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9章
謎の空白地帯
しおりを挟む朝起きてからも確認したけど、グレンもガルドさん達も眠ったまま。何も解決していないから当たり前っちゃ当たり前だけど、もしかしたら……と期待してしまう自分がいる。
村人用の朝ご飯のスープを作って飲み水と一緒に村長に配ってもらった。村長が井戸の水を飲んだらまずいことを周知してくれたので、村人は飲み水用の樽か桶のような物を持参して取りにきている。
井戸を使用禁止にしたけど、村人全員を回復したからか、特に不平不満は出ていないらしい。注意を聞いてもらえないのも困るけど、むしろ口々にお礼を村長から伝えて欲しいと伝言していく村人達がちょっと心配になってくる。
たぶんガルドさん達の知り合いだからってことが大きいんだと思うけど。
村人達に配り終わったら私達も朝ご飯。
でも朝からジルの様子がおかしい。ふと見るといつもよりほんの少しだけ眉間にシワが寄っている気がする。
「ジル大丈夫? もしかして眠いの? それとも何かあった?」
「いえ! 心配をおかけして申し訳ございません」
「そりゃ心配するよ。大事な家族だもん」
「あの……夢を見まして……セナ様にお伝えしなければと思ったことは覚えているのですが、どうも内容が思い出せなくて……体の不調はありません」
「本当?」
「はい。本当です」
ジルはしっかりと頷いて否定した後、微笑んでくれた。
私が心配したことが嬉しいのか、ちょっとだけ口角が上がり、醸し出す雰囲気が明るくなった。
思い出したらでいいことを伝えて、私は出発。エルミスとプルトンは別行動、ジルには今日もガルドさん達を頼んだ。お昼ご飯のことがあるから、お昼に集合することになった。
エルミスに聞いた場所に向かうと、確かに何かの魔力を感じた。強いことはわかる。でも、私的には神聖なもののような気がする。ただ、漂ってくる魔力のせいで、辺りの気配を探ることができなかった。しかもこの先はマップだと空白地帯だ。
尚も歩いていると、ウェヌスに呼び止められた。
ウェヌスは眉尻を下げて申し訳なさそうな顔をしていて、とても顔色が悪かった。
《セナ様、申し訳ございません。私はこれ以上は無理なようです……》
「顔色悪いよ! 無理しないで! 気が付かなくてごめん!」
《いえ。私が少しでもセナ様と一緒にいたかっただけですので。私はもう少し離れた場所でセナ様のお帰りをお待ちしております》
ウェヌスにヒールをかけると《少し楽になりました》と微笑んでくれた。まだ顔色は悪いから、チートなリンゴを渡してウェヌスにはこの場から離れてもらった。
大丈夫だといいんだけど……
再び歩き始めると、グレウスは覚醒のときのように低く唸り始めてしまい、クラオルまで《ギブアップだわ》とダウン。二人には一緒に行動をするようになってから初めて影に入ってもらった。
「これはヤバそうだね……ポラルは大丈夫?」
〔ハイ。ダイジョウブデス〕
ポラルは、いつものおなかのポジションから私の頭の上に移動した。この方が攻撃しやすいらしい。
二人で警戒しながら歩み続けると、キレイな泉にたどり着いた。
直径三メートルほどで、底からこんこんと湧き出る泉の水はキレイに澄み渡っていた。雰囲気はエルミス達と会った聖泉の楽園……通称、精霊の泉に似ている気がする。ただ、違うのは大きさと、西洋風のお社……神殿が泉の近くに建っていること。神殿って言っても、大きさは人が二人ほど入れそうなくらいの小さいサイズだけど。
「もしかしてコレって伝承の泉? ミニ神殿……何かを祀ってるのかな? 伝承の泉なら創世の女神?」
マップを確認すると、空白地帯だったのにちゃんと泉が載っていた。
ここを訪れたから載ったのかな?
ミニ神殿は創建がとても古そう。頑丈そうにどっしりと構えているけど、壁に走るヒビが目立っていた。
泉を鑑定すると【忘れられし聖泉】、ミニ神殿を鑑定すると【○☆$!#¥*♪&】だった。
「また文字化け……ステータスといい、グレンやガルドさん達の状態異常といいなんなの?」
この場所は複雑に絡み合うように魔力が溢れていて、泉の水が井戸と同じ魔力を含んでいるのか判断できない。
おそらくこの魔力の原因はミニ神殿だと思うけど……扉が閉まってるんだよね……
「開けてみようか? ポラル気を付けて」
〔ハイ〕
ゴクリと唾を飲み込んで、ミニ神殿の扉に手をかけた。
ノブと思われる物を回そうとして…………回らなかった。押しても引いてもスライドも持ち上げも……日本のからくり屋敷みたいにクルンと回るかと試してみたけど、全部ダメ。
「開かないのかよっ!」
思わずつっこんでしまったのは致し方ないと思う。覚悟したのに、拍子抜けだだ 。
ポラルが探ってくると神殿の屋根の方に登っていった。戻ってきたポラルは特に変なところも侵入できそうな場所もなかったとしょんぼりしてしまった。
ミニ神殿以外に何かないかと調べてみたけど、特に気になるものはなかった。
「うーん。このミニ神殿ってなんだろ? パパ達に聞いたらわかるかな?」
〔コノミズ、エルミス、ワカルカモ〕
「そうだね。持って帰ろう!」
もし、ここの水にも井戸の水と同じ魔力が含まれてたら、ここが原因の可能性もある。
念の為、ポラルに協力してもらって水に触れないように採取した。
私とポラルが話しながらウェヌスと別れたところまで戻ってくると、ウェヌスがウロウロしていた。
あれ? ここから離れてもらったのに、心配して戻ってきてくれたのかな?
「ウェヌス、お待たせ」
《セナ様!》
声をかけると、勢いよく寄ってきて私の体を確認し始めた。
「どうしたの?」
《プルトンからセナ様と連絡が取れないと! お怪我は!?》
「ちょ、ちょっと落ち着いて! 大丈夫だから!」
ようやく落ち着いてくれたウェヌスは、ゴホンッ! と咳払いをした後説明してくれた。
ジルが私に念話で話しかけたけど通じなくてプルトンに相談。プルトンの念話も通じなかったためウェヌスに連絡がきたらしい。
《奥に入るとこの魔力によって遮断されるようです。ご無事で安心しました。ところでセナ様、クラオル様とグレウス様は……?》
「心配してくれてありがとう。二人も魔力にやられて影に入ってもらったの。もうちょっと離れてから出してあげようと思って」
《クラオル様でも……なるほど。余程強い魔力なのですね……》
森の外に向かって歩きながら、ウェヌスに〝クラオルでも〟とはどういうことか聞いてみた。
ウェヌスが言うには、クラオルはガイ兄の眷属だからこういう魔力に溢れたところに対して耐性があるらしい。
心配してくれているであろうジルとプルトンとエルミスに念話で話しかけると、案の定心配をしてくれていて《早く戻ってきて》と言われた。何か話があるらしい。
歩いているうちに、かなり魔力が薄くなったのでクラオルとグレウスを呼ぶと、二人にヒシッと抱きつかれた。
影の中は私の魔力で満たされていて、すぐに体調も戻ったらしい。
離さないとでもいうように首に抱きついた二人をモフモフしながら街に戻った。
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