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9章
従者が見た夢
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ガルドさん達が眠っている部屋のドアを開けると、三人が待ち構えていた。
エルミスとプルトンは私の周りを飛び回ってケガの有無を確認している。
「大丈夫だよ~。ここに証人もいるよ。ね? ポラル?」
〔ハイ。ナニモ、ナカッタデス〕
ポラルが証言すると、ようやく納得してくれたらしい。
ポラル以外は近付けなかったので、全員に泉周辺の説明をした。
《おそらく、その伝承の泉だとは思うが……クラオルなら神は大丈夫なはずだろう?》
『神達の力じゃないと思うわ』
「んん? そもそも女神じゃなかったってこと?」
《強大だが、悪いものではないと思うぞ?》
「私もキレイな感じがするんだよね……」
この地域だけに伝わる〝土地神〟的なものだとしたら〝創世の女神〟と付けないよね? それに、お城にあった古文書には創世の女神についての記述もあった。土地神と同一視してたらわからないけど、昔〝創世の女神〟が信仰されていたことは確実。
「うーん。わかんないや。とりあえず、泉の水汲んできたよ」
《『『うっ!』』》
無限収納から水を入れた小さい樽を取り出した瞬間、あの森の魔力が溢れてきてポラルとジル以外の顔色が一瞬にして悪くなってしまった。
「わっ! ごめん! 大丈夫!?」
急いでしまって、漏れ出た魔力を消そうと、部屋全体に【クリーン】と【浄化】をかける。
クラオルからのリクエストで、さらに部屋全体に私の魔力を染み込ませるようにすると、やっとみんなの顔色が戻った。
《はあ……驚いちゃった》
「ごめんね」
「あの……今の樽がどうかしたのですか?」
「ジルは大丈夫なんだね!」
泉の周りに溢れてた魔力と同じものが樽から漏れてたと、ジルに説明すると「鳥肌は立ちましたが……そのように強いモノだったですね」と呟いた。
ジルも私と同じくそこまで感じないらしい。
結局、わからないのでガイ兄に意見を聞くことにした。クラオルに聞いてもらうと、忙しいみたいでちょっと時間かかりそうだけど、調べてくれるらしい。
「話があるってなんだったの?」
「それは僕です。今朝言っていた夢をところどころですが、思い出しました」
「おぉ!」
「僕の幼い頃の記憶……だと思います。あの日僕は、ご当主様の命令を受け、書庫で毒薬の調合について調べていました。そのとき、何かが起きて……気が付くと、本に囲まれた家にいました。そこには見たことのない本がたくさんあって……日が暮れるまで読みふけってしまったのです。そこで読んだ本の中に、この村の伝承に似た何かが書いてあった気がするのですが……内容までは思い出せなくて……」
今でも充分幼いよ! というツッコミは、ひとつひとつ思い出しながら語るジルには言えなかった。
家に飛ばされたってことだよね? ジルは転移が使えないって言ってたから魔法陣が起動した感じ?
《どうやって戻ってきた?》
「それも思い出せないのです……何か赤いものを見た気がするのですが、こう……頭にモヤがかかったように曖昧で……今日思い出すまで、そんなことがあったことも忘れておりました。あまりお役に立てなくて申し訳ございません」
質問したエルミスに、困った顔をしながら答えた後ジルは頭を下げた。
いくら小さくても一回も思い出さないなんてある?
「ねぇ、戻った後……ごめん。なんでもない」
「ふふっ。心配していただきありがとうございます。そこまでは思い出せないのですが、おそらくセナ様のご想像通りだと思います」
(やっぱり戻った後、暴力を振るわれたのか! あの老害め!)
ジルは「そんな顔をさせたかったわけではありません。今はセナ様と共にいられていますので」とニッコリと微笑んだ。
(クッ! 信者化発言だけどいい子!)
「とりあえず、ジルの家を探せば何かわかるかもだね!」
『主様、そろそろお昼ご飯作らないとマズイわよ? 村人の分も作るんでしょ?』
「そうだった!」
クラオルに言われて時間が迫っていることに気がついた。
急いでスープを作って村長に渡し、私達もお昼ご飯を食べた。
ジルの家を調べる前にあの老害に聞きたいことがある。勘でしかないけど、老害が何か知ってると思うんだよね。そうなると、ブラン団長達にも会っておいた方が良さそう……
「調べるのに時間っちゃうかも……」
「セナ様は向こうに滞在して下さい。転移で朝・昼・夜と移動するのはセナ様の負担が大きすぎます」
「でも……」
「セナ様には到底及びませんが、スープを作るくらいなら僕にもできますので」
《そうよ~! この村のことは私達に任せて!》
《そうだな。何かあれば念話する。あの森とは違い、通じるだろう》
三人の言葉に甘えて、お願いすることにした。
大量の食材をジルに渡すと、ジルからは以前に見せてくれた母親手作りのお守りを、エルミスとプルトンからは指輪を一つずつ渡された。
「ジル、これは……」
「セナ様を守って下さるように願いを込めましたので、セナ様が持ってて下さい」
「わかった。借りるね。戻ってきたら返すから」
ジルのお守りをポケットに入れて、精霊二人からもらった指輪を見てみる。
エルミスの指輪はブルーシルバーで、プルトンの指輪はダークシルバーだった。
この二つの指輪はウェヌスの指輪と似ていて、いつでもどこでも二人を呼び出せるらしい。ウェヌスの指輪との違いは、精霊の国には行けないんだそう。
プルトンは《作っておいてよかったわ!》と言いながら、ネックレスに通すのを手伝ってくれた。
三人をギュッと抱きしめてから、私は一度アーロンさんのお城へ。
転移を繰り返し、用意してくれた部屋に戻った。
昨日よりもポーションを飲む回数が少し減ったのは素直に嬉しい。まだおなかはタプタプだけど、もう少し慣れたらこのタプタプからも解放されそうだ。
部屋を出て、アーロンさんの執務室へ向かう途中でリシクさんと遭遇したので、アーロンさんへ伝言を頼んでおいた。
リシクさんも私が調べていることを知っていたらしく、「コチラはそのまま調べますので、お任せください」と言ってくれた。
私は再び部屋へ戻って、一度クラオルファミリーの元へ。
私がいきなり訪ねたことに驚かれたけど、挨拶だけしてすぐにキヒターの教会に飛び、ブラン団長の気配を探る。
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