195 / 538
8章
お肉と卵と言えば
しおりを挟む思いついたご飯の材料を伝えると、レナードさんが早速お城の厨房に伝えに行ってくれた。
「セナはいつあのダンジョンに入るんだ?」
「ん~……まだ決めてないんだよね。深いならまた今度かなぁ……ガルドさん達探したいし」
「ガルド?」
「私を呪淵の森で助けてくれた人だよ。アプリークム国にいるらしいんだよね」
「名前がわかってるなら冒険者ギルドに聞けばわかるんじゃないか?」
「!」
そうか! その手があった! あぁー! 私馬鹿じゃん! いや……今日聞けばガルドさん達の場所を目指していけるじゃん!
「聞いてきてやる」
「ホント!?」
「あぁ。だが、他国の場合詳細は教えてもらえない可能性もある」
「うん! 国内だったらわかるってことでしょ?? 行き当たりばったりよりありがたいよ!」
ドナルドさんが冒険者ギルドに問い合わせに行ってくれると言うので、ガルドさん達の情報をメモして渡すと、アーノルドさんと同じように窓から飛び立っていった。
『良かったわね。ずっと気にしていたものね』
「うん! これで近付けるかもしれないね!」
クラオルとグレウスをモフモフしながら話している最中、ジルが何か考えていたことを私は気が付いていなかった。
「セナは何か欲しいものはないのか?」
「うーん。シュグタイルハンはお肉は豊富だけど、野菜とかキノコが少ないよね」
「クククッ。食材か」
キノコ系はキヒターの教会に行ったときに、キヒターが収穫してくれてたのをもらったからまだあるけど、このままシュグタイルハンで手に入らないのは在庫が心配。
「もしくはお城の書庫で本読みたい」
「ほう。セナは本も読むのか。構わん。許可しよう」
「ありがとう!」
「ただ、オレの国はあまり本を読まないからな……本自体はいっぱいあるが、古い物が多いぞ。オレも何があるのかわかってないからな」
「それは問題ないから大丈夫」
全言語理解があるから、たぶん古代文字みたいなので書かれていても読めると思う。
キアーロ国で読んだみたいな食べ物系の本があったら嬉しいな。
アーロンさんとリシクさんと話していると、レナードさんが戻ってきた。
「セナ様、一口コンロと鍋はこちらでもよろしいでしょうか?」
「うん! ありがとうございます」
「いえいえ。陛下がワガママを言って申し訳ございません」
「大丈夫だよ。無理だったらちゃんと拒否るから」
レナードさんと話しながら確認してから、他の食材を見に行くことにした。
◇
お城の厨房に着くと、グレンがおなかいっぱいまで食べても余りそうな量の食材に少し顔が引きつってしまった。
「足りますでしょうか?」
「私達の分だけなら余裕だと思う」
「料理人にも手伝うように言ってありますので、指示をお願い致します。セナ様はこちらの踏み台をお使いください」
「はーい。ありがとう」
この山のような食材を切るのは一苦労なので、遠慮なく手伝ってもらっちゃおう!
料理人の人達には鍋用の野菜のカットをお願いして、私はジルに手伝ってもらって今回の要のタレ作り。
料理人さん達は日頃から慣れているのか、ものすごい速さで野菜をカットしてくれていた。
お肉は風魔法を使ってカットしていくけど、あまりの量に気が遠くなりそう。猛烈に業務用のお肉スライサーが欲しくなった。こういう時のために精霊の子達にお願いしちゃおうかな。
準備が終わる頃にはアーノルドさん達も戻ってきて、今か今かとアーロンさんが厨房を覗いている。
食堂だと注目を集めそうだから執務室で食べたかったけど、料理人さん達に手伝ってもらったため「どんな料理か見たい」と言う料理人さん達のお願いを断れなかった。
料理人さん達が見守る中、セッティングを終えたテーブルの前で、今回の料理の説明を始める。
「今回はすき焼きだよ。自分の前に置いてある鍋で自分用のを作ってもらいます」
「ほう。面白いな」
「コンロに火をつけて下さい。そしたらこの黄色い脂の塊を溶かしてお肉焼いてね」
アーロンさん達の様子を見ながら説明を続け、割り下を投入すると食堂全体にすき焼きの香りが広がっていく。
「好きな具合に煮えたらお皿に入れてある卵につけて食べてね。味が濃いめだからパンも進むと思うよ。卵が足りなかったら真ん中のボウルから使う分だけ取って、お肉の追加は焼けないからそのまま煮てね」
アーロンさんが食べ始めたのを確認してから、私も席に着いてすき焼きを作り始める。
今回は私が食べ慣れている関東風。そのうち関西風も食べてみたい。
豆腐がないから関西風ではお馴染みらしい白菜を多く入れ、しらたきの代わりに細切りにした緑色のコンニャク。糸こんにゃくほど細くは切れなかったけど、その辺はご愛嬌ってことで。
煮込んでいると、これはすき焼きモドキだなと思った。見た目があんまり美味しそうじゃないんだもん。豆腐の白って大事ね。
まぁ、多分みんな食べたことないだろうから大丈夫だと思う。割り下には醤油使うしね。
見守っていた料理人さん達が味見をしたいらしく、鍋三つ分くらいの割り下を分けてあげた。厨房に戻って作ってみるらしい。
後ろから兵士さん達からの視線を感じるけど、今回使ったショユの実は私の持ち物から出したから兵士さん達の分まで作ってない。
〈熱いが美味い! これはまた食べたいな!〉
「これはご飯が合うんだけど、グレンとジルはご飯で食べる?」
〈食べる!〉
二人にご飯を出して、アーロンさん達に何か言われないかと様子を窺うと、私達なんて気にも止めずすき焼きをがっついていた。お皿に乗ったお肉も野菜もどんどん減っていて、料理人の人が追加のお皿を運んできていた。
自分用の鍋だから自分のペースで食べられるのはいいね。グレンはいつも通りだけど、ジルはいつもより食べやすいらしく一定のペースで食べている。
『ちょっと甘さもあるのね』
『はい。でも、卵でまろやかになってちょうどいいです』
クラオルとグレウスも気に入ってくれたらしく、一安心。
私は久しぶりのすき焼きを味わって食べていく。豆腐や春菊がないのが残念だけど、代わりに入れた白菜が物足りなさを緩和してくれていた。
私が満腹になった後もアーロンさん達は食べ続けていて、その体のどこに入っているのか不思議でしょうがない。
結局、アーロンさん達が食べ終わった頃には私達が宿に戻る時間を過ぎていたため、また明日会う約束をしてから馬車で宿まで送ってもらった。
603
お気に入りに追加
24,648
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。