218 / 538
9章
ベヌグの街
しおりを挟む盗賊に遭遇してそれを生け捕りにして近くの街に送り届けたり、寄った街のギルドや領主にしばらく滞在して欲しいって言われたりと、いろいろあったけど……概ね順調に進んでいる。
ベヌグに近い街にも寄ってギルドに問い合わせして来ていないことを確認したし、ドナルドさんからの情報でもまだガルドさんはベヌグの街にいるらしい。
私達はもうすぐ日が暮れる夕方にベヌグの街に着いた。
ベヌグの街は、国境からほど近い。キアーロ国側とは違って隣国との境界には山が連なっていて、万里の長城みたいな壁はなかった。周りは草地で王都周辺みたいに荒野じゃない。
宿を手配してくれると兵士さんが言うのを断って、私達はそのまま冒険者ギルドへ。
受け付けのお兄さんにガルドさんのことを聞くと、なぜか応接室に案内された。
待っている私達の前に現れたのは背が高くてガタイのいいおじいちゃんだった。二メートルは軽く超えていると思う。
「すまん、待たせたの。ワシはこのギルドのマスター、ネルピオじゃ」
〈ほう。巨人族か〉
「よくわかったの。とは言っても血は薄いがな。して、お前さん達の名前を聞いてもよいかの?」
「私はセナ。こっちがグレンでこっちがジルだよ」
私が紹介すると、「やはりそうじゃったか」と呟いた。
そんな神妙な顔される覚えはないんだけど、歓迎はされていないっぽい? 兵士さん達はウェルカムムードだったんだけど……
「黒煙のパーティは何かしたのか? ワシには優しい男にしか見えなんだが」
「へ? どういうこと?」
「担当した職員の話では、ギルドのカウンターでお前さんに類似している特徴の少女のことを聞かれた。名前は知らんと言っておったらしいから報告するか迷ったんじゃ。そしたら王都からの連絡で、街を出そうなら知らせろと言われての……手配でもされているのかと思うたが、捕まえろとは言われておらん。街での動向も探ったが怪しい素振りは見せん。ギルド員には“高ランク冒険者だから街から旅立ちそうな報告しろ”としか言うておらんから、こちらは怪しまれておらんとは思うが……」
私が説明を頼まなかったせいで、とんでもない誤解が生まれていた。
ガルドさん、マジで本当にごめんなさい!!!
「違う、違う!! ガルドさん達、黒煙のパーティは私の命の恩人なの!」
「恩人?」
「そう!」
呪淵の森で助けてもらったこと、私が記憶喪失でステータスがおかしかったこと、魔物に襲われたときに離れ離れになってしまったことをちょっとボカしながら説明した。
「そうじゃったのか……」
「誤解させてごめんなさい。行動を制限させるのも悪いし、アーロンさんの名前出したら大事になっちゃう気がして伝えるの止めてもらったの……」
「アーロン陛下か……なるほどの。そうじゃの。その気持ちもわかる。じゃが、本人達に伝えずともギルドだけに伝えるのも手じゃぞ。まぁ、今回はお前さんのことも通達がきていたから、お前さんを助けたとなれば英雄扱いになったかもしれんがな。お前さんはこの国のギルドでは有名じゃ」
「ごめんなさい」
「よいよい。ワシとサブマスしか知らんからの。ワシの考えすぎでよかったわい。それに……お前さん会うのがちょっと怖いんじゃろ?」
「うっ……」
「ホッホッホ。伊達に生きておらんからの。悩め、悩め。若いっていいのぉ。ワシのことはじいでよいぞ」
「ネルピオ爺?」
「ホッホッホ。うむうむ。ひ孫のようじゃ」
ネルピオ爺は連絡不足の私を怒るワケではなく、朗らかに笑った。
ネルピオ爺が言うには、三、四日に一度ガルドさんのみが街に訪れて簡単な討伐依頼を受けているらしい。
パーティへの指名依頼もあったらしいんだけど、ガルドさんは「今は受けられない」と断ったそう。パーティ内でのケンカなんかはよくあることだからと詳しくは聞かなかったらしい。
「街には泊まってないの?」
「動向を探ったときは、泊まったり泊まらなかったりじゃな。泊まらなくても次の日には街に来ていたりしたからの……二日前に来たからそろそろ来る頃じゃと思う」
「じゃあ今日は街に泊まろうかな? さっき兵士さんが宿を手配してくれるって言ってくれたのを断っちゃったんだよね」
「ワシが紹介してもよいが、兵士が言ったのならその兵士に頼んだ方がよさそうじゃの。おそらく陛下からのお達しじゃろうから」
「わかった」
兵士さんの好意を無駄にしないようにと、ネルピオ爺が気をきかせてくれた。
何か情報があったら教えてくれることを約束して、私達がお暇しようとすると、引き留められた。
「そうじゃ、そうじゃ。薬草を持ってたら納品してくれんかの?」
「なんの薬草?」
「サヴァ草とジメ草とクロバ草が足りないんじゃ」
「クロバ草は数が少ないかな。他二つは持ってるから大丈夫だよ。どれくらいいる?」
「お前さんの薬草はS判定と聞いておるからの……50本とかあるかの?」
「大丈夫だよ」
各薬草を50本ずつ出すとものすごく驚かれた。二種合わせて50本のつもりだったらしい。しかもキヒターが収穫してくれたやつだから普通の薬草より大きいため、特S判定だと言われた。
買い取り金額の都合上20本ずつになり、残りは回収することになった。
◇
ギルドを出て、先程宿の手配をしてくれると言っていた兵士さんに宿の手配をしてもらった。
宿は貴族が泊まりそうなくらい上流階級向けの宿に見えたけど、お客さんは冒険者が多いらしい。Cランク以上の冒険者御用達の宿だと兵士さんから説明された。衛生的で特に女性ウケがいいんだそう。
宿はメイド服を着た猫族と思われる少年と少女がパタパタと動き回っていた。
黒猫少年と三毛猫少女っぽくて大変可愛らしい!
可愛いさに悶えながら応対を期待していたのに、私達の応対は奥から出てきたおばさまだった。内心ガックリしちゃったのは言うまでもない。
部屋食が可能らしいのでお願いして、私達は部屋で明日からどうするかを話し合う。
「明日は街の中プラプラしようか?」
〈宿でギルドからの連絡を待たなくていいのか?〉
「それも考えたんだけど、みんなヒマでしょ? だから朝、昼、夕方ってギルドに顔出そうかなって思って。それとも自由行動にしようか?」
「僕はセナ様と共にいたいです」
〈我も一緒にいる。(そのガルドというやつも我らが見極めねば)〉
「ん? グレン、ごめん。小さくて聞き取れなかった」
〈まだよくわからん街だからな。我らが守ってやる〉
「ふふっ。ありがとう。みんな一緒だと心強いよ」
そんな危険はないと思うんだけど、振り回してる私を心配してくれているみんなは優しい。
(その優しさに甘えすぎないようにしないとね)
ご飯を食べ終わると早々に、グレンに抱っこされてベッドに連れていかれた。
ガルドさん達のことを考えて眠らなさそうだと思われたらしい。
グレンとジルに挟まれて、胸元にはクラオルとグレウス。もうすぐ会えるかもしれないとソワソワしていたのに、優しい暖かさに包まれてすぐに眠りに落ちてしまった。
629
お気に入りに追加
24,648
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。