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9章

ベヌグの街

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 盗賊に遭遇してそれを生け捕りにして近くの街に送り届けたり、寄った街のギルドや領主にしばらく滞在して欲しいって言われたりと、いろいろあったけど……おおむね順調に進んでいる。

 ベヌグに近い街にも寄ってギルドに問い合わせして来ていないことを確認したし、ドナルドさんからの情報でもまだガルドさんはベヌグの街にいるらしい。

 私達はもうすぐ日が暮れる夕方にベヌグの街に着いた。
 ベヌグの街は、国境からほど近い。キアーロ国側とは違って隣国との境界には山が連なっていて、万里の長城みたいな壁はなかった。周りは草地で王都周辺みたいに荒野じゃない。

 宿を手配してくれると兵士さんが言うのを断って、私達はそのまま冒険者ギルドへ。
 受け付けのお兄さんにガルドさんのことを聞くと、なぜか応接室に案内された。
 待っている私達の前に現れたのは背が高くてガタイのいいおじいちゃんだった。二メートルは軽く超えていると思う。

「すまん、待たせたの。ワシはこのギルドのマスター、ネルピオじゃ」
〈ほう。巨人族か〉
「よくわかったの。とは言っても血は薄いがな。して、お前さん達の名前を聞いてもよいかの?」
「私はセナ。こっちがグレンでこっちがジルだよ」

 私が紹介すると、「やはりそうじゃったか」と呟いた。
 そんな神妙な顔される覚えはないんだけど、歓迎はされていないっぽい? 兵士さん達はウェルカムムードだったんだけど……

「黒煙のパーティは何かしたのか? ワシには優しい男にしか見えなんだが」
「へ? どういうこと?」
「担当した職員の話では、ギルドのカウンターでお前さんに類似している特徴の少女のことを聞かれた。名前は知らんと言っておったらしいから報告するか迷ったんじゃ。そしたら王都からの連絡で、街を出そうなら知らせろと言われての……手配でもされているのかと思うたが、捕まえろとは言われておらん。街での動向も探ったが怪しい素振りは見せん。ギルド員には“高ランク冒険者だから街から旅立ちそうな報告しろ”としか言うておらんから、こちらは怪しまれておらんとは思うが……」

 私が説明を頼まなかったせいで、とんでもない誤解が生まれていた。
 ガルドさん、マジで本当にごめんなさい!!!

「違う、違う!! ガルドさん達、黒煙のパーティは私の命の恩人なの!」
「恩人?」
「そう!」

 呪淵じゅえんの森で助けてもらったこと、私が記憶喪失でステータスがおかしかったこと、魔物に襲われたときに離れ離れになってしまったことをちょっとボカしながら説明した。

「そうじゃったのか……」
「誤解させてごめんなさい。行動を制限させるのも悪いし、アーロンさんの名前出したら大事おおごとになっちゃう気がして伝えるの止めてもらったの……」
「アーロン陛下か……なるほどの。そうじゃの。その気持ちもわかる。じゃが、本人達に伝えずともギルドだけに伝えるのも手じゃぞ。まぁ、今回はお前さんのことも通達がきていたから、お前さんを助けたとなれば英雄扱いになったかもしれんがな。お前さんはこの国のギルドでは有名じゃ」
「ごめんなさい」
「よいよい。ワシとサブマスしか知らんからの。ワシの考えすぎでよかったわい。それに……お前さん会うのがちょっと怖いんじゃろ?」
「うっ……」
「ホッホッホ。伊達に生きておらんからの。悩め、悩め。若いっていいのぉ。ワシのことはじいでよいぞ」
「ネルピオじぃ?」
「ホッホッホ。うむうむ。ひ孫のようじゃ」

 ネルピオじぃは連絡不足の私を怒るワケではなく、ほがらかに笑った。

 ネルピオじぃが言うには、三、四日に一度ガルドさんのみが街に訪れて簡単な討伐依頼を受けているらしい。
 パーティへの指名依頼もあったらしいんだけど、ガルドさんは「今は受けられない」と断ったそう。パーティ内でのケンカなんかはよくあることだからと詳しくは聞かなかったらしい。

「街には泊まってないの?」
「動向を探ったときは、泊まったり泊まらなかったりじゃな。泊まらなくても次の日には街に来ていたりしたからの……二日前に来たからそろそろ来る頃じゃと思う」
「じゃあ今日は街に泊まろうかな? さっき兵士さんが宿を手配してくれるって言ってくれたのを断っちゃったんだよね」
「ワシが紹介してもよいが、兵士が言ったのならその兵士に頼んだ方がよさそうじゃの。おそらく陛下からのお達しじゃろうから」
「わかった」

 兵士さんの好意を無駄にしないようにと、ネルピオじぃが気をきかせてくれた。
 何か情報があったら教えてくれることを約束して、私達がおいとましようとすると、引き留められた。

「そうじゃ、そうじゃ。薬草を持ってたら納品してくれんかの?」
「なんの薬草?」
「サヴァ草とジメ草とクロバ草が足りないんじゃ」
「クロバ草は数が少ないかな。他二つは持ってるから大丈夫だよ。どれくらいいる?」
「お前さんの薬草はS判定と聞いておるからの……50本とかあるかの?」
「大丈夫だよ」

 各薬草を50本ずつ出すとものすごく驚かれた。二種合わせて50本のつもりだったらしい。しかもキヒターが収穫してくれたやつだから普通の薬草より大きいため、特S判定だと言われた。
 買い取り金額の都合上20本ずつになり、残りは回収することになった。



 ギルドを出て、先程宿の手配をしてくれると言っていた兵士さんに宿の手配をしてもらった。
 宿は貴族が泊まりそうなくらい上流階級向けの宿に見えたけど、お客さんは冒険者が多いらしい。Cランク以上の冒険者御用達の宿だと兵士さんから説明された。衛生的で特に女性ウケがいいんだそう。

 宿はメイド服を着た猫族と思われる少年と少女がパタパタと動き回っていた。
 黒猫少年と三毛猫少女っぽくて大変可愛らしい!
 可愛いさに悶えながら応対を期待していたのに、私達の応対は奥から出てきたおばさまだった。内心ガックリしちゃったのは言うまでもない。

 部屋食が可能らしいのでお願いして、私達は部屋で明日からどうするかを話し合う。

「明日は街の中プラプラしようか?」
〈宿でギルドからの連絡を待たなくていいのか?〉
「それも考えたんだけど、みんなヒマでしょ? だから朝、昼、夕方ってギルドに顔出そうかなって思って。それとも自由行動にしようか?」
「僕はセナ様と共にいたいです」
われも一緒にいる。(そのガルドというやつもわれらが見極めねば)〉
「ん? グレン、ごめん。小さくて聞き取れなかった」
〈まだよくわからん街だからな。われらが守ってやる〉
「ふふっ。ありがとう。みんな一緒だと心強いよ」

 そんな危険はないと思うんだけど、振り回してる私を心配してくれているみんなは優しい。
(その優しさに甘えすぎないようにしないとね)

 ご飯を食べ終わると早々に、グレンに抱っこされてベッドに連れていかれた。
 ガルドさん達のことを考えて眠らなさそうだと思われたらしい。
 グレンとジルに挟まれて、胸元にはクラオルとグレウス。もうすぐ会えるかもしれないとソワソワしていたのに、優しい暖かさに包まれてすぐに眠りに落ちてしまった。

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