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8章

モフモフ天国の危機【5】

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 クラオルとグレウスに起こしてもらうと、グレンとジルに挟まれていた。
 私がモゾモゾと起き上がるとグレンとジルも起きてしまった。

「おはよう。起こしちゃってごめんね」
〈おはよう。ふわぁ……構わん〉
「おはようございます。セナ様、具合が悪いとか傷が痛むとかありませんか?」
「ふふっ。心配してくれてありがとう。ほら、傷跡もないし大丈夫だよ」

 昨日の傷くらいじゃ貧血にもならない。
 心配性の二人に腕を見せてなんともないことを見せて証明した。
 ウェヌスは私が起きたのを確認すると精霊の国に戻っていった。

「さて、朝ご飯作るからちょっと待っててね」
〈パンで構わん。作り置きしてあるだろ?〉
「そうしましょう。セナ様は休むべきです」

 問題ないのに、過保護な二人は私に腕を使わせたくないらしい。
 二人に押し切られて作り置きしておいたウィンナーロールで朝ご飯を済ませて、クラオルファミリーの元へ戻る。
 大丈夫だって何回言っても聞き入れてもらえず、私はネラースに騎乗して運んでもらうことになった。



 クラオルファミリー達は私達が戻ると、遠巻きにこちらの様子を窺っていた。
 怖がられちゃうかもと予想はしていたけど、かなりショック……

『主様?』
「……」

 ショックすぎて泣きそうな私の肩からクラオルが降りて、ファミリー達の方へ走っていった。
 ネラースの隣りにしゃがみこんでイジイジしていると『キキッ』と誰かが寄ってきてくれた。
 顔をあげると、昨日私が膝の上に乗せて撫で回していた子だった。不思議そうな顔でアーモンドを渡してくれる。

「こわくない?」
『キキ?』
『んもう、主様ったら。そんなワケないでしょ! ワタシの一族は主様のこと大好きよ』
「ホント?」
『本当よ。シュティー達に驚いただけだから安心してちょうだい』
「良かったぁぁぁ」

 アーモンドを持ってきてくれた子を持ち上げてスリスリさせてもらうと、スリスリし返してくれた。
 私のメンタルが復活したところで、オロオロしていたシュティー達を紹介した。
 昨日のグレンの怒気を謝ると、いち早く察知したルフスが結界を張ってくれていたらしく、なんともなかったんだそう。素晴らしきルフス!

 シュティー達はファミリー達とすぐに打ち解けて『可愛い』『可愛い』と愛でている。
 みんなが狩ってきた魔物を回収すると結構な数量だった。

 念のため、ルフスに周りを見てきてもらって安全を確かめてもらう。その間に私はみんなへのご褒美にリクエストされたフレンチトーストを作った。
 戻ってきたルフスから《大丈夫だっち!》と報告を受けて、ファミリー達も一緒にフレンチトーストを食べた。

『まぁ! 昨日のスープも美味しかったけど、これは美味しすぎるわ!』
『初めて食べたけど、毎日でも飽きないわ!』

 シュティー達もファミリー達も気にいってくれたらしく、あっという間に食べ終わってしまった。

「シュティー達の服も買わないとだよね」
〔サイズ、ハカリマスカ?〕
「おいおい作ってあげたいから測ってはもらいたいんだけど、一回街の服屋さんに連れて行きたいんだよね」
『街の?』
「そう。女の子だからオシャレしたいかなって思って。従魔の首輪のときも可愛いのがいいって言ってたから、せめて好きな服の系統を知りたいなって」
『どこに連れて行くかってことね』
「そうなの。どこがいいと思う?」

 相談した結果、カリダの街のデタリョ商会に決まった。秘密を守ってもらえそうだし、商会だから服がいっぱいあるんじゃないかと。タルゴー商会じゃないのは私のレシピの件で忙しそうなのと、王都で手紙のやり取りしてたため怪しまれると思ったから。

 お昼ご飯を食べたら、早速行動開始! 準備を頼むためと、カリダの街に飛ぶために、一度キヒターの教会に飛んだ。
 キヒターが出迎えてくれて、シュティー達を紹介すると《ついに僕も先輩ですね!》と喜んでいた。
 キヒターに二人の部屋の準備をお願いして、シュティー達には影の中に入ってもらう。目指すはカリダの街。

 デタリョ商会に着くと、受け付けのお姉さんがお馴染みになりつつあるダッシュでおじいちゃんを呼んできてくれた。

「セナ様、シュグタイルハンの王都にいるとタルゴー商会よりお聞きしていたのですが……」
「あ、タルゴーさん、ちゃんと連絡してくれてたんだね。良かった」
「はい。セナ 様のレシピを一緒にいかがかとお声をかけていただきました。今は取り引きにあたり、話し合っております」

 タルゴーさんへの手紙で、デタリョ商会が望むならデタリョ商会にスライムのドロップ品を卸してあげて欲しいとお願いしておいたんだけど、もう連絡がきていたのか。
 さすがタルゴーさん。仕事が早い。

「料理も他のものもタルゴー商会だけだと独占になっちゃうと思って。だから、おじいちゃんが使いたいレシピがあったら許可出すから教えてね」
「ありがとうございます。恐悦至極に存じます。本日はその件についてでしょうか?」
「ううん。今日は内密なお願いがあってきたの」
「セナ様のお願いでしたら、可能な限り応えたいと思っております」
「私の従魔の服を用意してもらいたいの」
「従魔の服でございますか?」
「うん。大きいんだよね」

 驚かないで欲しいと伝えてから、シュティーとカプリコを影から呼び出した。

『えっと……はぁい』
「「!」」
『『……』』

 モジモジしながら片手をあげてカプリコが挨拶したけど、叫ばれたりはしなかったものの驚かれてしまい、二人とも肩を落としてしまった。

「この二人の体に合うサイズのものをいっぱい持ってきて欲しいの。二人に選んでもらうから」
「ゴホン! 取り乱して申し訳ございません。お嬢様方の服でございますね。何かご希望はございますか?」
「動きやすいのもそうなんだけど、可愛い服お願いできる?」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」

 おじいちゃんは執事のお兄さんを伴って部屋を後にして、残ったのは私達だけ。

『驚いてたわ……』
「そりゃそうだよ。目の前にいきなり現れたんだもん」
『アタイ達に驚いてたんじゃない?』
「人の言葉喋れるからね。大丈夫だよ。安心して?」
『なんでかしら? お嬢様に大丈夫って言われると大丈夫な気がしてくるわ』

 ショボーンと小さくなっているシュティー達を元気づけるようにニッコリと微笑むと、肩のチカラが抜けたらしく、ぎこちないながらも二人共微笑んでくれた。

 戻ってきたおじいちゃんと執事が、マジックバッグから大量の服を出していく。
 二人共瞳をキラキラと輝かせて『すごいわ!』『可愛い服がいっぱいよ!』と喜んだ。
 試着室は持って来られないので、パーテーションで簡易試着室を作ってくれた。

 二人に気に入った服を試着してもらうと、衝立の向こうからキャッキャとはしゃぐ声が聞こえてきた。

 二人が試着している間に、生活に必要と思われる雑貨、下着、食料品など一通りお願いした。ちゃんと生クリームと練乳を入れる用の小型のたるも大量に。ついでにこの世界で洗剤として使われているバブルジェトンの葉っぱもこれまた大量に。

 試着が終わった二人に「気に入ったものを一人五着選んでね」と言うと『そんなにいいの!?』と驚かれた。
 一応この世界は一週間が五日だから、毎日日替わりで着られるように五着。服を入れるタンスみたいなのは前に買って設置してあるから大丈夫!
 二人は大喜びで服を選んでいて、おじいちゃんと執事のお兄さんも微笑ましいものを見るような笑顔になっていた。



 教会に転移で戻ってきたら、行きと同じく影に入ってもらっていた二人を呼んだ。

「キヒター、二人の部屋準備してくれた?」
《はい! 毎日掃除しているので大丈夫です! 好きな部屋を使って下さい》
『本当にこんな素敵なところに住んでいいの?』
『アタイ達が入ってけがれたりしない?』
「ふふっ。この教会は護られてるから悪いやつは近付けないんだよ。二人共心がキレイだから大丈夫だよ。入れたでしょ?」

 二人が選んだ部屋に荷物を出して、いろいろと教会を説明して回る。二人とも目を輝かせながら真剣に聞いていた。

「あと、わからないことはキヒターに聞いてもらってもいい? そろそろ戻らないと宿の人に心配されちゃうから」
『何から何までありがとう!』
『ミルクいっぱい出すわ!』
「ふふっ。無理しない程度にお願いね」

 キヒターから作り始めたというトマトやネギなどの野菜と薬草をもらって、転移でファミリー達のところに寄ってから王都の近くまで飛んだ。

 宿に帰るとイペラーさんに「遅い!」と怒られ、夜ご飯は私のだけやたら量が多かった。いつもグレン達に食べてもらっている私へのイペラーさん流の罰だと思う。
 もちろん食べ切れるハズもなく、グレンが喜んで食べてくれました。

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