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9章

会いたくて会いたくて……プルプル

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 朝ご飯を食べた後、クラオルにパパ達に会えるかどうかを聞くと、忙しくて無理そうだと言われた。
 王都からの道中は毎日コテージのロッカーにご飯を入れていたんだけど、毎日ロッカーはカラになってたから大丈夫だと思ったのに……残念。

「やっぱプラプラかな? 何か買いたいものとかある?」
〈特にないな〉
「僕も特にありません」
「うーん……思いついたら言ってね? とりあえずギルドに行こっか」

 宿から出ると通りにはあまり人がいなかった。
 ギルドに向かい、ガルドさん達のことを聞いたけどまだ来ていないらしい。
 残念だけど、待つしかない。昨日兵士さんにもガルドさん達が街に来たら教えて欲しいとお願いしておいたから、街に来たらわかるハズ。
 そのまま街をプラプラと歩きながら食材中心に買い込んだ。

「ん? このお店って……」

 特に目的もなく歩いていた私達の前に、見覚えのある店構えのお店が現れた。
 お店にはこちらの世界の言葉で“オープン”と書かれた木札がぶら下がっている。
 吸い寄せられるようにドアを開けると、ドアベルがカランカラーンと鳴った。

「ヒャッヒャッヒャ。待ってたよ」
「やっぱり! 魔女おばあちゃん!」
「ヒャーッヒャッヒャ。こっちへおいで」

 おばあちゃんは私達を手招きして、前回と同じようにカウンターの後ろにある部屋へ案内してくれた。

「ヒャッヒャッヒャ。その大きいのは初めて見る顔じゃの」
「前に二日酔いで紹介できなかったグレンだよ」
「ヒャッヒャッヒャ。そうかい、そうかい。まぁ、これでもお飲み」

 おばあちゃんは私達にあの不思議なお茶を淹れてくれた。もちろん今回もエルミスとプルトンにも。

「グレン、私が欲しいモノをいつも用意してくれる魔女おばあちゃんだよ。グレンの二日酔いのお茶くれた人」
〈おぉ! そうか! 今回もくれるのか?〉
「ヒャッヒャッヒャ! 用意してやろうかの。その前にこれもお食べ」

 おばあちゃんは前回同様、不思議な紅茶クッキーをテーブルの上に置いてから席を外した。

「おばあちゃん……この街にもお店があるんだね……街という街にあるんじゃないかと思っちゃう」
『そうね。前に会ったのはピリクの街だったかしら?』
「確かそう。パパ達と飲んでグレンがバタンキューしたときだから」

 あのときもらったお茶のおかげで、パパ達とお祭り気分を味わった次の日もグレンがグロッキーにならなくて済んだんだよね。
 おばあちゃんが何者かはわからないけど、とんでもない人物であることはわかる。ゲームとかに出てくる長生きの賢者みたいな感じかもしれない。
 まぁ、ゲームとかだと森に隠居してたりするけど……“木の葉を隠すなら森へ”ってことで街で生活してるのかも。

 おばあちゃんが戻ってきたことで、私は思考を中断した。

「ヒャッヒャッヒャ。待たせたの。これでよいか?」
「おばあちゃん、ありがとう!」
「ヒャーッヒャッヒャ」

 おばあちゃんが十回分くらいの茶葉を渡してくれた。
 グレンが〈これでたらふく飲める!〉と喜んで、そんなグレンにクラオルが『飲みすぎないでよ!』と注意した。おばあちゃんはやり取りを見て笑っている。

「そうだ! おばあちゃんはってわかる? あと、バニラエッセンス」
「ヒャッヒャッヒャ。は東の海にある。もう一つはちょっと待っておれ」

 ダメ元で聞いたのに、両方知っていることに驚いた。
 アクエスパパも知らなかったのに……
 おばあちゃんが持ってきてくれたのは、アーモンドチョコレートくらいの大きさの白い塊が15粒。
 紙袋に入っていたけど、もう甘い香りが漂ってくる。たぶんだけど、バニラビーンズじゃないかな?

「わぁー! バニラの良い香り!」
「ヒャーッヒャッヒャ! それで正解だったようじゃの。ヒャーッヒャッヒャ!」
「うん! ありがとう! 超嬉しい!」
「ヒャーッヒャッヒャ! ついでにコレもあげよう」

 おばあちゃんに渡されたのはオニキスみたいな黒色のピンキーリングだった。

「指輪?」
「ヒャッヒャッヒャ。それはお守りじゃ。指に着けなくともネックレスに通せばよい」
「わぁー! ありがとう!」

 早速プルトンに手伝ってもらって、ウェヌスの指輪と同じミスリルカイーコの糸に通してみた。
 ピンキーリングサイズだったのに、通した瞬間ウェヌスの指輪と同じサイズになって「大きくなった!」と驚いたら、おばあちゃんの笑い声が大きくなった。

 おばあちゃんはお茶とクッキーのおかわりを出してくれて、ほっこりとした時間がすぎていく。

「ヒャッヒャッヒャ。そろそろ時間じゃ」
「時間? あ! 長居しちゃってごめんね。おいくらですか?」
「ヒャッヒャッヒャ。そうじゃな……パンとジャムをもらえるなら銀貨一枚じゃな」
「えぇ!? またそんなに安く!?」
「ヒャーッヒャッヒャ! やはりお前さんは特別じゃな」

 本当にいいのか何回も確認して、パンとジャムと銀貨一枚を払った。
 パンは私が食べたくてこっそり作ったホイップメロンパンも混ぜておいた。気に入ってくれたら嬉しいな!


 おばあちゃんのお店を出るとお昼近かった。思っていたよりも長居していたらしい。
 お昼ご飯を食べようと歩いていると、嗅いだことのある匂いがした。
 目線を上げた先にいたのは……会いたくて会いたくて、でも直接会うのはちょっと怖った人……

「ガルドさん?」

 私の呟きが聞こえたのか、相手と目が合った。

「ガルドさん!」

 会えた嬉しさでガルドさん目掛けて走り出す。
(あれ? ちょっと待って。拒否られたらどうしよう……様子見るつもりだったのに、嬉しすぎて走り出しちゃった。バッチリ目も合っちゃったし……)

「うきゃっ!」
「良かった……無事だったんだな……本当に良かった……」

 走り出した瞬間に考えが飛んでいた私を、ガルドさんが駆け寄って強く抱きしめた。

「うん……ガルドさんも無事で良かった……会いたかったよ」
「俺達も会いたかった……」

 ガルドさんにギュウギュウと抱きしめられてちょっと苦しいけど、ガルドさんの声が震えてたから私もギューッと抱きしめ返した。
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