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9章
創世の女神
しおりを挟むその姿は、私が会っていた魔女おばあちゃんとはかなり違っていて、二十歳くらいの優しそうなお姉さん。艶々で黒いストレートな髪の毛は、お尻より長かった。
ベトナムのアオザイみたいな服装でスタイル抜群。
私と目が合うと、大きな黒い瞳をイタズラそうに細めて再び「ヒャーッヒャッヒャ」と楽しそうに笑った。
声は見た目相応に若返っているけど、声質と笑い方までは変わっていない。見た目とのギャップが激しい……
「ホントにおばあちゃん?」
「ヒャーッヒャッヒャ。いかにも。この姿を見せるつもりはなかったんじゃが……」
「お久しぶりですね」
私が若返ったおばあちゃんの登場に驚いていると、ガイ兄が声をかけ、パパ達は四人共頭を下げた。
「セナさんはあまり驚いていないんだね」
「いや、ビックリしてるよ。パナーテル様じゃないのはわかってたけど、まさかおばあちゃんだとは思わなかったもん」
なんでおばあちゃんがレア素材を安く私に売ってくれるのか、行く先々の街で会えたのか、パパもわからないにがりを知っていたのか、創世の女神だとすれば納得してしまう。
「セナはいつの間に会ってたんだ?」
「あれ? アクエスパパに言ってなかったっけ? カリダの街で最初にスコップと籠とパジャマ売ってくれたんだよ。その後もいろんな街で便利道具売ってくれたの」
「カリダの街!? 最初の街じゃないか! あ! あれか! セナの様子がちょっと見れなくなったとき! なんで俺達は知らないのにガイアが知ってるんだ!」
「セナさんに、お礼をしたいから優しいおばあさん用に時間経過しない箱を作って欲しいとお願いされたからだよ。クラオルに確認して確証を得たんだ。セナさんにもクラオルにも教えてはいなかったけどね」
「なんで俺達に言わない!」
「ずっと隠れてたのに、セナさんに会ったのは何か理由があるのかと思ってね」
アクエスパパがガイ兄に詰め寄ると、ガイ兄がシレッと返した。
「私達が何か言って、会えなくなったらセナさんが悲しむでしょう? セナさんの役立つ道具をいろいろと作ってあげてたみたいだし、ね?」
「うん! いつも安く売ってくれるの! でもアレ、作ってくれてたんだね。知らなかった。ありがとう! おばあちゃん?」
私がお礼を言うと、おばあちゃんはひとしきり笑った後「いつも通りがいい」と言ってくれた。
アクエスパパは私が懐いているから、文句が言えなくなっちゃったみたいで「むむむ」と黙り込んでしまった。
「セナさんはいつ、パナーテル様ではないと気が付いたのですか?」
「んとね、確信を持ったのは今日アーロンさんに報告受けたとき。〝創世の女神は闇の女神とも呼ばれていたらしい〟って言われて」
「それだけですか?」
「うん。アクエスパパは水と氷、エアリルパパは風と雷、イグ姐は火、ガイ兄は土と草、パナーテル様は光でしょ? 元々、闇って誰が担当なんだろうって思ってたんだよね。で、もう一人いるなら辻褄が合うなって思って」
調べた内容ではパナーテル様のイメージと違ったから、最初から違和感があった。
エアリルパパの質問に答えると、パパ達は目を丸くさせた。
そんな驚く内容じゃなかったと思うんだけど……
おばあちゃんはパパ達の様子見てまた笑ってるし……
「妾達が探していたときは、てんで姿を現さなかったのに……そなたの神使がセナを怖がらせたのじゃ! なんとかせい!」
イグ姐がビシッとチンチラを指さし、チンチラがいつの間にか倒れていることに気が付いた。
ヒールをかけようと駆け寄ると、どうやら気絶……または眠っているらしい。
ホッと胸を撫で下ろすと、おばあちゃんが近くまできて「すまんかったの」と頭を撫でてくれた。
おばあちゃんの手は不思議と安心する。えへへと見上げると、おばあちゃんは優しく目を細めていた。
◇
おばあちゃんがチンチラに話をするらしく、私はパパ達と神殿の隅でお昼ご飯。
ご飯を食べていなかったことを怒られてしまい、エアリルパパの膝の上でアクエスパパに食べさせられている。ただのサンドイッチなのに……
そんな私に、四人が大昔のことを教えてくれた。
おばあちゃん――ヴィエルディーオ様がこの世界を創った。
人族、獣族、魔族は創世の女神として崇めていた。
しかし、平和な時代が過ぎ、ヴィエルディーオ様は思った。下は面白そうだと。
そこでヴィエルディーオ様は、中心となり得る光の女神を創り、その女神を支えるようにとパパ達を創った。
己の闇魔法をパパ達に分け与え、パパ達がちゃんと闇魔法を扱えるようにした。
そして……ヴィエルディーオ様はパパ達に指示を出し、天界からいなくなった。
月日が流れ、時代が移り変わり……いつからかヴィエルディーオ様は人々から忘れ去られてしまった――
「おそらく気に入ったんだろうね。千年ほど探したんだけど、見つからなかったんだよ。千年探してダメだったから探すのを止めたんだ」
「千年!?」
とんでもない年月に驚愕だ。
しかも、別れてから今の今まで一度も会っていなかったらしい……
「俺達は寂しいとかそういう感情で探していたわけじゃない。そんな顔するな。ほら、あーん」
「ん、あーん」
アクエスパパに言われてまたひと口食べた後、なぜ探してたのか聞いてみると……自分達に仕事を丸投げしたからってことだった。
どっちかというと恨みじゃなかろうか……
私が食べ終わったタイミングで、おばあちゃんが「終わったよ」と声をかけてきた。
特に音も聞こえなかったのに、チンチラはかなり小さくなっていて、クラオルと変わらないサイズに。
おばあちゃんが私を紹介すると、チンチラは『ゴメンなさい』と頭を下げてくれた。
『仕方ないからオイラが付いていってやる』
「まだお仕置きが足りないのかな?」
ガイ兄がニッコリと問いかけると『ひっ! ゴメンなさい』とまた頭を下げた。調子のいい性格みたい。
「私家族いっぱいいるし、困ってないよ?」
『なっ!? オイラはいらないのか!?』
「いらないっていうか……」
〔イラナイ!〕
「ポラル!?」
ポラルが拒否して驚いた。
おなかにくっ付いていたポラルは、言い終わった後、グリグリとおなかに顔を押し付けてくる。何か思うところがあるらしい。
チンチラは可愛いけど、ポラルが嫌がるなら契約はしたくない。
私の守りが強くなるから契約してもいいとパパ達は思っていたらしいけど……結局、契約はしないで遊びにこられるように、チンチラの家と私の空間を繋げることになった。
「さて、ヴィエルディーオ様には神界に戻って仕事を手伝ってもらいますよ」
「ヒャーッヒャッヒャ!」
「笑って誤魔化してもダメです! 今、大変なんですから! あっ! ちょっと!」
ガイ兄がおばあちゃんに向き直ると、おばあちゃんは一際大きく笑った。そんなおばあちゃんにエアリルパパがプリプリと怒ると、おばあちゃんはフワリと浮かび上がって笑い声を残して消えてしまった。
最後に「またの」って聞こえた気がする。
「逃げられたな……」
「まぁ、予想はしてたけどね」
アクエスパパの呟きにガイ兄が苦笑いを零した。
「セナさんを村まで送りますね。おそらくグレンが最初に目覚めると思います」
「わかった! 忙しいのに来てくれてありがとう!」
「セナならいつでも呼んでよいからの」
ここに溜まった魔力はパパ達がなんとかしてくれるらしいので、パパ達にギュッと抱きついてお別れの挨拶をした。
イグ姐に頭をポンポンとされると、空気が動き、私は村の入り口に立っていた。
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