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9章

書庫と古文書

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 転移先はアーロンさんの執務室だった。
 執務席に座るアーロンさんとレナードさんが険しい顔で話していた。

「ねぇ」
「「!」」

 かぶっていたフードを取ってアーロンさんに話しかけると、ザッと戦闘体勢をとられた。

「誰だ!? ってセナ!? なんでここに? ベヌグにいたんじゃないのか?」
「うん。ベヌグの街の伝承って知ってる?」
「「伝承?」」

 二人は顔を見合わせて首を傾げた。

「そっか、知らないんだね。昔の記録見たいんだけどいい?」
「あ、あぁ……それは構わんが……」
「案内して欲しいの」
「昨日ギルドから報告を受けたんだが、本当か?」
「うん。本当だよ」
「……にわかには信じがたいが……セナが言うのなら本当なんだろうな……セナは大丈夫なのか?」
「たぶん大丈夫。人から人に伝染うつるものじゃないと思う。じゃなかったらまだ起きてる村人の説明が付かない。着いたその日にグレンが……グレンが起きなくなったの」
「「なっ!」」
「だから時間が惜しい」
「わかった。レナード、手の空いている信頼できるやつを呼べ! 書庫へはオレが案内する」
「ハッ!」

 レナードさんが急いで執務室を出て行くと、アーロンさんに「付いてこい」とうながされた。

「調べるのを手伝わさせる」
「ありがとう」
古代龍エンシェントドラゴンまでとは……村はどうなってる? 眠ったままだと報告を受け、立ち入り禁止にすると言っていたが、村に行っていないから詳細はわからんと言われた」

 早足で歩きながらアーロンさんに説明すると、「そんなことが起こりえるのか?」と聞かれた。そんなの私が聞きたいくらいだ。
 ガルドさん達も眠ってしまった今、まともに動けるのは私達だけ。グレンは私のせいで眠ったままになっちゃったけど……

「とりあえず、誰が行ってもなりえるってことしか言えないよ……被害を増やさないためにも人を向かわせないで欲しい」
「こちらから人を遣わそうと思ってたんだが……それにセナも危険だろう」
「ここから魔馬車でも時間がかかりすぎる。その間にも被害が広がるかもしれない。それに何が原因かわからないから、人が増えてもできることがない。グレンも私がずっと会いたかったガルドさん達も眠ったままだから、傍にいたいしできることはやりたいの」
「そうか……セナにばかり苦労をかけるな……オレの国だ。協力は惜しまん。何か必要な物があれば言ってくれ」
「ありがとう」

 アーロンさんは私が引かないことがわかったのか、複雑そうな顔をしながらも「あまり危険な真似はさせたくないんだがな……」と呟いた。

 アーロンさんに案内されて着いた場所は、謁見の間の扉みたいに大きく重厚な扉の前だった。
 中は、壁一面の本棚にビッシリと本が並んでいて、本を読む人がいないと言っていたのにホコリひとつ落ちていなかった。

「キアーロ国より大きいね……」
「建国が古いからな。ただ、どの棚になんの本があるのかはわからん」
「探すから大丈夫」
「すぐに人を寄越す。こき使って構わん。好きに使え。俺も手伝う」
「うん。ありがとう」

 ひとまず急ぎの仕事を片付けてくると言うアーロンさんと別れて、私はサーチで目当ての本を探し始めた。
 探すのはもちろんあの村の伝承についてと、この国の昔の出来事。あの村だけじゃなくて他にも似たような伝承があるかもしれない。

 サーチで反応があった本を手に取った瞬間、バタバタと人が書庫に飛び込んできた。

「お嬢!」
「お嬢ちゃん!」
「うひゃっ! ってドナルドさんとアーノルドさん? あとダンジョンの警備してたお兄さん?」

 書庫に入ってきたのは全員暗部の人達だった。
 私を見つけるなり、あっという間に詰め寄られて「大丈夫なのか!?」と確認された。
 あまりの素早さに思わず後退しちゃったけど、さすが暗部だと内心驚いた。
 私自身は大丈夫だけど、村は大丈夫じゃないことを伝えると「あのドラゴンすらも……」とアーノルドさんが息を呑んでいた。

 途中から合流したアーロンさんも一緒に探してもらっているけど、なかなかめぼしい文献が見つからない。
 しかも時代が古すぎると文字が古代文字になってしまい、アーロンさん達では読み取れなかった。
 それが発覚した後は古代文字エリアは私が担当、アーロンさん達は比較的新しい時代の物を担当することになった。

 途中、創世の女神について書かれていた古文書を見つけたんだけど……“大変慈悲深く、どんな者でも悔い改めれば救いの手を差し伸べて下さる。ただ、少しお茶目な面もあり、イタズラがお好き”と書かれていた。
 パナーテル様は私にも加護をくれたから優しいとは思うけど、廃教会の像を造ったときの肖像画事件をイタズラで済まされるのはご勘弁願いたい。
 それにしても……そんな優しいって言われてるのに、祈られなくなっただけで村に呪いを撒くかね? 神様の怒りの沸点がわからん。それとも、歳取って丸くなったとか?

「うーん……謎だね」
『古代文字って変な記号みたいな文字ばっかりなのね……読めないわ』
『ボクもです……』
〔ハイ。ヨメマセン〕
《私もここまで古い文献は解読に時間がかかりそうです》
「そうなの? じゃあ、たぶん私が読めるのはパパ達がくれた全言語理解のおかげだね」

 クラオル達は手持ち無沙汰みたいで、私が読み終わった本を片付けてくれた。
 サーチの反応は多いものの、目当ての内容は見つからない。
 結局その後はめぼしい古文書は見つからなくて、いたずらに時間だけが過ぎていき、今日は村に戻ることになった。

 戻る旨を伝えると「もう日が暮れる」と全員に引き止められ、お城の客室を用意されてしまった。

「まさか一致団結されるとは……まぁ、でもこの部屋使わせてもらっちゃおう!」

 部屋に結界を張って、来たとき同様に転移を繰り返して村に戻った。

「ただいま! 遅くなってごめんね」
「おかえりなさいませ」
《おかえり》
《おかえりなさ~い》

 グレンもガルドさん達の様子も変化はなかった。
 私の帰りが遅くなってしまったので、村人達のご飯はジル達が作って村長に配ってもらったらしい。食材渡しておいて良かった!

 夜ご飯を食べ終わると、エルミスが決まり悪そうに話し始めた。

《井戸の水源を探したが、わしらはまだ見つけられていない。ただ……》
「ただ?」
《国境の山近くの森にわしでも近付けぬ場所があった》
「近付けない?」

 エルミスが語ったのは――強い魔力が溢れていて近付けば近付くほどなる。悪いモノではなさそうだけど、精霊は魔力に敏感なためプルトンの結界をもってしてもダメだった。もしかしたら人間には近付けるかもしれない――とのことだった。

《何回も試したんだが……すまない》
「エルミスの体は大丈夫? 何か違和感あったりしない?」
《それは大丈夫だ。近付いたときだけで離れれば何ともない》
「良かった……もぅ! 無理しないでって言ったのに」

 私がプクッと頬を膨らませると、エルミスに《無理はしていない》と笑いながら頬をつんつんされた。
 村に関係があるのか、全く関係ないのかはわからないけど、ソコには何か特殊なモノがあるんだと思う。
 早速調べに行こうと思ったらみんなに怒られてしまい、明日行ってみることにした。

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