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8章
三時のおやつは
しおりを挟む執務室に戻ると、早速ワクワクした様子で「何か面白いことはあったか?」とアーロンさんが聞いてきた。
(ん~……そんな面白いことはなかったと思うんだけど……)
かいつまんでキアーロ国の王都を出てからの話しをすると、そもそもなんでウツボ退治をするハメになったのかの話しになり、結局ブラン団長達との出会いから話すことになった。
「呪淵の森ですか……しかも記憶喪失なんておいたわしい…………あの……お怪我は大丈夫なのですか?」
「うん。記憶も戻ったし、もう大丈夫だよ」
リシクさんに今にも泣きそうな顔で聞かれてしまい、ニヘラっと笑って返すと揃って安堵の表情をされた。
「セナの故郷はどんなところなんだ?」
「ん~……どんな? どんなねぇ……」
王政じゃない民主主義とか言っても通じなさそうだしなぁ……この世界じゃ義務教育とかも微妙だろうし……
「うんとね、ご飯美味しいよ」
〈うむ。セナのご飯は美味い〉
「そういえばセナは料理も商業ギルドに登録していたな」
「うん。やっぱ調べてたんだね」
「あぁ。セナの役に立つ情報が何かわからなかったからな」
なるほど。私に情報を流すためだったのか。まぁ、それ以外の意図もあるかもしれないけど。
〈セナのおやつが食べたい〉
「おぉ! それはいいな! オレも食いたい!」
「いいけど、何がいいの? ラスク? ポテチ?」
〈それも好きだが……腹にたまるものがいい〉
お腹にたまるものって言うとパンケーキとかパウンドケーキとか? ご飯を食べた後だからそんなにガッツリ食べたくないな……
「あ! いいこと思いついた! 新しいの作ってあげるよ」
〈おぉ! それは楽しみだ!〉
「調理場を使われますか?」
「あっ、ここで作ったらまずい?」
「構わん」
レナードさんに聞き返すと、レナードさんが答える前にアーロンさんから許可が下りた。
材料を出していくとみんな興味津々に覗き込んでくる。
「えっと……こちらは?」
ん? と顔を上げると、レナードさんが指をさしていたのはダチョウの卵。
私が説明すると「これが怪鳥の卵ですか……」と少し困惑気味。
日本で本物のダチョウの卵を見たことがないけど、たぶんそれより大きいと思うから戸惑うもの無理はないと思う。
カンガルーでも子供が袋に入っていたらモッコリするのに、あの怪鳥の体の袋に入っていた卵はどうやって隠していたのか三十センチくらいある。
私一人だと割るのが大変なのでグレンに頼んで割ってもらうと、思っていたより中身が多くてボウルから溢れそうになってしまった。
「さすが大きいだけあるね……」
これは今回だけで使い切るのは難しいだろうから分割して使わないと……しばらくはお昼ご飯に卵料理かなぁ?
卵を使う食べ物は何があったかと頭を働かせながら、他の材料を混ぜてタネを作っていく。
「あとは焼くだけだよ」
「セナ様、たこ焼きでございますか?」
「ん? アハハ。違う、違う。たこ焼きプレート使うけど、ちゃんとおやつだよ」
まん丸の方が可愛いかと二つを合体させて丸くなるように焼いていく。
私がクルクルと返していくと「これは技術が必要そうだな」とアーロンさんが呟いていた。
「あ! レナードさん鼻大丈夫?」
「はい?」
「獣族は鼻敏感だよね? 気が回らなくてごめんなさい。キツかったら窓開けて」
執務室に甘い匂いが充満し始め、獣族には香りがキツイかと聞いてみると、今気が付きましたと言わんばかりにハッとして窓を開けていた。
二つ三つでは済まないグレンに、アーロンさん達の分も……となると結構量を作らなきゃならず、ジルに協力してもらって生地を作りつつ焼いていく。
私の頭の中では、昔日本で見たネコだかクマだかわからない人形が踊っていたCMの曲がひたすらリピート再生されている。
「お待たせ~」
〈待ってた!〉
大皿に乗せるとグレンが全部食べちゃいそうなので、全員分のお皿を用意してみんなに配った。
「私共もよろしいのですか?」
「あれ? いらなかった? みんな食べるかと思って全員分焼いちゃった」
「っ! ありがとうございます」
〈んまいっ!! セナ! これはなんだ?〉
レナードさんと話しをしているとグレンがお皿を凝視しながら聞いてきた。
「これはベビーカステラだよ。中身入れたら人形焼みたいになるけど」
〈はふっ。中身ってなんだ?〉
「そんな勢いよく食べなくても……あんこがないから、カスタードクリームで作ってあげるよ。おかわりするでしょ?」
〈うむ!〉
ベビーカステラをつまみつつカスタードクリーム入りを作っていると、アーノルドさんが空になったお皿と焼いている人形焼を交互に見ていて笑ってしまった。
焼けた先からみんなのお皿に乗せていくと、アーノルドさんはもちろん、レナードさんやドナルドさんまで嬉しそうな表情になった。
「美味いな。セナ達はいつもこんなに美味いものを食べているのか……」
〈ふふん。羨ましいだろ?〉
「あぁ、羨ましいな。食堂のクッキーに惹かれない理由がわかった。これはレシピ登録されているのか?」
「ううん。これはグレン達にも初めて作ったからレシピ登録してないよ」
「してくれないか? 毎日でも食いたい」
レシピ登録はいいんだけど、たこ焼き器はゲーノさんのお手製だからゲーノさんに作ってもらうか、似たようなものを作る許可をもらわないといけない。
ゲーノさんだと話しがすんなり通る気がしないので、タルゴーさんにも協力してもらいたい。
私が説明すると、アーロンさんはすぐに手紙をしたためた。私からの手紙とアーロンさんの手紙を持って、アーノルドさんが窓から商業ギルドに飛んでいった。
「セナはタルゴー商会が気に入っているのか?」
「気に入ってるっていうか、タルゴーさん本人と知り合いなんだよね。さっき途中で商人助けたって言ったでしょ? その商人がタルゴーさんだったの。それでお礼にホットプレートもらったんだよ。その伝手でホットプレートを作っている人にこのたこ焼き器を説明して作ってもらったの」
「なるほどな。元々タルゴー商会は幅広いが、セナのおかげで飛躍的に成長しそうだな」
ここ王都ではタルゴー商会は小さい部類入るものの、シュグタイルハン国の各街にあるんじゃないかと言われるくらい支店があるらしい。
タルゴーさんすごいな!
「ふむ。なぁ、セナ……」
「ん? なーに?」
「夕食も作ってくれないか? 材料は全てこちらが用意する」
真剣な様子で声をかけてくるから何かと思えば、夜ご飯かいっ!
「いいけど……グレンがいっぱいお肉食べるよ?」
「それくらい構わん。オレはセナの料理が食べたい」
うーん……何がいいかなぁ?
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