上 下
212 / 538
8章

バカとハサミは使いよう

しおりを挟む


 朝早くにイペラーさんに許可をもらって、宿の井戸から水を大量に汲んでたるに移した。
 水が確保できたら最後の準備が完了。
 イペラーさんは昨日の夜指名依頼の話をしていたからか、お弁当を作ってくれていた。

 迎えの馬車に乗るとリシクさんから謝られてしまった。今お城では犯人探しの真っ只中で、街の武器屋にナイフについて聞き込みをすること決まったらしい。
 グレンが〈なくされそうだから証拠品のナイフは渡せない〉と言い張って、私がナイフの絵を描いた。

「ありがとうございます。助かります」
「いいよ、いいよ。ダンジョンの話聞いてもいい?」
「はい。もちろんです。今回案内させていただくダンジョンは街から馬車で三時間程にあります。洞窟型の三十階層から成立ち、中級のダンジョンに分類されております。こちらの紙に出現する魔物の種類を書きましたので、ご確認をお願いいたします」

 リシクさんから受け取った紙を見てみると、獣系・爬虫類系・虫系の魔物に混じってサンドスライムとクレイスライムが出てくることがわかった。
 中級というだけあってそこまで強い魔物は現れないらしい。

「この星印がついているのはなんですか?」
「それはまれに見られると言われている魔物になります。そして、黒い点が付いているものはその階層の中で一番素材が高いものになります」
「なるほど」

 この点はシミじゃなかったのね。インクが飛んじゃっただけかと思った。
 それにしても……アントって蟻でしょ? 蟻なのに高いのか……

「一番厄介なのがこのダートワームです」
「ワーム……」
「地面から現れるので不意を付かれることが多く、先日もCランク冒険者がケガを負ったと聞きました」
〈ソレは気配でわかる。われの敵ではないから安心しろ〉

 イモムシが苦手な私を安心させるように、グレンが頭を撫でてくれた。



 ダンジョンに着き、リシクさんに帰りのお迎えは不要だと伝えて別れた。
 リシクさんを見送ると、隠れていた暗部の人が二人現れて無言で会釈された。
 渡された手紙を読むと、今いる二人が交代で睡眠を取って警備してくれるんだそう。
 「お願いします」と挨拶したけど、頷かれただけだった。喋る気はないらしい。
 夜ご飯やお弁当を持ってるか聞くと黒パンと干し肉を渡されそうになった。もらいたいワケじゃなかったので、パンを麻袋に入れて「ご飯の足しにしてね」と渡してあげた。
 グレンが〈励めよ〉と声をかけると、パンを入れた麻袋を握りしめながらコクコクと頷いていた。



 ダンジョンに入って魔物を狩りながら進んで行く。目指すは十二階層。どの階層でもサンドスライムは出るらしいんだけど、そこが一番出現率が高いらしい。

 ネラース達を呼ぶと魔物を倒す時間が短縮され、サクサクと進む。
 道中、発見してくれた宝箱も回収した。

「宝箱、思ってたよりもあるねー。こんな早くから出るもんなんだね。中身は全部ポーションだったけど」
〈おそらく、過去一度も発見されていなかったんだろうな。それにしても早いな〉
「前みたいに魔物大量発生スタンピードとかじゃないよね?」
〈それはないと思う〉
「そっか。違うなら良かった。ただのラッキーってことだね」

 ネラース達が競い合うように魔物を倒してくれているため、私達は歩いているだけ。
 お昼ご飯はイペラーさんが用意してくれたお弁当と、作り置きしていたパンで簡単に済ませた。

 今回のダンジョン期間は三日間。その三日間でなるべくサンドスライムのドロップ品をゲットしたい。
 リシクさんが危険だと言っていたイモムシには遭遇しないまま進んで、ボス部屋まできた。
 十一階層のボス部屋では、ツキノワグマみたいな一メートルほどの熊が二匹だった。これはグレンがサクッと倒してくれて、ボス部屋滞在時間は五分もかからなかった。

 お目当ての十二階層に着くと、サンドスライムの出現率は本当に気持ち程度の誤差しかなかった。
 この階層にみんなに散らばってもらおうと思ってたんだけど、これなら十三階層も討伐対象にした方が良さそう。

 「さて、やりますかね。みんなには散らばってもらいます!」

 今まで使ったことのなかったリュック型とショルダー型のマジックバッグもみんなに着けさせてもらった。
 ジルは念の為クラオルと一緒に行動してもらう。
 みんなに討伐をお願いして、私は精霊達とグレウスと一緒に十一階層のボス部屋の続き部屋に戻った。
 ここはセーフティエリア。魔物が出ないから何をしてても大丈夫。

 精霊とグレウス以外にはドロップ品を集めてもらうけど、私は核から砂作り。また頼まれたら面倒だからね。
 これは偽装じゃないよ! 核はさっき十匹からゲットしてきたからちゃんとこのダンジョン産だよ! モノと頭は使いようでしょ!?

 グレウスに簡易かまどを作ってもらい、コンロもフル活用して鍋でサンドスライムの核を煮る。
 私の魔力を使わないために宿の井戸から汲んできた水を使った。
 私はダンジョンドロップ品に似せた小瓶を作るつもりだったんだけど、私の魔力で普通の小瓶より頑丈になっちゃうため、精霊達三人にダメだと言われてしまった。
 道具を作っているとき、無意識に魔力が流れているらしい……知らなかった……

 結局、砂を入れる小瓶は精霊の子達が超特急でドロップ品そっくりな物を作ってくれていて、ウェヌスが精霊の国から運んでくれている。
 ウェヌスが魔法で鍋をかき混ぜて、エルミスに水分を飛ばしてもらい、プルトンが砂を小瓶に入れていく。
 鍋のかき混ぜを代わろうかと思ったのに、ウェヌスが魔法でやってしまうため私は手持ち無沙汰。

「むぅ……私また役に立たないじゃん」
《ゆっくりなさるのはどうでしょう?》
「みんなが頑張ってくれてるのに……」
《精霊の子に渡すパンを作るのは?》
「そうする……」

 プルトンの案で私はパン作りをすることになった。



 コテージのオーブンも使ってパンを量産して、せっかくならと生クリームの絞り袋も作ってショートケーキや練乳飴なんかも作ること三日。
 これでもかと砂も量産して、ドロップ品もみんなのおかげで手に入った。

「もう充分でしょ!」
〈おぉ! 戻るか?〉

 グレンも飽きてきていたらしい。
 他のみんなも空が恋しいらしいので、まだお昼だけど戻ることにした。

「その前に、デザート食べようか?」
『甘いものがいいわ!』
〈セナのは何でも美味しいからな!〉

 ここ毎日スイーツは食べていたけど、飽きることはないみたい。
 最後だからと、作ったホールケーキを出すと「おぉー!」と声が上がった。

『主様、これはなーに?』
「これはケーキだよ。この状態だとホールケーキ、こうやって切ったのをショートケーキっていうんだよ。ちなみにこれは、シュティーの生クリームです!」

 私が満面の笑みで材料を言うと、みんなが固まってしまった。

「美味しいよ?」
『そ、そうよね。主様飲んでたものね……』
「い、いただきます」

 ジルが覚悟を決めたようにくちに入れるのを、みんなは固唾を飲んで見守っている。
 ジルが目を見開いて一口ひとくち二口ふたくちと食べ進めると、ようやくみんなはショートケーキに手を付けた。

『おっ、美味しーわ!』
《な、なにこれ!》
〈セナ! おかわり!〉
「だから美味しいって言ったのに。ジルももっと食べる?」
「はい。いただきたいです」

 ホールケーキを八つも焼いたハズなのに、みんながおかわりして全部なくなってしまった。
 大満足らしいみんなはおなかを撫でながらジルが淹れてくれた紅茶を飲んで休んでいる。ネラース達もお気に入り認定したらしく、満腹からかウトウトし始めていた。

『また食べたいわ』
「ん~、しばらくは無理かな? シュティーに搾乳してもらわないと、残ってないんだよ。むしろあの短時間でこのケーキ分の生クリームを出してくれたシュティーに感謝しないとね」
『そうなのね……残念だわ』
〈早く取りに行こう!〉
「ふふっ。とりあえずダンジョンから出ないと」

 おなかがいっぱいで重い腰を上げ、ボス部屋の続き部屋にある転移魔法陣を起動してダンジョンの入り口まで戻った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。