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8章

かゆみとにおい

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 グティーさんの魂の叫びが執務室に響き渡った。

「「「「「…………」」」」」
「わかるか? わからないよな? 若いもんな……あのかゆさは集中力が途切れるんだ!」

 若さは関係ないと思うけど、さすがに腕が痛くなってきたので無理やり離させた。
 掴まれていたところは手形に赤くなり、ところどころ鬱血うっけつしてしまっていた。
 それを見たジルから不穏なオーラを察知して急いでヒールをかけて治した。

「ほら! もう大丈夫だから、ね?」
「セナ様はお優しすぎます! セナ様に怪我を負わせたのですよ?」
「まぁ、まぁ。可愛いクラオルとグレウスで癒されて?」

 ジルの気を紛らわそうとジルの顔の目の前でクラオルの腕を上げ下げしてみると、ジルの眉間に寄っていたシワはなくなったけど、クラオルから“何やってんのよ”って視線を感じた。

「んと、グティーさんの気持ちはわかった。明日まで待ってくれる??」
「……わかった」
「ありがとう。リシータさん、ちょっとタルゴー商会に寄りたいので一緒に帰りましょう」
「はっ、はい!」
「じゃあまたねぇ~」

 グティーさんの勢いに呑まれて茫然としていたアーロンさんとボンヘドさんを放置して執務室を出る。
 我に返ったアーロンさんに引き留められないうちにタルゴー商会に行きたい。

 急ぎめでリシータさんが乗ってきたという馬車に乗せてもらって「ふぅ」と息を吐いた。

「急がせちゃってすみません」
「いっ、いえ! な、何かご入用ですか?」
「タルゴー商会のわかる範囲で構わないので、一般的なブーツのサイズを調べて欲しいんです。女性、男性……キアーロ国よりもシュグタイルハン国の方が大柄な男性が多い気がするのでその辺も。あと、タルゴーさんへのお手紙を書きたいので」
「かっ、かしこまりました!」

 お店に着くなりリシータさんはスタッフに指示を出し、私は執務室に案内してもらった。

 タルゴーさんへの手紙を書きながら、ポラルにこっそりチェックしてもらったグティーさん達のブーツのサイズを違う紙にメモる。

「アーロンさんって足大きいんだね」
〔グティー、ボンヘド、フタリトモ、アシガクサカッタデス〕
「ぶっ! ちょっとポラル~、笑わせないでよ~! あ! 文字が!」

 ポラルの衝撃発言で笑ってしまい、書いている途中で文字がグシャグシャになってしまった。

「そっかー、じゃあ消臭機能もあった方が良さそうだね」
「セ、セナ様! そんなこともできるのですか!?」
「実験しないとわからないからまだなんとも言えないんだけど……できる気はする。ただ量が作れるかは微妙なところかなぁ?」

 今のところ消臭機能が期待できるのは炭しかない。コーヒーや消臭機能のあるハーブでもあればいいんだけど……乾燥させたハーブって消臭より芳香のイメージが強いんだよねー。私が知らないだけかもしれないけど。
 紅茶のダシガラなら消臭するかな? いざとなったら炭窯作ってもらうしかないかな?

「よし! 書き終わった!」
「わ、わたくしも商会長に送るものがありますので、一緒に送っておきます」
「ありがとうございます! あと、この国のダンジョンで手に入るドロップ品の一覧表って作ってもらえたりする? 今まで使用用途がないものも全て記載して欲しいの」
「はっ、はい! もちろんです! 少々お時間かかってもよろしいでしょうか?」
「うん」

 指示を出しに一度部屋を退出したリシータさんが戻ってくると、書類らしきものを持ってきた。
 最初に頼んだブーツのサイズをまとめてくれたらしい。ただ、ここ王都だけの大ざっぱなもので、細かいことや周辺国との違いはもう少し待って欲しいとのことだった。

「とりあえずこれだけもらってってもいい? 他のは明日以降でも大丈夫だから、皆さんの負担にならない程度でお願いします」
「はい! 気遣っていただきありがとうございます!」

 馬車を出してくれるという申し出を断って、ジルと手を繋いで街をプラプラしながら歩く。
 寄ったお店のおじさんやおばさんに「仲良しの兄妹だねぇ~」とオマケをもらえてラッキー!

 宿に着くと、グレンはまだ戻ってきていなかった。
 ジルに断ってから私はコテージの作業部屋へ。

「なんかちょっと疲れたねぇ」
『主様休めてないもの。この国にここまで貢献しなくてもいいと思うわ』
「お城の料理に関してはあれだけど、カレーとこの中敷きは自分で撒いたタネだからねー。まさか晩餐会にカレーを出されることになるとは思ってなかったけど」

 キアーロ国のときよりちゃんと教えた数日間で、思っていたよりも精神的に疲れてしまった。常に気を張って対人スイッチをオンにしていたからだと思う。
 モヤモヤしたりもしないし、安全なのもわかってるんだけど、キアーロ国のブラン団長やサルースさん達とはちょっと違うんだよね……

「そう言えば、いつ街の食堂とか屋台で提供する人達に教えるんだろうね? 聞いてなかったや」

 ポラル達に協力してもらって中敷きを作っている最中に、ふと疑問に思った。
 まぁ、連絡してくるよね。

「明日はゆっくり休みたいなぁ~。癒されたい。あ! クラオルの実家にお邪魔してもいい??」
『もちろん! 主様が行ったらみんな喜ぶわ!』
「明日はお土産のパン作ろうか? パンって言えば精霊の子達に炭頼みたいからそっちの分も作らないとだ」
『主様、今さっき明日はゆっくり休みたいって言ってなかった?』
「言ったっけ?」
『言ってたでしょ! 誤魔化されないわよ! 明日はゆっくりしなきゃダメ!』

 クラオルの意見にエルミスとプルトンも賛成してしまい、明日はお休みが決定してしまった。

「みんなに会うためならパン作りも苦にならないのに……」
『ダメったらダメよ!』
「はーい。よし、できた!」

 グティーさんの足のサイズのと、王都でよく売れているサイズをいくつか作った。実際に試してもらって効果を確認してもらおう。
 消臭は、また今度。もしかしたら炭以外で使えるものがあるかもしれないからね。

 作っている間にグレンが戻ってきたので、宿に戻って明日はまったりすることを伝えると、グレンはまた明日出かけるらしい。
 何をしているのかは聞いても〈楽しみにしていろ!〉と教えてもらえてないけど、楽しそうだから良かった。
 冒険者ギルドのグティーさんとタルゴー商会のリシータさんへのお届け物を頼むと、〈それくらい構わん〉と請け負ってくれた。


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