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8章
壊れたナイフ
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宿でご飯を食べて、部屋のソファでジルの淹れてくれた紅茶を片手にひと息ついた。
「あ、そう言えばナイフの話するの忘れてた」
「ナイフですか?」
「そう。コレ」
訓練場に行ったときに飛んできたナイフを見せると、ジルが「普通のナイフではないですね」と呟いた。
ジルは私からナイフを受け取って細部まで見て調べ始めた。
「こちらは暗器に属するものだと思います」
〈鑑定してもナイフとしか出んぞ〉
「セナ様はいかがですか?」
ジルに言われて鑑定してみると、毒の仕込みナイフだった。
ただ、毒は仕込まれていないし、暗器としての肝心な部分が壊れているらしいから、普通のナイフとして使われていたっぽい。
「隠蔽されてるけど、壊れてるって。刃が折れても攻撃できるように、本当はこの持ち手の柄のところに針が隠せるんだって。で、この小さな穴に毒を入れて毒の仕込みナイフとして使うらしい。どっちも壊れてて使えないけどね」
〈そうなるとただのナイフだな〉
「ですが、セナ様を狙ったナイフですよね?」
「いや、一概には言えないかな」
あのときは、アーロンさんとその相手は気が付いていなかったけど、後ろに待機していた兵士さんは私達に気が付いている人が多かった。
「一瞬危険察知したけど、殺気とかじゃなかったんだよね。グレンの威圧に便乗して誰かを攻撃したんじゃないかな? でも、手元が狂ったかミスったかで私の結界に当たったんだと思う」
〈怪しい気配はしなかったぞ〉
「それは私もだよ。グレンが威圧した瞬間感じた危険は、ナイフが飛んできたことによる危険察知だと思う。私が狙われたワケじゃないよ」
誰が誰を狙ったかはわからない。
私がナイフを見せたときの兵士さん達の不思議そうな顔は、おそらく本当だと思う。
「あの状況から考えて狙われたのはアーロンさんの可能性が高いけど、兵士さんかもしれないからなぁ……今日は大丈夫だと思うけど、とりあえず気を付けるように言っておこう」
アーロンさんに手紙を書くと、プルトンが届けてくれた。
戻ってきたプルトンは上機嫌で〈すごい慌ててたわ~〉と笑っていた。
姿を消したまま、わかりやすく目の前に手紙を落としたんだそう。
アーロンさんは、レナードさん、アーノルドさん、ドナルドさん、リシクさんの四人を呼んで、〈城の警備を厳しくしろ〉〈今日訓練場にいた兵士と周りを調べろ〉と指示を出していたらしい。
「ん? アーノルドさんの気配がする」
気配を感じて私達がベランダに出て待っていると、アーノルドさんが空から降りてきた。
「やっほー」
「俺、マジ自信なくしそう……」
「ふふっ。他の人は気付いていないと思うよ。アーノルドさんが来たのは私に確認かな?」
「あぁ、話が早いな。で、本当か?」
「うん。ナイフ見る?」
アーノルドさんにナイフを見せると、ひと目見た瞬間に「こんなちっちぇナイフを城の兵士が持ってたとは思えねぇな」と首を振った。
「手紙にも書いたけど、私的には訓練場に併設されてる建物が怪しいと思うよ。兵士さんの中に犯人がいたらわからないけど、立ち位置的にね」
〈セナが狙われた可能性もあるんだ。さっさと探せ。それとも我が探すか?〉
グレンから魔力が漏れると、アーノルドさんはブルっと体を震わせて「勘弁してくれ」と嘆いていた。
「明日からダンジョン行くんだろ? アーロンが「非常に残念だが、延期しても構わん」って言ってたぞ」
「いや、予定通り行くつもりだったよ」
「そうか。それならダンジョンの入り口に立つのは暗部のやつらになると思うから安心してくれ」
「あれ? そうなの?」
私が狙われてたとしたら、入り口に立つ兵士が倒されて犯人がダンジョンに入るかもしれないし、もし兵士が狙われてたとして、その人がダンジョンの警備に当たったら危ないからだそう。
ドナルドさんとアーノルドさんが信頼できる人物になるらしい。
「それはありがとう。でも暗部の人が抜けちゃっていいの?」
「お嬢ちゃんの安全確保の方が大事だってよ」
「それは助かるけど、国王なんだから自分の身を守ることも忘れないでもらいたいね」
アーノルドさんは目を丸くした後、ひとしきり笑って「伝えとく」と肩を震わせていた。
「しかし、部屋に付属のベランダなんて狙われやすいんじゃないのか?」
「アーノルドさんに羽があるからそう思うんだよ。普通の人間はよじ登るしかないもん」
「あぁー、言われてみりゃそうか」
「それに普段は結界張ってるから入れないよ」
「……そうか。そうだったな。結界張れるんだよな……」
ちょっと遠い目になりかけたアーノルドさんの名前を呼びながら、服をちょいちょい引っ張った。
「ん?」
「これからお仕事?」
「んああ、そうだ」
「マジックバッグ持ってる?」
「んん? 持ってはいるけど、それがどうかしたのか?」
「夜食あげるよ。ちょっと待ってね」
麻袋にパンを五本ほど入れたものを二セット用意して、アーノルドさんに渡してあげる。
「一袋がアーノルドさんので、もう一袋はドナルドさんのね」
「いいのか?」
「うん。これから仕事ってことは寝ないんでしょ?」
〈セナの優しさに感謝しろ〉
「おぉー! すげぇ嬉しい! ありがとな!」
アーノルドさんがお礼を言いながら私の頭をワシャワシャと撫でた。
機嫌良くアーノルドさんが飛んでいくと、プルトンが結界を張り直してから問いかけてきた。
《今回も闇の子達呼ぶのよね?》
「うん。お願いできるかな?」
《もちろんよ!》
ウェヌスを呼んで説明すると《お怪我は!?》と心配されてしまった。
ナイフは結界に弾かれたから当たってすらいないのに、私にヒールをかけるウェヌス。
「ありがとう。でも本当に大丈夫だよ。真相を知りたいから闇の子に手伝ってもらいたいの」
《もちろんです》
ウェヌスに協力してもらって、闇の子にお城にいる人達の様子を探ってきて欲しいとお願いすると、快く承諾してくれた。
なんのことかと聞かれて、ダンジョンの話をすると、ウェヌスも一緒に行ってくれることになった。
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