緒に買い物に向かうと「アーロン払いだからな。好きなだけ買えばいい」と全部払ってくれた。ちゃっかり自分のご飯も買っていたのは内緒にしておいてあげよう。

 アーノルドさんはしばらくこの街に滞在するらしく、また報告にくることを約束して私は村に戻った。



 次の日、本を持ってきちゃった私は、レッドキャプスに会うためジルを連れてアルヴィンの隠れ家を訪れた。
 アルヴィンはレッドキャプスにバレないように姿を消していたけど、いまだに隠れ家を守ってくれているレッドキャプスに感謝していた。

「報告が遅くなっちゃってごめんね。まだ完全にじゃないけど、解決しつつあるの」
《そりゃよかっただ。オイ達も探しただが、見つけられんかったして、どうすっかって話してただや》
「そっか。あのね、おじさんが会ったと思う男の子連れてきたよ」
《やっぱそうだっただな。あの坊主が立派んなって! あるじにそっくりだなや~! こったら嬉しいことはねぇなぁ!》

 おじさんはジルを見つめ本当に嬉しそうに頷いた。

「僕を送ってくれた方でしょうか?」
《んだんだ! オイのことさ覚えてただな!》
「それは……あの……」
《いんや~! あの坊主がなぁ~!》

 前持って私から聞いていたジルは正直に言おうとしてたけど、おじさんは嬉しさのあまり聞いていない。世の中には知らない方がいいこともある。
 ジルに首を振ると言わないことに決めたみたい。

「ねぇ、おじさんはこれからもココを守り続けるの?」
《んだな~。あるじの後継者が現れたからな!》
「後継者ですか?」
《んだんだ! おめさのことだなや! 血を受け継ぎ、魔力も見た目もそっくりなおめさはピッタリだ!》
「あの……僕は……」

 おじさんの中で、ジルは後継者に決定みたい。

「ジルが嫌じゃないならいいんじゃない? なんならおじさんと契約してもいいと思うよ。おじさん、ジルの先祖と契約したかったみたいだし」
《ほんとだか!?》

 ジルに話していると、おじさんが身を乗り出して食い付いてきて驚いた。

「うわっ! ビックリした……」
《ほんとに契約してくれるだか!?》
「セナ様ではなく僕でよろしいのですか? 僕は家名を捨て、ジルベルトとなりました」
あるじの後継者はおめさだなや?》

 おじさんに家名は関係ないらしく、ジルは悩んだ後「わかりました」と答えた。

「ただ、条件があります」
《言ってみれ》
「僕はセナ様に仕えております。ここにはそう頻繁に来れません。僕は魔法も薬学もまだまだです。この蔵書を役に立てることは現状難しいと思います。ですが、セナ様ならば有効活用できるでしょう」
《ん? どういう意味だ?》

 ジルの遠回しな発言はおじさんに理解されなかった。

「えっと……そう、僕の全てはセナ様のものです。僕と契約するのならばセナ様のお役に立つようにお願い致します」
《この女子おなごの? オイは何したらいいだ?》

 まさかの丸投げに私はどうしようか悩む。

「まず、ジルは私の大事な家族だから、仕えるんじゃなくて普通でいいんだけど……うーん……あ! おじさんはジルが困ったときやピンチになったとき助けてあげてくれる? 戦わなくても、助言とか……アルヴィンさんの昔話とか」
「セナ様……」
《そったらことでいいだか?》
「あとは、ココを守って、私が訪ねてきたときに本を読ませてもらえたら充分だよ」
《わかっただ!》

 キラキラとした瞳で期待いっぱいにジルを見つめるおじさんに、ジルは頷いて〝ファーダ〟と名付けた。
 契約の光が消えるとおじさんは三十代くらいまで若返って驚いた。
 キヒターは成長したけど、逆パターンもあるのか……

《これが契約なんだなぁ。チカラが湧いてくるだ!》

 若返ったのに話し方は変わらないらしい。
 おじさんは手をグーパーしながらニカッと笑った。

《オイの仲間にも伝えとくだで、どこのさ行っても大丈夫だ!》
「それは助かるよ。じゃあ私達はそろそろ戻るね」

 おじさんは《またな~!》とブンブンと手を振ってお見送りしてくれた。

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