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9章
ストーリーは突然に
しおりを挟む戸惑っている人にコツを教えていると、ドナルドさんが倉庫に飛び込んできた。
「どうしたの?」
「探していた黒煙のパーティがこの国に入ったらしい」
「え!? ホント!?」
「お嬢に似た少女のことを聴き込んでいたらしい。ただ、名前を知らないと言っていて冒険者ギルドが怪しんだため報告が遅れた」
「記憶喪失だったから私の名前知らないんだよね……ねぇ、どこの街?」
「西のベヌグだ。隣国との境界が近い街だ。ただ……リーダーだけで、パーティとしての依頼は受けていないらしい」
「どういうこと?」
「それはわからん……検討したあと念のための報告とのことだ」
「とりあえずありがとう! すぐ出る! リシータさん! あとお願いします!」
「はっ、はい!」
ドナルドさんがアーロンさんとイペラーさんへ街を出ることを伝えてくれるらしいので、そのままバタバタと街の門を飛び出した。
◇
ガルドさん達には街から移動しないでもらいたいけど、行動を制限するのは良くない気がして言えなかった。
ガルドさんだけっていうのはケンカでもしたのかな?
何かあったなんて悪い方向には考えたくない。
馬車の中でマップを確認していると、クラオルから話しかけられた。
『ねぇ、主様。大丈夫?』
「大丈夫だよ。どのみちそろそろ王都を出ようと思ってたしね。場所がわかったから急ぎめで行きたいけど、ニヴェス達の疲れもあるから無理は言わないよ」
『ならいいけど……』
〈買い物は良かったのか?〉
「うん。ダンジョンの前にタルゴー商会でいっぱいもらったからね」
〈そうか! ならご飯だな! 我はちゃんと洗ってやったぞ!〉
言われてからお昼をすぎていることに気がついた。
みんなにリクエストを聞くと、珍しく和食を希望された。
珍しいなと思いながら、肉じゃがにお味噌汁に焼き魚と和定食風のご飯を作った。魚の骨も気にしないらしいのでニヴェスも同じご飯。
「できたよー! みんなが丼じゃない和食食べたいって珍しいね」
『このご飯なら主様も落ち着くでしょ?』
「私?」
『焦ってるの、ワタシ達にはお見通しよ!』
テーブルの上でビシッと私を指さしたクラオルを撫でる。
ソワソワしてたのがバレバレだったらしい。みんな揃って心配そうな顔をしていて、そんな表情をさせてしまったんだと思った。
「ごめんね。心配してくれてありがとう」
気を取り直してお昼ご飯を済ませたら、私はコテージの作業部屋へ。
『主様、今日は何作るの?』
「今日はシュティー達のお守りとスニーカーだよ」
『スニーカーってなーに?』
「靴だよ。こういうブーツとはちょっと違って走りやすいの」
『あら、またその板使うのね』
「うん。これ便利だよね」
中敷きと同じようにクッション性のあるスニーカーが欲しい。
靴底はこの板を使えばいいけど、表面の布に悩む。紐はポラルとミスリルカイーコの糸を編み込んで作ればいいけど、魔物の皮を使うと革靴やブーツみたいに糸みたいになっちゃう気がする。
「あ! そういえばダチョウの毛皮ってアルパカみたいだから紡いだら糸みたいになるかな? もしできたらカピバラの毛皮も使えるかもだね」
糸車が作れないかと書庫でそれらしい記述が載った本を探したけど見つからない。
プルトンとエルミスに作り方を知らないか聞いてみると、精霊の国にあるから私用に作ってくれることになった。なんなら糸紡ぎまでやってもらえるらしいのでプルトンに頼んでアルパカとカピバラの糸紡ぎもお願いしてしまった。
スニーカーは糸待ちになっちゃったのでシュティー達のお守りを作り始めた。
「デザインはキヒターと同じでクラオルマークでいいかな?」
『そういえば前に作ってたわね』
「うん。可愛いでしょ? あ! ニコイチってことでクラオルとグレウスにしようかな?」
『ボクもですか? 嬉しいですっ!』
良かった。嫌がられたらショック受けるところだった。
スリスリと擦り寄ってくるグレウスが可愛くて、気分良く神銀を捏ねていく。
キヒターは首輪がないからネックレスにしたけど、シュティー達は首輪のカウベルがあるんだよね……
『主様? どうしたの?』
「シュティー達、従魔の首輪あるからどうしようかなって」
『守る結界ならネックレスの方がいいわよ』
「そうなの?」
クラオルの説明では、魔道具のネックレスを中心に結界が張られるため、指環とかよりはネックレスのほうがズレがないらしい。
ピアスでもいいらしいけど、シュティー達に丸いメダル状のピアスは牧場の牛の耳に着いているタグを思い出しちゃうからやめておこう。
ピアスがアリなら鼻輪でも大丈夫そうだとちょびっとだけ思っちゃったのは内緒。
「できた! 思ってたよりも時間経っちゃったね。夜ご飯作らなきゃ」
『調べてたものね』
ニヴェスに野営地を探してもらって、私はご飯作り。
夜ご飯はもんじゃ焼きにしよう! グレンとジルはいっぱい食べるだろうからお好み焼きも作ればいいよね! 特にグレンはもんじゃ焼きを食べた気がしないって言いそうだし。
エルミスとプルトンにも手伝ってもらってザクザクとキャベツを刻んでいく。
「よし! できた! キヒターの教会に飛ぼう!」
『え?』
《馬車はどうするんだ?》
「置いてくよ。プルトン結界お願いしてもいい?」
《はーい!》
馬車から降りてグレンとジルに飛ぶことを伝えると、二人にも驚かれた。
ニヴェスは一度影に戻ってもらう。人数が増えると不安だからね。
まだ夕方だけど、辺りに人の気配がないことを確認してプルトンに厳重に結界を張ってもらったら出発!
教会目指して飛んで飛んで飛ぶ。
「やっぱ教会に直接は難しいんだね……今度からクラオルの実家経由にしようかな……クラオルの実家なら一発で行けるから」
『主様、大丈夫?』
「うん。プルトンに馬車の結界頼んどいて良かった」
魔物と戦うよりも転移の方が魔力消費が激しい。この先呪淵の森からさらに離れたら、教会に来るのにも一苦労だ。
私達が教会に着くと、キヒターがパタパタと出てきてくれた。
《女神様! どうしたんですか?》
「みんなでご飯食べようと思って。シュティー達も呼んできてもらえる?」
《わぁー! かしこまりました!》
キッチンにあるテーブルは私達が全員席に着くには小さいので、パパ達の像の前に私の持っているテーブルセットを出した。
『お嬢様と一緒にご飯なんて嬉しいわ!』
『こんなに幸せでいいのかしら?』
「ふふっ。いいんだよ」
先に焼いておいたお好み焼きを配って、つまみながらホットプレートでもんじゃ焼きを焼いていく。
暑くてエルミスに周りを冷やしてもらうように頼んだ。エコなクーラー扱いだけど、快く冷やしてくれた。
〈グチャグチャだぞ? 本当に食べ物なのか?〉
「美味しいんだって。このヘラでこうやって取って食べるの。熱いからヤケドしないように気を付けてね」
クラオルとグレウスはホットプレートから取りにくいので、お皿に確保してあげる。ポラルはいつも通り器用に糸を使って食べていた。
シュティーもカプリコも『はふはふ』と熱さに四苦八苦しながらも『美味しいわ!』と食べていく。
キヒターはやっぱり魔力水の方が好きらしく、グレンはもんじゃ焼きよりもお好み焼きの方が好きらしい。食べた気がしないんだそう。予想通りの反応だった。
ご飯を食べ終わってからシュティー達にネックレスを渡すと泣かれてしまった。
『やっぱりお嬢様は他の人族とは違うわ』なんて言っていて、今まで会った人はどんだけ酷かったのか……同じ人間として申し訳ない。
「首輪があるけど、お守りだからネックレスにしちゃったんだ」
『本当に……嬉しいわ』
『うんうん。しかも可愛い……』
「気に入ってくれて良かった。身に着けててね」
『『一生の宝物にするわ!』』
大げさな気がするけど、嬉しそうに握りしめてるからいいかな?
お礼を言うシュティー達から搾乳したミルクをもらって馬車に戻った。
帰りはクラオルの実家の経由をしたら行きよりも転移の回数が少なくてすんだんだけど、行きが実家経由じゃなかったからか一発とはいかなかった。
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