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8章

中敷きとクッキング

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 朝ご飯を食べると、イペラーさんから「昨日渡すの忘れてたよ」とお手紙を渡された。
 部屋に戻って確認してみると、アーロンさん、ボンヘドさん、タルゴーさん、タルゴー商会のリシータさん、デタリョ商会のおじいちゃん、サルースさん、ブラン団長達からと大量だった。

「中敷き大好評だって」
〈まぁ、そうだろうな〉
「ん? もしかしてグレンも欲しかった?」
〈んん……あったら便利だと思うが……〉
「言ってくれたらよかったのに!」
〈言うタイミングがなかった! それに……セナは嫌なんだろ?〉
「水虫じゃないってパパ達が言ってたし、特には気にしないよ? グレンの足くさくないし」
〈なら、われにも作って欲しい〉
「ジルは?」
「以前はかゆかったりもしましたが、髪色が戻ってからは気にならなくなりました」
(覚醒したからかな?)

 とりあえずグレンの中敷きも作ろうとグレンとジル以外コテージに移動した。
 グレンとジルには中敷き用の布のおつかいをお願いしておいた。

『主様? それ、サンドスライムの核じゃなくない? それに、もうひとつのやつって前にタルゴー商会で買った板よね?』
「ふっふっふ。これは【スライム液】と【プラスラ液】だよ。グレンとジルには特別なの作ろうと思って」

 クラオルが言っていたタルゴー商会で買った板はラバーソールみたいなちょっと弾力のある板。
 スニーカーを作りたくて買ったんだけど、中敷きにも使えると思うんだよね。

 日本の中敷きの記憶を頼りにみんなに協力してもらって成形していく。
 素晴らしいポラルのサイズ計測能力で、ブーツの形状も足の形状もわかった。
 エアインソールみたいにクッション性を出すのに【スライム液】と【プラスラ液】を使ってジェル性のクッションを作った。カットしたラバーソールのかかと部分と足の指の付け根部分に穴を開け、そこに作ったジェルクッションを埋め込んでくっつける。
 最後に【スライム砂】で作った中敷きをくっつければ完了だ。
 ちゃんと土踏まずとかも山型に成形したから疲れ防止もバッチリのハズ!
 ちょっと実験として、炭とダンジョンで入手したいい香りの草を混ぜ込んでみた。相殺されたら意味ないけど、もしかしたらいい匂いだけ残ってくれるかもしれない。

 デタリョ商会のおじいちゃんから【グルスラ液】をもらっててよかった。大活躍だよ!

「できたー! みんなありがとう!」
『主様、自分のはいいの?』
「私のはパパが作ってくれたブーツだからか蒸れないし、疲れないんだよね。エルミスとプルトンはいる?」
わしらは平気だ。精霊はそういう苦悩はない。同じく妖精もないハズだからキヒターも必要ない》

 いいものができた! と、ルンルン気分で宿の部屋に戻って、お手紙の返事を書いた。手紙はイペラーさんにお願いしておく。
 帰ってきたグレンとジルから布を受け取って再びみんなでコテージへ。

「グレンとジルのできたよ」
「僕のもですか?」
「うん。疲れにくくなるように作ったから、ジルも使うかなって思って」
「セナ様……」
「試してみて!」

 グレンと感動してうるうるしてしているジルに中敷きを渡すと、グレンに〈不思議な形だな〉と言われてしまった。

〈おぉー! これは足が楽だ! ブーツも軽い!〉
「柔らかいのにしっかりしています」
「よかった! 一応軽量化も付与しているからラバーソールの重さは感じないと思うんだ」
〈いや、ブーツそのものが軽くなった〉
「はい。重さを感じないのに守られている感じがします」

 まさか中敷きでブーツまで軽くなるとは思わなかったけど、喜んでくれているからよしとしよう!
 午後まではグレン達が買ってきてくれた布で土踏まずがアーチ型のものや、魔物の毛を使ったクッション性のある物をモデルとして作った。
 途中、手伝ってくれていたグレン達が〈われらのとは形が違う〉と不思議がっていて、「グレン達のは特別なんだよ」と説明しておいた。



 お昼ご飯を食べたらお迎えの馬車に揺られて商業ギルドへ。
 ギルドにはなぜかアーロンさんがいた。なんでも見習い君に付いてきたらしいけど、私の予想では食べにきたんだと思う。

「あ! オジサン!」
「……おう」
「では、皆サマよろしいですカナ?」

 オジサンに話しかけたらボンヘドさんが集まった人達に話し始めてしまった。

「こちらのセナ様が教えてくれマス。ここに集まった人達は口外こうがいしないと誓約書を交わしている人しかいませんですヨ。ではセナ様、よろしくお願いしマス」
「えっと……よろしくね?」

 ボンヘドさんが私を紹介すると、オジサンはパクパクとくちを開け閉めして驚いていて、他の人は胡乱うろんげに見つめてきたり、動じなかったりとさまざまな反応をみせた。

「お帰りになりたい方は帰っても構いませんが、いらっしゃいますカナ?」

 ボンヘドさんが声をかけると、悩む素振りを見せる人はいたけど実際に行動を移す人はいなかった。
 おそらくアーロンさんがいるからだろう。

「じゃあ、まずドライカレーから説明していきますね。この粉を使います」

 ドライカレー組はオジサンを含めて四人。
 ボンヘドさんからの手紙で今回のレッスンでは配合から教えて欲しいと書いてあったので、そこから説明を始めた。
 ベビーカステラ組は離れているので私の手元は見えない。教えている事実と、カレーの香りと、料理人の反応を見させて興味を持たせるんだって。

 オーソドックスなドライカレーを作り終わったら試食タイム。
 嬉々としてアーロンさんも寄ってきた。このレッスンのために今日はお昼ご飯を食べなかったらしい。

「やはりセナのドライカレーが一番美味いな」
「それはどうも」
〈セナ! われも食べたい!〉
「いいよ。パンもいる?」

 勢いよく頷いたグレンにパンと一緒にカレーを渡してあげる。ナンもクラオルファミリー達のために量産したときに一緒に作っておいたんだけど、今回はアーロンさん達もいるためおあずけ。
 じゃないと、ナンもレシピ登録! なんてことになりそう。他にもやりたいことがあるので、自分達で開発してくれたらいいなと思う。

 試食は好評で、「美味しい」と褒めてもらえた。「アレンジ可能レシピだから自分が美味しいと思う野菜やお肉を入れてみて」と伝えると、帰るか迷っていた料理人さんの目付きが変わった。

 試食が終わったら実際に作ってもらう。
 カレー組に作ってもらっている間に、ベビーカステラ組のところへ。ちなみにオジサンはベビーカステラの説明も聞くらしい。

「お待たせしました。こちらは甘いものでベビーカステラです」

 たこ焼きピックのレシピ登録を忘れていたので十本ほど作っていたんだけど、ベビーカステラ組はオジサンと見習い君含めて五人だった。
 ベビーカステラ組はたこ焼き器を買わないとダメなんだけど、このたこ焼きピックはどうしようか……
 餞別としてあげてもいいんだけど、モメそうな気がするんだよね……

 カレーほど材料の説明に手間取らなくて済み、すぐに焼き始められた。
 丸くするのに二つを合体させ、たこ焼きピックでクルクルと返していく。
 焼きあがったら試食。これもアーロンさんとグレンが食べに寄ってきた。

 たこ焼きピックを渡してベビーカステラ組にも作ってもらう。
 カレー組の方に戻ると、早速質問が飛んできた。
 一人の質問に答えるとあっちこっちから質問されててんやわんや。ちょこまかと部屋の中を走り回って教えるはめになった。
 オジサンはカレーを作りながらベビーカステラも作っていて、私より器用だと思う。しかもカレーもベビーカステラも教えている人の中ではダントツに上手かった。

 レッスンが終わったころには私は疲労困憊。

 たこ焼きピックは商業ギルドにレシピ登録となり、私が作ったやつは回収になった。私的にはあげてもよかったんだけど、グレンいわく、私が作ったせいで私の魔力が込められているらしい。

 新しいたこ焼きピックが出来上がるまでお城で食べられないことを知ったアーロンさんがぶぅたれてたけど、グレンに「目の前でセナがケガをさせられたのに何もしていなかったんだろ? むしろ殺されずに済んでよかったと思え」と威圧されて泣く泣く了承していた。
 アーロンさんのせいじゃないし、あのときのグティーさんも故意じゃないのに……

 疲れている私は帰りの馬車の中でウトウト。宿に着くころには爆睡していた。
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