223 / 537
9章
思わぬ展開
しおりを挟むどれくらいそうしていただろうか。ふとあることを思いついた。
ガルドさんにひと言告げてから私は村長宅を出た。グレンとジルはジュードさん達に付いてもらっている。
村長宅の横にの空き地にいつも使っている馬車を出し、そこからコテージへ。
『ねぇ、主様?』
「なーに?」
錬金部屋に入って道具をセットしているとクラオルに話しかけられた。
『ポーションいっぱい作ってなかった?』
「うん。普通のはね」
『それ使うつもりなの?』
「うん。パパ達は怒るかもしれないけど、一番見込みがあると思うの」
私が取り出したチートなリンゴを見たクラオルに確認された。
ジュードさん達を鑑定させてもらったけど、呪いではなく“衰弱”となっていた。ケガじゃないけど、疲れも取れるこのリンゴなら治せるんじゃないかと思った。
液体なら飲み込んでくれるとガルドさんは言っていた。だったらポーションと混ぜればいい。
精霊の子が作ってくれていたミキサーにリンゴを入れてすりおろし、ポーションの材料の中に入れる。みんなが治りますように。元気になりますように。また笑ってくれますように……たくさんの願いを込めて魔力を流したら出来上がり。
作ったポーションを確認すると、【セナ特製特殊ポーション】となっていた。どんなケガでも立ちどころに治し、元気ハツラツ。製作者である私の祈りが込められているらしい。
「できた! 早速飲ませよう!」
意気揚々とジュードさん達の部屋に戻った。
私達が部屋に戻るとガルドさんは村長に呼ばれたと部屋を出ていった。
「チャンス! グレン、ジル、協力して!」
二人に協力してもらって三人に特製ポーションを飲ませていく。衰弱しているため、飲み込む力が弱い三人に根気よくポーションを飲ませ、ヒールをかける。
タイミング良くガルドさんがグレンを呼びにきた。夜ご飯のスープを運ぶのを手伝って欲しいらしい。グレンを指名した理由は大きいからだそう。
残ったジルと一緒にジュードさん達を見守っていると、だんだんと顔色も良くなり、コケていた頬も戻っていく。
でも、目が覚める気配がない。名前を呼んでも、体を揺すっても起きてくれなかった。
どんなケガでも治ると書いてあったから、ケガじゃなくて病気の一種なのかもしれない。
それでもリンゴで起きないなんて……今まで疲れも気力も寝不足もなんでも治ってたのに……
「チートなリンゴでもダメなの? チートなリンゴなら大丈夫だと思ったのに……」
「飯持ってきた。開けてくれ」
「はーい……」
「こいつらにもポーションを……!?」
ドアを開けると入ってきたガルドさんは、スープ皿を両手に持ったまま虚をつかれたように固まってしまった。
「今の私の精一杯。でも起きてくれなかった……」
期待を寄せていただけに落胆が隠せないまま言うと、ガルドさんは「いつものあいつらに戻ってる」と声を震わせた。
ガルドさんはテーブルにスープを置いて、ぺたぺたとジュードさんを触って確認した。
「良かった……これでまだ希望が…………」
「「「!」」」
ガルドさんの体が傾き、倒れるところだったのをグレンがギリギリで受け止めた。
ガルドさんは床にぶつからなかったけど、グレンが持っていたスープ皿が床に大きなシミを作ってしまった。
〈すまん。咄嗟に投げ捨てた〉
「そんなことよりガルドさんは!?」
〈眠っている〉
「まさか……」
〈疲れとこいつらが戻ったことの安心感で眠ったことも考えられるが……おそらくこいつらと同じだろうな〉
「そんな……」
ショックが大きすぎる。
血の気が引いてフラついた私をジルが支えてくれた。
ジルは私を部屋のイスに座らせ、スープのお片付け。食器は木製だったから割れていない。
グレンは空いていたベッドにガルドさんを寝かせ、ペチペチと叩いて起きないか確認した。
「なんで……」
〈フム。やはり起きないな〉
「セナ様、お気を確かに」
目の前でガルドさんが倒れたショックで頭が混乱してくる。
さっきまでは普通だったのに……なんで……なんで? なんで!?
〈セナ、落ち着け。深呼吸しろ〉
呼吸が浅く早くなっていた私の頭を撫でながらグレンに言われて深呼吸した。
ジルは私が流す涙を拭ってくれている。
(そうだ。こういうときそこ落ち着かなければ。私がなんとかせずに誰がガルドさん達を助けてくれると言うのか! 中身三十路で良かった。マジな子供だったら絶えられないと思う。私も精神ギリギリだけど……)
「ふーっ、ふーっ。大丈夫。ごめん」
「謝らないで下さい」
〈我らがいる。一人で抱え込むな〉
「ありがとう……」
心強い二人にお礼を伝えてから再び深呼吸して気合いを入れた。
とりあえず村長に報告にいくと、村長は肩を落とした。
「ガルドさんまで……やはり村を出ていってもらえば良かったのか……しかし仲間を見捨てろなどとは言えなかった……あぁ……俺はどうすれば良かったのか……」
「村長さん。村長さーん!」
「はっ! 申し訳ありません。ガルドさんもこうなってしまった以上、あなた方も危険です。ガルドさんの大切な方だとお聞きしております。せめてあなた方は……」
「ストーップ!」
村を出ていけと言われる前に止めさせてもらった。
村長も混乱しているので、ジルに紅茶を淹れてもらう。私主観だけど、ジルが淹れてくれた紅茶が一番ホッとする。
「私はガルドさん達が目覚めるまで村を出ていくつもりはないの。何がなんでもね。食材や道具の心配なら私がなんとかする」
「ガルドさんに頼まれたのです。もし自分が倒れたら、セナさん達に村を出るように言ってくれと」
「それは無理だよ。私、ガルドさん達にずっと会いたかったんだもん。それよりどうやって助けるかを考えようよ」
「先程も話しましたが、いろいろな薬草やポーションも試したのです。でも目覚めてはくれませんでした。試せるものは試したのです……」
「あの、ちょっとよろしいでしょうか?」
泣きそうな顔で語っていた村長は、おずおずと手を上げたジルに「なんでしょう?」と聞き返した。
「この村は伝承で女神の怒りに触れたのですよね? 今回の件はなぜ呪いではないとわかったのでしょうか?」
そう言われるとそうだ。私とグレンは話を聞いたときに真っ先に呪いを疑った。鑑定して違うことがわかったんだけど……伝承がある村なんだから伝承と結びつけてもおかしくないと思う。
「それは簡単です。村人は女神への祈りを欠かしてはおりません。村にはポーションを作れるヘルバ婆がいるのです。ヘルバ婆は鑑定のスキルを持っています。薬草の知識もありますのでかき集め、ないものは採取しにいき、全て試したのです。しかし、効果はありませんでした」
「「なるほど……」」
「そのヘルバ婆も倒れてしまい、衰弱しております。歳も歳ですので長くはもたないでしょう……」
起きてたらいろいろ聞けたんだけどな……
もう既に何人も亡くなっていて、起きている村人も次は自分が眠ってしまうかもしれないと、疲れていても眠りたくないらしい。村長さんは「無理なのでしょうか……」なんて打つ手がないと諦めモードだ。
ガルドさん達も助けてくれた村人が亡くなってしまったらショックを受けることは間違いない。
「とりあえず、眠っている人の衰弱を治さないとだね。延命してその間に解決方法を探そう」
「そんなことができるのですか?」
「やってみなきゃ。私は諦めが悪いんだよ」
私達はチートなリンゴポーションを飲ませたジュードさん達が起きるかもしれないと、彼らが眠っている部屋に戻った。
635
お気に入りに追加
24,616
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
転生幼女の愛され公爵令嬢
meimei
恋愛
地球日本国2005年生まれの女子高生だったはずの咲良(サクラ)は目が覚めたら3歳幼女だった。どうやら昨日転んで頭をぶつけて一気に
前世を思い出したらしい…。
愛されチートと加護、神獣
逆ハーレムと願望をすべて詰め込んだ作品に…
(*ノω・*)テヘ
なにぶん初めての素人作品なのでゆるーく読んで頂けたらありがたいです!
幼女からスタートなので逆ハーレムは先がながいです…
一応R15指定にしました(;・∀・)
注意: これは作者の妄想により書かれた
すべてフィクションのお話です!
物や人、動物、植物、全てが妄想による産物なので宜しくお願いしますm(_ _)m
また誤字脱字もゆるく流して頂けるとありがたいですm(_ _)m
エール&いいね♡ありがとうございます!!
とても嬉しく励みになります!!
投票ありがとうございました!!(*^^*)
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。