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8章
ホットプレートの村
しおりを挟む朝食を食べている最中にお城からのお迎えがきて驚いた。
迎えにくるとは言っていたけど、まさかこんなに早いとは思ってなかった。
迎えにきてくれたリシクさんいわく、冒険者ギルドと商業ギルドの買い取りの件についてもお城でやるんだそう。
「お食事中申し訳ありません」
「リシクさんのせいじゃないのはわかるから大丈夫だよ。食べ終わるまで待ってもらっちゃったし」
「ご迷惑だと言ったのですが、聞き入れてもらえませんでした」
アーロンさん強引なところがあるもんね。まぁ、それくらいじゃ私も怒ったりしないさ。多分だけど、“朝ごはん食べてなかったら城で食べればいい!”とか思ってそう。
お城に着くと、昨日とは違って応接室に案内された。
会議室のように広い部屋には、ドナルドさん以外とタルゴー商会の支店長であるリシータさんが集合していた。あれ? と不思議に思っていると、「彼は暗部の者なのであまり人前に出ないのです」とリシクさんが説明してくれた。昨日は挨拶どころか一緒にご飯も食べたのに……
私達がソファに座ると、待っていましたと言わんばかりにボンヘドさんがズイッと近付いてきた。
「ひとまずコチラを確認してもらえますカナ?」
渡された紙を見てみると、今回の買い取ってくれるものの一覧表だった。次いでグティーさんからも一覧表を、タルゴー商会のリシータさんからはタルゴーさんからの分厚い手紙を渡された。
ササッと一覧表を見たあと、それをジルに渡して確認してもらう。
「パッと見は計算間違いとかもないけど、ジルは気になるところある??」
「そうですね……この真珠について、いささか気になります。セナ様が預けたものは等級が異なるものですので、詳細を明記していただきたいです。この個数が全て良質のものとすれば安すぎると思います」
「ほう。さすがセナに忠誠を誓っただけのことはあるな」
「オォー! セナ様の従者は優秀ですネ! 今スグ書き足しマス!」
え……そうなの?
渡した良質ものって言っても、日本のイミテーション……いや。小さい子がお姫様ごっこをするときに使うオモチャみたいなモノだったハズ。形もまん丸ではなく歪なものを出していた。
それに、腐るほどある真珠を多少ぼったくられたとしても私は痛くも痒くもない。
っていうか、見るからにすごい上等の真珠はいったいいくらくらいになるんだろう……値段が付けられないとかありえそう。
「こちらの冒険者ギルドの方は素材の質を考えると少し安い気が致しますが、不備は見当たりません。ですが……魔道具は買い取らないのですね。それが少し意外です」
「あぁ。それはオレが買い取る予定なんだ」
「アーロンさんが?」
「あぁ。それにしてもセナはその早さで計算したのか?」
「え、うん。これくらいの計算なんてすぐできるでしょ?」
端数とか小数点とかあるワケじゃないし、単純なかけ算とたし算だもん。小学生でもできると思う。まぁ、ケタはおかしいけど。
「うむ。まぁ、セナだからな……とりあえず魔道具は国が買い取る」
「ふーん」
「こちらの金額をお確かめ下さい」
あんな弱々魔道具を買い取るなんてもの好きだよねー、と思いながらレナードさんに渡された紙を確認すると、ニャーベルの街の買い取り金額と差がなかった。
ジルもグレンも納得の金額だったのでレナードさんから魔道具代を受け取った。
ボンヘドさんが書類を書いてくれている間に、部屋に置いてある大きなテーブルの上に冒険者ギルドの一覧表に書いてあった物を出していく。
「ちょっと待ってくれ。これはこちらが想像していたより状態がいいものが多いぞ」
「だから最上級だと言ったではありませんか」
グティーさんの反応にジルが不満そうに呟いた。
今まで目安となる素材を出していたのに出さなかった私が悪いし、計算をし直すとなったらグティーさん達は大変だろう。面倒なことはちゃっちゃと終わらせたいし……
「面倒だからこの紙に書いてある金額でいいよ。これ以上膨れ上がったらギルドも大変でしょ?」
「いや、しかし……」
「気にするならさ、もし冒険者とか不快な人達が絡んできたときに手を貸してくれた方がありがたいよ。基本的に指名依頼とか断ってもらいたいし」
「それはもちろん……だがっ」
「ジルもグレンもそれでいいでしょ?」
二人共、私の意図を理解してくれたらしく頷いてくれたので「それでお願い」と話を打ち切らせてもらった。
ボンヘドさんが詳細を書き出した紙をジルに確認してもらって、私は商業ギルドの一覧表に書いてあるモノをテーブルの上に出した。
「これで全部だよ」
「ありがとうございマス。確かに受け取りましたヨ。ではコチラが商業ギルドからの代金でソッチが冒険者ギルドからの代金デス。そしてコチラが返品の真珠になります」
「はーい」
受け取った袋をそのまま無限収納にしまったら、買い取りの話は終了だ。
「では、先ほどのタルゴー殿からのお手紙を確認していただいてもよろしいでしょうか?」
レナードさんに促されて手紙を開いた。
リシータさんがこの部屋にいることで予想はしていたけど、やっぱりたこ焼き器とレシピ登録についてだった。
まさかシュグタイルハンの国王と知り合いなんて! という驚きが書き綴られているところから手紙は始まった。
ゲーノさんの屋台のラップサンドが好評でそれに伴ってホットプレートも売れているらしい。生産が追い付いていない状態で、ゲーノさん一人では無理だと人を雇って量産中。
ゲーノさんの村は今やホットプレートの工房村として発展していて、スライムのドロップ品をタルゴー商会が買い取ると冒険者ギルドで発表したため、スライムダンジョンにも人がたくさん訪れているらしい。
私達が訪れたときは宿屋とかもなかったけど、宿屋も建ち、食事処もできたんだとか。
そしてブラン団長達に頼んでいた通り、ピリクの街の管轄になったんだそう。
ゲーノさんが作っていたホットプレートもたこ焼き器もレシピとして登録してあるから、ここ王都でも作って構わない。私が望むならここ王都にも工房を作らせるから遠慮なく言って欲しい。
“そしてソイヤ村と取り引きを始めましたわ! セナ様は村を救った英雄ですのね! 村人から、またセナ様に会えるのを楽しみにしていると伝言されましたわ!”と締めくくられていた。
「おそらくこちらにきた手紙と似た内容が書いてあると思うが、セナが心配していた魔道具作りの許可が下りた。その職人については商業ギルドとタルゴー商会に頼もうと思う。それでセナにレシピを登録して欲しいんだが…………」
なんだか煮え切らない態度のアーロンさんに首を傾げる。
「昨日の夜メシの鍋も教えてもらいたいんだよ。あんな美味いもの初めて食った。昨日お嬢ちゃんが帰ったあとに料理人に問い詰められたんだ。あの液体はなんだ!? ってな」
「あぁー、なるほど」
言い淀むアーロンさんに代わってアーノルドさんが発言に納得した。
普段醤油に馴染みがないから余計だね。付け合わせにお味噌汁も作ってたし……
醤油と味噌はキアーロ国でブラン団長達にも教えたから構わないんだけど……
「ダメか?」
「うーん。いいんだけど、多分驚くんだよね。あと、材料に関しては注意事項もあるんだよ」
私が注意事項と言うと、部屋にいた全員がゴクリと唾を飲んだ。
「いや、そんなヤバい注意事項ではないから大丈夫だよ。私的にはタルゴーさんからも言われてたし、違う料理と便利道具のレシピを登録したかったんだけど……」
「違うレシピ?」
「うん。ここシュグタイルハンのダンジョンで手に入るものから作れるやつ」
「なんだと!?」
いきなりソファから立ち上がったアーロンさんに驚いて、ビクッと反応してしまった。
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